著者
林 謙一郎 新田 朋子
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.17, 2003

青森県下北半島,恐山地熱地帯には,シリカシンター(珪華)が広範に分布している.湧出する熱水には硫酸酸性型,中性塩化物重炭酸型,中性塩化物型などが報告され,それぞれのタイプで酸素・水素同位体比が異なることが知られている(Aoki, 1992).同位体比の解析から現在の熱水の起源は主に天水で,これに様々な割合でマグマ水起源物質が添加していると考えられてきた.ここでは熱水から沈殿したシリカシンターの酸素同位体比を層序ごとに調べることにより,一連のシンターが生成する間に熱水の起源がどのように変遷してきたかを検討したので報告する.<BR> 本研究では一連のシンターとしては最も厚く,層厚約1.3 mを有するものを検討した.このシンターの生成期間については明らかではない.産状の特徴から,下部層と上部層に区分できる.下部層は厚さ約1 mで,赤や黄色に着色した縞状構造が特徴で,ストロマトライト状の組織を有する部分も存在する.上部層は厚さ約30 cmで白色を呈する1 mm程度の薄層の互層からなる.シンターはまれに外来岩片を伴うが大半は熱水から沈殿したシリカ鉱物のみから成り,X線粉末回折の結果は上部層はopal-Aのみから,また下部層はopal-Aおよびopal-CTの両者から構成されている.<BR> シリカ鉱物の酸素同位体比は通常のレーザー加熱五フッ化臭素法によった.酸素同位体比(&delta;<SUP>18</SUP>O<SUB>SMOW</SUB>)は下部層では概ね+20から+25 &permil;で,上部程重くなる傾向がある.上部層は+25から+30 &permil;で上部に向かい連続的に同位体比が軽くなっている.シリカ鉱物の酸素同位体比は,それを沈殿させた水の酸素同位体比と熱水の温度に支配されているであろう.シリカ鉱物が水と同位体的に平衡になった時の温度として1) 熱水貯留層中の温度(220℃),2) 地表でシリカが沈殿した温度(現在の地表での実測値は96℃)の両者の可能性が考えられる.貯留層中の温度を仮定した場合,熱水の同位体比の計算値は+10から+20 &permil;となり,高温火山ガスあるいはマグマ水の同位体比として考えられる値よりもはるかに大きく,このような組成の熱水の存在は現実的ではない.従ってここでは熱水が地表に噴出した時の温度が,シンターの酸素同位体比を決定していると考えた.非晶質シリカー水間の同位体分配係数を用いて求められた熱水の酸素同位体比は,天水よりも最大12.5 &permil;重い.このことから熱水の酸素同位体比は天水と高温火山ガスの中間にあり,時代とともに両者の割合は変動するが,最近は高温ガスの影響がより強くなっているように思われる.
著者
川添 貴章 大谷 栄治
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.62, 2004

1.はじめに現在、初期地球における集積とそれにともなう地球中心核の形成過程を総合的に理解するモデルとして、深いマグマオーシャンのモデルが広く受け入れられている。まず微惑星の集積によって初期地球が成長すると同時に、その衝突エネルギーによって地球表層が熔融しマグマオーシャンを形成した。その中において熔融した金属鉄がマグマから分離し、原始マントルを沈降して核を形成した。その沈降する過程において熔融した金属鉄はマグマもしくは原始マントル鉱物と元素の分配反応をしたと考えられ、その反応の痕跡はマントル組成に見られる。Fe、Ni、Coはマントル存在度をMgで規格化してCIコンドライト組成と比較すると約10分の1に枯渇している。この枯渇の要因を高温高圧下における熔融金属鉄とマグマもしくは原始マントル鉱物との分配から説明し、マグマオーシャン底部の条件を見積もる研究が行われてきた。マグマオーシャンの深さ・その底部の温度を見積もることは集積・核形成についてだけでなく、固化過程を含めた冥王代の地球の姿を解き明かすためにも非常に重要なものである。本研究では28 GPa、2400 Kにおいて熔融金属鉄と原始マントルを構成したと考えられるMg-ペロヴスカイト、マグネシオヴスタイト間のFe、Ni、Coの分配係数とそれに与える酸素分圧の効果について研究を行った。2.実験方法高圧発生装置には東北大学設置の川井型3000 tonプレスを用いた。二段目アンビルには先端サイズ2.0 mmのタングステンカーバイド製のものを用いた。試料は目標圧力である28 GPaまで加圧した後、圧力媒体内部に組み込んだReヒーターを用いて加熱し、2400 Kで30分から2時間保持し急冷した。脱圧・回収した後、波長分散型EPMAによって組成分析を行った。3.結果と議論分配係数にはFe、Ni、Coの熔融金属鉄とMg-ペロヴスカイト、マグネシオヴスタイト中の重量分率の比を用いた。熔融金属鉄とMg-ペロヴスカイト間の分配係数はNiについて81-161、Coについて41-83、Feについて10.8-35.6であり、熔融金属鉄とマグネシオヴスタイト間の分配係数はNiについて11.3-23.2、Coについて8.1-16.2、Feについて3.1-6.4であった。酸素分圧の増加にともないそれぞれの分配係数は減少した。求められた分配係数から見積もられるマントル存在度と実際のマントル存在度を比較・検討すると、マグマオーシャンの深さは約1500 km(50 GPa)であったことが考えられる.
著者
三浦 保範
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.72, 2005

