著者
岩本 祐一 藤野 成美
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.60-69, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
41

目的:精神科看護師が経験した慢性期統合失調症患者の予測困難な自殺から,入院中における慢性期統合失調症患者の自殺のリスク判断に必要な視点を明らかにする.方法:慢性期統合失調症患者の予測困難な自殺を経験した精神科病棟に勤務する看護師10名を対象に,自殺の経験に関する内容について半構成的面接を行った.また,得られたデータは質的記述的に分析した.結果:慢性期統合失調症患者の自殺を経験した精神科看護師が考える慢性期統合失調症患者の自殺のリスク判断に必要な視点は,【潜在化した精神症状】,【精神運動興奮への移行】,【患者の特有な感覚】,【患者-看護師関係の長期化に伴う弊害】であった.結論:精神科看護師が,【患者-看護師関係の長期化に伴う弊害】を中核とした慢性期統合失調症患の自殺のリスク判断に必要な視点をもつ事で,慢性期統合失調症患者の自殺の予防や効果的な支援に繋がると考える.
著者
清水 惠子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.44-54, 2010-06-30 (Released:2017-07-01)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究の目的は,地域で生活する統合失調症患者のメタボリックシンドローム(以下,MS)発症に関連する要因の検討であった.対象者はA精神科病院を定期的に通院する18歳以上の統合失調症圏内で,支援を受ければ自記式調査票に答えられる人であった.MS状態の評価については血液検査や身体計測を実施し,生活状況および身体活動量などは筆者作成の調査票を用いた.精神機能評価や抗精神病薬に関する患者情報は,主治医より提供を受けた.分析にはSPSS15.0を用い,単純集計,t検定,χ^2検定,多重ロジスティック回帰分析を実施した.結果は,有効数男性191人,女性144人で,平均年齢は男性43.8歳,女性44.6歳であった.MS発症率は全体では22.1%,男性27.2%,女性15.3%で,ともに一般成人より有意に高かった.MS発症に関連する要因の検討では,全体と男性では「BMI」と「喫煙の傾向」がMS発症頻度を増加させ,「洗濯をする」がMS発症頻度を減少させた.女性では「BMI」がMS発症頻度を増加させ,「リスペリドン服用」がMS発症頻度を減少させる結果であった.実践への示唆として,腹部肥満の改善,家事の実行,喫煙の改善,抗精神病薬による影響のモニタリングが挙げられた.
著者
永島 佐知子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.11-20, 2006 (Released:2017-07-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究の目的は、自殺未遂をして入院してきた統合失調症者に対して、精神科臨床にある看護師がどのように思い、どのような看護援助を行っているかを明らかにし、統合失調症者の自殺行為の再発予防に向けた看護援助について検討することである。方法として、過去に自殺未遂をして入院してきた統合失調症者を看護援助したことのある看護師(精神科臨床経験が5年以上の者7名)に半構成的な面接を実施し、質的帰納的に分析した。その結果、自殺未遂をして入院してきた統合失調症者に対する看護援助は、自殺行為の再発予防に直接関連する看護援助、精神科において基本となる看護援助、日常生活の援助の3つから成り立っていた。自殺行為の再発予防に直接関連する看護援助の内容は<自殺行為の振り返り><行動化しない約束><希死念慮の有無を聞く><症状コントロールのための看護援助><衝動行為の振り返り><看護援助を行うタイミングをはかる>から成り立っていた。看護援助に影響する経験は、自殺行為に接した経験、他の看護師からの自殺に関連した看護援助の学び、精神科看護師としての経験の3つから成り立っていた。看護師が持つ思いは「怖い」「難しい」「不安」「気を遣う」などであったが、それらの思いに経験が影響し、看護援助に総合的に影響していると考えられた。研究結果の内容は、統合失調症者の自殺行為の再発予防に向けた看護としてのガイドラインになるものである。これにより、精神科看護師としての経験と看護実践能力を習得するための臨床現場や教育への視点が明らかにされた。
著者
野末 武義 野末 聖香
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.86-94, 2001-05-15 (Released:2017-07-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

ナースのアサーション(自己表現)の特徴とその関連要因を明らかにするために、ナースのアサーション(自己表現)インベントリーを作成し、質問紙調査を実施した。対象者は、4地域5ヵ所でアサーション研修に参加したナース674 名である。調査の結果、ナースの自己表現の特徴として、以下のことが明らかになった。対象者は、全般的にアサーティブであった。患者に対しては攻撃的、非主張的、アサーティブのどの自己表現もよく行っており、医師に対しては最もアサーティブでないが他の自己表現も全般的に少なかった。上司に対して非主張的であり、同僚に対してアサーティブになりにくい傾向がみられた。また、年齢が高く経験年数が長いほど、アサーティブな自己表現と攻撃的な自己表現をする傾向が強かった。これらのことから、アサーティブな自己表現のための教育は、ナースの年齢や経験に応じたプログラムを工夫すること、対象との関係や文化的背景を視野に入れて行うことが必要であることが示唆された。
著者
麦山 真純
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.1-8, 2021-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
30

