著者
北村 晃寿
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

1771年八重山地震に伴う八重山津波は,石垣島を中心に先島諸島全域にわたり,1万2千人の犠牲者と甚大なる被害を与えた.その最大遡上高は30mと推定され,2011年の東北地方太平洋沖地震の津波の発生まで,日本の歴史上,最大の津波とされていた.この八重山津波とそれ以前の大津波の痕跡として,「サンゴからなる津波石」や「遺跡を覆う石灰質の砂質津波堆積物」が報告されていた.最近,静岡大学防災総合センター客員教授の安藤雅孝氏が,石垣島の丘陵地で,人為改変から免れた砂質津波堆積物の“埋蔵地”を発見した.そこのトレンチ調査では, 4つの津波堆積物(上位から津波堆積物I,II,III,IV)が識別され,それらの年代は,西暦1950年を基準として,248年前以降,920–620年前,1670–1250年前,2700–2280 から1670–1250 年前である(Ando et al., 2018, Tectonophysics, 722, 265-276).I,II,IVは石灰質砂からなり,陸側末端まで追跡できたので,末端高度(それぞれ9 m,6 m,8 m)を確定できた.津波堆積物Iは1771年八重山津波の津波堆積物で,末端高度(9 m)は古文書と一致する.津波堆積物I直下の土壌層には,複数の地割れが発見され,八重山地震では激しい地震動のあったことが裏付けられた.津波堆積物I,II,IVは貝化石を産し,それらの種組成から津波発生時にサンゴ礁の礁嶺が存在していたことが分かった(Kitamura et al., submitted).津波堆積物IIIは埋没津波石で標高1 mに見られる.津波堆積物IVの年代値の確定が不十分などの問題があり,追加の調査が望まれる.
著者
伊藤 渉 沖野 峻也 齋藤 篤志 菖蒲 幸宏 渡部 颯大
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

1.動機および目的信夫山は福島市民にとって重要なスポットである。信夫山は福島盆地の中央に孤立している珍しい地形を持つが,その成因についてさまざまな議論があり,具体的なことはよくわかっていない。地理的・文化的に重要な信夫山について,市内の学校に通う者が調査し明らかにすることは郷土を認識・理解する上で重要だと考え,研究を開始した。2.研究仮説文献から得られた信夫山の地質情報及び成因として次のような説が挙げられる。・信夫山は東西で地質が異なり,西側は火砕流堆積物,東側は第三紀の堆積岩層から成り立っている。・信夫山は海底で形成された第三紀の海成層が隆起し,流紋岩の貫入を受け硬化した。この海成層は凝灰岩によってできており,信夫山の西側でより硬くなっている。・信夫山の表面には流紋岩が覆いかぶさっている。このように,信夫山の形成過程は諸説存在する。本研究では,どの説が有力かの検討も含め,信夫山がどのようにできたのか考察する。3.研究方法3-1露頭の観察我々は信夫山に登り,12箇所の露頭の観察を行うとともに,付近の転石を採取した。その際の露頭観察地点については図に示す。3-2偏光顕微鏡による岩石薄片の観察採取した転石の一部から岩石薄片を作成した。各露頭から作成し,観察可能な薄片を2つ得ることができた。それ以外の露頭の岩石は,非常にもろく,薄片を作成することが困難であった。3-3走査型電子顕微鏡(SEM)による観察走査型電子顕微鏡を用いて,岩石の表面を観察した。岩石は薄片を作成するこのできた露頭3及び4の岩石薄片を観察した。撮影したSEM画像上でそれぞれの岩石を構成する粒子の大きさを測定した。3-4 XRD装置を用いた鉱物同定西側と東側とが異なる岩石で出来ているのかを調べるため, X線回折(XRD)装置を用いて岩石を構成する鉱物の鑑定を行った。使用した岩石は地点1・2・9・11である。4.研究結果4-1 露頭観察の結果地点1・2・3・7の岩石は,いずれも非常に硬く,ハンマーで叩くと火花が発生した。表面は灰色をしていた。また,いずれも大きな割れ目があった。風化の影響と思われる。また,大きな割れ目があった。地点4・5・6・10・11・12の岩石は手で割ることができるほど脆かった。色はオレンジ色が中心であり,場所によっては赤橙の曲線状の縞模様が観察された。構成する粒子はいずれも泥質でかなり細かい。4-2 薄片観察の結果地点3の岩石を観察した。これらの岩石は,強く偏光した無色鉱物が多くみられた。それらの無色鉱物は表面では観察されず,断面でしか観察されなかった。また,いずれも角が多く,石英がちぎれていると思われる。地点4の岩石は砕屑粒子で構成されていた。大きさは約5μm程度であった。全体的にオレンジ色であり,細かい層構造であるラミナが見られた。幅は約1~2mmであった。4-3 SEMの結果地点3,4の岩石の写真のいずれも数μm程度の小さな尖った粒子で構成されていた。これらの粒子のうち,無作為に選んだ粒子を測長した。その結果,2つの露頭の岩石を構成する砕屑粒子のサイズには違いがないということがわかる。4-4 XRDの結果地点1・2の岩石は少量の長石を含んでいるが,全ての地点の岩石において主成分は石英であることが明らかになった。5.考察今回の研究で新たにわかったことは以下の3点である。ア)信夫山の東西で岩石の硬さ,色が異なる。イ)信夫山の岩石は凝灰岩で,構成粒子はほとんど石英である。ウ)信夫山の西側でカリ長石が見つかった。イの結果からこのカリ長石が熱水によるものではないかと推測した。また,ア・イ・ウの結果より,信夫山の岩石はもともと同じ凝灰岩で構成されていたものの,西側に熱水が貫入し石英・カリ長石が晶出したと考えた。これは信夫山が凝灰岩で構成されているという仮説を支持するものとなる。6.まとめ今回の研究では,既存の地質調査の真偽を確かめながら,信夫山の形成過程についての推定を行った。信夫山の東西の岩質の違うこと,西側に熱水が貫入したことが原因らしいことが本研究では明らかになった。このことをはっきりさせるためにも,今後は福島盆地全体の調査を行っていく必要がある。
著者
小島 航 浦山 颯太
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

