著者
冨永 紘平 久田 健一郎 上野 勝美
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

西南日本内帯の秋吉帯に分布するパンサラッサ海起源の海山型石灰岩には,石炭紀最後期–ペルム紀再前期に北方型要素を伴う造礁生物群集が記録されている.Nakazawa et al. (2011) は,それをもとにパンサラッサ海の熱帯–亜寒帯地域でのゴンドワナ氷床の発達に伴った寒冷化の影響を議論した.しかしながら,この群集が当時のパンサラッサ海の中でどれくらいの地理的な広がりを持っていたのかは明らかにされてこなかった.本研究では,ジュラ紀付加体コンプレックス中に分布する叶山石灰岩において堆積相および生相を記載し,それをもとにパンサラッサ遠洋域における北方型群集の空間的な広がりを考察する.叶山石灰岩は関東山地の秩父帯北帯ジュラ紀付加コンプレックスの蛇木ユニットに属しており(Kamikawa et al., 1997),蛇木ユニットの泥岩からは前期ジュラ紀の放散虫化石が報告されている(久田・岸田, 1987).叶山石灰岩からは後期石炭紀Moscovianから中期ペルム紀Wordianのフズリナ化石が産出しているが(例えば高岡, 1977),本研究で扱った叶山鉱山内のセクションからはDaixina sokensisや “Pseudofusulina” kumoasoanaなど概ね石炭紀末のGzhelianを示すフズリナ化石が得られている.また,叶山石灰岩南縁付近の泥岩中には玄武岩のブロックが含まれており,海洋島玄武岩と類似した全岩化学組成を示す.叶山石灰岩は明灰色,塊状の石灰岩で,algal bafflestone(MF1),microbial bindstone(MF2),crinoidal packstone-rudstone(MF3),fusuline packstone(MF4),wackestone-mudstone(MF5),bioclastic grainstone(MF6),oolitic grainstone(MF7)の7種類の微岩相が識別された.生物による結合組織が観察されるMF1,MF2は,石灰藻AnthracoporellaやPalaeoaplysinaが生息時の姿勢を保った状態で保存されており,石灰質微生物であるArchaeolothoporellaやTubiphytesによって結合されている.生物骨格の間を埋める堆積物は,石灰泥のほか生砕物,ペロイドを含み,セメントが発達する空間も存在する.MF3–5は石灰泥を豊富に含む堆積物であり,ウミユリ骨片やフズリナを中心とした生砕物を含む.一方で,MF6とMF7は石灰泥を欠き淘汰の良い砂サイズの粒子の間にはセメントが発達する.叶山石灰岩には外洋に面した礁斜面が崩壊・再堆積したことを示す巨大な角礫状のイントラクラストや混濁流による級化構造が存在しないことから,いずれの岩相も背礁環境の堆積物に相当すると考えられる.MF1–5は礁湖堆積物に相当し,MF1とMF2は礁湖にパッチ状に存在する石灰藻や微生物によるマウンドであると考えられる.一方で, MF6とMF7は,波浪の影響を受ける砂堆堆積物である.叶山石灰岩のMF1,MF2の産状から,AnthracoporellaおよびPalaeoaplysina等の石灰藻がバッフラー,ArchaeolithoplrellaやTubiphytesといった石灰質微生物がバインダーの役割を果たしていたであろう.これらの群集は秋吉石灰岩のPalaeoaplysina-microencruster群集(Nakazawa et al., 2011)と類似している.石炭紀末から前期ジュラ紀にかけてのイザナギプレートの移動速度(Müller et al., 2016; Matthews et al., 2016)に基づくと,叶山石灰岩はパンサラッサ海を5,000 km以上移動してきたことになる.秋吉帯ペルム紀付加コンプレックスの泥岩の年代は中期–後期ペルム紀のWordianからWchapingian(260–270 Ma)であるとされており(Kanmera et al., 1990),秋吉石灰岩は石炭紀末から沈み込みまでの期間はわずか40万年程度であると推定できる.よって,石炭紀末には叶山石灰岩よりも沈み込み帯により近い場所に存在していたと推定される.本研究により,秋吉帯の海山起源石灰岩だけでなく,秋吉石灰岩と離れた位置に存在した叶山石灰岩からも Palaeoaplysinaから成る造礁生物が見られた.このことから,Palaeoaplysina-microencruster群集は石炭紀最後期からペルム紀再前期にかけてパンサラッサ海に広く分布した群集であったと考えることができる.
著者
丹羽 達哉 山下 聡 八久保 晶弘 小西 正朗 坂上 寛敏 仁科 健二 南 尚嗣
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

オホーツク海網走沖におけるメタンハイドレート(MH)の存在の可能性については,我が国が世界に先駆けてMHの資源化プロジェクトを立ち上げた1995年当時,網走沖の北見大和堆にはBSR(海底擬似反射面)らしき反射面が存在すると指摘されたのが始まりである。また,産業技術総合研究所が2001年に実施したGH01航海では,網走沖に顕著なBSRを確認している。この海域から採取した表層柱状試料では,ガスを含むことによる膨張や断裂などの特徴を示しており,海底表層部にMHが存在する可能性が強く示唆された。その後,MHを対象とする継続的な調査は行われていなかったが,2011年に北見工大と東京大学との共同での調査を開始し,2012年の東京海洋大学練習船「海鷹丸」による調査において,網走沖で初めてMHが採取された。その後は,本学が主体となって北海道大学練習船「おしょろ丸」による調査や海洋研究開発機構調査船「なつしま」による調査など継続的に調査を行っている。しかし,調査内容の主体は,計量魚群探知機やマルチビーム音響測深機によるガスプルームや海底地形観測,シングルチャンネル音波探査,サブボトムプロファイラー等の音波探査装置による海底下構造調査,コアラーによる海底堆積物の採取など,洋上からの調査が主体であり,海底面における湧出ガスやMHの胚胎状況などの目視観測は行ってはいなかった。そこで,2017年7月に第一開洋丸(海洋エンジニアリング(株))搭載の遠隔操作無人探査機(ROV;KAIYO 3000)により,北海道網走沖のオホーツク海の水深550m程度の海山頂部および水深750m程度の海底谷の2地点において潜航調査を行った。調査の結果,湧出口は狭い範囲に多数確認され,多量のガスが噴出している様子を撮影することに成功した。また,湧出ガスを漏斗状の容器で捕集し,漏斗上部に取り付けた圧力容器で湧出ガスを直接回収した。さらに,噴出孔付近をROVのマニピュレータで掘削したところ,ガスとともにメタンハイドレートの小片が上昇する様子も見られ,メタンハイドレートが表層付近から存在していることも確認された。調査地点一帯には,多数のバクテリアマットが観察されるとともに,カーボネートの集合体も多数確認された。カーボネート集合体やガス湧出口付近には多くのカニ類も観察され,また,メタン湧出域で生息するシロウリガイと思われる二枚貝の生体個体も採取された。また,潜航調査での撮影画像から,水深550m程度の海山頂部の200×100mの範囲内におけるガス湧出量の概算も行った。調査範囲内において,20か所程度のガス湧出地点が確認され,各地点での湧出口は1か所の場合や複数の湧出口が密集している場合などさまざまであった。湧出ガス量を算定したところ,5m程度の湧出口密集範囲での1年間の湧出量は170,000m3程度と算定された。この量はガス価に換算すると400万円程度であった。また,範囲内全体での湧出量は1,000,000m3,ガス価で2500万円程度と見積もられた。
著者
大木 聖子 永松 冬青 所 里紗子 山本 真帆
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