本研究は,文献レビューを通して摂食障害を持つ者のリカバリープロセスを考察することを目的とした.システマティックレビューにより,摂食障害のリカバリープロセスに関連する文献16件を対象に,「研究年」「研究対象者」「研究方法」の概要と,文献内容における共通点をまとめた.その結果,「リカバリーのプロセス」「リカバリーのプロセス内の要素」に分類された.リカバリーを語る内容から,摂食障害を持つ者のリカバリーは,摂食障害を持ちながらも語れない時期から摂食障害を病いと認識し,現在の体験として語る時期を経て,摂食障害の体験を過去のものとして語る時期をたどるプロセスであると考えられた.そして,摂食障害の体験を過去のものとして語ることは,他者から認められる体験に繋がり,自己を受け入れることができた体験であると考えられた.また,摂食障害を持つ者が他者からの受容と自己を受容することは,リカバリープロセスのターニングポイントと示唆された.
著者
春日 飛鳥 清水 惠子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.63-74, 2018-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
21

研究目的は地域で生活する統合失調症患者の生活の見通しを立てる体験を明らかにすることで,デイケア通所者8名に対し,半構成的面接法を用いて質的記述的に分析を行った.地域で生活する統合失調症患者の生活の見通しの立て方には,〈生活の目標やイメージ〉に向かって,“志向の段階”“試行の段階”“行動の段階”があり,それらの各段階には〈生活の見通しに影響していることがら〉が存在していた.すなわち【精神障害に対する前向きさ】【家族や仲間の支え】【社会資源の活用】が生活の見通しを明るくし,【病気とつきあう困難さ】【厳しい現実の壁】【周囲の人との折り合いの悪さ】【日々の生活における自信のなさ】が見通しを遮り,【一日の充実感の有無】が明るくも暗くもしていた.生活の見通しを立てる支援として,支援者自身がリカバリー志向をもって当事者とともに目標達成の可能性を探り,〈生活の見通しに影響していることがら〉に介入した支援が求められた.
著者
佐藤 大輔 安保 寛明
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.42-50, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
21

目的:本研究の目的は,うつ病等による休職者が休職前に感じた症状や変化を診療録や活動記録より抽出し,休職を予期する警告サインを明らかにすることである.方法:職場を休職し,精神科医療機関で復職支援プログラムを受け,復職した方30名を対象とした.対象者の診療録およびプログラム中の活動記録より,休職前に感じた症状や変化に関する語句を収集した.収集した語句は内容分析法により類似した表現を集積し,カテゴリ化を行った.また,最も大きな分類の単位について,全体に対しての割合を算出した.結果:911語を内容類似に応じてカテゴライズした結果,休職前に生じた症状や変化としては,【気分・覚醒度への影響】は全体の33.8%(以下同様に全体割合),【身体面への影響】は20.1%,【行動への影響】は12.8%,【業務への影響】は10.5%,【認知への影響】は9.1%,【自己悲嘆による影響】は7.6%,【業務環境による影響】は5.7%,【症状の否認】は0.1%であった.結語:うつ病等による休職者の休職前に生じた警告サインが具体的に明らかになった.職場において早期介入に資する視点として活用が可能である.
著者
長田 恭子 長谷川 雅美
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-11, 2013
参考文献数
18

本研究は,自殺企団後のうつ病者を対象として,自殺に至るまでと自殺企図後の感情および状況を明らかにすることを目的とした.うつ病あるいは双極性障害で自殺未遂が原因で入院となった11名を対象にナラテイヴ・アプローチを活用した非構造化面接を行い,質的帰納的に分析した.その結果,自殺前の感情および状況として【常在する自殺念慮】【強い孤独感】【長年にわたる家族への我慢】【価値のない自分】【生への絶望感】【自殺の衝動】の6カテゴリー,自殺後の感情および状況として【死への執着】【自殺の肯定】【医療者への隠された本音】【抑うつ状態の持続】【家族からの疎外感】【先がみえない不安】【自殺念慮の緩和】【再生への意欲の芽生え】の8カテゴリーが抽出された.参加者は,自殺未遂後も【死への執着】や【自殺の肯定】を抱えており,自殺前からの不変的環境下において,容易に自殺念慮が高まる可能性があることが明らかになった.自殺未遂者に対する多職種による包括的支援の必要性が示唆された.
著者
田中 浩二
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.33-42, 2011-01-30 (Released:2017-07-01)
参考文献数
16

