著者
岡野 英之
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F09, 2023 (Released:2023-06-19)

隣国ミャンマーで2021年にクーデターが発生して以降、A国には大量の「難民」が流れ込んできた。本発表で指摘するのは、A国の国境地帯のある町が構造的な汚職によってミャンマー難民にとっての「アジール空間」となっていることである。この空間はミャンマーの民主派勢力にとって対外拠点として機能している一方、外部世界とつながるチャンネルとして機能している。
著者
岡野 英之
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.019-038, 2019 (Released:2019-09-04)
参考文献数
37

アフリカ諸国の紛争を扱った政治人類学および政治学の研究において、社会の統治過程に見られるパトロン=クライアント関係の分析は重要な課題の1つとなってきた。これらの議論では、パトロンとクライアントとの間に取り結ばれるインフォーマルな人間関係が統治のツールとなっているという理解が前提となっている。政治学ではパトロン=クライアント関係に対して議会制民主主義と官僚制が対置され、両者を導入することにより、統治の場からパトロン=クライアント関係を払拭できると考えられる。では、官僚制や民主主義が組織運営に導入されると、パトロン=クライアント関係を支えるモラリティは失われるのだろうか。本稿では、内戦後のシエラレオネでバイクタクシー業を統括する全国規模の職業団体「全国商業モーターバイクライダー協会」(以降、「全国バイク協会」と略称する)を取り上げ、その日常業務について考察する。内戦末期に隆盛したバイクタクシー業では、その管理・運営においてある種のパトロン=クライアント関係が重要な役割を果たした。しかし、民主主義と官僚制に基づく組織運営を求める国際社会の潮流ともあいまって、全国バイク協会が設立される際には、官僚制的な仕組みや役員選挙制度が導入された。ただし、これによって従来のパトロン=クライアント関係が払拭されたというわけではない。ライダーたちは、官僚的で非人格的な業務を行うべきである執行役員に対してクライアントシップをもって接する。それに対して執行役員もパトロンシップをもって応えようとする。全国バイク協会の日常的な活動から見えてくるのは、執行役員がパトロン=クライアント関係のモラリティと官僚制のロジックの両者を翻訳しながらライダーとの関係性を築いていることである。
著者
今井 宏平 岡野 英之 廣瀬 陽子 青山 弘之
出版者
独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究では、国家をもたない世界最大の民族と言われ、イラク、イラン、シリア、トルコに跨って居住しているクルド人に注目し、クルド人の非政府主体が現在の国際秩序に与えるインパクトを検討した。本研究は研究目的達成のために実証分析と理論分析の2段階で検証を行った。実証分析に関しては、クルド人の活動に関する詳細な分析、そして武装組織の実態、紛争解決に向けた手段、そして紛争後の和解に至るプロセスに関する分析を行なってきた。また、国際関係論、政治学、社会学の理論もしくは概念を実証研究のために掘り下げた。本研究の最終的な成果が『クルド問題:非国家主体の可能性と限界』(岩波書店、2022年2月)である。
著者
岡野 英之
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.19-38, 2019

<p>アフリカ諸国の紛争を扱った政治人類学および政治学の研究において、社会の統治過程に見られるパトロン=クライアント関係の分析は重要な課題の1つとなってきた。これらの議論では、パトロンとクライアントとの間に取り結ばれるインフォーマルな人間関係が統治のツールとなっているという理解が前提となっている。政治学ではパトロン=クライアント関係に対して議会制民主主義と官僚制が対置され、両者を導入することにより、統治の場からパトロン=クライアント関係を払拭できると考えられる。では、官僚制や民主主義が組織運営に導入されると、パトロン=クライアント関係を支えるモラリティは失われるのだろうか。本稿では、内戦後のシエラレオネでバイクタクシー業を統括する全国規模の職業団体「全国商業モーターバイクライダー協会」(以降、「全国バイク協会」と略称する)を取り上げ、その日常業務について考察する。内戦末期に隆盛したバイクタクシー業では、その管理・運営においてある種のパトロン=クライアント関係が重要な役割を果たした。しかし、民主主義と官僚制に基づく組織運営を求める国際社会の潮流ともあいまって、全国バイク協会が設立される際には、官僚制的な仕組みや役員選挙制度が導入された。ただし、これによって従来のパトロン=クライアント関係が払拭されたというわけではない。ライダーたちは、官僚的で非人格的な業務を行うべきである執行役員に対してクライアントシップをもって接する。それに対して執行役員もパトロンシップをもって応えようとする。全国バイク協会の日常的な活動から見えてくるのは、執行役員がパトロン=クライアント関係のモラリティと官僚制のロジックの両者を翻訳しながらライダーとの関係性を築いていることである。</p>
著者
岡野 英之
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

■エボラ禍により渡航できず、代わりに北欧アフリカ研究所で客員研究員として滞在した■平成26年度はリベリア、シエラレオネがエボラ出血熱の災禍に巻き込まれたため渡航できず研究が十分に進まなかった。渡航予定であった期間、および、現地調査費用を流用する形で北欧アフリカ研究所(Nordic Africa Institute)で二か月間客員研究員をし、現地の研究者と交流を行った。■3つの口頭発表を行った■本年度の研究成果の口頭発表は三本ある。日本アフリカ学会での発表は、シエラレオネ人難民で内戦下のリベリアへと逃げざるを得なかった人々の経験を紹介することで、武装勢力の統治下で人々がいかなる暮らしをしているのかについて発表した。また、国際人類学民族誌学連合(International Union of Anthropology and Ethnographic Sciences: IUAES)の発表では、武装勢力の幹部がいかに人脈を用いて活動を展開しているのかを明らかにした。さらに、京都大学がカメルーンで12月に開催した国際会議では、元司令官が紛争後に部隊のコネクションを通じて新しいビジネスに乗り出していることを明らかにした。■本研究プロジェクトの成果の一部を書籍として発表した■2015年2月に昭和堂から『アフリカの内戦と武装勢力―シエラレオネにみる人脈ネットワークの生成と変容―』を上梓した。本書は、シエラレオネの内戦の動きを中心に、研究成果をまとめたものである。