本発表では,高知県土佐清水市立清水中学校にて実践されている「防災小説」の効果について考察を行う.筆者らは2016-2017年度の2年間,清水中学校にて防災教育の実践研究を行ってきた.土佐清水市は,2012年に内閣府から発表された南海トラフ巨大地震の新想定で最大34m以上という全国一の津波高が算出された地域である.これを受けて地域住民からはあきらめの声も聞こえていたが,清水中学校が始めた「防災小説」作りはこの絶望的な状況を打破しつつある.「防災小説」とは,近未来のある時点で南海トラフ巨大地震が発生したというシナリオで,生徒ひとりひとりが自分が主人公の物語を800字程度で執筆したものである.発災後のどの時点を綴ってもいいが,物語は必ず希望をもって終えなければならない.この「防災小説」は,執筆した生徒自らの変化をもたらしただけでなく,教員・保護者・地域にも大きな影響を与えた.なぜいわば架空の物語にすぎない「防災小説」がこれだけの影響力を持つのかを探るべく,防災小説の分析と並行して,その後の生徒や教員・保護者の行動変容を一年間にわたって追跡することで,防災小説の理論的考察を行った.結論から言うと,「防災小説」には大きく2つの効果があった.ひとつは,防災の範疇を超えて生徒たちが自己実現を果たすことに寄与した点,もうひとつは,生徒自身やその周辺を含むコミュニティを防災の理想的な状態に先導した点である.「防災小説」はナラティヴ・アプローチの防災分野への応用と位置づけられる.内閣府の発表した新想定はドミナント・ストーリーに相当し,事態の硬直化を招いている.防災小説が,南海トラフ巨大地震が発生したときの描写を「最後は必ず希望を持って終える」物語として綴られたものであることを考えれば,まさにこれがオルタナティヴ・ストーリーとなり,硬直化した事態を解消しつつあると説明できる.また,防災小説は小説の中では過去であっても実際には未来に相当する地震発生までの期間をどのように過ごすべきかを,自ら綴った言葉で制約している(ナラティヴの現実制約作用).「防災小説」執筆後の防災教育活動やひいては日常生活にも良い影響がもたらされたのは,自分で具体的に描写した目指すべき自分像を,生徒ひとりひとりが持ったことによると考察できる.矢守・杉山(2015)は,もう起きたことをまだ起きていないかのように語る「Days-Beforeの語り」と,まだ起きていないことをもう起きたかのように語る「Days-Afterの語り」という概念を導入し,両者が両立されたとき「出来事の事前に立つ人々をインストゥルメンタル(目的志向的)に有効な行為へとより効率的に導くことができるのではないだろうか」と予測している.防災小説は言うまでもなく「Days-Afterの語り」である.そして,自らの死に匹敵しうる出来事を「防災小説」の中において経験する生徒たちは,実際にはまだその出来事が起きていない「今この時」を思うときまさに「Days-Beforeの語り」の状況におかれており,コンサマトリー(現時充足的)の重要性に気づいている.つまり,「防災小説」は「Days-Afterの語り」であると同時に,「Days-Beforeの語り」にもなっており,矢守・杉山が予測していた状態を実証したものと言える.そして,この状況を効率的に導くことができる理由も,上記のナラティヴ研究の文脈において明らかにできたといえる.さらには,防災小説は学校現場で実施されることで,終わらない対話(矢守, 2007)に導いている.その結果,防災の理想的状態と位置づけられているステータスである,〈選択〉を重ねてなお残るリスクを〈宿命〉として住民全員で引き受ける未来に向かって,防災小説が生徒とその周辺コミュニティを先導していると結論した.
著者
小山 真人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

