著者
藤谷 厚生
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.68, pp.49-59, 2019-09-25

聖徳太子信仰の萌芽は、すでに奈良時代に見ることができ、『上宮太子菩薩伝』や平安時代に成立する『聖徳太子伝暦』などの伝記資料が、その先駆と位置づけられているということは周知の話である。しかし、実際的な太子信仰の進展は平安時代中期以降に見られ、それは主に念仏聖たちによる一信仰形態として、日本仏教の展開の中では極めて重要な意味を持つと考える。本稿は、特に聖徳太子信仰の拠点である二上山の東に存在する叡福寺の太子廟、浄土信仰のメッカでもあった當麻寺(当麻寺)、さらに極楽の東門として位置づけされた四天王寺を結ぶ大阪から二上山を巡る竹内街道に焦点をあてながら、古代から中世に見られる思想的、信仰的変遷の特徴に論及しようとする一研究考察である。
著者
加藤 彰彦
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.70, pp.109-140, 2022-03-25

アンドレ・ブルトンにおいてシュルレアリスムの言語とは何かという観点から考察を始めた。ブルトンは現実の否定ということからシュルレアリスムを立ち上げている以上、現実をただ単に描写するだけでは意味がなく、そこで出てきたのがシュルレアリスムのイメージ論である。ただこれは詩のようなものであれば有効なのだが、散文詩であれ少し長いものになると問題が生じる。特に物語のようなものになると、それを支えるものは通常の言語を成立させている相互主観性ではなく、主体の持つ欲望であり、それを可能にするのがラカンの言う浮遊するシニフィアンであるということを明らかにした。
著者
奥羽 充規
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.66, pp.105-117, 2018-09-25
著者
津崎 克彦
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.63, pp.89-103, 2016

"本稿では2000年代以降、日本で広がった「ブラック企業」問題に焦点をあて、「ブラック企業とは何か」という問題について、既存の調査から概念整理を行った。 特に本稿ではブラック企業で行われているマネジメントに注目し、ブラック企業の背後にあるマネジメント原理を仕事のマニュアル性と人間関係の競争性に特徴づけられる「統制・独裁型」マネジメントと名付け、そうしたマネジメントが、標準化された消費市場のニーズや労働市場における供給過剰状態、そして「仕事=手段」と呼びうる仕事観に依拠しつつ、賃金が低くなった場合に特に「ブラック企業」と評価されるのではないかという点を仮説的に指摘した。加えて、本稿では、そうしたマネジメントに依拠しない「自由・民主型」モデルというものを提示しつつ、マネジメントの型と賃金との関連から、①体育会系組織、②狭義のブラック企業、③狭義のホワイト企業、④自己実現系組織という4 つの理念型を提示した。 歴史的に見れば、今日における「統制・独裁型」マネジメントの出現は、科学的管理法のサービス産業への応用とも解釈でき、また、ブラック企業問題の広がりは、国際化や情報化といった要因に加え、「仕事=手段」から「仕事=目的」という労働者意識の変化と仮説的に対応付けられるかもしれない。今後は課題として、一方では本稿で検討した「ブラック企業」モデルとその存立条件を実証的に検証していく必要性に加え、国際比較や従来の日本的経営論の再解釈等を通した歴史的検討をしていきたい。"
著者
和田 謙一郎
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.66, pp.75-89, 2018-09-25

本稿は、主に視覚障害者が65 歳に達した場合に介護保険制度・障害者総合支援制度がどのように適用されるのかを念頭に、高齢・障害双方の在宅サービスを担う「共生型サービス」の位置づけと、高齢障害者がそれをいかに適切に利用可能としていくのか、それらを検討するものである。65 歳問題と共生型サービスは、普遍化されたニーズとそれに応えるサービスに更に特化したサービスを加えるものとはいえない。長年、難病等の疾病や各種障害、そして高齢について個別に制度運用と適用されてきたものが、地域共生の名の下で、在宅サービスに限り社会保障費抑制策としてサービスを普遍化するものと言っても過言ではない。その普遍化とは、市場原理と所得再分配機能が混在するものになる。運営する側の自治体も、サービスの担い手となる事業者も、そしてサービス利用者も、この混乱ぶりを重く感じているのである。
著者
隅田 孝
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.68, pp.301-313, 2019-09-25

日本社会が成熟社会へと変化する中、日本の消費者は物質的な豊かさを享受することができた一方で、果たして精神的な豊かさを享受することができたのだろうか。このような疑問が1980年代及び1990 年代のポストモダンのあり方を模索する日本の成熟社会論において問われた。 日本の成熟社会において消費の意味は変化し、多様化している。そして消費者はモノの有用性に見いだされる価値だけでなく、消費のプロセスをも消費対象としている。インターネットの出現によって情報化社会がより一層加速され、消費者は一方的に提供されるだけの側から、消費のプロセスを消費する存在へと変貌を遂げている。 日本の消費者もまた消費のプロセスを消費する消費者へと変化を遂げ、いわゆるブランド・コミュニティを形成する消費者行動が定着してきている。ブランド・コミュニティはモノと消費者の関係、消費者同士の関係を新たに創造する。このブランド・コミュニティによる消費が消費のプロセスを顕在化させ、モノの消費だけでなく消費のプロセスを消費することを可能にしている。日本の成熟社会における消費者行動は、これまでのように消費対象としてのモノを消費することにとどまるのではなく消費者同士が醸成する消費に至るプロセスを消費するための行動となってきていることを明示する。
著者
谷口 政巳
出版者
四天王寺大学大学
雑誌
四天王寺大学紀要
巻号頁・発行日
no.64, pp.31-56, 2017-09-25

