著者
長岡 優 西田 究 青木 陽介 武尾 実 大倉 敬宏 吉川 慎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2011年1月の霧島山新燃岳の噴火に際し、地殻変動の圧力源が新燃岳の北西5km、深さ約8kmの位置に検出され、噴火に関わるマグマだまりであると考えられている(Nakao et al., 2013)。しかし、このマグマだまりを地震学的手法によってイメージングした研究例はまだない。マグマだまりの地震波速度構造を推定できれば、マグマ供給系に対して定量的な制約を与えられることが期待される。 本研究では、地震波干渉法により霧島山周辺の観測点間を伝播する表面波を用いて、マグマだまりの検出を試みた。地震波干渉法は脈動などのランダムな波動場の相互相関関数を計算することによって観測点間の地震波の伝播を抽出する手法である。相互相関関数は観測点間の速度構造に敏感であるため、地震波干渉法は局所的な構造推定に適している。 解析には、霧島山周辺の38観測点(東大地震研、京大火山研究センター、防災科研、気象庁)の3成分で記録された2011年4月~2013年12月の脈動記録を用いた。脈動記録の上下動成分どうしの相互相関関数を計算することにより観測点間を伝播するRayleigh波を、Transeverse成分どうしとRadial成分どうしの相互相関関数からLove波を抽出した。抽出された表面波の位相速度推定では、まず解析領域全体の平均的な1次元構造に対して分散曲線を測定し、次に各パスの位相速度を領域平均構造に対する速度異常として測定する、という2段階の手順を踏んだ。各パスの位相速度を用いて表面波位相速度トモグラフィーを行い(Rawlinson and Sambridge, 2005)、各グリッド点の位相速度から、S波速度構造(VSV, VSH構造)を線形化インバージョン(Tarantola and Valette, 1982)を用いて推定した。 海抜下4 km以浅の浅部では、VSV, VSH構造ともに標高に沿った基盤の盛り上がりに対応する高速度異常が見られた。VSV構造では、海抜下5 kmで霧島山の約5 km北西に強い低速度異常が現れ、海抜下10 kmにかけて深くなるにつれて、山体北西から山体直下にかけて広く低速度異常が見られたが、VSH構造ではこの低速度異常が現れず、radial anisotropyが確認された。2011年噴火の地殻変動源はこの低速度異常の北西上端に対応していることから、低速度異常は噴火に関わるマグマだまりであると推定される。さらに、この低速度異常の南東下端に当たる海抜下10 kmからさらに深部(海抜下25 kmまで)の山体下で低周波地震が発生している。以上を踏まえ、マグマは山体の真下からマグマだまり内へ供給され、北西の地殻変動源の位置を出口として浅部へ上昇する、という描像が得られた。 今後同様の手法を他の火山に適用し、マグマだまりやradial anisotropyの存在を系統的に調べることは、活動的火山のマグマ供給系を理解する上で重要だろう。
著者
西山 忠男 西 右京 原田 和輝 大藤 弘明 福庭 巧祐
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

九州西端に位置する白亜紀沈み込み帯の長崎変成岩西彼杵ユニット(85-60 Ma: Miyazaki et al., 2017)の雪浦蛇紋岩メランジェから,泥質片岩基質中にマイクロダイヤモンド集合体を発見した.西彼杵ユニットは緑簾石青色片岩相に属し,結晶片岩類(泥質砂質片岩を主とし,少量の塩基性片岩を伴う)に少量の蛇紋岩ならびに蛇紋岩―塩基性岩複合岩体を伴う.後者は蛇紋岩メランジュの性格を有する.蛇紋岩メランジュはアクチノ閃石片岩の基質中に種々の大きさと岩質の構造岩塊を含む(Nishiyama et al., 2017a).構造岩塊の変成度は1.5 GPa, 450 C(含石英ヒスイ輝石岩:Shigeno et al., 2011)から1.8 GPa, 650 Cまで(ザクロ石‐緑簾石-バロワ閃石岩:ザクロ石中に単斜輝石,フェンジャイトの包有物を含む)幅広い温度圧力条件を示す.雪浦メランジュは西彼杵ユニットの最西端に位置し,西彼杵ユニットとその西方の大瀬戸花崗閃緑岩(100 Ma)を境する呼子の瀬戸断層沿いに発達する.また大瀬戸花崗閃緑岩は第三紀堆積岩類(松島層群・西彼杵層群)に不整合に覆われ,西彼杵ユニットに接触変成作用を与えていない(服部ほか,1993). われわれはこれまで雪浦メランジュからいくつかの産状のマイクロダイヤモンドを報告してきた.それらは,クロミタイト中の包有物,石英-炭酸塩岩中のシュードタキライト様脈中のもの,そして泥質片岩の強く変形した黄鉄鉱中の包有物などである(Nishiyama et al., 2017b).今回われわれは,新たに泥質片岩の基質中にマイクロダイヤモンド集合体を発見した.それらはフェンジャイトと緑泥石の粒間に常に炭酸塩鉱物を伴って産する.炭酸塩鉱物はドロマイト,マグネサイト,方解石でこの順に頻度が高い.マイクロダイヤモンド集合体は径10-50 ミクロンで,Siに富む鉱物(同定不可)の基質中に多数のマイクロダイヤモンド結晶が集合している.個々のマイクロダイヤモンド結晶は自形ないし半自形結晶で,径0.3-0.6 ミクロン程度である.同定はSEM-EDS,ラマン分光法,ならびに透過電顕による電子線回折法によって行った.マイクロダイヤモンドを含む泥質片岩は蛇紋岩メランジュ中の構造岩塊で,石墨+緑泥石+フェンジャイト+アルバイト+石英+黄鉄鉱+チタナイト仮像(アナテーズ+石英+炭酸塩鉱物)からなり,石墨のラマンスペクトルからその形成温度は450 C程度と見積もられる.緑簾石もローソン石も含まない.この泥質片岩は,ドロマイト層が片理(S1)に平行に発達し,片理とともに非対称に褶曲(F2)しているという特徴がある.またドロマイト脈がこれらの構造を切って発達している.蛇紋岩メランジュ以外の場所に発達する泥質片岩にはドロマイトもマイクロダイヤモンドも見られないが,鉱物組合せはザクロ石と緑簾石が加わることを除けば同じである.この発見は,泥質片岩の基質中に産するマイクロダイヤモンドの世界最初の報告である.また島弧-海溝系の沈み込み帯からの最初のマイクロダイヤモンドの発見でもあり,冷たい沈み込み帯においては付加体がダイヤモンドの安定領域まで沈み込んでいることを示唆している.このマイクロダイヤモンドは世界最低温の形成条件(450 C)を示すことでも注目される.この低温条件こそが,西彼杵ユニットの上昇過程において,泥質片岩の基質中でマイクロダイヤモンドが石墨に転移せずに保存される要因であったと考えられる.地球物理学的には,大陸衝突帯のみならず,島弧-海溝系の沈み込み帯においてもダイヤモンド安定領域に達する超高圧変成作用が実現されている点を示した点が特記される.服部仁・井上英二・松井和典,1993,地域地質研究報告 神浦地域の地質,地質調査所.Miyazaki, et al., 2017, Terra Nova, 00:1-7. https://doi.org/10.1111/ter.12322Nishiyama et al., 2017a, JMPS, 112, 197-216.Nishiyama et al., 2017b, JpGU Ann. Meeting AbstractShigeno et al., 2012, Eur. Mineral, 24, 289-311.
著者
久保田 達矢 武村 俊介 齊藤 竜彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