火山防災対策を進める上で、岩屑なだれ等の低頻度大規模現象の扱いは悩ましい問題である。富士山火山防災マップ(2004年)では、過去の実例(2900年前の御殿場岩屑なだれの流下範囲)を図示するにとどめ、ハザード予測図は描かれなかった。このため、このマップをベースとした現在の地域防災計画や避難計画は岩屑なだれを想定していない。ところが、1707年宝永噴火の際に生じた宝永山隆起(宮地・小山2007「富士火山」)をマグマの突き上げによって説明するモデル(Miyaji et al., 2011, JVGR)から類推して、噴火が長引けば山体崩壊に至った可能性がある。宝永山隆起のような肉眼でも観察可能な山体の隆起は、1980年セントヘレンズ火山の山体崩壊前にも生じた。つまり、現実問題として宝永山隆起のような現象が起きれば麓の住民を避難させざるを得ないだろう。この点をふまえた富士山火山広域避難計画対策編(2015年)には、「本計画で対象外とした岩屑なだれ(山体崩壊)等については、具体的な場所や影響範囲、発生の予測等が明らかになった時点で対象の是非について検討を行う」と記述され、ハザードマップ改訂の議論を始めた富士山火山防災対策協議会の審議課題のひとつとなっている。同協議会の作業部会(2016年)では、御殿場岩屑なだれ(11億立方m)の約1/30にあたる1984年御嶽山伝上崩れ(3500万立方m)程度の崩壊体積であっても、山頂付近で発生した場合には岩屑なだれが山麓に達する計算結果(産総研)が提示された。これまで岩屑なだれのハザード予測を描いた火山防災マップは、北海道駒ヶ岳の例などわずかである。低頻度大規模現象の想定は、住民や観光客に過度の恐怖や誤解を与えると懸念されたからであろう。しかし、自然災害リスクを発生頻度だけから判断するのは適切でない。日本の主要な地震・噴火のリスクを「平均発生頻度×被災人口」によって定量化した試算によれば、富士山の山体崩壊リスク(避難なし)は1立方kmクラスすなわち貞観噴火級の大規模溶岩流リスクと同程度である(小山2014科学)。つまり、山体崩壊は対策されるべきリスクとする考え方も可能である。岩屑なだれを、被災範囲が広すぎて対策不能な現象と単純に考えてはいけない。山腹から生じた場合や発生点の標高が低い場合の流下範囲は限られるし、宝永山のように小さな崩壊体積を想定できる場合もある。さらに、山体崩壊の要因として(1)マグマの突き上げ、(2)爆発的噴火、(3)大地震の3つが考えられるが、(1)は予知が期待できるので避難が可能である。つまり、山体崩壊に対して思考停止しない姿勢が望まれる。日本の防災対策は、ハザードの種類や規模を想定した上で対策を立て、それが完成すれば危機管理はできたと判断する想定主義に従って実施されている。しかしながら、ひとたび想定を超えた災害が発生すれば、その対策は「お手上げ」となりやすく、実際にそれが起きた3.11災害で数々の悲劇が生じた(関谷2011「大震災後の社会学」)。岩屑なだれを想定しない現在の富士山の避難計画においても、それが起きた場合は「お手上げ」となって大きな被害が生じることは想像に難くない。そもそも富士山の火山防災マップは過去3200年間(その後のデータ増により3500年間に相当)の履歴にもとづいて作成されており、御殿場岩屑なだれはこの期間内に起きた現象である。前述した宝永山の山体崩壊未遂の可能性も考慮し、山体崩壊を現象ごと想定から外すのではなく、「お手上げ」状態を避けるために、予知できた場合に備えた現実的な避難対策を立てておくことが望ましい。 岩屑なだれの速度は火砕流並みかそれ以上と考えられるので、山体の変動や亀裂の有無を注意深く監視し、一定以上の異常が生じた場合は麓の住民に事前避難を呼びかけるしかない。その際の危険区域を事前に計算しておけば、異常検知から避難完了までの時間を短縮でき、住民の被災リスクを下げられるだろう。具体的には山体の各所で3ケース程度の崩壊体積を仮定し、到達範囲の数値シミュレーションをおこなってデータベースを作成しておく。実際の運用としては、異常が検知された地点と、異常の程度から推定した崩壊量を上記データベースと照合し、避難を要する範囲を多少の余裕をもって決めることになるだろう。国交省雲仙復興事務所は、平成新山溶岩ドームの山体崩壊対策を検討する委員会を2011年に立ち上げ、作業を続けている。複数の崩壊規模を仮定した上で岩屑なだれの流下範囲を計算し、ハード対策と避難対策を検討した上で、住民を巻き込んだ避難訓練まで実施している。他火山の山体崩壊対策が参考とすべき先行事例であろう。
著者
井村 隆介
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

住民への聞き取り調査によって,奄美大島における1960年チリ地震津波波高を明らかにした.奄美大島では情報の得られたすべての地域で1m以上の津波があったことがわかった.奄美大島本島の南西部や西部の沿岸においても奄美大島本島北部地域同様に3m-4mの津波があったこと,奄美大島南部の加計呂麻島俵で最大波高を記録していたこと,が新たに明らかになった.
著者
二宮 和彦 北 和之 篠原 厚 河津 賢澄 箕輪 はるか 藤田 将史 大槻 勤 高宮 幸一 木野 康志 小荒井 一真 齊藤 敬 佐藤 志彦 末木 啓介 竹内 幸生 土井 妙子 千村 和彦 阿部 善也 稲井 優希 岩本 康弘 上杉 正樹 遠藤 暁 大河内 博 勝見 尚也 久保 謙哉 小池 裕也 末岡 晃紀 鈴木 正敏 鈴木 健嗣 高瀬 つぎ子 高橋 賢臣 張 子見 中井 泉 長尾 誠也 森口 祐一 谷田貝 亜紀代 横山 明彦 吉田 剛 吉村 崇 渡邊 明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

日本地球惑星科学連合および日本放射化学会を中心とした研究グループにより、福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質の陸域での大規模な調査が2011年6月に実施された。事故より5年が経過した2016年、その調査結果をふまえ放射性物質の移行過程の解明および現在の汚染状況の把握を目的として、福島県の帰還困難区域を中心として、100箇所で空間線量の測定と土壌の採取のフィールド実験を行い[1]、同時に計27箇所で土壌コア試料を採取した。本発表では、このコア土壌試料について分析を行ったので、その結果を報告する。土壌採取は円筒状の専用の採土器を用いて行い、ヘラを用いて採取地点で2.5 cmごとに土壌を切り取って個別にチャック付き袋に保管した。採取地点により、土壌は深さ20-30 cmのものが得られた。土壌を自然乾燥してからよく撹拌し、石や植物片を取り除いたのちにU8容器へ高さ3 cmに充填した。ゲルマニウム半導体検出器を用いてガンマ線測定し、土壌中の放射性セシウム濃度を定量した。なお、各場所で採取した試料のうち最低でも1試料は、採取地点ごとに放射性セシウム比(134Cs/137Cs)を決定するために、高統計の測定を行った。深度ごとの測定から、放射性セシウムは土壌深部への以降が見られているものの、その濃度は深度と共に指数関数的に減少していることが分かった。一方で土壌深部への以降の様子は土壌採取地点により大きく異なることが分かった。また、本研究の結果は同一地点で表層5 cmまでの土壌を採取して得た結果ともよく整合した[1]。[1] K. Ninomiya et. al., Proceedings of the 13th Workshop on Environmental Radioactivity 2017-6 (2017) 31-34.
著者
脇山 義史 恩田 裕一 ゴロソフ ヴァレンティン コノプレフ アレクセイ 五十嵐 康記 高瀬 つぎ子
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