火炎構造の再現実験と立体復元図の作成3D Shape and Inner Texture of the experimentally-reproduced Flame Structure小島 航、浦山 颯太Wataru Kojima,Souta Urayama埼玉県立春日部高等学校Saitama Prefectural Kasukabe High School1研究動機と目的 部活動の地質巡検で城ヶ島に行き、約1200~400万年前に堆積した新生代新第三紀の三崎層の火炎構造を観察した。野外では、火炎構造を断面でしか観察することができず、火炎構造の立体構造と内部の組織の詳細は分からなかった。火炎構造の全体の様子を明らかにして火炎構造がどのようにしてできるのかを研究することにした。2先行研究(1)城ヶ島の火炎構造の外形について 火炎構造は、白色火山灰層の上にスコリア質の凝灰岩が堆積した後、未固結のうちに地震動で、上の重い層が白色火山灰層に落ち込むことで火炎状になったと考えられている(2010 日本地質学会)。(2)火炎構造の再現実験 水を張った水槽に、砂、火山灰、砂の互層をつくり、地震を想定した振動を与え、火炎構造を再現した(2008 岡本譲)。3仮説 火炎構造の断面と層理面の白色火山灰の外形から、城ヶ島の火炎構造は白色火山灰が上のスコリア質の凝灰岩層に円錐状に噴き出したのではないかと考えた。4研究(実験方法)水を張った水槽に黒色火山灰と白色火山灰の互層をつくる。粒の粗い桜島の黒色火山灰と、滋賀県の古琵琶湖層群の第三紀鮮新世の粒の細かい蒲生塁層の白色火山灰を利用した。 地震の縦揺れを再現するため、水槽を台車の上に乗せ、凹凸の激しい道を等速直線運動で進む。 実験後、水を抜き乾燥させ、層理面に平行に3mmずつの厚さで削る。1回削ったごとに固定したカメラで水槽の上の面と水槽の側面の四面から写真を撮る。写真を方眼紙に書き写し、5mmマスごとの白色火山灰の位置を計測し、エクセルの3Dグラフで復元した。5実験・観察結果立体復元図より、白色火山灰が盛り上がっている部分が円柱状と円錐状のものが大小合わせて8個できた。水槽の中央にはできなかった。 白色火山灰の盛り上がった部分には白色火山灰層の粗い粒が、白色火山灰が薄く凹んでいる部分には細かい粒が密集していた。6考察 振動が起きると白色火山灰層の水が上に移動する。水中では細かい粒よりも粗い粒の方が動きやすい性質(2016 「地学基礎」 改訂版)を持つため、白色火山灰層の粗い粒が水と一緒に上へと抜ける。それに伴い周囲の白色火山灰層の粗い粒も吸い寄せるように密集し盛り上がる。白色火山灰層の細かい粒は水流では動かず、その場にとどまり、白色火山灰層の粗い粒が移動した分薄くなる。その結果、上からの黒色火山灰層の重さで凹む。このようにして火炎構造ができたと考える。7結論火炎構造は振動を与えることでできた。つまり、実際の火炎構造も地震の震動によってできる。 立体復元図より、白色火山灰が上の黒色火山灰層に突き抜けたものは円柱状、突き抜けなかったものは円錐状になる。 白色火山灰層の粗い粒が移動して盛り上がり、火炎構造ができる。キーワード:地層、地震 Keywords:Stratum,Earthquake
著者
前野 深 中田 節也 吉本 充宏 嶋野 岳人 Zaennudin Akhmad Prambada Oktory
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

スメル火山はインドネシアの中でも最も活動的な火山の一つであるが,噴火履歴については不明な点が多く,活動が活発化した際の推移予測のための基礎データは十分に揃っていない。近年では5-7年毎に比較的規模の大きな火砕流を伴う噴火が発生しているが,過去には噴煙柱を形成する大規模な噴火も発生している。また1884年以降,大規模なラハールが少なくとも5回発生しており,このうち1909年噴火では東方35 kmに位置するルマジャン市が甚大な災害を被った経緯もあり,周辺地域では火山災害も懸念される。本研究では地質学的・岩石学的解析,年代測定,文献調査をもとにスメル火山の噴火履歴および噴火様式・推移の特徴を明らかにし,噴火推移予測のための事象系統樹を作成することを目的としている。スメル火山の主に南東から南西麓,北麓で行った地質調査の結果,山頂または山腹からの比較的規模の大きな爆発的噴火に由来する降下火砕堆積物と火砕流堆積物が複数存在することやそれらの発生年代が明らかになった。11世紀以降現在までは山頂からの安山岩質マグマによる噴火が主体で,このうち15-16世紀頃の活動では南西側に厚い降下スコリアを堆積させ,一連の活動により発生した火砕流がこの地域の遺跡を埋没させた。この時期の堆積物の層序構築には,13世紀のリンジャニ火山噴火に伴う広域テフラも年代指標として重要な役割を果たしている。一方,山腹噴火を示す地形や堆積物が多数存在するが,これらは3-11世紀頃の玄武岩質マグマによる活動によるもので,溶岩流出に続いて爆発的噴火へ移行し山腹でも火砕丘を形成する活動があったことがわかった。またこの時期には山体北側の火砕丘や溶岩流の活動もあったと考えられる。3世紀以前には安山岩質マグマによる爆発的噴火が山頂から発生した。山頂噴火は少なくとも過去およそ2000年間は安山岩質マグマに限られる。このようにスメル火山の活動は,19世紀以前には現在の活動を大きく上回る規模の噴火が繰り返し発生したこと,山腹噴火が噴火様式の重要な一形態であること,安山岩質マグマ(SiO2 56-61 wt.%)と玄武岩質マグマ(SiO2 46-53 wt.%)のバイモーダルな活動により特徴付けられることなどが明らかになった。一方,山体形状や火口地形,溶岩流/ドームの規模の把握は,火砕流の規模やその流下方向を推定する上で重要であるため,衛星画像やドローンによる画像・映像をもとに現在の山体地形の特徴や火口状況を把握し,また過去の火口位置とその移動方向や開口方向の変化についても整理を進めている。噴火事象系統樹は,近年の山頂での繰り返し噴火に加えて,地質学的解析から明らかにした過去の大規模噴火や火口形状や位置についても考慮したものにする必要がある。
著者
池田 由實 前田 茉利佳 矢野 紗彩
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

背景国語の授業で永井荷風の「断腸亭日乗」を知った。断腸亭日乗の日々の記録には天気が記されていることを知った。古文書の日付にも天気が書き添えられていることに着目し、江戸時代の天気を分析したいと考えた。一昨年、江戸時代の神奈川の古文書「関口日記」を、昨年は京都の「二條家内々御番所日次記」を分析した。今年は「妙法院日次記」と、鹿児島の「守屋舎人日帳」を分析した。「妙法院日次記」は京都東山七条の天台宗の妙法院の坊官が、1672年より1876年まで、約200年にわたって書き継いできた記録である。「守屋舎人日帳」は薩摩藩の守屋舎人重尭の日記で、1825から1871年までの、村の統治、生活慣行などが記録されている。研究の目的(1)「妙法院日次記と「守屋舎人日帳」の天気を分析して飢饉の年と原因を考える。(2)天気の出現率から地球温暖化の兆候を調べる。研究の方法(1)天気は現代の気象庁の判断に近づけて、雪>雨>曇>晴れと分類した。ただし、24時間のうち、9割以上曇っていれば「曇り」、9割(21.6時間)未満であれば「晴れ」と、雲量を時間に換算して判断した。(2)明治以降は京都と鹿児島の気象台の記録をデータ化して分析した。データ(1)「妙法院日次記」の1694年から1794年までの晴れと雨の出現率のグラフをみると元禄・享保・天明の飢饉の期間に晴れの出現率は下がります。この傾向は他の古文書でも同じである。1732年は享保の飢饉で、晴れは49.3%と低く、雨は30.4%と高くなっている。データ(2)「守屋舎人日帳」の晴れと雨の出現率のデータからは天保の飢饉の1833年の晴れの出現率が低いが、翌年から古文書の欠落があり、晴れの出現率が下がったかははっきりしない。データ(3)京都の明治以降の天気の出現率を出すと30年ごとに見て晴れの出現率が一番低いのは1981年以降である。雪の出現率は年々上がっている。考察(1)「妙法院日次記」などの古文書から見ると、飢饉の期間の晴れの出現率は下がります。日照不足が飢饉をもたらす要因の1つであったと推定される。(2)温暖化が進む現代の京都と鹿児島で雪の日が多くなっています。背景に、南岸低気圧の発生回数が多くなったことが推定される。結論(1)「妙法院日次記」他の古文書も飢饉の期間に晴れの出現率が下がる。それに伴う日照時間の低下は、元禄・享保・天明の飢饉発生と対応していると思われる。(2)京都・鹿児島の雪の出現率は江戸時代に大きな変動はないが、明治以降は時代とともに上昇する。原因として、特定な気圧配置の出現分布の違いが考えられ、背景に地球温暖化の影響が推定される。今後の課題これまでは太平洋側の天気を中心に分析したが、今後は日本海低気圧の影響を見るために、石川県の江戸時代の古文書「鶴村日記」をデータ化して分析する。
著者
藤井 昌和 喜岡 新 山崎 俊嗣 沖野 郷子 田村 千織 関 宰 野木 義史 奥野 淳一 石輪 健樹 大藪 幾美
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

