著者
荻野 雅
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.50-62, 2001-05-15 (Released:2017-07-01)
参考文献数
18
被引用文献数
4

本研究は、現在の精神科病棟文化を記述し、その構造を明らかにし、その文化をより治療的な文化に変化させるために、看護が果たす役割を示唆することが目的である。本研究の理論的枠組としてはBionの集団理論を用いた。研究方法には参加観察法を用いた。研究の対象となった病棟は、公立精排り丙院、民間精神病院のそれぞれ1病棟、総合病院の精神科病棟の3病棟である。分析は、データ収集と同時に行われ、まず、病棟の社会的文脈を明らかにし、その文脈を持って、データから意味づけできる文化の最小単位を抽出し、精神力動論的視点からそれらのつながりを構成しなおした。その結果、得られた精神科病棟文化について、その構造を検討し看護の果たす役割について考察した。本研究の結果、以下の結論が得られた。(1)精神科病棟文化を構成する要素として、病棟の目標、病棟メンバーが共有する信念、情緒とその現れである行動様式、病棟の一連の体系の4つが明らかになった。(2)精神科病棟文化の共通する構造として、各病棟の目標を達成しようとする動き、つまり患者の自立を目指した治療や看護の活動は、患者やスタッフが共有する信念や情緒により妨げられ、病棟の一連の体系はその二つの間の葛藤を回避する形で作り出されていくことが明らかとなった。その結果、一方で患者の自立を目指していながら、一方で患者の依存を満たすところが共通してみられた。(3)治療的環境を整えるための看護者の役割として、まず、病棟文化の構造を理解することが必要である。また看護婦は集団の中に普遍的に生じるリーダーを求める情緒を理解し、その上で病棟リーダーとしての機能を果たすことが必要である。最後に、看護婦は患者たちが病棟集団に投影している不安を緩和するために、患者同士の交流を高めそこから得られる集団の力を用いることが必要であると考えられた。
著者
谷本 桂
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.21-31, 2006-05
被引用文献数
1

入院患者からの暴力の被害に対する支援のあり方を検討するために、実際に暴力の被害を受けた14名の精神科看護師を対象として、主観的体験の時間的変化を面接調査し、質的に分析した。分析の結果として被害を受けた直後では、人格の否定・安全への脅威・患者との信頼関係の破綻といった否定的感情が生じ、対象者の心の傷となっていた。周囲の人々の無関心な対応や気遣いのない対応は否定的感情を、迅速な介入には肯定的感情を抱いていた。対処では安全確保や患者との関係修復を目指していた。それに対して時間を経過した後では、暴力エピソードの意味づけを行ない、心の傷を癒していたと考えられた。他に、否定的感情の処理も行っていたが、処理しきれずに持ち続けることもあった。また、被害者の周囲の人々の対応の良し悪しが心の傷の回復に影響を与えていることも明らかになった。
著者
黒髪 恵
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.21-30, 2013-11-30

本研究の目的は,精神疾患を持つ人の生活の変化の実態と変化のきっかけとなった出来事を統合して退院後地域の中でどのように生活が変化してきたかを明らかにすることである.地域活動支援センターの利用者11名に半構造化面接を実施した.生活の変化のプロセスとして,退院直後は[エネルギーの消耗による活動の抑制]の生活を送るが,エネルギーが回復し主治医の後押しによって[規則正しい生活を試行する]何らかの要因によって生活が不規則になると[疲労・焦りと症状の悪化]し[活動をいったん停止してみる]生活になっていた.その後,[拠りどころのない生活から脱却したいという思いと周囲の後押し]や[自己コントロールできると感じる]ことで再び活動の場を得て[規則正しい生活を施行する]に戻っていた.さらに[過去の体験を意味付けする]や[自己価値を高めようとする]ことで[活動の変化と発展][活動を変化させずに維持する][今の活動をステップアップの途上と捉える]という生活になっていた.
著者
武井 麻子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.28-34, 1992-06-15
被引用文献数
1

