著者
木内 敦詞 中村 友浩 荒井 弘和 浦井 良太郎 橋本 公雄
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.69-76, 2010

生活習慣と学力が関連することはこれまで経験的に述べられてきた.しかしながら,それを十分に裏づける学術的データはわが国においてほとんど提出されていない.本研究は,大学初年次生の生活習慣と修学状況(取得単位数)との関係を明らかにすることを目的とした.近畿圏にある工科系大学男子1068名が本研究に参加した.彼らの初年次前期取得単位数は以下のとおりであった;25単位以上(52%,N=554:A群),20-24単位(30%,N=317:B群),15-19単位(12%,N=131:C群),15単位未満(6%,N=66:D群)。前期授業終了時における健康度・生活習慣診断検査(DIHAL.2,徳永2003)から,以下のことが明らかとなった.すなわち,「食事」「休養」尺度および「生活習慣の合計」において,D<C<B<A群の順位傾向とともに,D群に対するA群の有意な高値(P<.01)が示された.特に,「食事の規則性」「睡眠の規則性」スコアにおいては,明確なD<C<B<A群の順位性とともに,食事や睡眠を軸とした"規則的な生活リズム"の重要性が示された.これらの結果は,大学入学直後から教育の枠組みの中で,健康的なライフスタイル構築のための健康教育を実施することの必要性を支持している.
著者
北村 勝朗 山内 武巳 高戸 仁郎 安田 俊広
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.15-25, 2007

本研究は,スノーボード・カービングターン初習者である大学生が3日間の集中講習の中で,a)動作・技術理解,b)動作イメージ,c)動作結果に対する感覚的理解,が指導によってどのように変化していくのか,実際の雪上での動作前後の感覚情報の内省報告による発話の分析と動作映像の分析,更には,講習前後日の荷重分布の変化の分析による多角的な分析を行うことで,スノーボード学習者を指導する際の客観的かつ理論的裏づけに基づいた有効な指導法を提案することを目的とする.分析の結果,動作習得過程における動作意識は,運動構造の認知,動作感覚の洗練,及び動作イメージの形成の3要素によって構成されている点が明らかとなった.これらの要素は,自身の中の「運動の不感性」を低下させる上で有効に作用しつつ,指導者の意図する動作イメージを共有する方向で機能している点が示唆される.こうした点から,カービングターン初習者に対する短期集中指導内容の構成として,学習初期には目的とする動作全体の理解を促す言語的・非言語的情報を用いた教示と同時に,学習者の感覚に注意が向けられるようなフィードバックによる自身の動作感覚の鋭敏化を促すことが,自身による動作イメージの形成に効果的に作用することが推察される.また,荷重変化からの検討により,講習前はフロントサイドターンの局面において前足かかと親指側に明らかな荷重分布は観察できなかったが,講習後は講習前と比べてフロントサイドターン中の前足かかと親指側に明らかな荷重分布が観察された.
著者
磯貝 浩久
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.25-35, 2005

It is important to elucidate the effects of physical education on students' psychology. The aim of this study is to examine the effect of students' learning experience of skiing skills in ski training sessions on the their self-efficacy, taking into account the contents of the experience. The self-efficacy is considered in three hierarchical phases, namely 1) self-efficacy for skiing, 2) physical self-efficacy, and 3) general self-efficacy. We studied two different ski training programs, one for university students and the other for nursing school students. A total of 59 students, 37 males and 22 females, participated in the university program, and 35 female students participated in the nursing school program. Both programs targeted experiencing the enjoyment of skiing with the instruction method and contents common to both, such as class formation according to skill level. Self-efficacy was assessed using the skiing efficacy scale, the physical self-efficacy scale (Matsuo et al., 1999), and the general self-efficacy scale (Sakano et al., 1986). The results from the analysis of variance showed that the efficacy for skiing and physical self-efficacy increased after training for both programs, but the general self-efficacy presented no change. It was indicated that the improvement in skiing efficacy, physical self-efficacy, and general self-efficacy is affected by awareness of their proficiency level, recognition of the importance of skiing, and satisfaction with the ski training sessions. From these results, we can gather that ski training sessions affect students' self-efficacy and it is suggested that their attitudes toward the training sessions, how they engage in the activities in particular, are greatly related to the improvement in self-efficacy.
著者
杉山 佳生
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.3-11, 2008

