著者
花井 健太 横田 修一郎
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.3-17, 2010 (Released:2010-07-14)
参考文献数
20
被引用文献数
1

航空レーザ・スキャナによる高精度DEMをもとに,斜面崩壊跡を自動的に抽出することを試みた.地形の傾斜変換部の存在と形状に着目して3つの識別条件を設定した.凹地形の存在,外縁部の段差地形,その円弧状形状である.識別に際し,DEMの標高を2階微分したラプラシアン値をあらかじめ算出し,傾斜急変部抽出の基礎データとした.傾斜変換部の円弧状の判定には,画像解析手法のひとつであるスリット法の適用を試み,効果的に処理することができた.自動的に抽出された崩壊跡地形は同一DEMによる等高線でみる限り,妥当なものと判断された. 抽出できなかったケースの原因として,DEM精度と手法の問題が挙げられる.それらの検討結果をもとにすれば,さらに抽出精度を高められる見通しを得た.ここで示した手法は,植生下の地形情報に基づき機械的に抽出できることから,客観性が高く,場合によっては空中写真よりも有効と考えられる.
著者
小山 真人
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.85-92, 1994

地質学の専門家の「職人芸」を代替するシステム開発の第一歩として, 火山砕屑岩の成因推定に問題を限定した小規模な研究・教育支援システム<I>Volcaniclast</I>を試作・試用した.開発にはApple社のパーソナルコンピュータMacintoshと, その上で動くエキスパートシステム開発環境であるHyperpress社の<I>Intelligent Developer</I>をもちいた.<I>Volcaniclast</I>は, ルールベース, 事実 (ファクト) ベース, 推論エンジン, 対話型ユーザーインターフェースの4部分からなるルールベースシステムであり, 火山砕屑岩の成因推定にかんする知識を76のルールと11のファクトに格納している.典型的な野外地質データを入力した場合に, 正しい解答が最大の確信度をもって得られることを確認できた.このことから, すくなくとも<I>Volcaniclast</I>は学部レベルの学生教育用として十分な利用価値がある.
著者
谷 茂 小林 秀匡 福原 正斗
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.118-119, 1999-06-10
被引用文献数
2

兵庫県南部地震では土構造物に多数の被害が発生し,小規模な農業用ため池でも多くの被害が発生した。2次災害を防止するためにも、地震時にはすみやかにため池の安全性を点検する必要がある。今回、高度地理情報を有するため池の防災データベースを開発した。本データベースは堤高、貯水量、洪水吐などの諸元、維持管理に必要な管理著名、管理状況、および地震時の災害予測情報等の情報を有するもので、貯水容量1,000m^3以上の農業用ため池を対象としている。現在、データベースには全国のため池、約82,000箇所についての諸元、画像情報のデータが入力されている。
著者
辻本 崇史 升田 健三 佐野 雅之 宮島 弘 正路 徹也
出版者
Japan Society of Geoinformatics
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.201-210, 1991-06-25 (Released:2010-02-26)
参考文献数
5

地質調査において, 当該地域に詳しくない調査者を支援する目的で, 当該地域に詳しい専門家の知識を組み込んだ地質ユニット判別のエキスパートシステムを試験的に開発した.システム開発のためのモデル地区とした鹿児島県西浦とその周辺 (Fig.1) は, 各種の火山岩が卓越し, 従来の調査で20以上のユニットに分けられている (Fig.2) .最初に, この地域の調査を担当した専門家から地質ユニット判別の基準を聴取し, 出現確率の概念 (Table 1) にもとづき, 知識ベースを組み立てた.判別のための情報は, 試験的システムであることを考慮して, 岩石の視覚的データに限定した.次に, 以前の調査で採取された岩石試料を室内で判別してシステムの欠点を抽出し, 若干改良した.その後, ラップトップコンピュータに組み込んだ本システムを使って, 当地に詳しくない地質専門家が現地 (Fig.3) でその有効性を評価した.また, このとき採取された試料を使って, 知識ベースを与えた専門家も室内でシステムの評価を行った.システムは, 判別効率の高い順に, 19の質問を出し, それに対する利用者からの回答に応じて, 可能性のある地質ユニットを順次絞り込む.この操作を繰り返し, 判別に影響を与える質問項目がなくなると, システムは最終結果を確率表現で出力する (Table 5) .現地試験の結果, システムが推定した第1候補の地質ユニットと専門家が区分したユニットが一致したのは, 20試料中20~30%しかなく, 推定結果の被検者間の差もかなりあった (Table 4) .この様な結果に対し, 多くの問題点が指摘され, それらは今後の課題として残された.しかし, システムの正当率が低かった割には, 現在の地質図を変更して, システムが推定した地質ユニットを採用した方がよい例も少数あった.以上の結果, 今回の試験的エキスパートシステムの構築によって, 記述的・定性的要素に富む地質調査の分野にも人工知能的手法の導入が可能であるとともに, 同様の性格を有する他の社会分野への波及効果も期待され, またシステムの構築過程で専門家の知識の整理に大いに役立つという副次的効果のあることが判明した.
著者
河西 秀夫
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.57-68, 2005-06-25
被引用文献数
10