1)石英とカリ長石からなる急冷コロナ組織の三種類が、高松香川地区の地下の破砕岩(610m)から発見された。2)カリ長石(rim)と石英・長石ガラスからの沸石(core)のコロナ組織は、複合的"coronas in coronas"を示す。3) コアの部分が流動的になって、埋没時に沸石化して変質している。4) 花崗岩のメルトした鉱物がコロナ組織の骨格を形成している。5) コロナ組織の鉱物は、火山岩や塩基性岩の組成が混入せず、衝突時に混入した組成(炭素)が多量に含まれている。5)これらは、高松・香川地域の埋没衝突孔が花崗岩の衝突急冷でできたことを示している。
著者
香内 晃
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.1, 2003

1.はじめに<br> 隕石中のいわゆるプレソーラーダイヤモンドの特徴は次の通りである:i) 同位体異常を示すXeが含まれる,ii) SiCやグラファイトより2-3桁多量に存在する,iii)しかし,炭素同位体はsolarである.これまでにいくつかのモデルが提案されているが,以上の3つの特徴をすべて説明できるモデルは存在しておらず,ダイヤモンドの形成機構はいまだによく分かっていない.そこで,星間分子雲から隕石母天体への進化過程で起こりうる有機物の生成・変成過程を再現する実験を行った.<br>2.実験<br> 本研究では,次の2つの実験を行った:1)分子雲中での氷(H<SUB>2</SUB>O:CO:NH<SUB>3</SUB>:CH<SUB>4</SUB>=4:2:2:1)への紫外線照射による有機物の生成と,その有機物が低密度雲でさらに10<SUP>5</SUP>年紫外線照射を受ける過程を再現する実験,および,2)分子雲有機物が炭素質隕石母天体に取り込まれた後に起こる,水質変成・熱変成を再現する実験.<br>3.結果<br> 1)分子雲で生成された有機物は,電子線回折ではハローパターンを示すが,高分解能電子顕微鏡観察では1 nm程度のダイヤモンド微結晶(または,ダイヤモンド前駆体)とグラファイトの存在が明らかになった.さらに,低密度雲でのさらなる紫外線照射によりダイヤモンドが5 nm程度まで成長することがわかった. <br>2)分子雲有機物の炭素質隕石母天体での水質変成(100-200<SUP>o</SUP>C)および熱変成(200-400<SUP>o</SUP>C)により,ダイヤモンド,グラファイト,アモルファスカーボン,カルビンが形成されることが明らかになった.<br>4.議論<br> 隕石中のいわゆるプレソーラーダイヤモンドは炭素星や超新星起源ではなく,星間雲起源だと考えるとこれまで問題になっている以下の事を無理なく説明できる:i)SiCやグラファイトより2-3桁多量に存在することは当然である,ii) 炭素同位体も太陽系と同じ物質からできたので同じで当然である,iii) 超新星起源のXeが星間雲の有機物に打ち込まれ,これがダイヤモンドに取り込まれた.また,プレソーラーダイヤモンドに起源の異なるものがあることや,彗星起源の惑星間塵は小惑星起源の惑星間塵と比べてダイヤモンドの含有率が低いことは,プレソーラーダイヤモンドの一部が隕石母天体で形成された可能性を示唆する.
著者
矢内 桂三 野田 賢 Byambaa C. Borchuluun D. Munkhbat T. Baljinnjam L.
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.22, 2003