浜通り北部を流れる新田川では、原発事故により上流域に比較的多量の137Csが沈着した。一方で、その下流域には市街地や農地が存在するため、この河川を通じた137Csの移動を把握することは地域住民の安全を担保するうえで重要な課題である。本報告では、新田川流域における137Cs動態の把握を目的として行った、浮遊土砂の137Cs濃度変化の観測結果を示す。観測は支流である比曽川(蕨平地点)、新田川上流(野手上北地点)、新田川下流(鮭川橋地点)に浮遊土砂サンプラーを設置して2014年7月から行っている。観測初期(2014年7~12月)の浮遊土砂の137Cs濃度は、それぞれ28.3、13.4, 17.5 kBq kg-1であったのに対して、2017年後半(2017年5月~10月)には、それぞれ11.9、6.8、5.9 kBq kg-1まで低下していた。137Cs濃度の時間変化傾向は、事故からの経過時間を変数とする指数関数によってあらわされた。これらの137Cs濃度の時間変化を表す式によって推定される値と実測の137Cs濃度の差は、浮遊土砂のFe2O3の割合が高いほど大きいという傾向が見られた。さらに、2016年8月、2017年10月の台風接近時に野手上北において採取した浮遊土砂の137Cs濃度は、水位上昇時において水位低下時により高いという結果が得られた。一方で、2016年8月の台風時に下流域の新田橋地点で採取した浮遊土砂の137Cs濃度は水位のピーク時に最も高い値を示した。これらの結果は土砂の供給源の違いが浮遊土砂サンプラーによる各観測期間の137Cs濃度変動に影響していることを示唆している。今後、浮遊土砂の粒径や元素組成の測定結果を踏まえて、137Cs流出プロセスを考察する予定である。
著者
福田 美保 青野 辰雄 Zheng Jian 石丸 隆 神田 穣太
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

After the accident at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station (FDNPS) happened in March 2011, large amounts of radionuclides released from the FDNPS into the terrestrial and marine environments. The total amounts of 134Cs and 137Cs released from the accident were estimated as 18 PBq and 15 PBq, respectively. In contrast, those of 238Pu, 239Pu and 240Pu amounts were estimated as 0.0019 PBq, 0.0000032 PBq and 0.0000032 PBq and these amounts were not many compared to abundance before the accident (Report of Japan government to the IAEA Ministerial Conference on Nuclear safety, 2011). Based on the Pu atom ratio, it was estimated that the release of Pu from the accident was negligible in the marine environment (Bu et al., 2015). However, previous reports focused on the river (Evard et al., 2014) and offshore area (e.g. Zheng et al., 2012, Bu et al., 2013, 2015) and the lack of information on the distribution and behavior of plutonium in the estuarine area hampered the understanding of the process of radionuclide transport from river to ocean. In this study, the Niida River estuary was focused on, because the upstream portion of this river is located in Iidate Village, which was an area of high radiocaeasium deposition from the accident. We discussed temporal and vertical distributions of radiocaeasium and plutonium based on the results of the radiocesium (134Cs, 137Cs) and plutonium (239Pu, 240Pu, 241Pu) activity concentrations and plutonium atom ratios (240Pu/239Pu, 241Pu/239Pu) according to grain size in sediments.Sediment core samples at three monitoring stations (NR1: 37°39' N, 141°04' E, water depth: 25 m, NR2: 37°41' N, 141°09' E, water depth: 30 m, NR4: 37°38' N, 141°08' E, water depth: 35 m) were collected in mid-October 2013. Collected sediment cores were cut into 1 cm thick slices and dried. Then, the dried sediments were separated into four classes, based on grain sizes, using several mesh sizes: granules (grain size larger than 2 mm); very coarse to coarse sand particles (1-2 mm); coarse to very fine sand particles (0.063-1 mm); and silt to clay particles (smaller than 0.063 mm). Radiocesium (134Cs and 137Cs) activities were measured for each grain size class using high-purity gamma ray spectrometry and then corrected to the sampling date. Plutonium (239Pu, 240Pu and 241Pu) were extracted and concentrated based on Wang et al. (2017) and measured using SF-ICP-MS (Zheng et al., 2006; Zheng, 2015).Fractions for the classes of granules, very coarse sand, coarse to very fine sand, silt to clay particles were: 0.0-35%, 0.013-35%, 38-99%, and 0.0-29%, respectively. The fractions for coarse to very fine sand particles represented more than 70% of the total particle amount for each sediment layer and the highest fractions were obtained at NR1 and NR2, which are located northward from the river estuary. In contrast, fractions for granules and very coarse sand particle at NR4, which is located in an area of the same latitude as the river estuary, were relatively high and the total fraction for these particles ranged from 20-62 %. The 137Cs activities for very coarse sand, coarse to very fine sand, and silt to clay particles were in the ranges of 2.8-14 Bq/kg-dry, 4.1-751 Bq/kg-dry, and 731-837 Bq/kg-dry, respectively, and these activity concentrations tended to be higher with decreasing grain size. However, the profile patterns for the sand particles and silt to clay particles fraction were similar. In this presentation, we also report the results of grain-size distributions of Pu activity concentration and Pu atom ratio. This work was partially supported by Grants-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas, the Ministry of Education Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), Japan (Nos. 24110004, 24110005), the JSPS KAKENHI (grant number JP17k00537) and Research and Development to Radiological Sciences in Fukushima Prefecture.
著者
乙坂 重嘉 福田 美保 青野 辰雄
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