本研究の目的は、スポーツの実践を主たる課題とする大学の体育授業において、学生のコミュニケーションスキルにどのような変化が見られるのかを検討し、その向上プロセスの解明に結びつく知見を得ることであった。調査対象者は、選択科目として開講されている大学の卓球の授業に参加し、調査の実施に同意した大学1、2年生67名である。これらの学生は、授業の序盤と終盤に、コミュニケーション基本スキル尺度(ENDE2)、感情コミュニケーションテスト(ACT)、及び対人的志向性尺度に回答した。また、ダブルスの試合を主として行った6回の授業において、試合終了時及び授業終了時に、コミュニケーションや満足感に関する自己評価を行った。得られた結果は、以下のとおりである。1)授業の前後において、感情表出スキル得点に有意な向上が認められたが、それ以外のスキルや志向性は、向上しなかった。変化を個別に見ると、4分の1から3分の1の学生が、10%程度以上のスキル得点の上昇を示していた。2)ダブルスの試合時におけるコミュニケーションについての自己評価は、解読、伝達のいずれの側面においても、授業後半で向上していた。3)授業時の自己評価の変化と授業前後のコミュニケーションスキル・対人的志向性の変化との間には、一貫した関係は認められなかった。以上の結果を踏まえて、考察では、体育の授業を通じて一般的なコミュニケーションスキルを向上させるためには、般化を意図した適切な介入が必要であると論じられた。また、「個」に焦点を当てた研究の必要性が指摘された。
著者
木内 敦詞 荒井 弘和 浦井 良太郎 中村 友浩
出版者
社団法人全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-14, 2006-03-15

本研究の目的は、身体活動ピラミッド(Corbin & Lindsey, 1997)の概念と行動変容技法を取り入れた半期の体育授業が、日本の大学の初年次男子学生(N=322)の身体活動量に及ぼす影響を検討することであった。非介入群(N=156)は「健康関連体力テスト2回」「講義1回」「スポーツ活動9回」を含む授業を受講し、介入群(N=166)はそれに加えて身体活動増強のためのプログラム「身体活動ピラミッドの概念学習」「行動変容ワークシートの実践」「日常における身体活動状況のモニタリング」を含む授業を受講した。受講の前後で日歩数は変化した(非介入群7841±2965歩-7693±2781歩[-1.9%]、介入群7890±2821歩-8546±2861歩[+8.3%])。分散分析の結果、非介入群に対する介入群の日歩数増加が示された。この介入群における日歩数の増加は、平日よりも休日の歩数増加に起因していた。身体活動評価表(涌井・鈴木,1997)を用いて受講前・受講後・追跡期における身体活動パターンを検討した結果、低い強度の身体活動量「日常活動性」ではいずれの測定時期においても両群に有意な差異は認められなかった。一方、中等度以上の強度の身体活動量「運動・スポーツ」では、受講後において非介入群に対する介入群の有意な高値が示されたが、受講終了3カ月後の追跡期では、「運動・スポーツ」における両群間の有意な差異は示されなかった。結論として、身体活動ピラミッドの概念学習と行動変容技法を取り入れた体育授業は、受講期間中、日本の大学の初年次男子学生の身体活動を増強することが明らかとなった。
著者
木内 敦詞 橋本 公雄
出版者
社団法人全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.3-22, 2012-03-15

この総説の目的は,大学体育授業による健康づくり介入研究の意義と必要性を述べ,日本の大学体育教員の授業研究への動機づけを高めることであった.第1に,大学体育授業による健康づくり介入研究の教育的意義を指摘した.すなわち,健康づくりと友達づくりの場としての体育授業は,今日の大学における初年次教育の重要な要素である「学問的適応」と「社会的適応」の双方への貢献が期待されるものの,このような期待される教育効果の検証はこれまで十分になされていないことを述べた.第2に,大学体育授業による健康づくり介入研究の持つ公衆衛生的意義を指摘した.すなわち,座位行動蔓延と大学大衆化進行により,大学体育の公衆衛生的役割がいっそう高まっていることを述べた.第3に,大学体育授業による健康づくり介入研究の学術的意義を指摘した.すなわち,「大学生」の健康づくり介入研究,とりわけ,「身体活動」増強のための介入研究は国内外を含めてもまだ初期段階にあり,これまで大きな成果はあがっていないことを述べた.その後,以下のことについて討論した;大学生の生活習慣・健康度に関するこれまでの知見,わが国の健康づくり対策と学校体育の関係,わが国の大学体育の歴史と新たな動き,米国学校体育の転換,行動科学を活かした健康づくりの動向.最後に,大学生の健康づくり研究の今後の課題として,以下の4点を挙げた;1)大学体育のラーニング・アウトカムを提示すること,2)理論およびエビデンスに基づく介入研究を行うこと,3)介入効果の科学的評価が可能な研究をデザインすること,4)大学生対象の健康づくり(とりわけ,身体活動)介入研究を行うこと.
著者
木内 敦詞 荒井 弘和 中村 友浩 浦井 良太郎 橋本 公雄
出版者
社団法人全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.3-11, 2009-03-15