中央海嶺における火成活動は、固体地球から海洋へ熱・物質を供給する重要なプロセスであり、潜在的に全球の気候変動にも影響を与えている。海底拡大に伴う定常的なCO2放出量は2×1012 mol/yr(~0.041 ppmv)程度と考えられてきた(Resing et al., 2004)が、近年指摘され始めた海水準変動(海底での荷重変動)に伴う間欠的な海底マグマ噴出現象(Tolstoy, 2015, Crowley et al., 2015)が正しければ、中央海嶺からの一時的なCO2放出量はアイスコアや海底堆積物から復元される数百ppmの大気中CO2濃度と比較しても無視できないほど大きくなる可能性がある。これまでの古気候復元や将来予測では考慮されてこなかった中央海嶺火成活動の寄与を検証するため、中央海嶺からのCO2放出量を定量的に評価できる観測証拠の取得が望まれる。 そこで我々の研究グループは、全球気候変動における中央海嶺マグマ活動の役割を明らかにするため、学術研究船「白鳳丸」の次期3カ年航海へ新たな研究計画を提案した。本研究では、世界初の試みとなる長大測線の深海磁気異常と海底地形データの解析、および新たに開発する海底拡大–火成活動モデルに基づき、過去430万年間の中央海嶺のマグマ噴出量とそれに伴うCO2排出量の定量的推定を目指す。中央海嶺の拡大軸近傍において船上マルチビーム音響測深機によって海底地形を観測して海底地形の短波長変動を捉え、海底近傍での高分解能磁場変動を観測してグローバルな古地磁気強度変動と比較することで海底に詳細な年代軸を挿入する。研究対象は、南極大陸を囲むように分布する中央海嶺のなかでも、高いメルト生産量を持つ南太平洋の高速拡大海嶺およびインド洋–南大洋の低速–中速拡大海嶺とした。海水準変動に対するマグマレスポンスを海底地形記録から検出することに加えて、海水準変動の振幅が小さいと考えられている340万年以前の変動を捉えることを通して、”本当に海水準変動が中央海嶺メルトの噴出に直接的に作用し栓抜きのような役割を担っているのか?”を検証する。 本講演では、我々の観測計画の概要とこれまでに得られている知見を紹介するとともに、全球気候変動の理解における中央海嶺研究の意義を述べる。
著者
田村 知也 菅谷 崚 興野 純
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Introduction: 1970年代, 中央海嶺の海底において, 化学合成生物を一次生産者とする特異な生態系を伴った海底熱水噴出孔の存在が報告され, 世界中を驚かせた(Lonsdale, 1977; Spiess et al., 1980). 海底熱水噴出孔は, 地殻中に浸透した海水がマグマの熱によって温められ, 周囲を構成する岩石との反応によりその組成が変化することで熱水となり, やがて上昇して海底面から噴出することで形成される. このような海底熱水噴出孔は, 中央海嶺や島弧, 背弧において発見されてきた. 2000年代に入ると, “Lost City型熱水噴出孔”とよばれる, 海水とカンラン岩や蛇紋岩の反応によって形成される新しい型の熱水噴出孔が報告された(Kelley et al., 2001). この熱水噴出孔は, それまで報告されてきた熱水噴出孔に比べて低温(~90℃)であり, アルカリ性かつ還元的な熱水を噴出する. Lost City型熱水噴出孔からは水素分子(H2)に富んだ熱水が噴出することが知られており(Kelley et al., 2001), 以下の反応式によって生成すると考えられている(Mayhew et al., 2013).2H2O + 2e- → H2 + 2OH- (1)また, Lost City型熱水噴出孔の周囲には, メタン(CH4)やH2を用いた化学合成によってエネルギーを獲得する生物が生息し, そのような生物から成る特異な生態系も存在している(Kelley et al., 2005). (1)式のようなH2発生反応が生じるためには, 電子を水分子に与える電子供与体の存在が必要である. これまでの研究から, 以下の反応式のように, カンラン岩や蛇紋岩に含まれるFe2+を含む鉱物が, 電子供与体として働くモデルが考えられている.Fe2+-bearing mineral → Fe3+-bearing mineral + e- (2)この反応はMayhew et al (2013)によって実験的に確かめられている. 彼らはカンラン岩や蛇紋岩に普遍的に含まれるmagnetite(Fe2+Fe3+2O4)を100℃の熱水に浸し, その表面をXANESで分析したところmagnetiteの表面にのみFe3+が濃集することを確認した. しかしながら, (1)式のH2発生反応に必要な(2)式の反応の具体的なプロセスについては明らかになっていない. 本実験では, magnetiteの熱水反応実験と, 実験後の試料の透過電子顕微鏡(TEM)観察によって, magnetiteによるH2発生メカニズムを解明することを目的とした.Methods: Magnetiteの合成は,Sato et al. (2014)にならい, 水熱合成法で行った. 合成したmagnetiteは真空中で1200°C, 3日間加熱し, 最終的に粒径50-100 µm の単結晶magnetiteを得た. この単結晶magnetiteと超純水をテフロン容器に入れ, 窒素雰囲気下で封入後, 電気炉で100°C, 1ヶ月間加熱することで, 熱水反応実験を行った. 実験後, 試料を溶媒から抽出し, 自然乾燥させた. また, メチレンブルー比色法により反応前後の溶媒中のH2濃度変化を分析した. 実験後の試料は走査電子顕微鏡(SEM, JEOL: JSM-6330F)に供試し, 試料表面の観察と集束イオンビーム(FIB)装置による試料作製部位の決定を行った. その後, FIB装置(JEOL: JIB-4000, JEM-9320FIB)に供試し, 透過電子顕微鏡(TEM)用試料を作成した. TEMは物質材料研究機構(NIMS)の電子顕微鏡(JEOL: JEM-2100F)を用いた.Results and Discussion: メチレンブルー比色法の結果, 熱水反応実験による溶媒中のH2濃度の増加が確認された. これは, 熱水反応実験において(1)式の反応が進行したことを示唆する. 熱水反応実験後の結晶表面をSEMで観察したところ, (111)面では結晶面の縁からステップ状に溶解が進んでいる様子がみられ, 表面には約300 nm径で2種類(円盤状, 紡錘状)の形状を示す析出物が認められた. 一方, (100)面では, 紡錘状の析出物のみみられたがその量は(111)面と比較して少量であった. これら熱水反応実験後のmagnetite結晶の(111)面と(100)面について, それぞれの断面の薄膜試料をFIB装置により作成し, TEM観察した. (111)面上にみられた円盤状および紡錘状の析出物は, それぞれgoethiteおよびhematiteであった. 一方, (100)面に析出していた紡錘状の物質はすべてhematiteであった. (111)面の表面から深さ500 nmまでの範囲における制限視野電子回折(SAED)パターンは, magnetiteの晶帯軸[1 -2 1]の電子回折パターンに対応した. 一方, (100)面の表面から深さ500 nmまでの範囲のSAEDパターンは, magnetiteの晶帯軸[1 1 4]の電子回折パターンとよく一致したスポットを示したが, magnetiteの空間群Fd-3mでは消滅則により強度が0となるはずの位置にもスポットが小さく現れた. これらのスポットはmagnetiteの格子型に一部変化があったことを示す. Magnetiteと同じスピネル構造を持つmaghemite(γ-Fe2O3)は, magnetiteが酸化することで生成し, magnetiteとは異なり八面体席に空隙を伴った構造を有する. Tang et al. (2003) によると, magnetiteはFe2+が選択的に外部へ分散していくことでmaghemiteへと酸化される. また, Skomurski et al. (2010)のシミュレーションによるとmagnetiteの(100)面の表面では, 八面体席にFe2+が多く分布しているという結果が得られており,Fe2+が溶出しやすい状態であると考えられる. したがって, 上述の結果は, 主に(100)面で溶解が進み, Fe2+が主として溶出し空隙が生じたことで, 部分的にmaghemite化し格子型が変化したことを示唆する. 以上の結果から, 熱水反応実験によって, magnetiteの(100)面からFe2+が溶出し, Fe2+が(1)式の反応に対する電子供与体として働いたことでFe3+が生じ, その後結晶表面にhematiteやgoethiteの析出物が生成したと考えられる.
著者
木村 恒久 荒木 英一郎 横引 貴史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