In the coastal region of Fukushima, 137Cs concentration which is higher than before the accident is detected from the seabed even though the concentration in seawater has declined sufficiently. From this fact, it is pointed out that seabed sediment can be a source of radiocesium to coastal areas. In this study, behavior of dissolved radiocesium near the seafloor is discussed from the distributions of 137Cs in seawater, seabed sediment and pore water collected from the area around Fukushima. Between October 2015 and September 2017, seawater and surface (0~10 cm) sediments were collected at 17 stations at 1.5~105 km away from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Seawater was collected at the surface layer (0~3 m depth), intermediate layer (5 m above the seabed), and the layer immediately on the seabed (overlying layer with 0.3 m in thickness). At four stations, pore water in sediment was also collected. The 137Cs concentration in seawater and sediment was measured by gamma-ray spectrometry. The 137Cs concentration in the overlying water ranged from 5 to 283 mBq L-1, and was 2~3 times higher than that in the intermediate layer water. The 137Cs concentration in the pore water was 33~1166 mBq L-1, which was 10~40 times higher than that in the overlying water. The 137Cs concentration in the overlying water did not show clear differences regardless of the pore size (0.45 μm, 0.2 μm and 1 kDa) of the filter used for filtration. From these results, it was confirmed that radiocesium in the seabed sediment was "dissolved" in pore water and diffused to the benthic layer. The 137Cs abundance in the pore water in the surface sediment corresponded to 0.1~0.6% of the 137Cs existing in the solid phase of sediment. At most stations, the 137Cs concentrations in the overlying water and the pore water were approximately proportional to those in the sediment. The apparent distribution coefficient between pore water and sediment was [0.9-4.2]×102 L kg-1, with no difference depending on the year of sampling. These results indicated that equilibrium of 137Cs between pore water and sediment has established in a relatively short period. From the above-mentioned results and kinetic parameters such as 137Cs desorption rate from sediment obtained from laboratory experiments, we estimated the mass balance of 137Cs in the sediments and the overlying water along the coast of Fukushima. The results showed that the 137Cs in the sediment was reduced by about 4~9% per year by desorption/diffusion of 137Cs from the seabed. This rate was lower than the reduction rate of 137Cs in sediments (~29%) observed in this region, and it was estimated that this process was not the main factor of decreasing the 137Cs inventory in sediments. In addition, as of 2017, since the 137Cs concentration presumed to migrate to benthos via the pore water will not exceed the regulatory limit of fishery products, the impact of supply to the benthic environment of 137Cs is considered to be limited.
著者
猪股 弥生 青山 道夫 濱島 靖典 山田 正俊
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

The 137Cs derived from the Fukushima Nuclear Power Plant Accident (FNPP1-137Cs) rapidly transported to the Sea of Japan several years after its release to the environment in March 2011. The inflow of FNPP1-137Cs had started in 2012 and reached to the maximum in 2015/2016, and has been still continued in the coastal site of Sea of Japan in the year of 2016. In the south of the Japanese islands, the FNPP1-137Cs activity concentrations showed subsurface peak in the seawater of which density correspond to the Subtropical Mode Water (STMW). These suggests that FNPP1-137Cs injected into the western North Pacific Ocean at south of Kuroshio were subducted into the ocean interior just after the accident, then transported southward/southwestward. A part of FNPP1-137Cs in STMW reaches the western boundary at lower latitudes, and obducted from under the Kuroshio, and is transported to the west of Kyushu by Tsushima Warm Current bifurcated from the Kuroshio. This pathway might be new finding of transport process from the western North Pacific Ocean to the SOJ. Almost same value of the 134Cs/137Cs activity ratio in the coastal region of the Japanese islands (ECS, SOJ, and south of the Japanese islands in the western north Pacific Ocean) also support this circulation route. The integrated amount of FNPP1- 137Cs entered in the SOJ until 2016 was estimated to be 0.20±0.023 PBq, which corresponds to 4.8 % of the total amount of FNPP1-137Cs in the STMW. The integrated amount of FNPP1-137Cs back to the North Pacific Ocean through the Tsugaru Straight in the surface layer was 0.081±0.005 Bq, which corresponds to 1.9 % of the total amount of FNPP1-137Cs in the STMW.
著者
遠田 晋次
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2017年7月に経済産業省資源エネルギー庁によって高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する「科学的特性マップ」が提示された.国民に地層処分のしくみや我が国の地下深部の地質環境等について理解を深めてもらうために,地域の科学的特性を全国地図の形で示したものである.発表者は2013年10月から日本活断層学会の推薦で地層処分技術WGに委員として参加し,主として活断層評価の観点から同マップ作成に関わった.本発表では同検討過程で考えてきたこと,特に今後地層処分が具体化していくまでに解決しなければならない活断層評価の課題を2つ示したい.1)プロセスゾーンは本当に断層長の1/100で良いのか. 「科学的特性マップ」はあくまでも,既存の全国データに基づき一定の要件・基準にしたがって客観的に整理し,200万分の1の全国地図の形に示したものである.活断層の評価に関しては,断層変位による処分場の破壊を避ける観点から,活断層の近傍が「好ましくない要件・基準」になるが,その回避距離は,基本的に断層破砕帯の概念をさらに広くしたプロセスゾーン(process zone)を基本としている.このプロセスゾーンは,断層長の100分の1程度(断層の両側の合計)におさまるとされており(Vermilye and Scholz, 1998, JGR),「科学的特性マップ」でもその基準を採用している.しかし,意外にも200万分の1の日本全国マップにすると活断層長の1/100の断層幅は無視できるほど小さい.特にA4サイズ1枚に収めると,長大な中央構造線活断層系などを除くと,ほぼ無視できるレベルになり,「回避すべき」要素としての活断層は,火山活動などに比べるとそれほど影響が大きくない.しかし,今後,文献調査,概要調査とスケールアップするに進むにつれて,この回避ゾーンが重要な問題となってくるのは明らかだ.特に,著者が懸念していることは,断層先端の進展速度である.少なくとも,断層先端にまで同様のプロセスゾーン概念を適用できないだろう.例えば,遠田ほか(2017,地震学会秋季大会要旨)は熊本地震で阿蘇カルデラ内にまで伸張した布田川断層帯先端の末端成長速度を33-190 mm/年と見積もった.Aso-4噴火のカルデラ形成で布田川断層が断ち切られるという仮定が入るが,10万年換算で断層先端が3―19kmも成長する.布田川断層の断層長から評価される数100mよりも1オーダー以上大きい.少なくとも,10万年程度を視野に入れた断層成長速度や発達過程に関しては,研究・議論が十分とはいえない.2)伏在断層の問題 M7前後の内陸地震は必ずしも既知の主要活断層で発生しない.これは,C級活断層問題(浅田,1991,活断層研究),短い活断層の評価(例えば,島崎,2008,活断層研究)として,地震の長期評価の課題として取り上げられてきた.実際に,活断層分布から予測されるM7以上の地震数よりも,1923年以降に観測された地震数が2倍程度多いことが示されている(遠田,2013,地質学雑誌).そのため,地震ハザード評価では,長さ20km程度の断層が地下に多数伏在しているか,その一部がわずかに短い活断層として地表に出現していることを前提とした検討が進んできた.地層処分においても伏在断層問題を避けては通れない.また,熊本地震では,干渉SARなどにより震源断層外での多数の誘発断層変位が報告されている.他の内陸地震でも同様の報告が多く,受動変位も含めた小中規模の断層の実態を解明する必要がある.さらに,1)の断層成長速度とも絡んで,今後サイト候補地周辺に伏在する活断層を検出する探査技術と断層成長の可能性まで含めた評価法を確立する必要がある.
著者
森 済
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

