著者
田畑 治
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.77-87, 2008-03

本調査研究は,5・17に大学キャンパス近辺で発生した発砲立てこもり事件に伴う,学生の生活状況,通学の不便さ,心身の調・不調の認知とそれらへの対応,さらに大学がとった臨時休講措置に対する要望などについてのアンケート調査(項目数22項目)を実施した.調査への参加者は,(1)群:日進キャンパスの「臨床心理学」受講学生N=100,(2)群:楠元キャンパスの「臨床心理学」受講学生N=148であった.調査時期は,事件発生から4〜7日後であった.結果は,(1)群が(2)群に比べて,全ての項目に0.1%〜5%水準で有意差が見られた.(1)群は,生活状況に不自由・不都合,通学への不便さ,心身の不調(食欲不振,睡眠不調,不安など)を経験したことが判明した.また事件熟知の手段に,友人間の対話や携帯電話での連絡,大学のWeb Campus掲示板,テレビのニュース報道などで知ったことが判明した。"こころの問題"は,概して深刻な問題は伺えなかったが,今後さらに追跡的に調査をすることが指摘された.
著者
玉川 達雄
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.77-85, 2007-03-31

毎年,夏になると熱中症により全国で200-300人の方が命を落とされる.犠牲者は10代から80代まで全年齢層にわたる.成人以降は炎天下や暑熱環境での労働によるものが多いが,若い世代はスポーツによるものが多い.本学は課外活動が大変盛んであり,特に運動部は優秀な成績をあげるクラブが多く,練習熱心なあまり熱中症の発生も少なくない.2003年には本学運動部の合宿中に熱中症による犠牲者がでた.前年には熱中症に注意するように保健センターから全運動部に熱中症対策の資料を送付したばかりであった.それから学生課と保健センターが協力して熱中症との戦いが始まった.2004年から毎年夏季休暇前に熱中症予防対策講習会を開き,熱中症発生の減少を評価して講演会の対象と内容を変えてきた.今後さらに強力な熱中症対策が必要である.
著者
高木 浩人
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.47-54, 2008-03

本研究は254名の大学生を対象に,組織への帰属意識と充実感との関連について検討した.重回帰分析の結果,充実感のすべての要素(充実感,孤立感,自立・自信,自己の存在の肯定)が,大学生の所属組織への組織コミットメント4要素(内在化要素,愛着要素,存続的要素,規範的要素)によって説明可能であることが明らかとなった.とくに,(a)内在化要素は,充実感,自立・自信,自己の存在の肯定と有意な正の関連を示し,(b)愛着要素は充実感と有意な正の関連を,孤立感と有意な負の関連を示し,(c)大学の場合,愛着要素と存続的要素が充実感と有意な正の関連を,孤立感と有意な負の関連を示していた.今後の研究への含意が議論される.
著者
酒井 亮爾
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.51-60, 2007-03-31

いじめは人権問題であるといわれているが,とくに学校におけるいじめ自殺はあってはならない問題である.最初にいじめが社会的な問題として取り上げられた1986年に起こったS君の「葬式ごっこ」事件であり,次には1994年に多額の現金をゆすられていたKO君の自殺事件であった.こうした事件の後,文部科学省や都府県でいじめ問題の抜本的な解決を目指した取り組みがなされてきた.しかし,2006年には小・中学校で相次いでいじめによる自殺が起った.いじめが社会問題化するたびに種々の対策が叫ばれ提案されてきたが,時間の経過とともにそうした対策が実効性をもたなくなってきた.ここでは2006年に中学校で起った2つのいじめ自殺事例を取り上げ,社会問題化する契機となった小学生のいじめ自殺も考慮にいれて,文部科学省の種々の提言を取り上げていった.
著者
伊藤 君男 岡本 真一郎
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.29-32, 2007-03-10

悪徳商法における強制的な説得・承諾のプロセスを,より詳細に検討するために,本研究では,被害者に対するインタビュー調査をおこなった.そして,説得の開始から承諾にいたるプロセスを,TEMを用いることで,詳細に記述・分析を行った.調査対象者は20代女性3名であり,彼女らはエステ・補正下着の強制的な勧誘を受けていた.TEMの分析によって,エステ・補正下着の勧誘のプロセスは,「来店」「勧誘」という必須通過点(OPP)を経て,「契約する」という等至点(EFP)に至ることが示された.そこでは,「友人の勧め」「無料体験」「脅し・強い勧誘」などの圧力が働いていることも示された.
著者
酒井 亮爾
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.41-49, 2006-03-10