精神科治療においては最近さかんに議論されるようになってきたインフォムード・コンセントを徹底させることが困難な事例かおる。ある激しい拒絶的な患者を受け持った看護学生がスタッフの患者への対応を批判したことから、スタッフは看護方針の見直しを図ることになった。次に受け持った看護学生は同じ患者と良い関係を持つことができたが、患者が「どうしてもっと強くやってくれないのか。無理やりやられるのが好き」と語ったことから、一方的に見える患者-看護婦関係の患者側の問題が明らかになった。批判した学生も患者から拒絶され、患者の隠されたニードに気がつかなかったほどショックを受けていたのである。実習の場で学生が現場のやり方を告発することは、臨床の質を高める契機にもなるが、スタッフ側の問題だけでなく、患者の病理、学生の問題を指導者は掴んでおく必要がある。
著者
寳田 穂 武井 麻子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.32-41, 2005-05
被引用文献数
3

背景:各国で薬物乱用・依存に関する問題は深刻であるが、日本も例外ではない。しかし日本において、薬物依存症者への看護の意義や限界は明らかになっていない。目的:薬物依存症で精神科病院へ1回の入院を体験した人の語りを通して、入院体験の様相を描き出し、入院中の看護の意義・限界を明らかにする。方法:半構造化インタビューによる帰納的研究。5名の語りを再構成し分析した。結果及び考察:入院前、対象者は恐怖と孤立無援感の中で切羽詰まった状況にあった。入院によって、精神症状や身体状態は改善したが、処方薬や他の患者・スタッフとの関係で苦痛を体験していた。しかし、怒りや苦痛を最初から表現しなかったり、「仕方ない」と諦めた対象者が多く、孤立無援感は癒されていなかった。薬物依存症での初めての入院においては、「安全感」の回復と、「人間的つながり」の提供が必要であろう。
著者
宮島 直子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.116-127, 2010-06-30

本研究の目的は,統合失調症患者の手記から,発症前エピソードを生活の視点で抽出し,その概要を記述することである.手記を研究対象とすることは,研究に関わるプライバシーの問題を解決するとともに当事者に詳細に尋ねることによる過重なストレスを与えない方法として,有効と考えた.研究の手順および分析方法は,まず手記から発症前生活エピソードが記述されている文章をすべて抜き出し,一文を一データとした.次にデータは,意味内容から抽象度を上げコード化し,それぞれのコードは類似性を基にカテゴリー化した.そして得られたカテゴリーの関連性を検討し,カテゴリーについての説明可能な軸を抽出した.結果として,9冊の手記から3,401のデータを得た.データから138の二次コードを抽出し,それらは13のカテゴリーに分類できた.そして,それらのカテゴリーは6つの軸で説明することができた.軸は,【対人関係をめぐる苦痛】【認識の歪み】【的外れな対処】【状況把握の困難】【日常生活上の障壁】【仮面の生活】であった.【状況把握の困難】は,人間の言動の根幹に影響を与え,他のすべての軸に関連する中核的存在とみなすことができた.それぞれの軸について,過去の文献と比較検討し,その妥当性を確認した.
著者
藤本 浩一 川口 優子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.103-112, 2008-05

本研究は統合失調症であると知った当事者の主観的体験を明らかにし、提供できる看護援助を検討することを目的とした。統合失調症者6名に半構成的面接を行い、その体験を質的帰納的に分析した。分析は1)統合失調症であると知った方法について、2)知ったときの思いについて、3)知ってからの対処について、4)家族との話し合いについて、5)看護師に期待すること、の5つの視点に基づいて行った。結果の分析より、統合失調症であると知った当事者は多様な感情を抱き、それに対する対処を行っていた。また呼称変更後も統合失調症であることを隠したい思いを抱いていた。以上から看護者は個々の当事者を取り巻く環境と対処について理解し、当事者の病いの受容のレベルに合わせた看護実践を行うことが重要であることが示唆された。