阿蘇カルデラは、カルデラ中央を西南西-東北東方向に国土地理院の一等水準路線が貫いている。10点余りの一等水準点がカルデラ内にあり、1893年以来の水準測量データがある。カルデラ中央部を含めた上下変動を100年以上にわたって直接見ることのできる、わが国では唯一のカルデラである。また、20世紀末の1990年代から整備された国土地理院のGNSS連続観測点(電子基準点)が3点もカルデラ内に置かれており、1997年4月以降、カルデラ内の上下変動が、3点で連続的に観測できるというわが国で最も恵まれたカルデラである。1893年以来5回(他の4回は、1941年、1964年、1988年、2003年)行われている一等水準測量のデータから、100年間余の上下変動について検討した。その結果、1941年以降カルデラ内の水準点が、カルデラ外の点に対して沈降していることがわかった。1941年以降の20世紀は、長期的な沈降傾向にあり、地下深部からのマグマの供給等カルデラ噴火につながるような現象は無いと考えられる。公開されている九州中部の国土地理院GNSS連続観測点(Geonet点)の日々の座標値(F3値)を用いて、2016年熊本地震前までの、阿蘇カルデラ内の観測点の上下変動の時間変化を検討してみた。なお、熊本地震以降の変動については、地震時の変動および余効変動が顕著であり、カルデラ内の3点でも向きや量が異なり、評価が困難なので、今回は議論から除外した。その結果、1998年以降熊本地震発生前までは、阿蘇カルデラ内および九重山付近のGeonet点は、その他の周辺のGeonet 点と比較して、沈降量がおおきく、沈降傾向にあることがわかった。すなわち、阿蘇カルデラは、20世紀末以降、沈降傾向が継続している。地理院の一等水準測量とGNSSによる阿蘇カルデラの上下変動の結果から、20世紀以降2016年熊本地震前までは沈降傾向にあることがわかった。したがって、20世紀以降の阿蘇カルデラは、地下深部からの新たなマグマの供給は無く、カルデラ規模のマグマ溜りの成長も起きていない。つまり、長期的に見てカルデラ噴火の可能性はほとんど無いと言える。
著者
白濱 吉起 宮下 由香里 亀高 正男 杉田 匠平
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2016年熊本地震に伴い,布田川・日奈久断層帯に沿って地表地震断層が出現した.地震断層は従来推定されていた布田川区間の北端を約4 km越え,阿蘇カルデラ内東部にまで及んだ.阿蘇カルデラ内に出現した地震断層は,立野付近から北東南西走向の右横ずれ変位を主体とするトレースと,東西走向の上下変位主体のトレースに分岐する.この内,東西方向の地震断層は濁川左岸の地溝帯に沿って断続的にやや左ステップしながら約2.5 km続く様子が確認された.この地溝帯が熊本地震のような断層活動によって形成された変動地形であるとすれば,地表地震断層が活断層である可能性が示唆される.そこで我々は,九州大学からの委託業務「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」の一環として,新しく阿蘇カルデラ内に現れた地表地震断層が活断層であるか否か,また,活断層である場合はその活動履歴を明らかにすることを目的に,熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽沢津野地区においてトレンチ調査を実施した.掘削地点は立野地区から2 km東の2~4 mの崖に挟まれた地溝内に位置する.そこでは,地構内の平坦地を利用した水田に,幅20~30 mでほぼ並走する東西走向の二本の地表地震断層が確認された.南側のトレースは北落ち,北側のトレースは南落ちを示し,地形と調和的に中央部分が落ち込む様子が見られた.トレンチ掘削前にボーリング調査を行ったところ,地溝外のコアでは地下7~8 mで草千里ヶ浜降下軽石層(Kpfa)が見られたのに対し,地構内では地表から約16 m下で見られた.この深度の差は地形的な落差と比べると明らかに大きく,累積的な沈降が示唆された.そこで,南北の地震断層トレースを横切りつつ,導水管を避けるように,長さ34 m,幅7 m,深さ4 mのトレンチをクランク状に掘削した.壁面には地表地震断層につながる断層と,地層の変形が明瞭に確認された.地層は主に阿蘇火山を起源とするローム層で構成され,河川性堆積物は見られなかった.また,地層中には年代指標となる鬼界-アカホヤ火山灰,姶良Tn火山灰,Kpfaといった広域テフラが確認されるとともに,弥生土器が出土した.断層はトレンチ北側では南傾斜,南側では北傾斜を示した.地層は断層に近づくに従って緩やかに撓み下がり,その撓みに伴う開口亀裂が多数生じていた.断層で上下に地層が食い違うとともに,いくつかの層準では断層を境に地層の厚さが増しており,変位の累積が見られた.これらの観察結果と14C年代測定結果を元に,約3万年前以降の活動履歴の推定を行った.発表では本トレンチが示す活動履歴について議論する.
著者
吉岡 敏和
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

おおいた豊後大野ジオパークでは,2016年4月の熊本地震の後,2017年には豊後大野市朝地町綿田地区における地すべりや,9月の台風18号による水害など,多くの自然災害に見舞われた.本ジオパーク内のサイトについても,熊本地震に伴って轟橋基部の柱状節理が崩落したほか,台風18号の際に白山渓谷の轟木橋が損壊するなど,いくつかの直接的被害があった.このような自然災害は,サイトの保全という観点からは損害をもたらすものでしかない.しかしながら,そもそも自然災害は地質現象そのものであり,本ジオパークのメインテーマである阿蘇火砕流にしても,もしそこに人類が生活していれば,壊滅的な被害をもたらした巨大災害になっていたことは間違いない.また,火砕流堆積物を谷が浸食し,滝や断崖絶壁といった景勝地が形成されたのも,度重なる洪水や斜面崩落などの積み重ねでしかない.さらに,深い谷と激流を克服しようとして造られたアーチ式石橋や,断崖を利用して彫られた磨崖仏なども,このような地質学的,地形学的現象の産物と言うことができよう.これまでの防災教育は,どちらかと言えば危険の周知や避難・備蓄の推奨などが中心で,災害発生メカニズムやその背景となる地質・地形環境についての啓発活動は,十分になされてきたとは言い難い.そのような中で,ジオパーク活動を進めることによって,住民一人一人が自分達の住む地域がどのように形成されたかに関心を持ち,住民自らによる災害の予測や災害時の的確な行動につながることが期待できる.おおいた豊後大野ジオパークでは,今後もシンポジウムや講演会などを通じて,地域の地質・地形をより深く理解するための活動を推進していきたいと考えている.
著者
関澤 偲温 中村 尚 小坂 優
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Variability of convective activity over the Maritime Continent (MC) influences climatic condition over East Asia via atmospheric teleconnections, through which SST variability such as ENSO is considered to provide seasonal predictability. In boreal winter, interannual variability of convection is centered around Indonesia and northern Australia, representing significant variability in the Australian summer monsoon (AUSM). Through an analysis of observational data, we show that interannual variability of austral summertime precipitation over northern Australia is hardly driven by tropical SST variability and is dominated by the internal variability of AUSM. Our analysis suggests that anomalously active AUSM sustains itself by inducing anomalous low-level westerlies over the eastern Indian Ocean and enhancing surface evaporation and moisture inflow into northern Australia. Anomalous AUSM activity is associated with distinct wavetrain pattern from the MC toward the extratropical North Pacific with dipolar pressure anomalies resembling the Western Pacific pattern. This teleconnection modulates the East Asian winter monsoon and exerts a significant impact on wintertime temperature and precipitation especially in Japan and Korea. This study reveals that interannual variability of the AUSM, which is unforced locally or remotely by tropical SST variability, substantially limits seasonal predictability in wintertime East Asia.
著者
小橋 拓司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