沖合で発生する地震のセントロイドモーメントテンソル (CMT) 解の推定において,海陸の地震波形を同時に用いると,陸上記録のみを使用した場合よりもはるかに高い解像度でセントロイドの水平位置を拘束できる (Kubota et al., 2017).近年,東北沖には日本海溝海底地震津波観測網S-net (Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench) (Uehira et al., 2012) が展開された.この観測網と陸上の地震観測網の記録を活用することにより,沖合の地震のCMT解,とくに発生するセントロイド位置とセントロイド深さの推定精度の向上が期待される.しかし,海域における地殻構造は陸上とは大きく異なっているため,海水や堆積層などの低速度層を考慮した地震波伝播計算が重要である (e.g., Noguchi et al., 2017; Takemura et al., 2018).海域の地震について,海陸の観測網を同時に用いてCMT解を高精度で推定するためには,上記のような海域特有の不均質構造を考慮する必要がある.本研究では,地震動シミュレーションにより合成された海域・陸域の地震観測網におけるテスト波形をもとに,海域特有の構造が陸から離れた沖合で発生する地震のCMT解の推定,特にセントロイドの深さの推定におよぼす影響について考察した.本研究では東北沖のプレート境界で発生する逆断層型の点震源 (深さ ~18 km) を入力の震源として仮定し,テスト波形を地震動シミュレーションにより合成した.地震動伝播は3次元差分法 (e.g., Takemura et al., 2017) により計算し, Koketsu et al. (2012) による3次元速度構造モデル (JIVSM) を使用した.計算領域は960×960×240 km3とし,水平にΔx = Δy = 0.4 km,鉛直にΔz = 0.15 kmの格子間隔で離散化した.時間方向の格子間隔をΔt = 0.005 sとした.合成波形に周期20 – 100 sのバンドパスフィルタを施し,CMT解の推定を行った.セントロイド水平位置は沖合の観測網を用いることで高い精度で拘束できる (Kubota et al. 2017) ため,本解析では震央を入力震源の位置に固定し,セントロイド深さおよびモーメントテンソルの推定を行った.CMT解の推定に使用するグリーン関数は,3種類の異なる速度構造モデルを使用した.1つ目は,F-netメカニズム解の推定に用いられている内陸の構造を模した1次元速度構造モデル (Kubo et al., 2002) (内陸1Dモデル) である.この構造では,海水層や浅部の低速度層は考慮されていない.2つ目は,海域の構造を模した,海水層および浅部低速度層を含んだ1次元構造モデル (海域1Dモデル) である.最後は,合成波形の計算にも使用した3次元の速度構造モデル (JIVSM) (3Dモデル) である.1DモデルにおけるGreen関数の計算には波数積分法 (Herrmann, 2013) を用いた.内陸1Dモデルによるグリーン関数を使用では,最適解の深さは ~17 kmと,入力震源の深さとほぼ同様となった.セントロイドの深さ5 – 30 kmの範囲で,テスト波形の再現性に大きな差異はなく,深さ方向の解像度はさほど高くないと言える.一方で,3Dモデルによるグリーン関数を使用した場合,入力と同じ深さに最適解が推定された.セントロイドの深さ15 – 25 km範囲でテスト波形の再現性が高く,内陸1Dモデルと比べて深さ解像度が改善した.海域1D構造モデルを用いたCMT解では,3Dモデルと同様の結果が得られた.以上より,海域特有の構造を考慮したグリーン関数を用いることで,CMT解のセントロイド深さについて浅い解を棄却できるようになることがわかった.一方で,テスト波形の計算と同じ3次元速度構造モデルを用いた場合でも,セントロイドの深さを拘束することは難しいことも明らかとなった.本解析に使用した周波数帯域 (20 – 100 s) においては,深さ15 – 25 kmの範囲では3次元構造を用いて計算されるグリーン関数間の差が少ないことが原因と考えられる.
著者
恩田 裕一 高 翔 谷口 圭輔
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2011年の東日本大震災に起因して東京電力福島第一原子力発電所事故が起きたことにより,福島の周辺環境において放射性核種134Csや137Csが検出された.環境省は2011年8月から公共用水域について環境モニタリング調査を実施しており,2011-2012年環境省で取った底質サンプルは,多くの地点において減少傾向がみられるものの,増減にばらつきが非常に多く,場所によっては増加する地点も報告されている。従来の研究成果より,河川等の環境試料の時系列変化を解析する場合に,粒径補正を行うことが必要と考えられる。そこで,本研究では,それらの底質サンプルの粒径を分析することにより,粒度補正を施した後に河川の底質の実効減衰速度を考察した。 本研究によって,粒径補正前に見られて大きな変動は,ほとんど見られなくなった。また,時間とともに濃度が上昇している地点が,25地点から,7地点に減少した。底質における89個地域の減衰速度(λ)は平均1.15となり,河川底質の濃度減少傾向について解明することができた。さらに,福島県内の浮遊砂測定結果と比較すると,底質におけるCs濃度を粒径補正し懸濁態濃度を推定したところ,24地点の内,14地点で減衰変化が一致した。このことから,セシウムが河川中を流下する際の吸脱着により,多くの地点で懸濁態,底質,溶存態が平衡状態となっていることが推定された。
著者
萬年 一剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