DASテクノロジーは、2011年頃から石油・ガス産業において、パイプラインのモニタリングや侵入者を感知する目的で導入されている。近年では“heterodyne Distributed Vibration Sensing”(以下、hDVS)と呼ばれる位相差データを用いる最新の光ファイバーセンシング技術の適用により、Vertical Seismic Profile(以下、VSP)を含むサイスミックデータ取得ができるようになった1)。そのhDVS装置を使った自然地震に近いCross-well VSPのデータ、および波を観測したデータをJpGU-AGU2017にて紹介し、リアルタイムに地震と津波を同時に観測することができる可能性について述べた2)。2017年9月、海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)の協力の下、JAMSTEC所有の海底光ファイバーケーブルを使った地震観測の実証実験を行った。豊橋沖に敷設してある海底光ファイバーケーブルのうち、光学長が約17kmのシングルモードファイバーを実験に選んだ。そのファイバーに第三世代のhDVS取得装置をつなげ、バックグラウンドノイズを測定する目的でhDVSの連続測定を実施した。本稿では、その連続測定データを用い、自然地震波の観測が行えるか検証した結果を報告する。豊橋沖に敷設してあるJAMSTEC所有の海底光ファイバーケーブルは、本来、通信用のケーブルとして使われていたものである。一般的な通信用光ファイバー仕様のFC/PC型のコネクターが用いられていたが、このタイプのコネクターは、コネクターでの光パルスの反射が大きく、その反射がデータに影響を与える。それ故、ファイバーセンシングの分野では、その使用を極力避けるが、少なくとも2箇所にFC/PCが使われ、その一つを反射の少ないFC/APC型に交換し改善を図った。バックグラウンドノイズの連続測定は、9月25日夕方から26日朝にかけて、約14時間に渡り実施した。今回記録したデータを見ると海岸から水深の浅い5km近辺までのファイバーには、波の動きを示すデータが定常的に記録されていた。測定データを詳細に調べると、9月25日11:54:55 UTC(9月25日20:54:55 JST)に記録されたデータ、およびそれ以降のデータに自然地震波と思われる波形が確認できた。気象庁の震源リストのデータと参照したところ、駿河湾で発生した以下の地震記録と同一であると考えている。(2017年9月25日 20時54分49.7秒 緯度34°53.3'N 経度138°31.8'E 深さ215km M3.9 震央地名 駿河湾)今回記録された自然地震波を図1に示す。8.1kmより遠方のファイバーにノイズが目立つが、その原因は、FC/PC型のコネクターにおける強い反射とファイバーの末端での反射が原因と考えられる。測定パラメータは、ゲージ長40 m、空間サンプリング10 m、および、サンプリング周期が2 msであり、1ファイルのレコーディング時間を30秒とした。hDVS第三世代の装置を使って記録できる最大のファイバー長は16.5kmで、17km全てに渡っての記録はできなかった。観測されたデータから解析した海岸近辺においてのP波の到達時刻は9月25日20:55:21 JST、S波の到達時刻は20:55:44 JSTである。海底光ファイバーケーブルは、海岸線から真っ直ぐに太平洋を南に向かって敷設されているが、P波とS波の両者とも、16km先の沖に比べて海岸部の方にP波で0.4秒、S波で1.0秒早く到達したので、地震は海底光ファイバーケーブル対し、東西方向から若干北寄りで起きたことがうかがえる。つまり、震央が駿河湾であったことを裏付けることになる。防災科学技術研究所(以下、防災科研)が公開しているHi-netによる連続波形画像との比較も行った。愛知県には21の観測点が存在し、豊橋にも観測点があるが、その連続波形記録を参照したところ、hDVSの測定データとほぼ一致することを確認した。今回、海底光ファイバーケーブルで観測された海底地震の記録は、筆者が認知する限りでは、DASテクノロジーを使った世界で初めての事例である。本観測結果より、hDVSを用いた測定手法は、海底光ファイバーケーブルにつなげることによって、波のモニタリングを行いながら自然地震波の観測システムとしても利用できる可能性が示された。謝辞:リファレンスとなる地震情報は、気象庁、および防災科研のデータを用いました。これらの機関に対し感謝の意を表します。引用文献:1) Kimura, T., Lees, G., and Hartog, A. JpGU 2016 (RAEG 2016), Optical Fiber Vertical Seismic Profile using DAS Technology STT17-12, Extended Abstract.2) Kimura, T, JpGU-AGU 2017, Progress of Seismic Monitoring System using Optical Fiber and DAS Technology STT59-04, Potential for Real-Time Earthquake Monitoring using Optical Fiber Network and DAS Technology SCG72-P03, Potential for Real-Time Tsunami Monitoring using DAS Technology HDS16-P01.
著者
大野 希一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、以降SDGs)」は、2015年9月の国連サミットで採択された国際目標である(外務省のパンフレットより)。この計画では、「持続可能で強靭、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の総合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」ことをビジョンに、国連に加盟している193の国々が2030年までに達成すべき17の目標が掲げられている。この計画の前身である「ミレニアム開発目標(MDGs)が、主に発展途上国を対象に設定された目標で、国連の専門家が主導で実施されてきたものであったのに対し、SDGsは先進国自身もこの目標達成に向けて積極的に取り組むことや、国全体で取り組むことが推奨されている、という点が特徴である。17の到達目標は、それぞれがさらに実施すべきターゲットに細分化される。全部で169あるターゲットの中には、ジオパーク地域が取り組んでいる活動に関連する項目も少なくない。たとえば目標6の中のターゲット「6.6 2020年までに山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼などの水に関連する生態系の保護・回復を行う」、目標8の中のターゲット「8.9 2030年までに、雇用創出、地元の文化・産品の販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する」、目標13の中のターゲット「13.1 すべての国々において、気候変動に起因する危険や自然災害に対するレジリエンス及び適応力を強化する」などは、まさにジオパーク活動と直接的にリンクする。これら以外にも、ターゲットの中には環境保全や地域社会の維持に関する項目が複数掲げられており、防災対策や気候変動対策、循環型社会の構築や新たな市場の創出を通じて、持続可能な開発目標を達成しようという取り組みも、多かれ少なかれジオパーク活動にリンクする要素を含んでいるといえる。SDGsに関わるこれらの取り組みが、地域で展開されているジオパーク活動とどのようにリンクするかを把握することは、特にユネスコ世界ジオパークに認定された地域については今後重要になってくる可能性がある。今回のポスターでは、島原半島ユネスコ世界ジオパークが行っているジオパーク活動が、SDGsとどのような関わりを有しているかを紹介・議論する予定である。
著者
松本 徹 Dennis Harries 仲内 悠祐 浅田 祐馬 瀧川 晶 土山 明 安部 正真 三宅 亮 中尾 聡 Falko Langenhorst
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