高等学校の古典文法指導において「係り結び」は避けて通れない。しかし、現実には特異な終止法として丸暗記を強要したり、文法は誰かが規則を作って使われているかのような誤解を与えたりしている現状がある。 本稿では、古典文法がいかに楽しく奥深いものかを指導することができる方法の一つとして、また、フランス人がフランス語の美しさを誇りに思い、それを守り育てているように、生徒たちが日本語の素晴らしさに気づき、それを主体的に守り育てていく態度を形成するための方法の一つとして、「係り結び」の起源を明らかにすることをテーマに論述した。 特に、「係り結び」の中でも異論の多い係助詞「こそ」について、『万葉集』の全用例を検討しつつ、「こそ…已然形」の起源が終助詞「こそ」の転移によって起きたものであることを明らかにすることができたものと考える。"
著者
加藤 彰彦
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.68, pp.123-154, 2019-09-25

ジル・ドゥルーズの『シネマ』において示されている映画に対する姿勢とは、何かの理論によってそれを解釈・分析するのではなく、それをそのまま鑑賞するというものであるが、対象に向かうあり方が果たしてそれで可能かをアンドレ・ブルトンのシュルレアリスムの研究のあり方において検証したのが本論考である。我々の基本的態度は、何ものにも依らずに分析・解釈できるとするとそこに俗流心理学が入り込んでくることをロラン・バルトによって示した上で、ジャック・ラカンの精神分析によりシュルレアリスムの分析・解釈が可能となると考えることにある。まず第一部においてドゥルーズとラカンを対比させ、シュルレアリスム的手法、シュルレアリスム的時間、シュルレアリスム的存在、シュルレアリスム的精神の一点、シュルレアリスムの非順応主義、シュルレアリスムが目指すところ、シュルレアリスムの小説について検討し、ドゥルーズの有効性を認めつつも、最後にどうしても残ってしまう欲望の問題をラカンの精神分析によって捉えていくしかないことを明らかにした。次に第二部において、ラカンのみを取り上げ、シュルレアリスムにおける自由、ブルトンの自己同一性、シュルレアリスム的倫理、シュルレアリスム的言語、芸術としてのシュルレアリスムについて検討し、現実変革というブルトンの欲望を維持し続けるものはラカンの言う対象a であると考えられることから、シュルレアリスムの分析・解釈手段としてのラカンの精神分析の有効性を示した。
著者
隅田 孝
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.64, pp.179-194, 2017

本稿では、少子高齢化の影響を受けた子供市場において、近年いわゆる豪華一点主義といわれる現象がみられ、そのような子供市場についてマーケティング論的分析を行った。豪華一点主義といった社会的背景を受け、近年関心の高まりをみせ注目を集めている子供や若者といった若年層をターゲットにしたマーケティングのあり方を、食品産業、とりわけ玩具菓子及び外食産業を例にあげて分析を行った。 玩具菓子市場では大人と子供のボーダーレス化現象がみられ、大ヒット商品を誕生させた要因の1 つであると考えられる。従来、大人が好んで購入する商品とみなされていたモノが子供の嗜好を刺激するモノであるといったように潜在的なニーズの発掘に成功した。その逆の成功事例も数多く存在する。たとえば、子供の玩具から大人のコレクションへというように、玩具菓子が市場で新たな価値を帯びていくプロセスをチョコエッグやプロ野球カードを事例に、そのメカニズムを明らかにした。また、今後の食品産業における子供市場のあり方として、子供というカテゴリーにとらわれることなく、子供と大人が共有できる価値をもつ製品の開発が求められることを述べた。
著者
南谷 美保
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.66, pp.47-73, 2018-09-25

三方楽所楽人は、禁裏と江戸幕府関係の儀式およびこれらに関連する社寺における神事、法会などの奏楽を担当し、さらには、三方楽所以外のたとえば日光楽人のような楽の演奏を職務とする人々の指導を行っただけではない。すでに、多くの考察が明らかにしているように、江戸時代後半になると楽の演奏を職務とする専門職以外の「素人」弟子への楽の指導が広く行われるようになっていた。つまり、三方楽所の楽人は、雅楽のお師匠さんとして、雅楽の演奏を職務としない「素人」集団への指導も行っていたのである。ところで、そうした「素人」集団を対象とする楽の指導の場においては、指導者である楽人から稽古者に対して、一方的に楽に関する知識や技術が伝達されるだけであったのだろうか。本稿においては、そうした楽の稽古の場に集う「素人」とされた楽の稽古者集団がどのような人々によって形成され、そこではどのような「文化」が共有され、それがどのように楽の専門家である楽人に関わっていたのかということについて考えてみたい。以下では、東儀文均の日記である『楽所日記』のうち、弘化・嘉永年間のものを対象として、文均と京都における弟子たちとの交流を考察するものとする。