関東地震は相模トラフを震源とする巨大地震で、地殻変動の検討から再来周期が180年から400年と考えられている。この再来周期が正しければ、最新は1923年大正関東地震であるので、歴史時代に数回の発生があったはずだが、1つ前の1703年元禄関東地震より前のものに関しては発生時期に定説がない。定説を持つに至らない理由は大きく分けて2つある。1つは、関東地震によって相模湾沿岸は隆起するものの、地震間の沈降によって、地震による隆起がほとんど残存しないためである。海岸地域の隆起履歴の解明には、海岸段丘の解析がもっとも有力であるが、正味の隆起量がほとんど無いこの地域においては、海岸段丘がないか、あっても貧弱かつ不明瞭で、十分な解析が出来ない。もう1つは、地震の記録はたくさんあるものの、被害の拡がりを把握するには至らず、地震の大きさの評価が難しいためである。地震の被害が少なくとも南関東全域に認められれば、関東地震である可能性が高くなるが、近世より前の歴史記録はほぼ鎌倉における被害に関する記述に留まる。神奈川県では、2011年の東日本大震災による津波被害を受け、沿岸における津波堆積物の有無を3カ年にわたって調査したが、その結果、海岸低地が陸化するプロセスと、その年代が明らかになった。このうち、鎌倉・逗子地域の海岸低地は6ka前後の内湾堆積物の上に、歴史時代の干潟堆積物が直接載り、それが河川堆積物や砂丘砂に覆われる、また、内湾堆積物と干潟堆積物の境界は現在の海水準付近にあるという共通した層序を有していることが判明した。しかし、干潟堆積物の年代は3グループに別れ、それぞれ18世紀、13世紀、9世紀を示す。これらはそれぞれ、元禄関東、1257年正嘉および1293年正応、878年元慶に近接している。また、古い干潟堆積物ほど、内陸側で検出された。干潟堆積物の形成過程は先行研究が乏しいが、高潮や洪水により堆積物は比較的短期間で入れ替わっているものと考えられる。干潟堆積物が地層中に残存するためには、隆起して高エネルギーの環境から離れ、浸食を免れる必要がある。したがって、干潟堆積物が古地震の年代に近接しているのは、地震による一時的な隆起とそれにより上位に河川堆積物や砂丘砂が堆積して波浪による浸食から保護された為であると考えられる。本研究は、正味の隆起量がほとんど無い海岸低地においても、隆起を伴う地震の履歴を、大量のボーリングと年代測定を元に解明できる可能性を示唆している。一方、この方法の信頼性を向上させるためには、干潟堆積物中の年代試料の年代分布など、海岸低地の地層形成過程に関する研究も併せて進行させる必要がある。【参考文献】Mannen, K., Yoong, K. H., Suzuki, S., Matsushima, Y., Ota, Y., Kain, C. L., & Goff, J. (2017). History of ancient megathrust earthquakes beneath metropolitan Tokyo inferred from coastal lowland deposits. Sedimentary Geology. https://doi.org/10.1016/j.sedgeo.2017.11.014
著者
吉田 聡 細田 滋毅
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

北西太平洋は冬季に爆弾低気圧が頻繁に発達する海域の中で最も深い海洋である。渦解像海洋大循環モデルによるシミュレーションは爆弾低気圧が急発達する際、海洋混合層内では強い発散が起こり、2000m深に達する湧昇流が励起されることを示している。しかし、通常の海洋観測網では爆弾低気圧に対する海洋応答を捉えることはできない。深い冬季混合層のため、衛星観測による海面水温では爆弾低気圧による変化は見えない。また、10日毎のアルゴフロート観測は1日程度の爆弾低気圧の急激な観測をするには長すぎる。そこで、爆弾低気圧に対する海洋応答を観測するため、北西太平洋でのアルゴフロートを用いた高頻度観測を2015/2016と2016/2017の2冬季(11月~3月)に実施した。今回用いたアルゴフロートは観測の時間間隔と観測深度を衛星通信によってリアルタイムに変更できる。気象庁の週間アンサンブル予報を元に、観測海域で爆弾低気圧が高確率で予測された場合には6時間毎、650m深までの観測を実施し、それ以外は1日毎、2000m深の観測を実施した。この観測で爆弾低気圧活動が活発な冬季北西太平洋域の1148本の水温・塩分プロファイルを観測し、そのうち73本が爆弾低気圧直下の海洋を観測していた。本講演では観測した爆弾低気圧のうち、発達率が最大だった2016年3月1日の事例についての解析結果を報告する。
著者
宇根 寛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

国土地理院は、2015年に内部に地理教育支援チームを設置し、地理教育、地学教育の支援に向けた課題の整理と国土地理院による教育支援のあり方を検討するとともに、具体的な取組みを進めてきた。高等学校に関しては、「地理総合」の必履修化や「地学基礎」の履修率の増加を踏まえて、多数を占める地理や地学を専門としない教員に対する支援が重要である。そのため、「地理教育の道具箱」のページの開設による教育現場に役立つ情報の提供、教員研修等への参加や教科書会社への説明会等を通じて国土地理院が提供する情報を知っていただくこと、地方整備局や気象台などと連携した防災教育の支援、電子基準点が設置されている学校での出前授業の実施などに取り組んでいる。特に、地理院地図を用いたさまざまな地図の重ね合わせや3D表示などは、地理、地学教育に効果が大きいことから、地理院地図の普及を積極的に進めている。さらに、より効果的な支援を行うためには、教員や地球惑星科学研究者、行政、地図やGISに関する民間団体などのさまざまな立場のステークホルダーのネットワークが構築され、情報、経験の共有や協働を進めることが必要である。
著者
宮嶋 敏 漆原 元博
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