本研究は,精神科病院に長期入院を余儀なくされた患者が体験している生活世界を明らかにすることを目的とした質的記述的研究である.研究参加者は,精神科病院に10年以上入院している患者12名であり,参加観察と半構造的面接によりデータを収集し,質的帰納的に分析した.その結果,長期入院患者は【失ってしまったものが多く自らの存在が危うくなるような体験をしている】が,【入院前の自分らしい体験に支えられた生活】や【入院生活のなかでみつけた小さな幸せ】【病棟内から社会とのつながりを見いだそうとする工夫】【生きていくうえでの夢や希望】を拠り所に生活していることが明らかになった.長期入院患者の看護では,喪失体験に対する共感的理解とともに,その入らしい生活を送ることができるような場や人とのつながりを探求していくことが重要である.
著者
吉井 ひろ子 田嶋 長子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.30-40, 2016-11-30 (Released:2017-11-30)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究の目的は,境界性パーソナリティ障害患者の看護における精神科熟練看護師の実践内容を明らかにすることである.7施設の精神科熟練看護師10名(平均看護師経験16年・平均精神科看護経験13年)に半構造的面接を行い,KJ法での分析の結果,115個のコードの抽出から25個のサブカテゴリと6つのカテゴリに生成された.BPD看護における熟練看護師は,BPD患者病理を理解した上で,【生きづらさや本音を引き出しながら患者を理解する】といった患者受容をし,【大切に思う気持ちを伝えることで安心と励ましを届ける】ことや,【“まきこまれない”を意識しすぎず思いに共感することで信頼関係を形成】していた.また,患者に即した成長を促す目的で,【患者のありのままを受容し,セルフコントロールを支える】ことや,【患者の状況に応じて枠組みを調整したりしなかったりしながら,セルフコントロールを手伝う】こと,心理的中立の立場を遵守するために,【看護師のありのままの自分を受容し,プロ意識でセルフコントロールする】ことも含め,全般にわたってフレキシブルな対処がみてとれた.これらから,BPD看護は難しくても,患者や看護師自身のありのままを受容し,看護師の思考と行動のフレームを柔軟に変容させたりさせなかったりするフレキシブルな対処によって,心的疲弊に陥らずよいかかわりを続けることが可能になると考えられた.
著者
鎌田 ゆき 藤野 成美 古野 貴臣 藤本 裕二
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.70-79, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
23

本研究の目的は,多職種チームにおける精神障がい者アウトリーチ実践自己評価尺度を開発し,その信頼性と妥当性を検討することである.医療・福祉の専門職を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施し,199データを対象として分析を行った.探索的因子分析の結果,【多職種チーム内における支援計画の遂行】【対象者の生活機能の把握】【対象者のリカバリーに向けた支援】の3因子20項目構造となった.本尺度は,検証的因子分析において許容できるモデル適合度であり,基準関連妥当性において有意な相関がみられた.Cronbachのα係数は許容範囲であり,内的整合性を確認した.よって,本尺度における信頼性・妥当性は,統計学的に許容できる尺度であると示唆された.
著者
下原 美子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-11, 2012-06-30 (Released:2017-07-01)
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究の目的は,地域で生活をしている統合失調症患者の主観的QOLの実態と精神科訪問看護への満足度の関連を明らかにすることである。対象者はA県内の訪問看護開始から5年未満で,入退院を繰り返しているが通算2年以上の地域生活経験のある統合失調症患者30名である。生活満足度スケールと精神科訪問看護満足度質問紙を使い,面接調査を行った。また,医療記録から臨床特徴について抜粋を行い,主治医にBPRSの記載を依頼した。記述統計や分散分析,また相関係数を求めた結果,精神障害者の主観的QOLは先行研究の健常者に比べると低く,臨床特徴と精神症状は主観的QOLと関連していなかった。精神科訪問看護満足度と主観的QOLについても関連しているとはいいがたく,訪問看護へのニーズは満たされているが,地域生活をするうえでは現状に妥協をすることで生活に適応し,主観的QOLを低くしている可能性があり,精神障害者にとって,精神科訪問看護への満足度と主観的QOLは別次元のものとしてとらえられていると考えられた。
著者
中戸川 早苗 出口 禎子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.70-79, 2009-05-31 (Released:2017-07-01)
参考文献数
9

本研究の目的は、精神障害者の働く動機を支える想いを明らかにし、「働くこと」に向きあう精神障害者を支えるために、必要な支援について示唆を得ることである。地域共同作業所での参加観察およびインタビューを行い、精神障害者の働く動機を支える想いについて収集したデータを質的に分析したところ、5カテゴリーが抽出された。研究参加者は、皆【今の状態から抜け出したい】という想いから「働くこと」に向き合っていた。また、趣味や楽しみを求める【生活の張り・生活の保持】により楽しく生きられる力を獲得していた。仕事を通して成功感を感じながら【自信や誇りを得る】、【人との繋がりを取り戻したい】、【自分が変わることへの期待】で自分も人の役に立つことを再認識し、周囲の人に支えられていると感じることによって、アイデンティティの揺らぎから生じる不安を抑えていた。それらは働く動機と繋がっていた。このことからアイデンティティの揺らぎを受け止め、自己へ挑戦する気持ちに繋がる経験ができるように支援する必要性が示唆された。