著者
加藤 彰彦
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.70, pp.109-140, 2022-03-25

アンドレ・ブルトンにおいてシュルレアリスムの言語とは何かという観点から考察を始めた。ブルトンは現実の否定ということからシュルレアリスムを立ち上げている以上、現実をただ単に描写するだけでは意味がなく、そこで出てきたのがシュルレアリスムのイメージ論である。ただこれは詩のようなものであれば有効なのだが、散文詩であれ少し長いものになると問題が生じる。特に物語のようなものになると、それを支えるものは通常の言語を成立させている相互主観性ではなく、主体の持つ欲望であり、それを可能にするのがラカンの言う浮遊するシニフィアンであるということを明らかにした。
著者
加藤 彰彦
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.68, pp.123-154, 2019-09-25

ジル・ドゥルーズの『シネマ』において示されている映画に対する姿勢とは、何かの理論によってそれを解釈・分析するのではなく、それをそのまま鑑賞するというものであるが、対象に向かうあり方が果たしてそれで可能かをアンドレ・ブルトンのシュルレアリスムの研究のあり方において検証したのが本論考である。我々の基本的態度は、何ものにも依らずに分析・解釈できるとするとそこに俗流心理学が入り込んでくることをロラン・バルトによって示した上で、ジャック・ラカンの精神分析によりシュルレアリスムの分析・解釈が可能となると考えることにある。まず第一部においてドゥルーズとラカンを対比させ、シュルレアリスム的手法、シュルレアリスム的時間、シュルレアリスム的存在、シュルレアリスム的精神の一点、シュルレアリスムの非順応主義、シュルレアリスムが目指すところ、シュルレアリスムの小説について検討し、ドゥルーズの有効性を認めつつも、最後にどうしても残ってしまう欲望の問題をラカンの精神分析によって捉えていくしかないことを明らかにした。次に第二部において、ラカンのみを取り上げ、シュルレアリスムにおける自由、ブルトンの自己同一性、シュルレアリスム的倫理、シュルレアリスム的言語、芸術としてのシュルレアリスムについて検討し、現実変革というブルトンの欲望を維持し続けるものはラカンの言う対象a であると考えられることから、シュルレアリスムの分析・解釈手段としてのラカンの精神分析の有効性を示した。
著者
加藤 彰彦
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.111-127, 1998
被引用文献数
1

定位家族構造と夫婦形成タイミングとの関連は、これまで次の2つの仮説によって説明されてきた。社会化仮説は、幼児期において父親不在の家族で生活した者は、伝統的な性役割や規範の内面化が不十分なために結婚のタイミングを遅らせると主張する。ストレス仮説は、ひとり親家族への移行や再婚家族への移行が、子どもや青年を定位家族から離脱させて、未熟な成人役割へと駆りたてると主張する。本研究は、全米家族世帯調査データとコックス回帰モデルを用いて、これらの仮説を検討した。分析結果は、全体として2つの仮説を支持した。しかしながら、定位家族構造変数と出生コーホートとの間に交互作用があるために、これらの仮説の妥当性はコーホートによって異なる。社会化仮説は、ベビープーム期のコーホートの結婚タイミングとベビーバスト期のコーホートの同棲タイミングを説明する。一方、ストレス仮説は、ベビーブーム期のコーホートの結婚タイミングと、ベビーブームおよびベビーバスト期のコーホートの同棲タイミングを説明する。こうした交互作用の実質的な源泉は、コーホート規模と離婚率というマクロ変数と、定位家族構造変数との交互作用にあることが示された。
著者
石原 邦雄 松田 苑子 田渕 六郎 平尾 桂子 永井 暁子 西野 理子 施 利平 金 貞任 加藤 彰彦 西村 純子 青柳 涼子
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日本、中国、韓国の研究者がそれぞれ自国での家族の総合調査のミクロデータを提供し合い、共同利用する体制を作って比較分析を積み重ねるという新たな試みとなる国際共同研究に取り組み、最終的にChanging Families in Northeast Asia : China, Korea, and Japan. Sophia University Pressという、共同研究者12名の論文を含む出版物の形で成果をまとめた。多彩な分析結果を大きくくくると、(1)人口の少子高齢化と経済社会のグロ-バル化および個人化という同一方向での変化のインパクトのもとで、3カ国の家族が、遅速の差はあれ、共通方向での変化を遂げつつあること、(2)しかし同時に、各国の社会文化的伝統の影響の強弱によって、3カ国の家族の世代間関係と夫婦関係のあり方や変化の仕方に違いが生じていることも併せて明らかにされた。
著者
加藤 彰彦
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.67, pp.203-233, 2019-03-25