現行学習指導要領における「地学基礎」の実施によって、前学習指導要領下で7パーセント程度であった地学の基礎科目の履修率は、約26パーセントへと急上昇した。このことは、高校教員が主に自分の専門科目しか教えないこととあいまって、地学を専門としない教員が地学の授業を担当するという事態をもたらした。 この事態に対応するべく、いくつかの地学教育団体では、そのような教員向けに教材や体制を整えて地学の授業支援を行っている。 本講演では、前半に教材や体制の紹介を行い、後半で地学を専門としない教員から授業実践の様子や授業支援への要望について報告する。
著者
矢部 優 武村 俊介
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Moment tensor of medium to large earthquakes and its spatiotemporal distribution provides us important information about the fault plane where the rupture occurs and kinematic process of seismic rupture on the fault. Long-period (> 10 s) seismic waveform is often used for this purpose because they are less sensitive to three-dimensional and small-scale seismic velocity heterogeneities, where our knowledge is usually incomplete. Furthermore, high frequency seismic waveforms mostly loose source information due to the seismic scattering (summarized in Sato et al., 2012). However, revealing high frequency behavior of seismic slip is also important to understand the dynamic behavior of fault rupture. This study tries to develop the method for moment tensor estimation in high frequency band using synthetic waveforms, which considers three-dimensional large- and small-scale heterogeneities. As a first step of this development, we develop grid-search focal mechanism estimation method, assuming double-couple source, by fitting seismogram envelope of target events, which is expected to be applicable for higher frequencies rather than fitting raw waveform. Before analyzing observed data, we conduct a series of synthetic tests to confirm the applicability of the method and resolutions of the estimation. The synthetic waveform is calculated using the parallel finite difference code developed by Takemura et al. (2015). The seismic source is set in Kii Peninsula as representing low frequency earthquakes. The three-dimensional background velocity structure is the JIVSM (Koketsu et al., 2012), including large-scale seismic velocity heterogeneity and topography. The small-scale random velocity heterogeneity model of Takemura et al. (2017) is embedded over the continental crust of the JIVSM. Target seismic waveform is filtered in four frequency bands (0.2-1 Hz / 1-2 Hz / 2-4 Hz / 4-8 Hz), and its focal mechanism is estimated by grid search in (strike, dip, rake) space by fitting its envelope with the synthetic stacked envelope waveforms in 5 s time windows around S-wave arrival. Our synthetic tests reveals following points. (I) When the seismic structure is correct, envelope-fitting focal mechanism estimation is well applicable up to 2-4 Hz, and could be applicable to 4-8 Hz. When one-dimensional structure of F-net (Kubo et al., 2002) is used, the estimated focal mechanism is significantly biased even in lower frequency band and not constrained in higher frequency band. There is strong trade-off in the focal mechanism estimation between strike and rake. (II) The focal mechanism estimation is highly sensitive to the assumed hypocentral location. When the assumed epicenter is 0.1º shifted from the true position in each direction, the fitting residual becomes significantly worse. When the assumed depth is shifted from the true position at the plate interface by a few kilometers, shallower shift makes fitting residual worse and biased. (III) The difference in the source time duration from 0.1 s to 1.0 s or the shape of source time function does not vary the fitting significantly. (IV) Isotropic components as non double-couple components of target events do not influence the fitting much because we use only S-wave time window. On the other hand, the contamination of a few tens percent of second double couple component affects the fitting results. (V) The analysis can be applicable to the contamination of random noise with the amplitude up to about one-thirds of signal amplitude.
著者
吉本 和生 武村 俊介
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

はじめに関東平野では,その周辺における浅発の中・大地震の発生に伴って周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が観測され,その振幅や継続時間は大規模で複雑な堆積盆地構造の影響で場所によって大きく異なる.この特徴は,関東平野での長周期地震動の正確な予測を,国内の他の平野と比べて著しく困難にしている.その一方で,首都圏における地震防災上,石油タンクや超高層建築物などの安全対策に資するための長周期地震動予測の高度化は喫緊の課題とされている.そこで本研究では,関東平野における長周期地震動即時予測の可能性について検討した.即時予測の方法は,表面波の励起・伝播に関わる堆積盆地の応答関数を事前に評価しておき,堆積盆地外部の地震動記録にもとづいて堆積盆地内部の長周期地震動を予測する方法(例えば,Nagashima et al. 2008)とした.試行的に地震動シミュレーションの計算波形(速度波形,周期3-20 s)を解析データとし,調査研究の対象地域は関東平野の中北部とした.長周期地震動シミュレーション浅発の中規模地震による長周期地震動の発生を模擬した3次元差分法による地震動シミュレーション(Takemura et al. 2015)を実施した.2013年2月25日の栃木県北部の地震(Mw 5.8)を対象に,発震機構にはF-netカタログの値を利用し,震源の深さを0.5~16 kmの範囲で変化させて,K-NET/KiK-netおよびSK-netの観測点における速度波形を合成した.堆積層と地震基盤以深の地震波速度構造モデルには,増田・他 (2014)モデルとJIVSM(Koketsu et al. 2012)をそれぞれ使用した.応答関数本研究では,長周期地震動に関わる堆積盆地の応答関数を,関東堆積盆地北縁部で震源からほぼ南に位置するSK-net のTCH2観測点(栃木県足利市,基準観測点とする)における計算波形を入力,その他の盆地内部の観測点(盆地北端から50 km程度まで)の計算波形を出力とみなして評価した.簡単のため,長周期地震動を引き起こす地震波は震央から南方向に伝播するものと仮定し,応答関数は地震動の共通成分(上下成分-上下成分など)毎に評価した.応答関数の計算にはウォーターレベル法を使用した.評価した応答関数の特徴には,成分毎に大きな差異がみられた.東西成分の応答関数の形状(振幅・位相の時間変化)は単純であり,孤立的な波束には明瞭な正分散がみられた.一方,上下成分と南北成分の応答関数の形状は複雑であった.これらの特徴は,解析対象とした観測点配置では,東西成分にはLove波の基本モードの伝播特性,上下成分と南北成分にはRayleigh波の基本モードと高次モードの伝播特性が反映されているためと考えられる.応答関数への震源の深さの影響は,東西成分では比較的小さく単純であるものの,上下成分と南北成分では振幅と位相に大きな変化がみられ評価が簡単でないことが明らかになった.長周期地震動即時予測の数値実験上記の応答関数を使用して,K-NETのSIT003観測点(埼玉県久喜市)を対象とした長周期地震動即時予測の数値実験を行った.同観測点は,関東堆積盆地の北端から20 km程度,地震基盤深度3 km以上の場所に位置している.数値実験では,震源の深さを8 kmとして求めた応答関数を使用して,震源の深さが異なる場合(0.5~16 km)に長周期地震動をどの程度正確に予測できるか評価した.その結果,東西成分の応答関数を用いた数値実験については,震源の深さによらず長周期地震動をほぼ正確に再現できた.このことは,Love波に起因する長周期地震動については,応答関数を用いた即時予測が可能であることを強く示唆している.今後の研究課題としては,他の地震を解析対象に含めた同様の検討,リアルタイムでの長周期地震動予測の検討などがある.謝辞本研究では防災科学技術研究所のK-NET/KiK-netのデータおよびF-netのMT解を使用しました.また,首都圏強震動総合ネットワークSK-netのデータを使用しました.地震動シミュレーションには東京大学地震研究所地震火山情報センターのEIC計算機システムを利用しました.
著者
岩城 麻子 前田 宜浩 森川 信之 武村 俊介 藤原 広行
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

