著者
原口 悟 上木 賢太 桑谷 立 吉田 健太 モハメド 美香 堀内 俊介 岩森 光
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2017年のJpGU-AGU(原口ほか,2017)で、日本国内出版文献に掲載されている地球化学データのコンパイルを行うデータベース「DODAI」を報告した。前回報告以降もデータ収集を継続し、2017年末までに224論文5818サンプルの化学データをコンパイルした。今回、これらのデータ収集を通して明らかになった、「フォーマットの統一」に関連する問題点を以下に3点報告する。1つ目は、化学組成の分析に当たって、多くの「分析装置」による様々な「分析手法」が用いられていることである。主要元素は、1970年代までは「湿式分析」が主流であったが、1980年代に入って「XRF」が急速に広まった。この過程で、従来鉄はFe2+ (FeO)とFe3+ (Fe2O3)を分けて分析されていたのが、全FeOまたはFe2O3に一本化する分析に移行した。現在でも全岩化学組成のFe2+とFe3+を分けて分析する手法は湿式分析だけであり、主要元素をXRFで分析していても、Fe2+だけを湿式分析で分析することが行われている。このような鉄の分析のバリエーションが地球化学データベースに含まれていることには注意を要する。2つ目は、分析される微量元素の組み合わせが分析機関により様々なことである。微量元素の分析は、現在ではXRFの他、ICP-MS等の質量分析装置を用いた方法、INAA等の放射化分析等が使われている。XRFは分析が簡便であるため、多くの機関で主要元素とともに分析が行われているが、分析元素の選択が機関・目的により様々である。ICP-MS, INAAは高精度の分析が可能で、多くの微量元素を網羅的に分析することが可能であるが、全ての元素をカバーする分析を恒常的に実施する例が少なく、データ数が少ない。このため、データベースを利用した多変量解析に用いる元素の組み合わせによっては、解析に使用できるサンプル数が激減することがありうる。3つ目は、研究が行われた時期、および研究者が専門とする分野によって地質の解釈が変化することである。例えば、四万十帯に代表される「付加体」の地質構造は、「付加体地質学」の導入により、形成過程の理解が急速に進んだが、個々の岩体の記載は、付加体地質学導入以前の研究に基づくものと、付加体地質学に基づいた新たな解釈によるものがあり、現在でも両者が混用されている。また、付加体中の海洋プレート起源の火山岩は、弱変成作用を受けているため、「緑色岩」とも呼ばれるが、研究者によって「火山岩」「変成岩」と見方が異なっている。シームレス地質図統一凡例(産総研,2015)のように,これらの見方を統一する試みもあるが,依然としてこのような様々な「解釈の違い」が地球化学データに含まれることはコンパイルを行う上での注意点である。本報告では、これらの「フォーマットの不統一」に関係する地球化学データベースが含む問題を取り上げるとともに、不統一の解消を図る方法について考えたい。
著者
Badri Bhakta Shrestha Yusuke Yamazaki Daisuke Kuribayashi Akira Hasegawa Hisaya Sawano Yoshio Tokunaga
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

The Chao Phraya River basin is the largest river basin of Thailand and it is located in the tropical monsoon climate region with basin area of 160,000 km2. The Chao Phraya delta is a major rice production area and often experiences large flood events, which may result in widespread rice-crops damage, as most recently recorded in 2011 and 2006 floods. The flood damage is also expected to increase more in future. It is thus necessary to assess flood damage to agriculture areas for future floods considering climate change impact for implementing effective preventive measures. This study focused on assessment of future flood damage to agricultural sector (rice crops) under climate change in the Chao Phraya River basin. Flood hazard characteristics such as flood depth and flood duration were computed using rainfall runoff inundation model (RRI Model). Flood damage to rice crops was defined as a function of flood depth, duration and growth stage of rice plants. For the assessment, satellite based data such as HydroSHEDS (SRTM) topographical and global land cover data were used. First, assessment of flood damage to agriculture sector was conducted for 2011 flood. The flood damage curves developed by ICHARM were applied to assess the flood damage to rice-crops, and the comparison results between calculated damage and reported damage for 2011 flood were reasonably agreeable. The calculated results of rice crop using ICHARM's damage curves were also compared with the damage estimated using flood damage curve developed by MRCS (Mekong River Commission Secretariat). Then, flood damage assessment was conducted for both present climate (1979-2003) and future climate (2075-2099) conditions using MRI-AGCM3.2S precipitation dataset. Frequency analysis was conducted using rainfall volume to identify flood hazard intensity for 50- and 100-year return period under present climate and future climate conditions, and flood damage was assessed for both return period cases with different rainfall patterns chosen from each climate scenario. The results obtained from the damage assessment were compared for worst cases and found that economical loss in agriculture sector due to flood can increase in the future by 15 % and 16 %, in the case of 50-year flood and 100-year flood, respectively. The agricultural damage areas can increase in the future by 13 % in the both flood scale cases. The results of the flood damage assessment in this study can be useful to implement flood mitigation actions for climate change adaptation.