日本では,学校におけるいじめは1980年代に校内暴力とともに増加してきた.1994年には中学生(大河内君)が級友によるいじめを苦にして自殺している.そのようないじめを防止するために教師や父母,地域社会によって多くの対処行動がなされてきた.しかし,2002年でもいじめの事例が22,207件も報告されている.最近のいじめの特徴は陰湿であり,残酷であり,執拗である.家族の成員が少なくなり,きょうだいの数も昔よりは少なくなっているために,家族成員の間にもストレスが多い.そのために,多くの子どもたちは家族内でトラブルにあったとき,ストレス状況や困難に対処する仕方を学習することができてこなかったのである.そのような家庭の教育力の低下は,学校におけるいじめをなくすことができない理由のひとつであろう.さらに多くの子どもたちは小学校で仲間集団と遊ぶ機会をもっていないのである.放課後も多くの子どもたちは音楽やスポーツの訓練を受けたり,学習塾へ通っている.だから,放課後に級友と遊ぶ時間が余りないのである.多くのいじめは中学生の頃に発生する.彼らは心身ともに急速に発達していく.しかしながら,この時期の心と身体の発達はアンバランスである.とくに第二次性徴によって,彼らは不安定な状態であり,学校では多くのストレスを経験することになる.一般的に中学生の頃は自己のアイデンティティを追及し内省的となる.たとえいじめられたとしても,彼らはそのことを親や先生には話したりしないのである.幼児期の家庭はもっとも重要な教育の場であり,両親は子どもを注意深く見ていなくてはいけない.そうすれば,親は子どものちょっとした変化にも気づくことができる.子どもを見守っていくことによって,親は子どもたちがつらい目にあっているときに示すサインを見つけ出すことができるであろう.いじめられている場合,その子はいじめている子と対決する必要がある.基本的には誰もが強い自我を発達させていく必要があるのであり,もしも不快な行為をされたり,嫌なことを言われたなら,「そういうことは嫌だ」と言うことが必要であろう.誰もが強い自我とアイデンティティを形成することができたならば,結局,いじめはなくなっていくであろう.
著者
高木 浩人
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.53-59, 2007-03-10

本研究は孤独感と重要な他者への自己開示との関連について検討した.97名の男子学部生と209名の女子学部生がUCLA孤独感尺度に回答し,JSDQの40項目に回答した.その結果,男女とも,孤独感は同性の友人,異性の友人への自己開示と有意な負の相関を示した.自己開示と孤独感との関連の強さには性差は見られなかった.側面にっいては,男性においては,態度,性格の自己開示が重要であり,女性においては,金銭,性格,身体・外観の自己開示が重要であった.今後の研究への含意が議論される.
著者
大澤 功
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.39-46, 2008-03

目的:身体活動と悪性新生物のリスクとの関係を,発表された臨床研究を用いて評価する.方法:2000年1月から2006年12月までにMEDLINEに登録されている身体活動と悪性新生物との関連を検討した前向きコホート研究を検索収集して評価を実施した.結果:悪性新生物による死亡を検討した11論文,悪性新生物罹患を検討した56論文について評価した.死亡を検討した11論文中8論文において,身体活動量の多い生活習慣は悪性新生物による死亡の減少と統計学的に有意な関連があることを示していた.部位別では,大腸がんと乳がんでは多くの論文が身体活動によって罹患のリスクが低下すると報告していた.前立腺がん,卵巣がん,膵臓がんでは結論は一致していなかった.結論:身体活動量の多い生活習慣によって,悪性新生物による死亡の抑制と大腸がん予防および乳がん予防が期待できる.
著者
内藤 正和
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.69-76, 2007-03-31