地震ハザード評価において、長周期(ここでは周期およそ1秒以上を指す)の理論的手法による地震動計算では一般的には均質な層構造からなる速度構造モデルが用いられることが多いが、現実の地下構造には様々なスケールの不均質性が存在する。長周期地震動ハザード評価の対象周期を周期1~2秒まで確保するためには、特に数秒以下の周期帯域で媒質の不均質性の影響を評価することは重要である。本研究では、首都圏の詳細な地盤モデルを用いて、深部地盤以深の媒質のランダム不均質性がVS=350m/s程度の解放工学的基盤上での長周期地震動へ及ぼす影響とその周期帯域を評価する。首都圏の浅部・深部統合地盤モデルの深部地盤構造部分(地震本部, 2017)(最小VS=350m/s)のうち、上部地殻に相当する層(VS=3200, 3400 m/s)の媒質物性値に、指数関数型の自己相関関数で特徴づけられるランダム不均質を導入した。相関距離aは水平、鉛直方向で等しいと仮定し、1 km, 3 km, 5 km の3通りのモデルを作成した。標準偏差εは本検討では5%に固定し、物性値に不均質性を与える際、平均値±3ε を上限・下限値とした。地震波散乱の影響は不均質の相関距離と同程度の波長に対応する周期よりも短周期の地震動に表れると考えられる(例えば佐藤・翠川, 2016)。波長1、3、5 km に対応する周期はそれぞれおよそ0.3、0.9、1.5秒であり、周期1秒以上の長周期地震動の計算結果に対する系統的な影響は大きくはないことが予想されるが、不均質性の導入による地震動のばらつきを見積もることも必要である。異なる震源位置やパルス幅(smoothed ramp関数で3.3秒および0.5秒幅)を持つ複数の点震源モデルを用いて、3次元差分法(GMS; 青井・他, 2004)で周期1秒以上を対象とした地震動計算を行った。パルス幅が3.3秒の場合、震源から放出される波の波長はおよそ10 kmとなり、不均質媒質の特徴的な長さaよりも長い。パルス幅が0.5秒の場合、波長はおよそ1.7 kmであり、aと比べておおむね同等から短い波長となる。各震源モデルについて、不均質媒質を導入していないモデルによる計算結果に対する不均質媒質を導入したモデルによる計算結果の比(不均質/均質比)をPGVや5%減衰速度応答スペクトルについて調べた。不均質/均質比の空間分布は地震動の強さそのものには寄らずランダム不均質媒質に依存することが分かった。不均質/均質比は計算領域全体の平均としてはほぼ1になった。つまり、領域全体で見た場合、この条件下でこの周期帯では不均質媒質によって系統的に地震動が大きくまたは小さくなるということはほとんどなかった。一方、不均質/均質比のばらつき(標準偏差)は震源距離に応じて大きくなった。また、パルス幅の短い震源モデルの方が、パルス幅の長いモデルと比べて不均質性の影響が大きく、比のばらつきも大きかった。パルス幅の短いモデルでは震源から放出される波の波長が媒質の特徴的な波長に近く、パルス幅の長いモデルと比べて同じ伝播距離に対する波数が多いため、不均質媒質の影響がより強く出るものと考えられる。同じ震源距離で見ると比のばらつきは地震動の短周期成分ほど大きいことも分かった。今回検討した範囲では、地殻内のランダム不均質媒質が周期1秒以上の長周期地震動の計算結果におよぼす影響として、計算領域全体の平均値への系統的な影響よりもむしろ、予測問題における地震動ばらつきを生じさせる影響がより顕著に認められた。今後はパラメータ範囲を広げた検討や、より浅い地盤構造の不均質性をモデル化した検討も必要であると考えている。
著者
杉中 佑輔 石綿 しげ子 鈴木 正章 堀 伸三郎 中山 俊雄 遠藤 邦彦
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