アンドレ・ブルトンの『ナジャ』において、ナジャの物語の最後でナジャの不在を意味するブルトンの発言がある。ナジャの不在とはいいながらも、ナジャが実在した人物であることは明らかになっているが、それでは何故ナジャの不在が語られるのか。それについて考察したのが本論考である。第一部において、ジェラール・ジュネットの物語論に依拠しながら、語り手と聴き手の位置関係に注目し、当初は語り手であったブルトンが、本来聴き手であったナジャに取って代わって最終的には聴き手も兼ねるという一人二役を演じている構造を明らかにし、ナジャの不在をテキスト上から論証した。次に、第二部において、ラカンの理論を援用しながら、ナジャはブルトンの自己同一性のための鏡像であること、更にヒッチコックの『サイコ』を例にとりながら、主体が対象と同一化し、対象が消滅しても、超自我的な声によって支配される点を明らかにし、ブルトンはナジャの消滅後もナジャの声によって支配され、それによって主体として維持されるという風に結論付けた。
著者
加藤 彰彦
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.64, pp.101-131, 2017

アンドレ・ブルトンは最後のシュルレアリスム宣言として捉えられる『吃水部におけるシュルレアリスム宣言』の結論部分において、シュルレアリスムとグノーシス主義の目指すところが一致していることを指摘している。確かにシュルレアリスムの神秘主義的なところもブルトンのテキストから明らかに指摘されるのであるが、シュルレアリスムとグノーシス主義が大きく分かれるところは、前者が現世において特に愛によって幸せを獲得しようとしているのに対して、後者は物質的世界=肉体的世界を悪の世界として否定していることにある。またブルトンは階層秩序的二項対立を否定するのに対して、グノーシス主義は肉体と精神のプラトン的二項対立をその根本に据えているのである。しかしながらブルトンの目指す超現実とは実体を欠いた記号空間にすぎないこと、またブルトンが求めるシュルレアリスム的精神の一点とは、まさにグノーシス主義における救済の如く、身体内で見出す真の知であることから、シュルレアリスムとグノーシス主義は同じ方向を目指していると理解されるのである。
著者
岩澤 美帆 別府 志海 玉置 えみ 釜野 さおり 金子 隆一 是川 夕 石井 太 余田 翔平 福田 節也 鎌田 健司 新谷 由里子 中村 真理子 西 文彦 工藤 豪 レイモ ジェームズ エカテリーナ ヘルトーグ 永瀬 伸子 加藤 彰彦 茂木 暁 佐藤 龍三郎 森田 理仁 茂木 良平
出版者
国立社会保障・人口問題研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

結婚の形成と解消の変化を理解するために、(1)変化・差異の記述、(2)説明モデルの構築と検証、(3)変化の帰結の把握に取り組んだ。横断調査、縦断調査データの分析のほか、地方自治体に対するヒアリング調査を行った。若い世代ほど結婚が起こりにくく、離婚が起こりやすい背景には近代社会を生きる上で必要な親密性基盤と経済基盤という両要件が揃わない事情が明らかになった。要因には地域の生活圏における男女人口のアンバランスや縁組み制度の衰退、強すぎる関係、男女非対称なシステムと今日の社会経済状況とのミスマッチが指摘できる。一方で都市部や高学歴層におけるカップル形成のアドバンテージの強化も確認された。
著者
加藤 彰彦
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10-2, pp.111-127, 1998-07-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
18
被引用文献数
1

定位家族構造と夫婦形成タイミングとの関連は、これまで次の2つの仮説によって説明されてきた。社会化仮説は、幼児期において父親不在の家族で生活した者は、伝統的な性役割や規範の内面化が不十分なために結婚のタイミングを遅らせると主張する。ストレス仮説は、ひとり親家族への移行や再婚家族への移行が、子どもや青年を定位家族から離脱させて、未熟な成人役割へと駆りたてると主張する。本研究は、全米家族世帯調査データとコックス回帰モデルを用いて、これらの仮説を検討した。分析結果は、全体として2つの仮説を支持した。しかしながら、定位家族構造変数と出生コーホートとの間に交互作用があるために、これらの仮説の妥当性はコーホートによって異なる。社会化仮説は、ベビープーム期のコーホートの結婚タイミングとベビーバスト期のコーホートの同棲タイミングを説明する。一方、ストレス仮説は、ベビーブーム期のコーホートの結婚タイミングと、ベビーブームおよびベビーバスト期のコーホートの同棲タイミングを説明する。こうした交互作用の実質的な源泉は、コーホート規模と離婚率というマクロ変数と、定位家族構造変数との交互作用にあることが示された。