今日,大学では教育・研究と並んで,地域貢献活動が大きな使命となっている.運動・スポーツの分野においても例外ではなく様々な取り組みが行われているが,大学の資源を地域の中で適切に活用することが重要である.そこで本研究では,大学が運動・スポーツを通して地域に貢献するために,大学が有する資源について現状や課題を明らかにし,今後それらをどのように地域の中で活用していけばよいのかを検討することを目的とする.その結果,以下のことが明らかになった.1)運動・スポーツ活動に必要な資源である人的資源,物的資源,資金的資源,情報的資源のうち,大学は人的資源,物的資源,情報的資源を豊富に有している.これらは質・量ともに他のスポーツ組織が有する資源を大きく上回っている一方で,教育や研究等により,運動・スポーツを通した地域貢献活動として使用できる資源は限定的であるといえる.2)大学は地域スポーツの核としてではなく,地域の構成体の一つとして,多様な組織と連携することで,豊富に有する資源を有意義に活用し,また不足している資源を得ることができる.しかし,多様な組織と連携するためには実績を積み,様々なリスクを減らすことが求められる.3)地域貢献活動を行う際に,組織を構築して活動することにより,個別に活動するよりも他の組織と連携をすることが容易となる.特に資金面での連携が容易となり,活動を拡大させることができる.また組織化することにより,研究・教育と地域貢献活動の橋渡しの役目を担うことが期待できる.
著者
伊藤 史 赤嶺 亜紀 木田 光郎
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.45-51, 2007-03-10

二重課題法を用いて,課題に配分される注意的資源の量が,事象関連脳電位の2つのP3(初期P3と後期P3)を測定することで査定された.初期P3は刺激評価の処理を,後期P3は刺激評価後の処理を反映すると推察されている.RT only条件において,被験者(N=29)は,弁別反応(RT)課題のみを遂行し,二重課題条件において,彼らはRT課題とカウント課題を同時に遂行した.RT課題の標的刺激に対する初期P3と後期P3が測定された.初期P3振幅は,カウント課題が困難になるにつれて系統的に減衰した.一方,後期P3振幅は,RT only条件よりもカウント課題が最も難しかったときに増大した.初期P3振幅と後期P3振幅におけるこれらの結果は,知覚-中枢資源に依存した刺激評価の処理は2つの課題間で相補的であるが,反応と関連した資源に依存した刺激評価後の処理はそうではないことを示唆している.
著者
片山 和男
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.101-106, 2007-03-31

強迫性障害は,強迫観念・強迫行為が反復・持続し,時間の浪費や回避行動のために日常生活や人間関係が困難になることを特徴とする精神障害である.治療については,薬物療法と行動療法の有効性がわかっている.行動療法では,エクスポージャーが用いられることがある.本稿では行動療法を中心とした症状軽減を目指す立場から,確認の強迫症状などの生活に支障をきたす安全確保行動を,どのように生活に支障をきたさない新しい適応的な安全確保行動に置き換えることができるか,事例を通して検討した.治療目標としては,行動面の「ひとりで外出する」と感情面の「情緒の安定」の二つを設定した.まず信頼的な治療者患者関係を構築したうえで,行動面は段階的なエクスポージャーを用いた行動的アプローチにより,強迫症状が改善した.感情面は,筋弛緩法,自律訓練法と具体的検討に基づいたフィードバックが奏功した.さらに過程が進むにつれて自尊感情が高くなった.
著者
早川 昌範
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.95-102, 2008-03

日本社会心理学会第42回大会が,2001(平成13)年10月13日(土)・14日(日)に,愛知学院大学(日進学舎)で開催された.本稿はその大会の概要を述べ,大会のメインテーマである「21世紀の社会心理学の重要課題と方法論」に関して企画された,講演と公開シンポジウムについて,口頭発表部分の若干の補足を行なったものである.愛知学院大学文学部心理学科の教職員が核となった大会準備委員会が,講演と公開シンポジウム,さらに公開講演を1つとトーク&トーク(ミニシンポジウム)を6つ企画した.自主企画・運営シンポジウムも6つ開かれた.口頭発表数は89件,ポスター発表数は212件.実際の大会参加者は,678人,懇親会の参加者は356人,という大勢であった.講演(「この40年間,社会心理学に進歩はあったか-では,これからの40年は?」)と公開シンポジウム(「21世紀における社会心理学のパラダイム」)からは特に貴重な示唆が与えられた.