著者
浜崎 学 堀元 俊明 嶋田 昭一郎 石丸 正之
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.503-508, 2011-07-01
参考文献数
8

<p> 我が国の原子力第一船「むつ」は,初の実験航海での放射線漏れが社会的に大きく取り上げられ,我が国の原子力界にとって永く記憶されるべき教訓を与えた。一方,その後の実験航海が成功をおさめ,外洋を8万キロにも渡って原子動力で全速航海し,貴重なデータを後世に残したことは余り知られていない。また,「むつ」の炉心,燃料は,米国からの導入技術が発電炉のものに限られ,舶用炉技術を導入できないという条件の下で確立した我が国国産技術である。</p>
著者
西 正孝 山西 敏彦 林 巧
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.115-120, 2004-02-28
参考文献数
36

<p> 核融合炉開発は進展し, 国際熱核融合実験炉ITERの工学設計が完成して建設活動を始めるべく準備が進められている。現在, 開発を進めている核融合炉は重水素とトリチウムを燃料とするが, トリチウムは放射性気体であり, また, 天然には稀少であるため, 核融合炉内で消費量に見合う量の生産を行う。このため, トリチウムの有効利用とその取り扱いに係る安全を確保するトリチウム・システムの開発は核融合炉の実現に必要不可欠である。本稿では, 核融合炉のトリチウム・システムについて, ITERのトリチウム・システムの設計とその技術基盤を中心に紹介するとともに, 今後の課題について述べる。</p>
著者
宮野 廣 中村 隆夫 成宮 祥介
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.447-451, 2012-07-01
参考文献数
3
被引用文献数
1

<p> 2007年7月に中越沖地震が発生し,更にその3年半後に東日本大震災が日本を襲った。いずれの場合にも震源近傍の原子力発電所は大きな地震動に見舞われたが,その後に大津波が発生したかどうかにより事故の明暗が大きく分かれることとなった。今,私達は今回の福島第一原子力発電所事故の未曽有の過酷さの前に,4年半前に起きた中越沖地震のことをともすると忘れがちになるが,2つの地震の共通点は,原子力発電所が設計の想定を大きく超えた地震動に見舞われたことにある。日本原子力学会は,中越沖地震の後,「原子力発電所地震安全特別専門委員会」を設置し,設計想定を超える地震に対してどのように安全を確保すべきかを検討してきた。そして東日本大震災が発生した昨年初めには,ほぼその検討結果が報告書としてまとまりつつある状況にあった。福島第一原子力発電所事故後の緊急事態からようやく立ち直りつつある現在,今回取りまとめた地震安全ロードマップに関する報告書の意味するところ,すなわち「原子力発電所の安全をいかに確保すべきか」を改めて問い直してみることが重要である。日本原子力学会は,この報告書の提言しているところを原点とし,引き続き「原子力安全」の確保のあり方について検討していくことが求められている。</p><p> 今回,4回のシリーズで,本委員会の活動に参加した日本原子力学会の委員,及びその検討に協力した日本地震工学会,日本機械学会の委員により,本委員会が取りまとめた地震安全ロードマップ報告書の内容と,中越沖地震及び東日本大震災を踏まえた原子力安全確保のあるべき方向について解説する。</p>
著者
内藤 正則
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.473-478, 2011-07-01

<p> 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴う大津波が,関東から東北地方の太平洋岸に面する原子力発電所を襲った。特に,福島第一原子力発電所に設置されている1号機から4号機までの4プラントは甚大な被害を受けた。これら4プラントから環境に放出された放射性物質の量は,チェルノブイリ原発事故の約1/10と言われている。現在はすでに被害の拡大は抑えられ,核燃料から発生し続ける余熱(崩壊熱)を安定に除去する,いわゆる冷温停止状態を維持するための方策がとられつつある。しかし,ここに至るまで,なぜ多量の放射性物質の環境への放出という大惨事が起きたのであろうか。格納容器の過圧を防止するためのベントや核燃料の冷却を維持するための注水作業が遅れたことが一因として挙げられているが,直接的には水素爆発による原子炉建屋の損傷が,その後の事故の推移を決定づけたといえる。本稿では,「なぜ水素爆発が起きたのか」という点に焦点を絞って,現状で得られているプラント情報に基づいて解説する。</p>
著者
武田 充司
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.87-91, 2008-02-01
参考文献数
1
被引用文献数
1

<p> 世界の多くの国々の資金協力によって進められてきたチェルノブイリ新シェルター建設プロジェクトは,新シェルター建設工事の実施主体となる事業者が選定され,去る2007年9月17日,ウクライナの首都キエフにおいて,関係者の間で正式契約の調印式が行われた。この契約調印は,世界を震撼させた未曾有の大事故によって崩壊したチェルノブイリ4号機を以後100年にわたって安全に管理する新シェルター建設へ向けて大きな一歩を踏み出したことを意味する画期的な出来事である。筆者は,このプロジェクトの国際顧問団の一員として,当初からプロジェクトの重要な技術的事項の決定に深くかかわってきたので,この機会に,新シェルター建設へ向けてのこれまでの歩みをまとめ,この困難な国際プロジェクトに対する一般の人々の理解を深め,関心を喚起したいと思う。</p>
著者
宮坂 靖彦
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.32-35, 2012-01-01
参考文献数
9