硫化鉄はコンドライトや彗星塵などの初期太陽系物質に遍く含まれているが、星間空間や星周環境でのFeやSの存在形態はよく分かっていない。星間空間では固相の硫化鉄がほとんど確認されず、その原因として星間イオンの照射による硫化鉄の破壊機構が提案されている[1]。一方で、S型小惑星表面では硫黄のみが顕著に少ないことが報告されており、これは太陽風(太陽から飛ばされる荷電粒子)の照射や微小隕石衝突による硫化鉄からの硫黄の消失が原因であると推測されている[2]。こうした宇宙空間に曝された物質の変成作用を広い意味で宇宙風化と呼ぶ。銀河におけるFeやSの進化を解明する上で、宇宙風化が引き起こす硫化鉄の変成を具体的に理解することは重要である。小惑星イトカワから回収したレゴリス粒子は宇宙風化の痕跡が保存され[3]、月レゴリスに比べて硫化鉄を豊富に含む。そこで本研究ではイトカワ粒子の観察から、これまで報告が乏しかった硫化鉄の宇宙風化組織を記載し、その変成過程を明らかにすることを試みた。まず、宇宙科学研究所にて走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて硫化鉄を含む11個のイトカワ粒子に対して、troilite(FeS)に注目して表面の観察を行った。その後2つの粒子に対しては、さらに集束イオンビーム装置(FIB)を用いて粒子の一部から厚さ約100nmの切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)で切片の観察を行った。イトカワ粒子表面の観察の結果、ブリスター(水ぶくれ状の)構造がtroilite の表面に見られた。これらは粒子表面が太陽風照射を受けた証拠である[3]。一方で一部のtroilite表面はいびつで、ウィスカー状の組織がその表面から伸びていた。ウィスカーの幅は50nm-500nm、 高さは50nm-2μm 程度であった。ウィスカーは密集する領域で約500nmから1μm の間隔で存在した。TEM観察の結果troilite表面のウィスカーはα鉄であり、その伸長方向は低指数の結晶軸方向におよそ一致することが分かった。ウィスカーが発達しているtroiliteの表面下にはバブルで満ちた深さ90 nm程度の結晶質の層が存在し、ウィスカーはその最表面から発達していた。イトカワ粒子のバブル層は、太陽風の主要な構成イオンであるHイオンとHeイオンの蓄積に伴うH2・Heガスの発生により形成したと考えられる。本研究ではイトカワ粒子と比較するために硫化鉄への太陽風照射を模擬したH+照射実験も行なっており、同様のバブル構造が再現されている。イトカワ粒子表面のα鉄の存在は硫黄原子が粒子表面から失われたことを示唆している。その過程としては、硫黄の選択的なスパッタリングを引き起こす水素よりも重い太陽風イオンの打ち込み[4]や、バブル内部の水素ガスと硫化鉄との還元反応[5]などが考えられる。イトカワの近日点(0.95AU)での放射平衡温度(約400K)下において、硫化鉄中の鉄はウィスカー間の1μmの距離を10年程度の短い期間で拡散できるため[6]、鉄原子はtroilite中を拡散してウィスカーに十分供給される可能性がある。ウィスカーが低指数方向に成長していることは、成長方向を軸とする晶帯面のうち表面エネルギーの低い低指数面で側面を構成できるので、ウィスカーの表面エネルギーを最小化した結果であると考えられる。Feウィスカーの形態は、Ag2Sから発生するAgウィスカーやその他の様々な金属めっき表面で成長するウィスカーに類似している。それらの成長機構として提案されているようにtroiliteの内部応力に関連した自発的な成長[7]によってウィスカーが形成したのかもしれない。[1] Jenkins (2009) et. al. ApJ.700, 1299-1348. [2] Nittler et al. (2001) MAPS. 36, 1673-1695. [3] Matsumoto et al. (2015) Icarus 257, 230-238. [4] Loeffler et al. (2009) Icarus. 195, 622-629. [5] Tachibana and Tsuchiyama (1998) GCA. 62, 2005-2022. [6] Herbert et al. (2015) PCCP. 17, 11036-11041. [7] Chudnovsky (2008) 48th IEEE Conf., 140-150.
著者
諏訪 仁 大塚 清敏 野畑 有秀 久保 智弘 宮城 洋介 棚田 俊收 中田 節也 宮村 正光
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2014年の御嶽山では死傷者を出す火山噴火が発生し、それを機に火山災害への関心が急速に高まっている。最近でも、草津白根山が小規模噴火を起こし死者が発生した。一方、富士山の宝永噴火のような大規模噴火を想定したとき、火口周辺の噴石などに加えて、降灰が首都圏を含む広範囲に及ぶと予想されている1)。降灰の建物への影響に着目すると、降灰荷重による屋根のたわみや崩落、空調用室外機などの空調効率の低下や腐食、目詰まりによるフィルタの交換時間の短縮など、さまざまな被害状態が懸念される。このため、筆者らは、それらを統合的に評価するため、降灰被害予測コンテンツの開発を行っている2)。本研究では、建物の空調機能を維持するために重要となる空調用室外機を対象に、火山灰の降下直後を想定した実験を行い空調用室外機の稼働状態を検討した。 降灰深が約50mmまでの実験結果をまとめると、降灰深の増加に伴い熱交換器のフィンに火山灰が付着して通風抵抗が増加し、ファン運転電流にわずかな上昇が見られた。しかし、湿潤状態で降灰深が約50mmのケースを除くと、空調用室外機はほぼ正常に稼働することを確認した。今後は、病院、庁舎など重要施設を対象に、降灰深に応じた建物機能への影響事例を作成し、自治体など防災担当者を支援するための情報ツール開発に繋げる予定である。【参考文献】1)富士山ハザードマップ検討委員会、2004、2)文部科学省:次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト
著者
池田 敦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

温暖湿潤な日本列島において,永久凍土がまとまって分布しうるのが富士山と大雪山である。富士山ではひときわ高い標高が,大雪山ではより高緯度にあって標高2000 m前後の山頂部が台地状に広がることが,永久凍土を分布させやすくしている。一方,日本アルプスの高峰でも,地表面付近の地温から永久凍土の存在が示唆され,実際に飛驒山脈立山の1点では永久凍土が直接確認された。そのため,そうした山脈の山頂高度はちょうど永久凍土帯の下限付近に位置すると解釈されてきた。ところが2000年代末から,富士山の永久凍土とその周辺の地温を網羅的に観測しはじめたところ,1970年代の記念碑的論文が想定したよりも,また同等の気温をもつ国外の山域に比べても,富士山ははるかに永久凍土が存在しにくい環境であることが明らかになった。その結果をもとに,ここでは従来ごく限られたデータから論じられてきた日本列島の永久凍土環境について見直すこととする。 富士山では秋季に地温が特異的な急上昇をする場所が多く,その誘因は降雨であり,その素因は雨水を浸透させやすい火山砂礫層であった。一般に季節的な凍結融解層では,熱伝導が地温をほぼ支配する。しかし,富士山では移流的な熱の移動が顕著に加わるため,表層の地温勾配が極端に大きく,地表面に比べ永久凍土上端(深さ約1 m)の年平均地温が約1℃高い。永久凍土が存在しない地点の地温勾配はさらに大きく,深さ2 mの年平均地温は地表より3~5℃高い。こうした場所において,地表付近の地温を従来の知見に参照させるだけでは,永久凍土分布を過大評価してしまう。これまで日本アルプスで永久凍土が表層地温から示唆されたところは,透水性のよい岩塊地が多い。そこでは深さ2 mの年平均地温を従来の見積もりよりも3℃は高く想定すべきで,そうすると日本アルプスでは永久凍土がほとんど現存しないことになる。立山で確認された永久凍土は,8月まで残存する積雪が降雨浸透を妨げる場所で観察されており,気候的な代表性をもつ永久凍土帯下限の証拠ではなく,極端に不均一な積雪分布を反映した非成帯的な永久凍土と理解する方がよいだろう。一方,台風や秋霖の影響をほとんど受けない大雪山では,おそらく永久凍土が富士山より高い気温のもとでも存在している。つまり,日本列島では気温の南北傾度に比べて,永久凍土帯下限の南北傾度が大きい。今後,仮に気候変化により,大雪山が台風や秋霖の影響を受けやすくなれば,それに応じて永久凍土が縮小に転じると考えられる。
著者
山口 龍彦 萩野 恭子 平 陽介 濱田 洋平 斎藤 仁志 小野寺 丈尚太郎 板木 拓也 星野 辰彦 稲垣 史生
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