武蔵野台地の地形については,貝塚(1964)をはじめ多くの研究があり,淀橋台に代表される下末吉面(S面),M1面,M2面,中台面に代表されるM3面に大きく区分されてきた.最近,遠藤ほか(2018)はこの区分を再検討し,もともとの扇状地面を小平面(M1a;植木・酒井,2007)とし,さらにM2面として仙川面,石神井面等を分け,さらにM3面として中台面以外に十条面等を設定した.この武蔵野台地は多摩川の作った扇状地であることが知られているが,武蔵野台地北東端に位置する赤羽台及び本郷台の一部は扇状地の先端部にしては極めて平坦で特異である.貝塚(1964)はこの特異性について,赤羽台及び本郷台は入間川か荒川のような南東に流れた河川の氾濫原ないし三角州ではないかと述べている.杉原ほか(1972)では赤羽台北西端崖周辺での露頭調査及びボーリング柱状図により,東京層の上面に起伏を持ち,関東ローム層と東京層の間に認められる礫を含む砂よりなる赤羽砂層の層厚に変化があることが報告されている.赤羽台及び本郷台を含む武蔵野台地北東部はM2面とされてきたが,国土地理院の5mDEMに基づき作成したRCMap(杉中ほか,本大会),さらに陰影起伏図等を用いた地形解析を行ったところ,従来の考え方とは異なる地形発達が想定されることが分かった.明らかになった地形面としては,本郷台の中にとり残された淀橋台相当の残丘(S面),神田川沿いに西から東に延びる扇状地面を発達させるM1面,石神井川沿いに西から東に延びるM2面(a,bに細分),赤羽台から上野につながるM2面,本郷台と赤羽~上野の狭い台地に挟まれたM3面,石神井川が谷田川に沿って流れていた時代の沖積面などである.平坦な地形で特徴づけられてきた赤羽台をRCMap等で微地形判読を行ったところ,蛇行する流路と微高地に分けられる(流路の面を十条面と呼ぶ).また,王子から不忍池の間では谷田川の低地の両岸に十条面を追跡することができ,根津や東大病院の建つ面と対比することができる.東大構内については阪口(1990)で検討がなされており,病院面はM2面とされていた本郷台よりも低い面で,M3面に相当するものと示唆されている.この十条面を横断するように赤羽台の地質断面図を多数作成し、検討を行ったところ,十条面を挟む微高地を成すM2面構成層とは不連続な谷地形であることがわかった.この十条面は比較的薄いローム層で覆われ,礫層・礫混じり砂層を主体に構成される.さらに王子から不忍池にかけても同様に検討を行ったところ,同様に谷地形が確認された.このように赤羽~王子~根津を結ぶ谷はMIS4と考えられてきたM3面の化石谷であるといえる.この谷を秋葉原方面へ沖積低地地下に追うと,総武線付近で-5m前後に谷地形と礫層が確認される.この谷地形は東京層を穿つもので薄い礫層を伴い,その上部は縄文海進時の波食の効果で削られている.この化石谷は幅300m程度と狭く,荒川が流下したというより入間川規模の河川の流下が考えやすい.しかしながら、上流部は縄文海進時などにおいて侵食されてしまっている.参考文献遠藤邦彦・石綿しげ子・堀伸三郎・中山俊雄・須貝俊彦・鈴木毅彦・上杉陽・ 杉中佑輔・大里重人・野口真利江・近藤玲介・竹村貴人(2018本大会)東京台地部の東京層と,関連する地形:ボーリング資料に基づく再検討.貝塚爽平(1964)東京の自然史.紀伊国屋書店阪口豊(1990)東京大学の土台―本郷キャンパスの地形と地質.東京大学史紀要,第8号,1-34杉原重夫・高原勇夫・細野衛(1972)武蔵野台地における関東ローム層と地形面区分についての諸問 題.第四紀研究,11,29-39杉中佑輔・堀伸三郎・野口真利江・石綿しげ子・遠藤邦彦(2018本大会)レインボーコンターマップ (RCMap)による地形解析とその応用.植木岳雪・酒井 彰(2007)青梅地域の地質.地域地質研究報告(5 万分の 1 地質図幅),産総研地質調 査総合センター
著者
三反畑 修 綿田 辰吾 佐竹 健治 深尾 良夫 杉岡 裕子 伊藤 亜妃 塩原 肇
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

1. はじめに 鳥島近海地震(M5.6-5.7)は伊豆・小笠原島弧上の鳥島近海に位置する海底火山体の地下浅部で、ほぼ10年に一度観測されている、火山性の津波地震である。最新のイベントは2015年5月2日(JST)に発生した。本発表では、この地震により発生した津波の観測データに基づく、津波解析の詳細を報告する。なお、火山性津波地震の観測からメカニズム提唱までを含む本プロジェクトの概要は、深尾らによる別途発表に譲る。2. 津波観測 2015年の鳥島地震に伴って発生した津波は、伊豆小笠原諸島沿いの島嶼部を中心に、潮位計等で数十cm程度の津波が観測され、特に八丈島八重根港では約60cmの最大振幅を記録した(JMA, 2015)。一方で、我々が震央距離約100kmの深海底に展開した計10点の水圧計アレーでも、高精度の津波記録の観測に成功した。アレーで観測された津波波形は、数mmの負の信号から始まり、2.0 cm程度の正の信号が続き、同程度の振幅の後続波を伴っていた。そこで我々は、アレーで記録された津波波形を用いて解析を行い、鳥島地震に伴う地殻変動に伴う海水面擾乱、すなわち津波波源のモデル化を行った。3. 津波の分散性を考慮した津波波線追跡 まず津波の分散性を考慮して、アレーの津波波形から低周波数成分から順に高周波数成分の位相走時を読み取り、平面波近似によってアレーへの入射方向を調べると、低周波位相ほど、震央と観測点位置を結ぶ大円方向から、入射方向が大きく外れることがわかった。我々は、分散性を含む線形重力波の位相速度式を用いて局所的津波位相速度場を再帰的に計算し、周波数ごとに津波波線追跡を行うことで、特に海溝沿いの深海部で位相速度が周波数によって大きく異なることが、これらの周波数特性の原因であることを明らかにした(Sandanbata et al., 2018, PAGEOPH)。 さらに、走時および入射方向の周波数依存性をもっともよく説明する点波源位置をグリッドサーチによって調べると、点波源は直径8km程度の円形をしたスミスカルデラのリム内に精度良く求まった。仮に点震源をカルデラ外にずらすと、走時と入射方向を同時に説明することはできなかった。一方、津波初動の入射方向も同様に調べ、それを初期値としてアレーから波線を射出し、初動の走時分だけ逆伝播させると、カルデラリム北端近傍に達した。これらの結果は、鳥島地震に伴う隆起現象はスミスカルデラの内部で主要な隆起が発生し、その広がりはリムと同程度の広がりがあったことを示唆する。4. 津波波形差分計算による津波波源モデリング 次に、津波伝播差分計算を行い、鳥島地震に伴う津波波源をより詳細に調べた(Fukao et al., 2018, Sci. Adv.)。上記の結果を踏まえて、スミスカルデラの中心を中心軸とする軸対象の津波波源とし、アレーでの波形記録を考慮して、ガウシアン型の中心隆起とそれを囲む微小な環状の海水面沈降から成る軸対象波源モデルを仮定した。この中心隆起の振幅Aおよび隆起域の半径Rのパラメタを変化させ、差分計算コードJAGURS(Baba et al., 2015, PAGEOPH)を用いて分散性を含む線形ブシネスク方程式を解いた。 様々なパラメタを仮定した時のアレーでの計算波形と観測波形の規格化最小二乗和を計算し類似度を定量化すると、R=4.1kmおよびA=1.5mの時に最小値をとり、計算波形はアレーでの観測波形を非常によく再現した。この隆起域半径R=4.1kmはカルデラ半径とよく一致し、鳥島地震に伴って、スミスカルデラ内で1mを超える大きな隆起現象が発生したことが明らかになった。5. 八丈島八重根港での津波波形 続いて、アレー記録を用いて推定した波源モデルを与えた時に、約60cmの最大波高が記録された八丈島の八重根港での津波波形を説明できるかを調べた。この際、国土地理院の数値標高モデル(DEM)と、日本水路協会の海図を組み合わせて作成した複雑な湾口の地形データを用い、非線形効果も含めJAGURS(Baba et al., 2015)を用いて津波伝播計算を行った。その結果、計算波形は振幅・位相を含めて後続波まで、観測波形をよく再現した。6. 津波解析のまとめ 以上の結果は、2015年鳥島地震に伴う地殻変動について重要な情報を与える。第一に、この地震伴い1mを超える隆起現象がカルデラ内に集中していることが明らかになり、鳥島近海地震はカルデラ地形に関係する火山活動が発生したことを示唆する。第二に、少なくともカルデラ周囲の北東側には、無視できない規模の沈降が含むことが明らかになった。これはCLVD型の震源メカニズムとも調和的な結果である。深尾らの発表で、以上を踏まえ、火山性津波地震のメカニズム提唱を行う。
著者
山本 圭吾 松島 健 吉川 慎 井上 寛之 手操 佳子 園田 忠臣 波岸 彩子 堀田 耕平 市村 美沙 森田 花織 小池 碧 古賀 勇輝 渡邉 早姫 大倉 敬宏
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

