著者
齋藤 昭彦
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.295-300, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
13

2008年以降,国内には 8 つの新しいワクチンが導入され,乳幼児期の予防接種スケジュールは,過密を極めている。ワクチンで予防できる疾患(VPD : Vaccine Preventable Diseases)が増え,国内で接種できるワクチンが増えてきた。また,2013年 4 月には,ヒブワクチン,肺炎球菌ワクチン,ヒトパピローマウイルスワクチンの 3 つのワクチンが,任意接種のワクチンから定期接種のワクチンへ変更された。これらの新しい動きは,日本の予防接種制度の歴史の中でも画期的なことであり,ワクチンギャップを埋める大きな動きであることに間違いない。しかしながら,その具体的な接種方法に関しては,様々な問題点が出てきている。すなわち,元来存在する予防接種制度が,その速い流れに追いついていない現状がある。例えば,水痘ワクチン,おたふくかぜワクチン,B 型肝炎ワクチンなどは,未だに任意接種のワクチンであり,接種する場合には,費用負担が極めて大きい。また,国際的に標準的な医療行為である同時接種が十分に普及していない現状がある。更には,接種部位と接種方法,異なるワクチンの接種間隔,予防接種に関する教育,そして,予防接種の諮問委員会のあり方など,課題は多い。実際の接種をできるだけ実行可能とするために,日本小児科学会は,同時接種に関する考え方,学会推奨のスケジュールを提示したが,その普及にはまだ多くの解決しなくてはいけない課題が存在する。  予防接種の最終的な目的は,予防接種を早期に行い,子どもたちを VPD から守ることである。これを可能にするためには,医療関係者の予防接種に対する正しい理解が必要であり,同時に,予防接種制度の更なる改革が必要である。
著者
大迫 茂人 佐野 光仁 愛場 庸雅 近藤 千雅 北尻 雅則 坂下 啓史 東川 雅彦 村本 大輔 奥村 隆司 坂本 平守 浅井 英世
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.10-15, 2009 (Released:2012-11-20)
参考文献数
7

大阪府における新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査結果を過去 5 年間にわたり検討し,本事業の評価を試みた。  対象児は聴覚スクリーニング後に要検査児として大阪府下の36精密聴力検査施行病院耳鼻咽喉科に紹介された新生児達である。  調査項目は10項目であるが,今回は上記の目的に関係の深い 3 項目について検討した。  精密聴力検査医療機関を受診した児数は平成14年度159名より年々増加し,平成18年度は372名と順調にのびていた。また,精密聴力検査を受けた児数も平成14年134名から増加し平成18年度は318名であった。  その受診児に対する精密聴力検査の結果の中,難聴児の検出数とその率は平成14年度では63名47%であったがその後,年々増加し平成18年度では194名61%であった。他方,両側性高度難聴児の検出は平成18年度でも受診児中精密検査を受けた318例中29例であった。  スクリーニング検査結果と精密聴力検査結果を比較して両検査結果が一致している割合は平成14年度の35.4%から年々上昇し平成18年度には63.5%と高まっていた。この事実から両検査施行者の検査技術の向上などがうかがわれる。  上述調査の結果は耳鼻咽喉科の観点からみると大阪府における本事業は順調に歩んでいることを示す一面と考えられる。
著者
尾内 一信
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.290-294, 2016 (Released:2017-03-23)
参考文献数
4

近年耐性菌が増加しているが,抗菌薬の開発は進まず世界的に深刻な問題となっている。日本政府は,WHOの要請を受けて薬剤耐性対策アクションプランを閣議決定した。2020年までに抗菌薬の使用を1/3削減する目標を立てている。今後更なる抗菌薬の適性使用が求められる。小児感染症に対する適切な抗菌薬の使用は,適切な病型診断と原因微生物の推定,原因細菌の薬剤感受性動向の把握,薬物動態(PK)と薬力学(PD)の理解,抗菌薬のミキシング,標準的な治療期間を遵守,耐性菌リスクを考慮し不必要な抗菌薬を投与しないなど基本的な事項であるが,数多くて複雑である。小児感染症専門医でもアップデートはなかなか困難である。したがって,これらの基本的な事項に配慮して作成されたガイドラインを使って治療することがより現実的であり,最適治療の近道である。ガイドラインに従って,耐性菌を増やさないように意識して抗菌薬の適性使用に心掛けたい。
著者
三枝 英人
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.189-195, 2014 (Released:2015-03-13)
参考文献数
5