IODPを始めとした掘削科学のプロジェクトにおいて、珪藻、有孔虫、放散虫、石灰質ナノプランクトンなどの微化石を用いて堆積物の地質年代を正確に決定することは非常に重要である。微化石の抽出と分類群の正確な同定には豊富な経験・知識が必要とされ、同定と堆積物の年代決定には時間を要する。DSDPが開始された1960年代より微化石の専門家は、掘削船に乗船し船上で微化石の分析を行い、掘削科学に貢献してきた。一方で、コンピュータ処理能力の向上により運転など従来人間が担ってきた操作が人工知能(AI)に置き換わられつつある。人工知能の構築に広く用いられているのはディープラーンニングと呼ばれる機械学習技術であり、多層のニューラルネットワークを用いることで、データの特徴を段階的により深く学習させる手法である。近年、国際空港の出入国管理、アミューズメントパークやコンサート会場の入場セキュリティを担う顔認証システムにおいて、ディープラーニングを用いることで、その識別精度を向上させる実用例も報告されている。我々は、この機械学習・画像認識技術の微化石年代測定への応用、さらには自動年代決定AIシステムの開発について研究を一昨年から開始した。昨年の本学会では、比較的単純な2種類の石灰質ナノ化石および珪藻化石について、NECのAIソフト「RAPID機械学習」による自動識別が可能であることを示した。今回の発表では、実用化に向けたさらなる検討として、分類する石灰質ナノ化石の種類を第四紀の堆積物から多産するEmiliania huxleyi, Gephyrocapsa oceanica, Gephyrocapsa ericsoni, Reticulofenestra haqii, Gephyrocapsa caribbeanica, Reticulofenestra productの6タクサ(種)に増やし、自動分類を試みた。ランダムに30枚の教師画像を与えて構築した分類モデルを用いて教師画像とは別の120枚(6種×20枚)の標本の画像の自動識別を行った。この結果、G. oceanicaやR. haqiiの判別的中率は100%、95%であり、自動判別の有効性が示された。一方、その他の4種類の判別的中率は0-35%であった。判別的中率が低い分類群では同定の鍵となるbridgeの認識がうまく行われていないと考えられる。偏向板を回転させたり、画像の解像度を上げた教師画像のみを与えることでより高精度の分類が可能になることが予想される。本発表では、石灰質ナノ化石の他の微化石への応用例も紹介し、自動分類の可能性について議論を深めたい。
著者
風早 康平 高橋 浩 佐藤 努 高橋 正明 大和田 道子 安原 正也 森川 徳敏
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

我々は2003年から阪神地域において,河川,水路等に現れる”赤水”の目視調査および水質調査を行っており,その分布の概要がわかってきたので報告する.”赤水”湧出の特徴として,比較的標高の高い六甲山麓部にも存在し,一部のものは石垣等から染み出している.これらは,ほぼすべて重炭酸型であり,pHが6-7の弱酸性のものが多くCO2が溶解していることを示唆する.”赤水”が赤褐色~オレンジ色を呈する理由は,湧き出し口でリモナイト(FeOOH)が沈殿することによる.この鉄は,地下水中にCO2があった場合に,岩石・鉱物が風化することにより地下水に溶解する.そして,浅所で酸化することにより赤褐色からオレンジ色を生じる.阪神地域では,地下から断層を通じて上昇する有馬型熱水が浅所でCO2を遊離し,気泡となったCO2が上昇し,浅層地下水を炭酸化すると考えられている.したがって,”赤水”の分布域は,有馬型熱水の上昇域に関連していると考えられる.”赤水”の分布が地下に伏在する断層と関連があるかどうか検討をおこなった.その結果,六甲,宝塚,須磨,仮屋沖(延長),芦屋,甲陽,西宮,伊丹の各断層と昆陽池陥没帯に関連づけられる”赤水”が存在していることがわかった.また,断層が存在していても赤水がほぼ見られない地域もあった.講演では,”赤水”調査の概要,産状を紹介し,詳細な分布・特徴について議論したい.
著者
深尾 良夫 三反畑 修 杉岡 裕子 伊藤 亜紀 塩原 肇 綿田 辰吾 佐竹 健治
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

1: 津波地震は地震の規模と比較して異常に津波の規模が大きな地震(Kanamori, PEPI, 1972)で、典型的には海溝すぐ内側に起こる低角逆断層地震が津波地震になりやすい。一方、ほぼ10年に一度繰り返して起こる鳥島近海地震(Mw=5.6-5.7)は、海底カルデラ下で発生する全く別種の津波地震である。最新のイベント(2015年5月2日)であるが、その地震波と津波を震央距離約100km(北北東)の海底に展開した10点の水圧計アレーが記録した。本発表では、津波地震の観測からメカニズム提唱までの概要を報告する。津波解析の詳細は、三反畑らによる別途発表に譲る。2: 10点の絶対圧力計(7000mの水深に相当する圧力を9桁の分解能で測定可能)を最小辺長10km、最大辺長30kmの正三角形を構成するよう配置する。今回は、このアレーを青ヶ島東方沖水深1470-2240mの海底に2014年5月に設置し翌年5月に回収した。このアレーは、周期半日の内部潮汐波(Fukao et al., JpGU, 2017)、周期50-200秒の長周期海洋重力波(Tonegawa et al., JGR, 2018)、周期100-300秒の津波(Sandanbata et al., PAGEOPH, 2018; Fukao et al., Sci. Adv., 2018)など、多様な海洋現象の観測に有効である。3: アレーの観測点配置は、卓越周期200秒の津波がアレーを伝播する間に位相がほぼ1周期ずれ、そのズレを10点で測定することに相当し、高精度な位相解析が可能である。得られた位相速度は周期に依存し理論的な分散曲線と良く一致する。点波源をスミスカルデラ内に仮定し、周期に依存する局所位相速度分布図を用いて破線追跡を行うと、観測された走時と入射方向の周波数依存性をよく説明できる。仮に波源がリムにあるとすると、測定された到達時刻あるいは入射方向との一致は有意に悪くなる。一方、津波の初動は、波形の立ち上がり寸前のゼロ線を切る瞬間として読み取ることができるが、そのアレー通過速度は理論的な長波速度に一致する。この立ち上がりを地震発震時刻まで逆伝播させると、波源域の縁がカルデラリムにあることがわかる。津波波源はカルデラ全体にわたり、それを超えることなかったと推測される。一方、USGS、JMA、GCMTの求めた地震の震央はカルデラサイズを超えて散らばり、津波波源のほうが高精度で求められていることがわかる。4: 津波波源をモデリングするためにt=0の瞬間に海面擾乱を与え、その擾乱の伝播をブジネスク方程式の解として求めた。初期擾乱を軸対称とし、観測波形を最も良く説明する波源域の半径Rと中心隆起の振幅Aをグリッドサーチにより求めた。最適半径A=4kmはスミスカルデラのサイズとよく一致する。最適波高はA=1.5mと求められた。最適モデルに基づいて計算された波形と観測波形との一致は驚くほど良い。アレーで観測された最大振幅は約2cmであるが、八丈島(八重根港)の験潮儀には約60cmの最大振幅が観測されている。八重根港における津波波形を、湾の複雑な地形と津波の非線形効果を考慮して計算すると、計算波形は観測波形と驚くほどの良い一致を示した。5: この地震のメカニズムはT軸がほぼ鉛直のCLVD(Compensated Linear Vector Dipole)であり、Mwは5.7相当である(JMA, GCMT)。しかしこのメカニズムでは、直径8kmの波源域、1.5mの津波波高に相当する海底変位を生ずることはできない。震源を如何に浅くしようとも海底変位は津波の初期波高のたかだか1/20程度しかならない。両者のこの大きな差異は、実際のメカニズムがCLVDではなくHorizontal Tensile Fault(HTF)が鉛直に開口したためであったことを示唆する。このメカニズムが海底下の極浅部に働く場合、(1)遠方長周期地震波の励起効率はゼロに近く、一方で津波の励起効率は最大、(2)励起された地震波は殆ど上側(海側)に放出されるので、断層面上の変位は上側に集中し、水中音波の励起効率も大きく増幅される、(3)震源で体積変化なしと仮定して遠方変位場からメカニズムを求めるとモーメントの不当に小さなVertical-T CLVDが得られる。これら3つの極浅部HTFの特徴は鳥島近海津波地震の特徴と整合する。
著者
姫松 裕志 Freysteinn Sigmundsson 古屋 正人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