平成26年度より開始された「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」における課題「桜島火山におけるマグマ活動発展過程の研究」の一環として,昨年度に引き続き,2017年11月に桜島火山において一等水準測量の繰返し観測を実施した.本講演では,この測量の結果について報告し,2016年11月に実施した前回測量以降の桜島火山の地盤上下変動について議論する. 水準測量を実施した路線は,桜島西部山腹のハルタ山登山路線,北部山腹の北岳路線の2路線である.路線総延長は約24 kmであった.これらの路線を,2017年11月1日~13日の期間において測量に当たった.測量方法は,各水準点間の往復測量で,その往復差は一等水準測量の許容誤差を満たすようにした.近年の水準儀は測量精度も向上しており,これらの器材を用いて注意深く測量を行った結果,測量における誤差は,1 km当りの平均自乗誤差が,ハルタ山登山路線および北岳路線においてともに±0.22 mm/km,水準環閉合差はハルタ山登山路線において時計回りに0.9 mm(許容誤差7.6 mm)となり,高精度の一等水準測量を行うことができた. 桜島西岸の水準点BM.S.17を不動点(基準)とし,各水準点における比高値を,前回の2016年11月に行われた測量結果(山本・他,2017)と比較することで,2016年11月から2017年11月の期間の約1年間における地盤上下変動量を計算した. 計算された地盤上下変動量から,桜島北部付近の水準点において,地盤隆起(最大で4.5 mm)が生じていることが確認された.前々回から前回測量までの2015年8月・9月から2016年11月の期間においては,1年2~3ヶ月間と多少1年間よりも期間が長いものの,北岳路線のこの付近の水準点において15 mm程度の地盤隆起が測定されていた.このことを考えると,2017年11月までの1年間の桜島北部付近の隆起速度は,それ以前の1年間に比べて減少していると考えられる.一方で,桜島中央部付近においては,若干の地盤沈降(最大で-2.6 mm)が認められる. 茂木モデルに基づき,得られた上下変動量データから圧力源の位置を求めた.測量を実施した水準点の空間分布が限られているため試行的な結果であるが,桜島北方の姶良カルデラの地下約10 kmの深さに増圧源が,また南岳地下の浅部に減圧源が推定された.2016年11月~2017年11月の期間,姶良カルデラ地下のマグマ溜まりにおいて引き続きマグマの貯留が進行していることを示していると考えられる.一方で,南岳直下のマグマ溜りにおいては減圧傾向が示唆される.
著者
上条 藍悠
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

山脈周辺のAMeDASでは平地部よりも早い時間に降水を観測していた.そこで山脈周辺の相当温位場の解析とタイムラプスカメラによる雲の様子の撮影を行った結果、日中斜面が日射によって加熱されることにより山脈付近で上昇流が発生していることが分かった.動画中での雲の流れに疑問を持ちAMeDASのデータを集め解析すると夕立のあった日では午後地上で熱的低気圧による海風である日本海側からの北風と広域の南風がぶつかる収束線がある場合が多く、その収束線に沿って東西方向の雲列が発生し平地部に夕立をもたらしていることが分かった.また地上風の様子より山脈上に発達した対流雲が盆地底部上空の雲列へもたらす影響もあると思われる.
著者
及川 輝樹 中野 俊 荒井 健一 中村 圭裕 藤田 浩司 成毛 志乃 岸本 博志 千葉 達朗 南里 翔平
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

飛騨山脈南部の岐阜県・長野県県境に位置する乗鞍火山の最近約1万年間の噴火史を,テフラ層序とAMS 14C年代測定を基に明らかにした.なお本報告は,乗鞍岳火山防災協議会が行った調査を基にして,その後検討を加えたものである.かつて乗鞍火山における最近1万年間の活動中心は,火口縁に最高峰の剣ヶ峰(3026m)がある権現池火口の他,恵比須岳火口にもあるとされていた.しかし,恵比須岳火口起源のテフラとされていた噴出物は,年代や記載岩石学的特徴から,その火口起源のものではないことが明らかとなった.そのため,最近1万年間の活動中心は権現池火口周辺に限られる.最近1万年間における乗鞍火山の噴火活動は,テフラ層序に基づくと,少なくともマグマ噴火を2回,水蒸気噴火を10回行っている.マグマ噴火は,いずれも水蒸気噴火に始まるが,その後火山灰を放出する噴火とスコリアを放出する噴火がそれぞれ発生した.スコリアを放出する噴火は,その初期に小規模な火砕流も発生した.総テフラ噴出量は数100~1000万/m3オーダである.なお,権現池火口周辺から流れ出た溶岩のうち,保存のよい微地形が残存する溶岩も3ユニットあることから,溶岩を流す噴火も完新世に3回発生した可能性がある.また,個々の水蒸気噴火の総噴出量は,数10~数100万m3オーダとなる.最新の噴火は,約500年前に発生した水蒸気噴火である.およそ7300年前に降下した鬼界アカホヤ火山灰より上位のテフラユニットの数から算出した噴火頻度は,800年に一回となる.近隣の焼岳火山(100~300年/回)と比べると噴火頻度は少ないが,桁違いに少ないわけではない.
著者
丸山 茂徳
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