著者
Lucile Bruhat Paul Segall
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Most geodetic inversions of surface deformation rates consider the depth distribution of interseismic fault slip-rate to be time invariant. However, some numerical simulations show down-dip penetration of dynamic rupture into regions with velocity-strengthening friction, with subsequent up-dip propagation of the locked-to-creeping transition. These models are particularly attractive to investigate the discrepancy between geodetically- and seismically-derived locking depths.Recently, Bruhat & Segall (GJI, 2017) developed a new method to characterize interseismic slip rates, that allows slip to penetrate up dip into the locked region. This simple model considers deep interseismic slip as a crack loaded at constant slip rate at the down-dip end. It provides analytical expressions for stress drop within the crack, slip, and slip rate along the fault. These expressions make use of an expansion of the slip distribution in Chebyshev polynomials, with a constraint that the crack-tip stress be non-singular. The simplicity of the method enables Monte Carlo inversions for physical characteristics of the fault interface, establishing a first step to bridge purely kinematic inversions to physics-based numerical simulations of earthquake cycles.This study extends this new class of solution to strike-slip fault environment. Unlike Bruhat & Segall (2017) which considered creep propagation in a fully elastic medium, we include here the long-term deformation due to viscoelastic flow in the lower crust and upper mantle. The surface predictions greatly change when including potential viscoelastic deformation and cumulative effect of previous earthquake cycles. We employ this model to investigate the long-term rates along the Carrizo Plain section of the San Andreas fault. This study reviews possible models, elastic and viscoelastic, for fitting horizontal surface rates. We improve the model presented in Bruhat & Segall (2017) to account for the coupling between creep and viscoelastic flow. Using this updated approach, we show that surface rates across the Carrizo Plain section of the San Andreas fault might be explained by slow vertical propagation of deep interseismic creep.