陸域におけるプレート発散境界を観測できる地域のひとつとしてアイスランドが挙げられる.プレート境界に沿って活動的な火山がみられ,いくつかの火山は氷河や氷帽などの雪氷に覆われている.これらの火山が噴火した際には火砕流や火山灰の降灰などの他に,山麓のインフラに被害をもたらすラハールなどの融雪型洪水を引き起こす可能性がある.近年のアイスランドでhあ1996年Gjalp火山や2010年Eyjafjallajokull火山の噴火に伴う洪水被害が報告されている.Bardarbunga火山もアイスランドの中で雪氷に覆われている火山のひとつであり,ヨーロッパ最大の氷帽であるVatnajokull氷帽の北西に位置している.2014年8月に始まったBardarbunga火山におけるダイク貫入イベントでは,氷帽から10km離れた地点で震源の移動は終息し,この地点で始まった割れ目噴火は2015年2月まで続いた.このイベントに伴う非雪氷域における地殻変動は衛星SARデータを利用した干渉SAR(InSAR)やピクセルオフセット法によって報告されている (Sigmundsson et al., 2014, Nature; Ruch et al., 2015, Nat. Comm.).これらの結果はリフト帯におけるダイクの貫入時に観測されるグラーベン構造を形成する地殻変動の描像(最大6mの沈降と最大2mの西北西-東南東方向の水平変位)を明らかにした. 航空機高度計による観測から氷帽のダイク経路上に直径500m,深さ20mを超える氷帽の円状の沈降(Ice cauldron)や最大60mのBardarbungaカルデラの沈降が報告されている.ダイク貫入イベント前後の数値標高モデルの差分(DEM difference)は氷帽下における地殻変動の影響を受けた鉛直変位を示した.本研究では衛星SARデータにピクセルオフセット法を適用することにより,氷帽上の変位からダイク見入イベントに伴う氷帽下の地殻変動の抽出を試みた.ダイク貫入イベントの前後に撮像された画像ペアにピクセルオフセット法を適用した結果,氷帽の定常的な表面変動を示すシグナルに加えて,地殻変動に伴う氷帽上の表面変動を示すシグナルを検出した.そこでダイク貫入イベント時のシグナルから任意の重みをつけたイベント前のシグナルを差し引くことにより,氷帽下における地殻変動を推定した.推定された氷帽下における地殻変動データを使用して,従来のダイク開口モデルから改良した新しいモデルについて議論する.
著者
村上 亮 古屋 正人 高田 陽一郎 青木 陽介 小澤 拓 島田 政信
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

はじめに 合成開口レーダ(SAR)は,全天候性,広域性,非接触性,計算機親和性など,地殻変動観測に適した多くの長所を有している.一般に,植生が広く分布するわが国においては,Lバンド帯が地殻変動の検出に適している.Lバンドで運用する,我が国の衛星であるJERS,ALOS,およびALOS2に搭載されたLバンドSARによる観測は,火山観測に多くの成果を上げており,すでに火山性地殻変動モニタリングの標準的手法となっている.一方,航空機搭載SARは,ある程度自由に照射方向を設定でき,即時対応にも適応性が高いことから,衛星型にない多くの長所を有しているものの,リピートパス干渉法(DInSAR)に関しては,飛行軌跡の制御や位置追跡の精度がボトルネックとなっており,広く用いられる段階には至っていない.我々は,Lバンド航空機SAR干渉技術の高度化を目ざす研究を実施中であるが,その一環として,九州に点在する活火山(桜島火山,霧島火山,雲仙火山)を対象とした観測を宇宙航空技術研究開発機構(JAXA)が運用する航空機SARシステム(Pi-SAR-L2)を用いて実施した.特に,桜島火山と霧島火山に対しては,リピートパス干渉を目的とした観測をJAXAが2013年以降実施中であり,2017年に新たに観測したデータは,これらの既存データとの干渉処理が可能である.本報告では,衛星観測や水準測量の結果から,最近の数年間における膨張性の変動の存在が明らかになっている,霧島火山硫黄山をターゲットとした,航空機SAR干渉解析結果を紹介する.2.Pi-SAR-L2データの干渉処理についてPi-SAR-L2には,高精度なINS-GPSハイブリッド型の航路追跡装置が搭載されている.これにより,高い軌道再現性が実現されているが,予測不可能な気流の変化等の影響によって,完全な同一航路の実現は困難である.その結果,航空機干渉SARの飛翔航路偏差起源の位相差の分布は,衛星のそれに比べてより複雑な形状を呈し,地殻変動情報の有効な抽出には,航跡の複雑性に起因する位相分布の適切な除去が必要である.これまでの予備的な解析から,ペアを構成する主画像(Master)および従画像(Slave)の位置合わせの達成度が干渉性をほぼ支配することが分かっているので,そのプロセスの確実性を高めることに,解析の主眼をおいた.位置合わせは,主従の元画像どうしのピクセルのズレの検出と,同一地点のピクセルどうしが同じ位置に来るように従画像の位置ズレを補正するリサンプルのプロセスで構成される.解析に使用する干渉SAR解析パッケージであるRINCでは,基本的に二次関数によるズレ予測に基づき,成功領域を徐々に拡大するアルゴリズムに基づいており,今回は,その特徴を生かしつつ確実なズレ検出を全画面領域において成立させるため,手動による確認プロセスを挟みながら,繰り返し処理を行い,徐々に成功領域を広げる処理を定式化した.この方法により,解析した6ペア全ての全画面において,ズレの高精度検出に成功した.一方,従画像(Slave)のリサンプリングは,現状では,二次関数による多項式近似を依然として採用しており,より複雑な変化をする飛行(Azimuth)方向において,数ピクセルにおよぶ残差が残留しており,これが,帯状の干渉不良領域を発生させている原因であることも分かった.二次関数では近似できない高周波成分に対しても対応する,より高精度なリサンプリングを実施すれば,干渉度がさらに改善される期待がある.いずれにせよ,位置合わせ手法を改善した結果,斑状の干渉不良領域は残存するものの2014,2016,2017の三時期に実施された三方向から観測から構成した,全6ペアの全てについて,全領域の干渉が達成された.3. 霧島火山の干渉解析結果リサンプリング手法に改良の余地があり,全画像での均一な干渉は実現できなかったが,現時点でも,かなりの領域で良好な干渉が達成されており,衛星SARや水準測量など他観測から地殻変動の存在が確認されている硫黄山において,航空機SARでも火山活動に対応すると考えられるフリンジが確認できた. 全て膨張性の変動が示唆される結果となっており,視線方向の距離変化の大きさは数cm程度であった.航空機干渉SARでは,上空の風速の変化などの影響で,飛行軌跡が小刻みに変動するため,航空機搭載のGPSによる航跡情報では補正しきれない,軌道縞や地形縞が残存する.今回の解析では,空間的長波長のフリンジは,全て軌跡起源と解釈して,一律に取り除く処理をしたため,空間的に長波長の地殻変動も取り除かれる恐れがある.しかし,硫黄山の地殻変動は力源が浅く,局所に偏在する変動と考えられるため,今回の手法でも確実に捉えることができたと考えられる.なお,長波長成分除去後のノイズレベルの見積もりは,概ね+-2cm程度であるなお,航空機SARの特性を生かし,多方向からの観測が行われており,地殻変動の三次元化を実施し,講演時にはその結果についても報告する.謝辞:干渉SAR解析には小澤拓博士が開発したRINC(Ver.0.36)および国土地理院の標高データを使用した.ここに記して感謝する.
著者
伊藤 颯矢 菅原 篤弥 操 知希 三野 正太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