本報告では、自然地理教育に関わってきた立場から、2022年度から実施予定の「地理総合」について紹介し、具体的内容を検討することを目的としている。具体的には、(1)地理教育における自然地理教育の現状を紹介し、その比重がかなり低いこととその理由を明らかにする。(2)地理総合を考えるにあたり、「持続可能な社会づくり」という観点が重要であることを指摘する。(3)「防災教育」を事例として、授業実践を報告する。以上のことを踏まえ、地理総合をみんなでつくりあげていく意義に触れたい。
著者
勝間田 明男 中田 健嗣 藤田 健一 田中 昌之 西宮 隆仁 小林 昭夫 吉田 康宏
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

1998年7月にパプアニューギニアにおいて発生したMw 7.0の地震の後に10mを超える津波が沿岸に押し寄せ、この津波により2,200名を超える犠牲者が出ている(Tappin et al., 2008).この津波は,地震の規模に比べて高すぎること,津波の発生が地震の発生よりも10分ほど遅れているとみられること,海底地形において地すべりを起こしたとみられる場所が確認されていることなどから,海底地すべりが発生源であるとみられている(例えば,Tappin et al., 1999; Synolakis et al., 2002).通常の地震による津波の場合には,地震計で記録される地震波が警戒の最初のトリガとなることが多い.しかし,この1998年のパプアニューギニアのような事例が発生した場合には,地震波から予測される規模の津波には備えるものの,それを超える規模の津波への警戒は通常なされない.もし,海底地すべりが地震計で捉えられるならば,この種の津波に備えることが可能となる.以前の調査(勝間田・他, 2016)に,調査対象の観測点の追加,理論波形の再検討を行ったので報告する. 海底地すべりが発生した地点から900km離れた場所にPMG観測点がある.PMG観測点の地震データをIRISより入手し,0.2秒から50秒までの様々な帯域のフィルターを施して特異な信号有無を確認したが,直前のMw 7.0の地震の後続波の振幅を超える特別な相は確認されなかった.PMG観測点において,海底地すべりに対応した相が確認できないことはSynolakis et al.(2002)によって既に指摘されている.東京大学地震研究所の海半球観測研究センターにPMGよりも更に地すべり地点に近いJAY観測点(約150km)のデータがアーカイブされている.JAY観測点のデータについても確認したが,顕著は相は確認されなかった. Watts et al. (2003)の津波発生源モデルによると,この規模の津波を発生させることができる地すべりは長さ4.5km,幅5km,厚さ760m(半楕円体)の規模のものであった.それが傾斜角12度の下で特性時間32秒の地すべりを起こしたとされる.地すべりが進行している時にはそれまで摩擦力で支えられていた地塊が加速度運動をしていると考えられる.それ以前に地塊を支えていた力が減ずるのでその分の地面に加わる力が変化したと考えられる.その力を,密度(2.15×103kg/m3)×体積(9 km3)×加速度(0.36m/s2)として見積もると7×1012Nとなる.この程度の力が作用したと仮定した場合の理論波形をTakeo (1985)により計算した.震源時間関数として数十秒程度の継続時間のものをいくつか仮定してみた.その結果,理論波形は直前の地震の後続波に比べて同程度以下の振幅にしかならず,理論波形からみても地すべりにる地震波は検知可能レベル未満であると見積もられた(図).海底地すべりによる津波の検知には,沖合い津波計のような別の手段が望まれる.謝辞IRIS及び東京大学地震研究所海半球観測研究センターに保管されていた地震記録を用いた.理論地震波形の計算にTakeo (1985)を用いた.
著者
遠藤 邦彦 石綿 しげ子 堀 伸三郎 上杉 陽 杉中 佑輔 須貝 俊彦 鈴木 毅彦 中山 俊雄 大里 重人 野口 真利江 近藤 玲介 竹村 貴人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