<p> 東京電力福島第一発電所のシビアアクシデントについて,事故時の対応,規制等の観点から十分に調査・検証する必要がある。それにしても原子力発電所の全交流電源喪失(SBO : Station Blackout)規制はなぜ遅れたのか。また,地震・津波の発生の可能性は,専門家から知らされていたのになぜ耐震規制に反映できなかったか。日本の原子力施設の耐震対策は,1995年兵庫県南部地震から数年後に本格検討が始まり,大幅改訂の耐震設計審査指針が公表されたのが2006年9月である。この間に新潟地震があったといえ,あまりに遅く残念である。改めて,安全研究の重要性と適切な規制体系の再構築が必要である。独立した規制機関の再構築が検討されているが,その第一歩はこれまでの対応を解明することである。</p><p> 本報では,洪水による外部電源喪失事象,津波による冷却ポンプ機能喪失など教訓とすべき事象,米国及びフランスのシビアアクシデント規制の状況,わが国の規制取り組み等に関する提言を含め解説する。</p>
著者
天野 治
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.759-765, 2006-10-30
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

<p> 石油は1次エネルギーの40%を占め, われわれの生活を豊かなものにしている。ところが, われわれ人類は, 石油をこの50年で半分使いつつある。それも取り出しやすい, 経済的なものから使っている。残っているものは, 取り出すためにエネルギーがかかるものである。得られるエネルギーを取り出すためのエネルギーで除したものがEPR (energy profit ratio, エネルギー収支比) である。EPR=1はエネルギーを得るのと, 取り出すためのエネルギーが同じことを意味する。これは, 益がない。取り出すためのエネルギーとして, そのためにかかるすべての項目を可能な限り算定する。燃料の採掘, 輸送, 発電所の建設, 運転, 補修, 廃炉, 廃棄物処理・処分までを含む。EPRが高いことは, 石油の代替として有力な候補となる。</p><p> ウラン濃縮に遠心分離法を用いた原子力発電はEPRが高い。従来のガス拡散法はウラン濃縮に莫大なエネルギーが必要となり, 人力エネルギーを大幅に増加させるため, EPRは低くなる。EPRを高めるには, 出力エネルギーを増加させることも有効な方法である。具体的には, 稼働率を向上させること, 定格出力を上げることである。</p><p> 風力発電や太陽光発電のEPRは高くはない。これは, 風の強さ, すなわち出力エネルギーが定格の60%以下と低いことと稼働率が低いことによる (風力は風が吹いている間, 太陽光は日中のみ)。LNGは気体であり, 輸送のために液化するエネルギーを費やすので, 石油火力や石炭に比べてEPRは低い。</p>
著者
八木 絵香
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.29-34, 2013-01-01
参考文献数
6
被引用文献数
2

<p> エネルギー・環境戦略に関する「国民的議論」において,世界初の試みとなった政府主催の「討論型世論調査」。これらの結果に接した人々,特に筆者が出会う原子力分野の人々に少なくない感想は,「あれは『特殊な』人達の声で,サイレントマジョリティの考え方は違う」というものである。本当に討論型世論調査で示された国民の声は「特殊な」人々の声なのだろうか。その結果はどう読み解かれるべきだったのか。このような観点から,2012年夏のエネルギー・環境戦略に関する国民的議論を振り返り,今後のエネルギー政策の具現化に向けて,改めて原子力専門家が問われる役割について解説する。</p>
著者
石井 吉徳
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.193-199, 2005-03-30
参考文献数
1
被引用文献数
2

<p> 昨年 (2004年) 9月9日 東京プレスセンターで日本原子力学会再処理リサイクル部会主催の講演会を開催した。前半の講演者米国原子力学会のベネデクト博士が「米国は燃料リサイクル (再処理) の研究開発を本格化すること, さらに輸送に使われる石油 (ガソリン) の1/4を原子力でまかなう計画である」と述べた。米国の方針転換の背景には, 安くて豊かな石油時代が終わることをきちんと認識しているからであろう。後半の石井吉徳氏の講演を同時通訳のイヤホンを耳に当て, しきりにうなづいていた。</p><p> その貴重な講演を文章にしていただいた。</p><p> 「40年前も, 石油資源はあと40年しか持たないといったではないか」, 「国際機関IEAでは, まだまだ大丈夫といっているではないか」, 「メタンハイドレードなど代替資源もあるではないか」との疑問にも適切に答えていただいた。</p><p> 車社会米国では石油の7割以上が輸送に使われている。日本でも石油の4割以上が輸送に使われている。車社会からわれわれはどのように脱皮していくのか。便利なガソリンの代替をどうするのか。現在の農業も大型機械や肥料など石油が支えている。天然ガスも10から20年遅れてピークを迎える。天然ガスは発電の1/3を占める。この影響も大きい。</p><p> リサイクルも熱力学から見れば, 流れが逆であり, その分エネルギーが要る。今の社会は, 安くて豊富な石油で成り立っている。われわれの生活にどのような影響があるか。どのような対策, 研究が必要か。みんなが考える問題である。本稿は皆様に考える原点を与えてくれるものと信じる。</p><p> 石油減耗への対策は, まだ世界的に解が得られていない。このような挑戦的な問題こそ, 大学, 研究機関が競って, 研究すべき課題である。</p>