ジャルナシ(Jalanash,モンゴル名Nuzhgen)隕石はモンゴル国(モンゴル人民共和国,Mongolian Peopleユs Republic)に近年落下した隕石で,同国で回収された隕石6個のうちの1個である.ジャルナシ隕石は1990年8月15日14:00頃西モンゴルのウルゲイ(Olgiy, 49°N, 90°E)に落下したもので,落下直後同地の遊牧民により回収された.当時1個以上が落下したと言われているが回収した隕石の総重量は約1kgで,現在はその本体約700gが研究されることなく,West Mongolian Museumに保管されている.1994年11月にジャルナシ隕石の一部を入手できたので,本隕石の種類,鉱物組み合わせと組織,及び全化学組成等について概要を報告する.ジャルナシ隕石は粗粒,塊状で非常に脆いが落下直後に回収されたためきわめて新鮮である.構成鉱物は主に粗粒カンラン石とピジョン輝石からなり,鉱物粒子間を炭素質物質が埋める典型的なユレイライトである.Fe-Ni金属鉄も粒間に多量に生じている.金属鉄は珪酸塩鉱物のFe成分が炭素により還元され生じたものであろう.鉱物組成は非常に均質でカンラン石(平均Fo80.6, 最大値Fo79-80の間,組成巾 Fo91.8-78.6),ピジョン輝石(平均En75.1Fs17.2Wo7.7; 組成巾 En75.8-74.3Fs17.9-16.6Wo8.3-7.1).主化学組成はSiO2 39%,TiO2 0.08%,Al2O3 0.9%,FeO 16.2%,MnO 0.5%,MgO 38.3%,CaO 0.82%,Na2O 0.09%,Cr2O3 0.7%,FeS 0.8%, Fe 2.1%,Ni 0.1%,Co<30ppmである.南極産ユレイライト12個と比較検討したと結果,組織はいずれのものとも異なっているが,鉱物組成はALH-78019及びALH-78262ユレーライト隕石に類似していることが明らかになった.
著者
根建 心具 榊 施祝 新妻 祥子 小玉 一人 掛川 武
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.77-77, 2004

表記ピルバラクラトンには太古代後期のMt Roe basaltは広く分布し、一部の地域の玄武岩には絹雲母-パイロフィライト変質帯が発達する。玄武岩噴出の直後の浅海で熱水変質作用が起こったと考えられる。本研究では、未風化のコアを使って玄武岩およびその変質帯の残留磁気を調べた。玄武岩の一部は安定な逆帯磁を保有していると考えられ580℃付近でキューリー点に達する。熱水変質を被った岩石の残留磁気は不安定で、抽出された安定成分も正帯磁と逆帯磁に分かれる。これらの測定結果から、1)Mt Roe玄武岩は磁鉄鉱系に属し、2.77Gaの地殻の一部は酸化的になっていた可能性がある。2)Mt Roe玄武岩噴出時、ピルバラ地域が現在と同じ南半球にあったとすれば地球ダイナモが働き、地球の磁場が逆転していた。このことは2.8Ga頃から地球の磁場強度が増加したとする説と調和的である。3)変質帯の岩石磁気が不安定で方位が一定しない理由は、変質作用の時期と性質が多様であるためか、後期の200∼300℃の広域変成作用によってそれぞれの磁性鉱物が特有の磁気的変化を起こしたためと考えられる。
著者
飯田 康夫 奥山 康子 豊 遙秋 青木 正博 春名 誠
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.69-69, 2005

ラマン分光法は,赤外分光法とともに,分子や結晶の振動状態に関する情報をもたらす,振動分光法であり,物質の同定などを通して,鉱物学や岩石学においても有用な研究手段になると考えられる.著者らは,鉱物と人工的な無機物質のラマンスペクトル・データベースを構築してきた.2005年7月現在,無機化合物597件,鉱物580件について,ラマン・スペクトルのデータを蓄積している.スペクトルのデータは,産総研研究情報公開データベース(RIO-DB)制度によって,ネットワーク公開している.
著者
山口 佳昭 原田 英男 太田 靖
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.3-3, 2004

日本の中部地域では,太平洋プレートの沈み込みの深度が増加すると(> およそ160 Km,浅間火山(天仁噴火),妙高火山,北アルプスの白馬風吹岳,立山火山,雲の平火山),高K2Oマグマバッチが生成する.高K2Oマグマバッチの証拠が,次のように示される.1)アブサロカイト-ショショナイト組成の高K2Oメルト包有物がカンラン石や単斜輝石の斑晶中に捕獲されている.2)火山岩の石基が不均質である.隠微晶質のアノーソクレース-カリ長石と高K2Oガラスで構成される高K2Oバッチ(領域)が見いだされる. こうした高K2Oマグマバッチの証拠は,私たちが調べた限りでは,東北日本-関東の火山フロント(樽前火山,クッタラ火山,有珠火山,岩手火山,那須火山など)や 伊豆-箱根(富士,箱根,三宅島など)の火山の噴出物からはまったく見いだされず,太平洋プレートの沈み込みの深い地域の火山に限られる.この高K2Oバッチは,背弧側に向かうマグマ(全岩組成)の系統的なK2Oの増加に寄与していると期待する.