著者
藤本 浩一 川口 優子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.103-112, 2008 (Released:2017-07-01)
参考文献数
12
被引用文献数
2

本研究は統合失調症であると知った当事者の主観的体験を明らかにし、提供できる看護援助を検討することを目的とした。統合失調症者6名に半構成的面接を行い、その体験を質的帰納的に分析した。分析は1)統合失調症であると知った方法について、2)知ったときの思いについて、3)知ってからの対処について、4)家族との話し合いについて、5)看護師に期待すること、の5つの視点に基づいて行った。結果の分析より、統合失調症であると知った当事者は多様な感情を抱き、それに対する対処を行っていた。また呼称変更後も統合失調症であることを隠したい思いを抱いていた。以上から看護者は個々の当事者を取り巻く環境と対処について理解し、当事者の病いの受容のレベルに合わせた看護実践を行うことが重要であることが示唆された。
著者
山元 恵子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.104-113, 2009-05-31 (Released:2017-07-01)
参考文献数
9
被引用文献数
4

本研究の目的は、地域でライフワーク活動を続けている統合失調症者その人の誕生から現在に至るまでの体験と病の回復過程を明らかにし構造化し、その人のどのような力が回復のために働き、どのような状況が必要なのか解釈を行うことを目的とするものである。研究方法は対象者3名に半構造化面接を実施しKJ法を用いた。結果は、共通要素として対象者は夢や希望を持ち、自己実現のために自ら活動を行い、最終段階で「居場所と生きがいの発見」をし、揺るがないものとして獲得していた。その過程においてA氏、D氏は、発病前から持っていた「自己感覚」を大切にしながら回復に向けて意識的に自己を統合していることが見いだせた(自力型回復プロセスの構造)。E氏は幼少時から周囲の環境の影響を受けて成長し発病したが、発病当初より「自己感覚」はE氏に内在しており、後に周囲の援助により「自己統合力」を効果的に発揮できるようになった(受動型回復プロセスの構造)。これらの研究結果は当事者には回復過程を歩むための道標となり、援助者にはその人の回復過程を考慮した援助や工夫を促すものとなると考える。
著者
糸島 弘和 井上 幸子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.11-20, 2017-11-30 (Released:2018-11-30)
参考文献数
27

緒言:精神障害者が地域生活を継続するためには居場所が必要であると言われている.本研究は,精神障害者が感じる居場所感が地域定着や社会参加への関心に関連しているかどうかを明らかにすることを目的に実施した.方法:A県内の通所施設を利用する精神障害者を対象に,自記式あるいは聞き取りで調査票への回答を依頼し,231名よりデータを収集した.独立変数を居場所感,従属変数を社会参加への関心とし,ロジスティック回帰分析を用いてオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した.結果:精神障害者の居場所感が高いことは,社会参加への関心が高いことに有意に関連しており,調整モデルでも同様の結果であった(OR 1.34, CI 1.20–1.49).居場所感尺度の3つの下位尺度は,いずれも社会参加への関心と関連があった.結論:精神障害者の社会参加への関心を高めるためには,居場所感を高める支援が有効であることが示唆された.
著者
原田 浩二 森山 美知子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.31-39, 2013-11-30 (Released:2017-07-01)
被引用文献数
1

本研究は,飲酒者の飲酒理由や節酒に向けた介入に抵抗を示す理由を明らかにすることを目的に,男性飲酒者12人にグループインタビューを実施し,データを質的に分析した.その結果,飲酒者は「飲酒することに人生の価値」があり,飲酒のための努力は惜しまない傾向にあった.そして価値は容易に歪められないので「節酒に対する意図的な無関心」や「飲酒することの正当化」が認められた.節酒への介入に対しては,節酒効果を体感しにくい上,自分の人生の価値の否定につながるので抵抗を示した.しかし飲酒者は,健康被害によって飲酒ができなくなると人生の価値を示されなくなるから,節酒が「酒と長く付き合いができる」,「いつまでも飲み続けられる」という目的であれば,節酒介入への抵抗は少なくなった.そこで節酒に向けた介入を実施する者は,飲酒者の人生の価値を理解することが基本姿勢として重要であることが示唆された.
著者
川口 優子 西本 美和 三木 智津子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.45-52, 2004-05-31 (Released:2017-07-01)
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究の目的は、単身の統合失調症者に対して訪問看護師が具体的にどのような援助を実践しているのか、訪問看護における援助内容と看護技法を検討することである。対象は精神科訪問看護師4名(女性3名、男性1名)と、利用者5名(女性2名、男性3名)である。研究者が訪問看護に同行して参加観察を行い、許可を得て場面を録音した。全体で10回の訪問場面の録音を逐語録にし、観察事項を加えた記録を作成し分析した。その結果、訪問看護師の援助内容として、1)現在の生活の維持・向上 2)他機関・他職種との連携 3)治療・看護の継続として3つのカテゴリーを抽出した。看護師が直接手を出す援助を実際的援助として7つのカテゴリーを、援助時のかかわり方を看護技法として8つのカテゴリーを抽出した。そして精神科訪問看護師の特徴的な看護技法を提示した。
著者
玉里 久美
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.58-67, 2013-11-30 (Released:2017-07-01)