地球上で生命が誕生するためには、満足しなければならない条件が少なくとも9つある。その9つとは、(1)エネルギー源(電離放射線と熱エネルギー)、(2)栄養塩の供給(リン、カリウム、レアアース元素など)、(3)生命構成主要元素の供給、(4)CH4, HCN, NH3などの還元ガスの濃集、(5)膜やRNAを合成するための乾湿サイクル、(6)非毒性の湖水環境、(7)Naの少ない水、(8)非常に多様な環境、(9)周期的環境、である。この9つの条件に基づいて、これまでに提案されてきた生命誕生場;(1)ダーウィンの提案したWarm Little Pondとそこから派生した生命のスープ仮説、(2)パンスペルミア、(3)火星説、(4)深海熱水系説、(5)島弧のヒューマロール仮説、(6)自然原子炉間欠泉説、を検証してみる。我々の考える最も理想的な生命誕生場は冥王代の表層環境に普遍的に存在したと考えられる自然原子炉間欠泉説である。この説が提案する生命誕生場は、生命誕生場に必要な9つの条件をすべて満たし、生命誕生のための「ゆりかご」を提供することができる。世界の地質記録に基づいて考えると、冥王代地球における環境変動が一連の前駆的化学進化を支配したと考えられる。そして、環境変動への受動的応答として生命が誕生したと考えられる。 生命の起源に代表される複雑系科学に取り組む際に重要なことは、カール・ポッパーが提案した検証可能性である。検証可能性を踏まえてモデルを提案することによって、生命の起源の解読が可能になるはずである。
著者
釜江 陽一
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

エルニーニョが発達した冬季に続く春から夏にかけて、インド洋と南シナ海では広域に渡り、海面水温の高温偏差が確認される。太平洋のエルニーニョの強制とインド洋・南シナ海の高温偏差により、北西太平洋では高気圧偏差が形成される。このインド洋キャパシタ効果によって半年遅れで現れる大気海洋系の応答は、その東アジア夏季気候への重要性と季節的な予測可能性ゆえに非常に注目されている。中緯度の強い水蒸気輸送帯はatmospheric rivers (ARs)と呼ばれ、北米西部や欧州における水資源や自然災害にとって非常に重要である。近年の研究により、ARsは北西太平洋でも頻繁に発生し、東アジア暖候期に発生する豪雨イベントと密接に関わっていることが指摘されている。本研究では、先行する冬季のエルニーニョがインド洋キャパシタ効果を通して東アジアのAR活動を大きく変えることを見出した。北西太平洋におけるAR活動は、大気再解析データでも、観測された海面水温変動によって強制された大気大循環モデル実験でも、一貫してエルニーニョ後の夏に強まる。エルニーニョが衰退する過程にある春から夏にかけて、インド洋の昇温により、東進するケルビン波と北西太平洋の高気圧偏差が励起される。この高気圧偏差に対応した湿潤なモンスーン南西風の強まりは、中国東部から韓国、日本を通過するARの発生を促進する。本研究の結果は、AR豪雨による東アジア自然災害のリスクの変動が、半年前から予測可能であることを示唆している。
著者
小林 昭夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

南海トラフ沿いでは長期的スロースリップイベント(SSE)や短期的SSEなどのスロー地震が発生しており、その分布や規模、発生頻度などを把握することは、プレート境界の特性の時空間変化に関する理解をもたらすことが期待される。特に長期的SSEの発生領域は将来の巨大地震に関連する固着域に隣接しており、短期的SSEと比較して規模も大きい。SSEの分布や発生頻度、規模などの情報は地震発生シミュレーションの再現対象にもなっており、より現実に近いモデルを構築する上でもSSEの詳細な把握は重要である。GEONETのF3解座標値を用い、各点についてアンテナ交換などによるオフセット、地震によるオフセット、年周・半年周成分、直線トレンドの補正を行った。アンテナ交換などに伴うオフセットは、国土地理院による値(corrf3o.dat)を用いた。地震によるオフセットは、地震をはさむ前後10日間の平均値の差から求めた。非定常変位が小さく、2011年東北地震の余効変動が続いているため、2017年6月から半年間の変位から前年同期間の変位を差し引いた。余効変動はこの1年間であまり変化がないため打ち消され、前年の変動とは異なる非定常変動のみが抽出される。その結果、志摩半島に5mm程度の南東向きの動きが見られた。なお同様に処理した2017年前半には志摩半島に動きは見られない。志摩半島の北西にあたる丹後半島付近との基線長を見ると、志摩半島の志摩、南伊勢など数点には2017年後半から伸びが見られる。志摩半島数点の周囲の点と丹後半島付近との基線長には特に傾向の変化は見られないため、2017年後半からの基線長の伸びは志摩半島側の非定常変位によると考えられる。変化は一時的なオフセットや短期的SSEによるものではなく、複数点に見られていることから、原因として長期的SSEが考えられる。2017年6月から半年間の変位(前年同時期除去)を用いて大域的探査法により矩形変動源を推定したところ、志摩半島に断層が推定され、すべりの規模はMw6.0相当であった。すべり領域の中心の深さはプレート等深線25km付近にあり、南海トラフ沿いの他の長期的SSEと同程度の深さである。まだ長期的SSEとしては小規模であるが、志摩半島での発生とするとGNSSの観測開始以来初めてであり、今後の推移に注目したい。本調査には国土地理院GEONETの座標値およびオフセット値を使用させていただきました。 上図:若狭湾付近と志摩半島との基線長変化(トレンド、年周補正、11日移動平均)下図:2017年6~12月の変位から2016年6~12月の変位を差し引いた水平変位(赤)とその値をもとに大域的探査法により推定した矩形断層による理論変位(黒)