著者
西 勇樹 伴 雅雄 及川 輝樹 山﨑 誠子
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

はじめに 蔵王火山は、東北日本火山フロントに位置する活火山で、2013年頃から噴火の前兆的現象が多数観測されている。蔵王火山の最新期は約3.5万年前の馬の背カルデラの形成に始まり、約2千年前に最新の山体である五色岳が活動を開始した。我々は、五色岳形成開始前後の噴出物を対象として、地質学的・岩石学的研究を進め、その結果、噴出物の地質ユニットは、五色岳形成に先行する溶岩ユニット(振子滝溶岩、五色岳南方溶岩及び火砕岩類)と形成開始後の火砕岩ユニット(五色岳南部火砕岩類、五色岳東部火砕岩類)に細分されること、全ての岩石は苦鉄質・珪長質マグマの混合によって形成されたこと、一方で、両端成分マグマの特徴、マグマ溜まりの構造、および滞留時間1年未満と5年以上を示す珪長質マグマ由来の直方輝石の割合が、溶岩ユニットと火砕岩ユニットでやや異なっていることが明らかになった。 上記の火砕岩ユニットの両火砕岩類は、後者が前者を不整合に覆っており、形成時期がやや異なる可能性がある。また、五色岳南部火砕岩類には計3本の火砕岩脈が認められる。今回は、五色岳南部火砕岩類で見られる火砕岩脈の特徴と形成過程を明らかにすると共に、五色岳南部火砕岩類の岩石学的特徴を、前後の地質ユニット(溶岩ユニット、五色岳東部火砕岩類)と比較し、マグマ溜まりの時間変遷の検討をより詳細に行った。五色岳南部火砕岩類、特に火砕岩脈について 五色岳南部火砕岩類は五色岳の南東部に分布する。噴出物は主に成層構造の発達した火砕サージ堆積物からなる。全層厚は約12mである。火砕サージ堆積物を切る計3本の火砕岩脈(以下、火砕岩脈を順に1~3と称す)が認められる。その最上部は浸食されている。火砕岩脈1~3の高さは約12m、7m、7m、幅(最下部)は4m、2m、8m、幅(最上部)は16m、5m、8m、走向はN50°E、N70°E、N15°Eである。何れもほぼ垂直方向に貫入しており、火砕岩脈1、2は下部から上部に向かって幅が広がる形状を成す。火砕岩脈3の幅はほぼ一定である。火砕岩脈は褐色~青灰色の火山灰支持の凝灰角礫岩からなる。本質岩片は細かい冷却クラックを持つ火山弾とそれらが破砕されたと考えられる径5cm~10cm程度の火山礫、径10cm程度の少量のスコリアからなる。加えて、径5~10cm程度の類質岩片を少量含む。岩片の多くが冷却クラックをもつ本質物であり、破砕されたものも多いことからマグマ水蒸気爆発によるものと推定される。なお、火砕サージ堆積物と岩脈の境界は明瞭であり、境界付近の火砕サージ堆積物は赤褐色に酸化している。火砕岩脈1を代表として、内部構造について詳細に検討した。その結果、弱い成層構造が認められ、多くの火山岩塊は概ね水平方向に伸長しており、少なくとも一部はフォールバックした可能性が高い。また、火山岩塊の含有割合に不均一性が認められる。特に、岩脈の両端から10~20cmにおいては大きな火山岩塊が認められない。これは岩脈の境界付近で効率的に破砕が進行したためと思われる。岩石学的特徴の比較検討 五色岳南部火砕岩類(火砕岩脈の本質岩片も含む)の岩石学的特徴について、前後の地質ユニットと比較検討を行った。いずれの岩石も単斜輝石直方輝石安山岩からなり、全岩化学組成は、概ね一連の組成トレンドに乗る。しかし、溶岩ユニット、五色岳南部火砕岩類、五色岳東部火砕岩類の組成変化トレンドは、TiO2-SiO2図上で、この順に高TiO2量側にシフトし、Cr-SiO2図上では低Cr量側にシフトしている。これらの特徴は、溶岩ユニットから五色岳東部火砕岩類にかけて、苦鉄質端成分マグマの組成が変化したことを示唆する。また、どの地質ユニットでも直方輝石斑晶のリム(Mg# = 69)から内側~100μmの部分でなだらかな逆累帯構造をもつreverse-zoned タイプ と、リムから内側~50μmの部分でMg-rich zone(Mg# = ~75)を持つMg-rich-rim タイプが認められるが、溶岩ユニットではreverse-zoned タイプが多く、五色岳東部火砕岩類ではMg-rich-rim タイプが多いのに対して、五色岳南部火砕岩類ではその両方がある程度認められる。また、直方輝石の滞留時間について、溶岩ユニット中の多くのものは5年以上で、五色岳東部火砕岩類の多くのものは1年未満のであるのに対して、五色岳南部火砕岩類はその両方が認められる。 以上の検討結果から、五色岳南部火砕岩類は溶岩ユニットと五色岳東部火砕岩類の中間的な岩石学的特徴を持つことが明らかとなった。reverse-zonedタイプの多い溶岩ユニットでは混合マグマは発達し、Mg-rich-rim タイプの多い五色岳東部火砕岩類では混合マグマは未発達であったと考えられるため、その両方のタイプをある程度含む五色岳南部火砕岩類は上下の地質ユニットと比べて、中間的な混合マグマの発達度合いであったと考えられる。すなわち、五色岳南部火砕岩類は、溶岩ユニットから五色岳東部火砕岩類に移る転換時期であったと考えられる。