本研究の目的は,社会復帰途上にある慢性統合失調症患者にとって,看護師が傾聴することの意義とその様相を明らかにすることである.慢性統合失調症患者10名を対象に,看護師による傾聴について半構成的面接を行い,KJ法の原則手順に従って質的記述的に分析した.その様相は,4つの段階的な構造を示し,【聴いてもらいたい欲求に歯止めをかける要因】,【聴いてもらえると思う看護師の見極め】,【聴いてもらおうとする行動を促進させる要因】,【真意を語れることを左右する聴かれ方】の4つが導かれた.この4つ目の段階においては,《心がほぐれるような聴かれ方》と《接線的ズレのある聴かれ方》に分類された.患者がとらえた傾聴の意義は,4つ目の段階の《心がほぐれるような聴かれ方》から発展し,【精神症状の中に混在する心のメッセージを汲み取ってもらえた安堵感】,【将来の生き方を模索する苦悩の共有感】,【聴いてもらえた過程で芽生えてきた看護師への信頼感】の3つが抽出された.結果から,看護師の傾聴の仕方によって意思表示を可能にし,患者の自己成長のきっかけに繋がることが示唆された.
著者
五十嵐 透子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-13, 2000
参考文献数
35

本稿は、看護教育におけるタッチング教育についての研究報告である。タッチングは、ナースとクライエント間の非言語的コミュニケーションにおいて極めて重要な位置を占め、看護における対人関係の質を決定する一要因であるといわれている。しかし、タッチング教育に関する報告はほとんどみられない。今回、看護教育の1つに非言語的コミュニケーション技術としてタッチングを加え、4年制教育の3年次の成人・高齢者学内演習の1つとして行なった。対象は、本演習ならびに成人・母性臨地実習受講者の66名(女性65名、男性1名)であった。 タッチング演習は、(1)講義、(2)ロールプレイ、(3)ロールプレイのビデオを通したディスカッションと再体験学習の3つの段階で構成した。教育効果は演習終了後に提出したレポートの内容および演習後に行なわれた臨地実習におけるタッチングの実施状況により評価した。タッチングは看護介入の1つである気づきやタッチングの提供者と受け手の間における感じ方の違いなど9つの意識化か得られた。また、実習中に95%の対象は思いやりや励ましを含んだ情動的タッチングを行ない、94%の対象がタッチング演習を肯定的に評価していた。タッチング教育において、タッチングに関する学生の個別的嗜好とタッチングの実施との関連性におけるさらなる研究の必要性と既存のタッチング理論の追加要素および多面的側面からのタッチング教育の研究の必要性などが示唆された。
著者
寳田 穂 武井 麻子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.32-41, 2005 (Released:2017-07-01)
参考文献数
13
被引用文献数
3

背景:各国で薬物乱用・依存に関する問題は深刻であるが、日本も例外ではない。しかし日本において、薬物依存症者への看護の意義や限界は明らかになっていない。目的:薬物依存症で精神科病院へ1回の入院を体験した人の語りを通して、入院体験の様相を描き出し、入院中の看護の意義・限界を明らかにする。方法:半構造化インタビューによる帰納的研究。5名の語りを再構成し分析した。結果及び考察:入院前、対象者は恐怖と孤立無援感の中で切羽詰まった状況にあった。入院によって、精神症状や身体状態は改善したが、処方薬や他の患者・スタッフとの関係で苦痛を体験していた。しかし、怒りや苦痛を最初から表現しなかったり、「仕方ない」と諦めた対象者が多く、孤立無援感は癒されていなかった。薬物依存症での初めての入院においては、「安全感」の回復と、「人間的つながり」の提供が必要であろう。
著者
梅崎 みどり 富岡 美佳 國方 弘子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.39-48, 2013-06-10 (Released:2017-07-01)
参考文献数
15

本研究は,妊娠期および産後における産後うつ病発症予防のための看護介入の実態を明らかにすることを目的とした.方法は,一県内の産科を有する91施設に無記名自記式質問紙調査を行った.調査内容は,対象施設の概要,産後うつ病発症の把握の実態,妊娠期からの産後うつ病発症予防に関する取り組み,産褥期の産後うつ病発症予防に関する取り組みとした.結果,産後うつ病発症予防のための看護介入は積極的に行われているとはいえない施設の状況が明らかになった.しかし他方で産後うつ病予防のために妊娠中からの取り組みをしている施設の取り組み内容は積極的であり,産後うつ病発症予防のための退院指導を実施している施設の指導内容もきめ細かいものであった.つまり,産後うつ病発症予防のための看護介入は施設間格差があった.今後,産後うつ病発症予防のための看護介入を施設間に広く波及させる必要があるとともに,産後うつ病発症予防のための妊娠期および産後の支援システムの構築による介入が重要である.
著者
宇佐美 しおり 中山 洋子 野末 聖香 藤井 美香 大井 美樹
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.70-80, 2014

本研究は,退院後早期の再入院予防のための急性期治療病棟および退院後のケアを明らかにすることを目的とした.入院中,退院後の看護ケアを疾病ごとに抽出し,質的な内容分析を行った.ケア対象者である患者の平均年齢は47.4歳,発病からの期間は11.5年であった.ケア提供者である看護師は24名で平均年齢41.1歳,看護師の平均経験年数14.5年,精神科看護の平均経験年数は,10.2年であった.分析の結果,統合失調症,気分障害患者双方に抽出された看護ケアは,<退院後の安定した生活を意識しリソースを活性化する><地域生活を維持するために必要な在宅での安全・安心なケアを提供する>で,統合失調症患者には症状管理やセルフケアの獲得支援に関する支援が,気分障害患者には,うつ状態に関する自己理解を促進する支援が行われていた.本研究結果から,退院後早期の再入院予防のためには,急性期入院治療中から退院後まで継続的な症状の自己管理支援,危機時の速やかな介入,多職種による有機的連携強化が重要であることが示唆された.また,退院後3か月未満で再入院した患者と再入院しなかった患者の入院中の看護ケアの違いは見いだせなかった.すなわち,患者のこれまでの入院の仕方・地域での生活の仕方,患者の疾患,再入院の理由などを理解した個別的な看護ケアが十分に展開されているとはいえず,この区別が課題として残された.