本研究は,本校卒業生の鈴木湧平氏が,自身の撮影した流星の画像を見て,流星の発光途中で色が変化していることに疑問を持ったところから始まる。そこから発展し,流星の発光に由来する元素の特定,発光の時間変化における各波長の輝線の輝度変化の測定を目的に研究している。研究の手順として,まずデジタル一眼レフカメラと回折格子を用い,流星が縦に写るように角度を調節して連続撮影をする。流星の分光画像が撮影できたら,波長測定の基準を作るために校正作業を行う。そこで得た数値をもとに流星から分光した輝線の波長を求め,文献値と比較して発光に由来する元素を特定する。また,輝度測定の範囲を各輝線上に設定して,輝度変化の様子を複数の輝線で比較する。これまでの結果として,散在流星(2015)とおうし座北流星群(2017)でNaを,ペルセウス座流星群(2016)とふたご座流星群(2017)で複数の元素を特定した。特に,ふたご群ではオーロラで見られる酸素禁制線発光も確認できた。さらに,27例撮影したふたご群において,Naの欠乏と考えられる結果もあった。また,ペルセウス群の流星では,Naの輝度がMgの輝度よりも小さくなる部分があったり,輝度のピークが元素ごとに違っていたりした。
著者
Toshiro Tanimoto Anne Valovcin Vala Hjorleifsdottir Felix Rodríguez Cardozo
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

From satellite data, we can learn the location of a hurricane (typhoon) quite accurately. What is hard to get from satellite data is its intensity change and that is why hurricanes hunters (NOAA) still fly into a hurricane to measure pressure and wind near its center. We are exploring an alternative idea of using seismic signals to monitor its intensity change. Our main questions are (i) when a hurricane (typhoon) intensifies, what kind of seismic waves are generated and can be measured on land and (ii) what is the best seismic indicator of an intensifying hurricane?In this study, we take an example of Hurricane Patricia in 2015 which was the strongest hurricane on record in the eastern North Pacific and North Atlantic basins (Kimberlain et al., 2016). We examine the nature of seismic waves that were excited as the hurricane intensified over anomalously warm waters to the south of Mexico and then reached land near Playa Cuixamala (Oct. 23, 23th hour, UTC). This landfall area was surrounded by many seismic stations from the Mexican National Seismological Service (SSN) which has broadband seismic data (STS-2 type velocity sensors).We examined temporal variation of power spectral density (PSD) of seismic data for selected 32 stations using the time-frequency plots. The landfall occurred near the center of 32 stations and depending on the distance from the hurricane, we can categorize the characteristics of time-frequency plots into three types, the northern group, the central group, and the southern group. Stations in the central group recorded the time evolution of hurricane intensity most faithfully and for monitoring purposes, we should focus only on these stations. The southern group showed signals from the hurricane but it also showed strong effects of nearby coastal (trapped) waves which made it problematic for monitoring purposes. The northern group seems too far away in general as seismic signals from the hurricane became much weaker.This hurricane developed from category 1 to category 5 within 24 hours on Oct. 22, 2015, while it was off the coast about 350-400 km; the data in the central group shows a rapid increase of seismic energy around 0.15 Hz (between 0.1 and 0.2 Hz) which matches with intensification of wind speeds of this hurricane. This frequency band is similar to those of secondary microseisms. The integrated power between 0.1 and 0.3 Hz shows a sudden increase of power during the first 6 hours of Oct. 22 and remains at this high level for about a day when the hurricane was the strongest. Seismic amplitudes decay from the coastal stations to the interior, suggesting (obviously) that coastal stations are critical for monitoring purposes.The data in the central group showed a rapid increase of seismic energy for higher frequencies up to 1 Hz too, although the maximum energy was at about 0.15 Hz. We also noted that there were no significant changes in seismic data below 0.1 Hz.These observations indicate that we should examine the frequency band from about 0.1 Hz to 0.4 Hz focusing mainly on the stations within about 500 km from the hurricane center. Since the location of hurricane is critical, seismic monitoring has to be conducted together with satellite data.
著者
津旨 大輔 坪野 考樹 三角 和弘 立田 穣 豊田 康嗣 恩田 裕一 青山 道夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

A series of accidents at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant following the Great East Japan Earthquake and tsunami of 11 March 2011 resulted in the release of radioactive materials to the ocean by two major pathways: direct release from the accident site and atmospheric deposition. A 6 years, regional-scale simulation of 137Cs activity in the ocean offshore of Fukushima was carried out by the Regional Ocean Model System (ROMS), the sources of radioactivity being direct release, atmospheric deposition, the inflow of 137Cs deposited into the ocean by atmospheric deposition outside the domain of the model, and river discharges.Direct releases of 137Cs were estimated for 6 years after the accident by comparing simulated results and measured activities adjacent to the accident site. In addition, river discharge rates 137Cs were calculated by multiplication between river flow rate and 137Cs activity. River flow rates were simulated by a water circulation analysis model for each catchment. Temporal change of 137Cs activity both of particle and dissolved forms were measured at 8 rivers and normalized by the inventory of 137Cs in each catchment. 137Cs activity in other 4 rivers were estimated by the normalized 137Cs activity and inventories of catchments. After 2013, direct release and river discharge were dominant for input of 137Cs to the ocean. Apparent half-life of direct release and river discharge of were estimated to be about 1 year and 2 years, respectively.Apparent half-life of measured 137Cs activity adjacent to 1F NPP was about 1 year, on the other hand, the ones in the coastal zone away from 1F NPP were about 2 years after 2013. Apparent half-life of simulated results with river discharge was in good agreement with the one in the coastal zone away from 1F NPP. River discharge affected on temporal change of 137Cs activity there. On the other hands, simulated 137Cs activities with river input were one order of magnitudes smaller than observations. This underestimation suggests modifications of river input process, such as estuary mixing process, removal from particle form 137Cs and inputs from small rivers around the 1F NPP.