層序式は2つの地層の接触関係を(下位の地層単元)(関係単元)(上位の地層単元)の形で表現するものであるが, この式では1つの地層が複数の地層に接触する場合は表現できない.また, 層序グラフは露頭の構造を図で表現するものであるが, このままではデータベースに使用できない.このため, 行列を使用して数式で表現する必要がある.これらの問題を解決するために, 著者は層序式に新しい記号である(), {}, [), (]の導入と構造行列の導入を提案した.新しい記号()及び{}, [), (]は次のように定義される.(L_1##_1L_2##_2…##_<n-2>L_<n-1>)##_<n-1>L_n ⇔ L_1##_<n-1>L_n, L_2##_<n-1>L_n, …, L_<n-1>##_<n-1>L_n, L_1##_1L_2##_2…##_<n-2>L_<n-1> L_1##_1(L_2##_2L_3…L_<n-1>##_<n-1>L_m)⇔ L_1##_1L_2, L_1##_1L_3, …, L_1##_1L_n, L_2##_2L_3…L_<n-1>##_<n-1>L_n {(L_1##_1L_2##_2L_3…##_<n-3>L_<n-2>)##_<n-2>L_<n-1>} ##_<n-1>L_n ⇔{L_1##_1L_2##_2L_3…##_<n-3>L_<n-2>, L_1##_<n-2>L_<n-1>, L_2##_<n-2>L_<n-1>, …, L_<n-3>##_<n-2>L_<n-1>} ##_<n-1>L_n ⇔(L_1##_1L_2##_2L_3…##_<n-3>L_<n-2>)##_<n-1>L_n, (L_1##_<n-2>L_<n-1>)##_<n-1>L_n, (L_2##_<n-2>L_<n-1>)##_<n-1>L_n, …, (L_n##_<n-2>L_<n-1>)##_<n-1>L_n L_1##_1 [L_2##_2L_3…##_<n-2>L_<n-1>)##_<n-1>L_n ⇔L_1##_1L_2##_2L_3…##_<n-2>L_<n-1>, L_2##_<n-1>L_n, L_3##_<n-1>L_n, …, L_<m-1>##_<n-1>L_n ⇔L_1##_1L_2##_2L_3…##_<n-2>L_<n-1>##_<n-1>L_n, L_2##_<n-1>L_n, L_3##_<n-1>L_n, …, L_<n-2>##_<n-2>L_n L_1##_1(L_2##_2L_3…##_<n-2>L_<n-1>]##_<n-1>L_n ⇔L_2##_2L_3…##_<n-2>L_<n-1>##_<n-1>L_n, L_1##_1L_2, L_1##_1L_3, …, L_1##_3L_<n-1> ⇔L_1##_<11>L_2##_2L_3…##_<n-2>L_<n-1>##_<n-1>L_n, L_1##_1L_3, …, L_1##_1L_<n-1> L_1, …, L_pは地層であり, ##_iは関係単元である.層序式に()及び[), (]を使用すると, 1つの地層に複数の地層が接触する場合の層序を明確に記述できる.構造行列A=[a_<ij>]は層序グラフを式化したものである.下位の地層L_iと上位の地層L_jが直接接している場合a_<ij>の元はL_iとL_jの接触関係の記号であり, 他の場合は0である.露頭構造行列とA[a_<ij>]とB[b_<ij>]から, C[c_<ij>]=A[a_<ij>]※B[b_<ij>]の演算を行い地域構造行列C[a_<ij>]を組み立てることができる.著者はこのアルゴリズムを提案した.
著者
河西 秀夫
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.161-175, 2010 (Released:2010-10-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