近年,成人において胃食道逆流症の発症率増加が問題となっている一方,過去に既往の無い,今迄健康と思われていた小児への胃食道逆流症の発症が指摘されている。小児における胃食道逆流症は,喉頭痙攣や喉頭狭窄などの重篤なものから,執拗な咳払いや姿勢異常など心理的反応と誤診され得るものまであり,注意が必要である。一方,その対策は,単純に胃酸分泌を抑制すれば良いというものではなく,小児の成長,その後に続く人生への影響まで視野に入れて行う必要性がある。生活指導,食事指導が極めて重要となる一方,成長期,思春期を迎える小児に対し如何に指導を徹底し,遂行させるかは極めて難しい問題でもある。「子供は社会の鏡」であり,何らかの現代社会の問題点が,その発症の根底にあると考えられ,今後社会全体で取り組むべき問題となり得るものと危惧する。
著者
千田 いづみ 島田 亜紀 宇高 二良 佐藤 公美 長嶋 比奈美 武田 憲昭
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.345-351, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
9

新生児聴覚スクリーニングの実施率の低かった平成16年度に徳島県で出生した児の新生児聴覚スクリーニングの実施状況,両側難聴と診断された児の診断に至った経緯と 7 年間の経過を追跡調査した。平成16年度に徳島県で出生した新生児6493人のうち,2894人(45%)が新生児聴覚スクリーニングを受けたにすぎず,23人が refer と判定されたが,1 次精査機関を受診した児は12人のみであり,1 人が両側高度難聴と診断された。4 か月で補聴器を装用し,聴覚学習を開始した。ところが,新生児聴覚スクリーニングを受けて pass した児の中から 1 人が,2 歳11か月時に両側中等度難聴と診断され,進行性難聴が疑われた。一方,新生児聴覚スクリーニングを受けなかった3599人から,5 人が両側難聴と診断され,補聴器の装用開始は22か月から61か月であった。新生児聴覚スクリーニングの実施率の低い県の場合,難聴の早期診断ができず療育の遅れにつながると考えられた。
著者
西川 拓朗 岡本 康裕 河野 嘉文 大堀 純一郎 福岩 達哉 西元 謙吾 黒野 祐一
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-4, 2009 (Released:2012-11-20)
参考文献数
7

症例は 5 歳 2 か月の男児。5 歳 1 か月頃から,誘因なく右頬部の圧痛と腫脹が出現した。近医での MRI 検査で右頬骨体部を破壊し右上顎洞および右眼窩内に浸潤する腫瘤性病変を認め,当院に紹介となった。Ga シンチでは同部位に異常集積を認めたが,他部位に異常集積は認めなかった。生検組織所見により CD1a, S–100蛋白陽性細胞の増殖を認め,ランゲルハンス細胞組織球症(LCH),Single-system, Single-site と診断した。腫瘤は眼窩内に進展していることから全身化学療法を行った。開始 1 週目で右頬部の圧痛・熱感・腫脹は消失し,治療終了後12か月後の現在も再燃なく寛解を維持している。LCH の限局性病変の治療については自然軽快する例も多く,一定のコンセンサスが得られていない。本例では,眼窩内に進展しているため,中枢神経浸潤や後遺症が残る可能性を懸念し化学療法を選択した。LCH は頭頸部に症状が出るものが多く,小児耳鼻咽喉科疾患として注意を要する。
著者
小笠原 徳子 高野 賢一 阿部 亜由美 才川 悦子 海崎 文 関 伸彦 吉野 真代 今野 綾美 山内 誠 新谷 朋子 四ツ柳 高敏 氷見 徹夫
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.360-365, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
17

先天性小耳症は発生頻度の低い稀な先天奇形であるが,外表奇形として出生直後より認識され,聴力評価などで耳鼻咽喉科を初診することが多い。外表奇形に対する手術は本邦では形成外科で施行される。今回我々は当院形成外科にて耳介形成術を施行した患児73例に対して,外表奇形の分類,聴力評価,味覚障害の有無,顔面神経麻痺の評価,中耳・内耳奇形の有無について解析を行い,外表奇形とそれぞれの項目に関して比較検討をおこなった。さらに国内外における従来の報告と本解析に相違があるかを検討した。  小耳症は,片側小耳症が90%をしめ,多くは外表奇形に対する治療が中心となる。しかしながら,聴力の継続的評価や真珠腫性中耳炎の早期発見,外耳道形成術,伝音再建の適応など耳鼻咽喉科医が把握,対応する事項の重要性が再認識された。