近年誰でも使うことができる地下データ(=ボーリング柱状図)が多数公開されるようになった.そのデータの密度は数年前とは比較にならない.またそれらを解析するツールも整っている.本研究は,東京23区内を中心に数万本余のボーリングデータを活用しつつ,その上に多くの地形・地質データなどアナログのデータを重ね合わせ,従来の点の情報を線,面に発展させることを目指す.地形の解析についても,国土地理院の5mのDEMを活用してQ-GISによって解析し,1mコンターのレベルで地形区分を見直した.こうした様々な情報を総合して,主に東京の台地部の中・後期更新世以降の地下構造を解明し,従来の諸知見(貝塚,1964;植木・酒井,2007ほか)を発展させることを目的とする.ボーリング資料の解析は,一定の深度を持つボーリング地点が集中する主要道路路線沿いに検討を進めた.環状路線:環八(笹目通り)・中杉通りと延長・環七・環六(山手通り)・環五(明治通り)・不忍通り、王子-中野通り,外苑西・東通り.放射状路線:桜田通り・目黒通り・首都高3号線(玉川通り)・青梅街道・新青梅街道・甲州街道(晴海通り)・川越街道・春日通り17号・小田急線-千代田線・世田谷通り・舎人ライナー・新幹線・ほかの合計30路線余について断面図を作成した.さらに,東京港地区(オールコア検討地区),中央区-港区沿岸低地,多摩川河口-羽田周辺,板橋区北部,赤羽台地~上野-本郷に伏在する化石谷などは短い多数の断面図を作成して,詳細な検討を加えた.以上の検討から見えてくるものは以下の通りである.遠藤(2017)は東京の台地部の従来の武蔵野面の範囲に,淀橋台と同様の残丘が存在するため、板橋区南部に大山面の存在を提唱した.その後の検討では大山面以外にも同様の残丘が和光市(加藤,1993)など各所に存在する.東京層は淀橋台や荏原台をはじめとし上記残丘のS面全域と,武蔵野扇状地面(M1,M2,M3面) の地下全域に存在し,基底部に東京礫層を持ちN値4~10程度の海成泥層が卓越する谷埋め状の下部層と,海成砂層を主体に泥質部を挟む上部層からなり,その中間付近に中間礫層を持つ.中間礫層は北部ほど発達がよい.さらに,埋積谷の周辺では広い波食面を形成し,貝殻混じりの砂礫層が波食面を覆うことが少なくない.基底礫と波食礫では年代を異にすると考えられるが,谷底か波食面上かに関わらず便宜的に基底部に存在する礫・砂礫層を東京礫層と呼ぶ.東京層はMIS6からMIS5.5に至るものと考えている.また,沿岸部の築地一帯~皇居・六本木周辺には東京層の1つ前のサイクルの築地層が高まりをなしており,東京層の谷はこれを挟んで、北側(神田~春日)と南側(品川~大井町)に分かれる.これらはほぼ現在の神田川の谷や目黒川の谷に沿う傾向がある.なお,大山面の地下に伏在する埋積谷は池袋付近から北に向かい,荒川低地付近では-20m以下となる.荏原台など,東京の南部では上総層群の泥岩が東京礫層の直下にみられることが多い.礫層は薄くなる傾向がある.東京最南部の東京層に相当する世田谷層(東京都,1999;村田ほか,2007)の谷は多摩川の低地に続く.東京層の泥層の分布はMIS5.5の時代にどこまで海進が達したかの参考になる.甲州街道沿いでは桜上水~八幡山あたりで武蔵野礫層によって切られて不明となる.青梅街道沿いでは荻窪のやや東方で武蔵野礫層によって切られているが,ともに旧汀線に近いものと予想できる.淀橋台相当面やその残丘の分布は,武蔵野扇状地の発達過程で重要な役割を果たしてきた.武蔵野扇状地の本体をなすM1a(小平)面(岡ほか,1971;植木・酒井,2007)は淀橋台と大山残丘群の間を抜けて東に向かった.目黒台(M1b面)は以前から指摘されている通り,淀橋台と荏原台の間を通り抜けた.現在の石神井川に沿ってM1a面の北側に分布するM2a(石神井)面は大山面と,赤塚~成増~和光付近の残丘群の間をぬけて東に流れた.M1a面の南側に分布するM2a(仙川)面は荏原台と田園調布台の間を通りぬけ流下した.北側の黒目川沿いのM2c, d面は,赤塚~成増~和光の残丘群を避けるように北向きに流れた.さらにM3面が多摩川下流部や赤羽台付近に形成された.M2,M3面は海水準の低下に応答したものと思われる.引用文献:貝塚(1964)東京の自然史.;植木・酒井(2007)青梅図幅;遠藤(2017)日本の沖積層:改訂版,冨山房インターナショナル;加藤(1993)関東の四紀18;東京都(1999)大深度地下地盤図;村田ほか(2007)地学雑誌,116;岡・ほか(1971)地質ニュース,206
著者
松崎 太郎 前薗 大聖 山中 千博
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

大地震の先行現象として、地震発生の直前約40~50分前に震源上空の電離圏において総電子数(TEC)の異常が発生していることが、1994年から2017年までのM8を超える11以上の地震で報告されている(Heki, 2011)。一般にTEC異常は、磁気嵐や大規模伝搬性電離圏擾乱(LSTID)など太陽活動を起源としていることが多く、このほか大気重力波などの高層大気の力学的影響があることが知られている。しかし、地震の直前に見られるTEC異常は、震源上空に固定される局所的なもので、全地球的に影響を及ぼす宇宙起源のTEC異常やLSTIDとは区別することができる。さらに2011年に発生した東北沖太平洋地震では、震源の磁気共役点である北部オーストラリアで、同時にTEC異常が発生したことが確認されており(Heki, 2018)、これらの観測結果から一連の現象は、大気力学的なものというより、地震に先行する電磁気現象と考えられる。一つの仮説として、震央付近で臨界的な圧力が加わることによって、地殻中にマクロスケールな電気分極が発生し、分極による誘導電場と地球磁場によって電離層に影響を与えていることが考えられる。地殻中における圧力誘起分極として、ケイ酸塩鉱物中の過酸化架橋構造における正孔励起説(Freund, 2006)があり、地震前のTEC異常が観測される約40分の間、持続的に電荷を発生することができる点で注目されている。本研究では、応力印加による分極現象における正孔の移動・拡散による寄与を調べるために、極めて良い絶縁体である高純度のMgOセラミックスを用い、最大10MPaの一軸圧縮下で応力誘起電流値の変動を室温で計測した。結果として、ケイ酸塩鉱物と同様に、数ピコアンペア程度の応力誘起電流を観測できた。発表では、正孔移動の温度・吸水率依存性、および岩石データとの比較を行った上で、実験から得られた電流値を実際の地殻スケールで概算し、TECへの影響について議論する。
著者
澁谷 孝希 尾﨑 麟太郎 井浦 瑞葵 太田 真衣佳
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

長野県松本市女鳥羽川周辺の地質調査により堆積岩のたまねぎ状風化を発見した。水平に堆積した砂や泥の層が風化の過程でたまねぎ状になっていくことを不思議に思い研究を始めた。現地調査・掘削、モデル実験、Feイオン量の測定実験を行った結果に基づいて、以下のように物理的風化と化学的風化の相互作用によって形成されると考察した。1.地層に水平方向と鉛直方向の節理が生じ、そこから水が入って最外殻ができる。2.外側から内側に向かって皮の層ができる。3.2の時に、Feイオンが岩石内の鉱物から水に溶けて溶脱し皮の部分に集まる。外側の(古い)皮は、水が多く流れたためにFeイオンも皮の外へ流出する。