Google Earthは衛星写真を使用した3次元地形表示ソフトであり,ユーザーによりデータの登録が可能なことから,簡易なGISソフトとして使用できる. データの登録はダイアログボックスを使用する方法とKMLを使用してドキュメントを記述する方法があるが,KMLにはダイアログボックスでは登録できない機能が多数存在する.ダイアログボックスで登録したデータはKMLドキュメントとして保存される.このKMLドキュメントを追加・修正していくと便利である.第2回では線と領域の表示,図面の貼付けについて,実例に即してダイアログボックスによる登録方法とその結果作成されるKMLドキュメントの読み方と修正方法を解説する.立体表示を行うと,断層などの登録データ地形との関係が直感的に理解できるという利点がある.また,図面を貼り付けると図面に高さ情報を付加することができるので,新たな情報を得ることが可能になる.
著者
潘 小多 中村 浩之 劉 勇 郎 〓華
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.35-40, 2005-03-25

高速道路など大規模な建設工事するとき斜面の切盛土工の実施は不可欠である.このとき必要な要件は計画切盛土量をバランスさせることである.しかし, 従来切り盛り土量の計画は手動で行なっているため, 非常に効率が悪く, 多くの時間と費用を要し, その改善が求められてきた.近年, 大縮尺のデジタル標高モデル(DEM)の応用によって従来行なわれてきた切盛土量計算を自動的に解析することが可能になってきた.本論文ではARC/INFO GRIDに基づき, 調査地域のDEMと道路に関するパラメータ(切盛法面の勾配, 路面標高, 幅員)を利用して道路の切盛土量の計画を実施した.この解析により斜面の切盛土工を模擬し, 切盛土量をすばやく, 簡単に計算することができる.
著者
三箇 智二 春山 純一 大竹 真紀子 大嶽 久志
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.135-145, 1998-09-25
被引用文献数
1

資源開発を行うにあたり対象地域の地理情報システム(GIS)が作成され, これらにリモートセンシング画像が加えられることが多い.対象地域の広域的な地質構造の把握には, 複数の画像からなる地域を解析することが必要である.複数の画像を接合した広域モザイク画像では幾何学(地理)的位置が一致することや統一された輝度補正画像であることが要求される.しかしながら発展途上国や惑星では画像上の位置を地形図で正確に求めることができない場合が多く、必然的に画像間で相対的な位置関係を精度良く求める必要がある.筆者らは広域のモザイク画像作成手法と輝度補正手法について開発を行ってきた.この技術の応用例として, クレメンタイン探査機によって撮影された月面画像の解析例を紹介する.この解析では月の画像特性の解析・画像処理を進める上での障害事項の抽出とその検討を行い, 新たな放射量補正手法と幾何歪みの蓄積しない広域画像接合手法を開発した.
著者
塩野 清治
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.213-223, 1999-12-25
被引用文献数
7

3次元の領域Ω内に存在する堆積物を適当な層序単元に区分することは,数学的にみればΩの直和分割を定めることに対応する.このとき,各層序単元の分布城はそれぞれ直和分割のひとつのブロックに対応する.OとAを2種類の層序区分に対応するΩの直和分割とする.OとAの間にOはAの細分であるという関係が存在するとき,Oが本来もっていた地層としての諸特性がAにおいても保存されるはずである.どのような特性が保存されなければならないのか,またそのためにはどのような条件が必要であるのか?この問題に答えるため,本論文では地層の最も基本的な特性である「地層累重の法則」を考察する.この法則を"ある地層xが別の地層yの下位にあることをひとつの露顕で観察したとき,xはyより形成時期が古いといえる"という推論規則として定式化し,この法則がOからAに保存されるための必要十分条件は"すべてのOのブロックx,yに対して,xがyより下位にあるならばf(x)はf(y)より形成時期が古いといえることである"ことを証明する.ここで,f(x)とf(y)はそれぞれxとyを含むAのブロックを表す.最終的にこの条件の下でOからA_1を,A_1からA_2を,_<…>,A_<m-1>からA_mを順次生成していったとき,すべての層序区分O,A_1,A_2,_<…>,A_mにおいて「地層累重の法則」が成り立つと結論した.以上の結果は地質学の数学的基礎を形式体系の形で確立するための重要な鍵を与える.