著者
池永 有弥 前野 深 安田 敦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

伊豆大島では, 1777年から15年間にわたり安永噴火と呼ばれる大規模な噴火が発生し, 溶岩の流出と数億トンにのぼるスコリアおよび火山灰の噴出が起きた(小山・早川, 1996). 地質調査や歴史記録の解析(Nakamura, 1964; 一色, 1984; 津久井ほか, 2009)によって, 噴火はスコリアの放出(基底スコリア)から始まり, 溶岩を流出させた後, 数年間の火山灰期を経て噴火が終息したと考えられている. このように噴火の大枠は明らかになっているが, 溶岩は様々な方向に複数回流出しており, 基底スコリアも広範囲に分布しているため, 噴火様式および推移と堆積物との対応については未解明な部分が多い. 基底スコリアについては, 層準により粒子の特徴に違いがあることが本研究でわかってきた.伊豆大島において, 安永噴火の降下火砕堆積物および溶岩の観察を行った. その結果, 基底スコリア層が大きく下部の斜長石斑晶に乏しい層(Unit A)と, 上部の斜長石斑晶に富む層(Unit B)の2層に分けられることがわかった. さらにUnit Aのスコリア(Aスコリア)は島の西側を除く広範囲に堆積している一方で, Unit Bのスコリア(Bスコリア)は島の東側の狭い範囲にのみ堆積していることがわかった. このことから, 層準によって噴煙の特徴が異なっていた可能性が高く, 複数の方向へ流下した溶岩と基底スコリアの前後関係を理解する上で, 溶岩に接する基底スコリアの斜長石斑晶量が鍵となることがわかった.次にA・Bの各スコリア, および溶岩について全岩組成分析を行ったところ, 分析値がNakano and Yamamoto(1991)などで示されている斜長石濃集トレンドに乗り, Bスコリアが最も高いAl2O3量を示した. 溶岩のAl2O3量は最も低く, AスコリアについてはBスコリアと溶岩の間の値になった. ただしAスコリアのうち最下部のものについては, Al2O3量がUnit Aの他の層準のスコリアよりもさらに低く, 溶岩に近い値を取るという特徴がある. 伊豆大島の山頂火口から噴出するマグマは, マグマだまり内での斜長石の浮上・濃集により斜長石に富むという考えがあり(荒牧・藤井, 1988), この説に基づけば噴火初期に斜長石に富むマグマが噴出することが予想される. しかし安永噴火の基底スコリアは山頂火口から噴出したと考えられているにもかかわらず, 露頭観察および岩石学的分析から, 噴火初期には斜長石に乏しいマグマが噴出し, その後斜長石に富むマグマが噴出した.EPMAを用いて斜長石の分析を行ったところ, 基底スコリアに含まれる斜長石斑晶のコア組成については, Aスコリアに比べてBスコリアのAn値が有意に高くなる傾向が見られた. 溶岩についてはAスコリアに近い値となった. また溶岩およびAスコリアの石基にのみ斜長石微結晶が多く含まれるが, Aスコリアの中には石基に微結晶をほとんど含まない粒子も多くある.このように安永噴火の噴出物は層序毎に特徴がかなり異なることが明らかになったが, 単一のマグマだまり内での斜長石濃集のみでマグマプロセスを説明できるかどうかや, マグマ上昇プロセスがユニットにより異なる可能性など, 噴出物の特徴に違いが生じる原因の解明については今後の課題である.
著者
西原 歩 巽 好幸 鈴木 桂子 金子 克哉 木村 純一 常 青 日向 宏伸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

破局的カルデラ形成噴火を生じる膨大な珪長質マグマの起源を理解するために,3万年前に生じた姶良火砕噴火で噴出した入戸火砕流中に含まれる本質岩片の地球化学的・岩石学的特徴を考察した.流紋岩質の白色軽石及び暗色軽石に含まれる斜長石斑晶のコア組成は~An85と~An40にピークを持つバイモーダルな分布を示すことに対して,安山岩質スコリアの斜長石斑晶は~An80にピークを持つユニモーダルな分布を示す.高An(An#=70-90)と低An(An#=30-50)斜長石コアのストロンチウム同位体比は,それぞれ87Sr/86Sr=0.7068±0.0008,0.7059±0.0002である.これらの測定結果は,姶良火砕噴火で噴出した膨大な量の流紋岩質マグマは,高An斜長石の起源である安山岩質マグマと低An斜長石の起源である珪長質マグマの混合によって生じたことを示唆する.苦鉄質マグマからわずかに分化してできた考えられる安山岩質マグマから晶出した斜長石のSr同位体比は,中新世の花崗岩や四万十累層の堆積岩など,高いSr同位体比をもつ上部地殻の岩石を同化したトレンドを持つ.このことは,安山岩質マグマと珪長質マグマの混合が上部地殻浅部で生じたことを示唆する.また,流紋岩質マグマは基盤岩より斜長石中のSr同位体比が低く,基盤岩との同化をほぼ生じていない安山岩質マグマ(英文にあわせてみました)と似たような組成を持つ.このことは,珪長質マグマと苦鉄質マグマは,姶良カルデラ深部の下部地殻のような同一の起源物質から生じているとして説明できる.