運動の意思決定バランス(運動実践の恩恵-負担)は,身体活動・運動の採択や継続に重要な役割を果たすとされている.本研究の目的は,体育実技終了時のセルフ・モニタリングが,運動の意思決定バランスと日常の身体活動量に及ぼす影響を検討することであった.対象者は日本の大学新入生男子(N=869)であった.介入群(N=398)は週1回の体育授業におけるスポーツ活動実施後にセルフ・モニタリングを行い,非介入群(N=471)はそれを行わなかった.セルフ・モニタリング・シートは,心理学的・社会学的・生理学的な側面からみたスポーツ活動中の自己評価項目から構成されていた.全授業の共通プログラムは以下のとおりであった(数字はプログラムの順序に対応する);1:ガイダンス,2:講義,3-5:実技,6:講義,7-9:実技,10:講義,11-13:実技,14:まとめ.3回の講義は,生活習慣と健康の関わりに関する内容であった.介入プログラムは,運動の意志決定バランスにおける統計的に有意ではない改善傾向と,運動実践の恩恵における有意な増加をもたらした.運動実践の負担および身体活動量においては,いずれの効果も認められなかった.本研究で示された介入効果は,体育実技の果たす健康教育としての役割を具体的に提案している.
著者
小林 勝法
出版者
社団法人全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.53-60, 2008-03-15

体育・スポーツの教員・研究者の採用募集状況を把握するための資料を得ることを目的として,体育・スポーツの教員・研究者公募を分析した.分析の対象は研究者人材データベース(JREC-IN)に2006年度に掲載された公募情報から「体育」あるいは「スポーツ」を検索語として抽出した常勤の公募171件である.おもな分析結果は以下の通りである.1.公募の公開開始時期は夏前と秋の2回のピークが見られ,特に,10月と11月の2ヶ月が多く,この2ヶ月で全体の約3割を占める.所属部署別にみると,体育学部や教育学部,体育センター,一般教育組織などの伝統的な組織で6割を超える.そのほかには,福祉や健康,幼児教育,スポーツ経営などに関わる学部や学科があり,これらを合わせると約2割に上る.2.職種別割合は助教授(准教授)が最も多く34.1%を占めている.次いで,講師(助教)が33.1%,教授が18.8%,助手(助教)が8.0%となっている.そして,任期付きの採用は30.6%を占める.3.学位についての応募条件としては,「修士かそれと同等」が56.1%で最も多く,次いで,「博士かそれと同等」が38.0%であった.研究分野については「体育科教育」と「運動生理学」「体育経営管理」「スポーツ栄養学」が多い.4.担当科目が教養体育だけという募集は12.9%と多くない.「専門科目のみ」(37.4%)が多く,ほかには「大学院と専門科目,教養体育」(12.9%),「大学院と専門科目」(12.3%)という例もある.実技についての種目指定は野外活動と体操・器械運動,水泳が多い.5.選考方法として,面接をおこなうものが74.9%で,推薦書を必要とするものが37.0%,模擬授業が12.6%であった.
著者
森田 啓 西林 賢武
出版者
社団法人全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.37-43, 2007-03-15

1990年代以降,大学で体育を行うことの根拠が問われている.本研究は,大学体育のFDに関する取り組みのひとつであり,オープンキャンパスにおいて,参加者および学内の他領域教員や職員に本学の体育のさまざまな試みを紹介することを目的とした体育科目の体験コーナーを設けたことにより,得られた成果を参加者の意識調査の結果を中心に検討したものである.オープンキャンパス参加者の意識調査は,本学オープンキャンパス参加者の中で,体育のブースを訪れてくれた人を対象に,アンケート用紙を用いて行った.ブースを訪れてくれた人には,フライングディスクの的あてを体験してもらい,体育の授業を紹介したパネルを読んでもらった.調査の結果,大学でも体育の授業があることを知らない者が60%いたが,大学でも必要と考える者は約90%いた.他領域の教員や職員に対する本学の体育紹介については,体育のブースを通りかかった教職員に声をかけて紹介を行った.オープンキャンパスに来ている教職員は,皆担当があって忙しくしていたため,感想を聞くことができた人はわずかであったが,多くの教職員にとって,大学の体育は「単に何かのスポーツを行っているだけ」「高校の繰り返しのような内容」と思われていたようで,本学の体育で取り組んでいるいくつかの新しい試みに興味・関心を示してくれる教職員もいた.今後も,本学で新しく試みた成果をきちんと公表し,さらに新しい試みを開始し,大学体育の必要性,重要性を提示していきたい.