著者
浅井 しほり 恒松 雄太 高西 潤 礒谷 智輝 早川 一郎 坂倉 彰 渡辺 賢二
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】担子菌は他の生物種と異なるユニークな二次代謝産物を生産する。しかしそれらの生合成機構・遺伝子についての知見は未だ十分でない。我々は担子菌の「休眠型」生合成遺伝子を利活用すべく、ウシグソヒトヨタケCoprinopsis cinerea由来グローバルレギュレーター遺伝子CclaeAを破壊し、二次代謝系の撹乱化を通じて新規化合物coprinoferrin (CPF)の獲得に成功した1。CPFはC. cinereaの菌糸成長・子実体形成を促進するシデロフォアである。その生合成酵素Cpf1(非リボソーム性ペプチド合成酵素)を含む遺伝子クラスターは多数の担子菌類で高度に保存されていたことから、CPFは単なる二次代謝産物というよりもむしろ担子菌類における普遍的な生理活性分子と考えられた。そこで本研究では、CPF生合成の分子機構解明を目指して研究を行った。【方法・結果・考察】cpf1に隣接するcpf2 (ornithine N-monooxygenase)の遺伝子破壊株を取得したところ、CPF産生が消失し、子実体形成不全の表現系を示した。一方で本破壊株にN5-hydroxy-L-ornithine (hOrn)を添加した培養条件にて上記表現型は野生株と同等ほどに復元した。以上からCpf2はhOrnを生成すると予想し、リコンビナント酵素を用いた試験にて上記を実証した。続いてCpf1による三量化反応について、想定される基質hOrnおよびN5-hexanoyl-N5-hydroxy-L-ornithine (1)を用いて活性試験を行ったところ、Cpf1は1のみを基質として受け入れ、対応する三量化化合物 (2)を与えた。現在、CPFの末端アミド構造構築機構についても新たな知見が蓄積されつつあり、本発表にて併せて報告する。1) Tsunematsu, Y. et al. Org. Lett. 2019, 21, 7582.
著者
藤岡 周助 岡 香織 河村 佳見 菰原 義弘 中條 岳志 山村 祐紀 大岩 祐基 須藤 洋一 小巻 翔平 大豆生田 夏子 櫻井 智子 清水 厚志 坊農 秀雅 富澤 一仁 山本 拓也 山田 泰広 押海 裕之 三浦 恭子
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【背景と目的】ハダカデバネズミ (Naked mole rat、 NMR) は、発がん率が非常に低い、最長寿の齧歯類である。これまでに長期の観察研究から自然発生腫瘍をほとんど形成しないことが報告されている一方、人為的な発がん誘導による腫瘍形成に抵抗性を持つかは明らかになっていない。これまでにNMRの細胞自律的な発がん耐性を示唆する機構が複数提唱されてきた。しかし、最近それとは矛盾した結果も報告されるなど、本当にNMRが強い細胞自律的な発がん耐性を持つのかは議論の的となっている。さらに腫瘍形成は、生体内で生じる炎症などの複雑な細胞間相互作用によって制御されるにも関わらず、これまでNMRの生体内におけるがん耐性機構については全く解析が行われていない。そこで、新規のNMRのがん耐性機構を明らかにするため、個体に発がん促進的な刺激を加えることで、生体内の微小環境の動態を含めたNMR特異的ながん抑制性の応答を同定し、その機構を解明することとした。【結果・考察】NMRが実験的な発がん誘導に抵抗性を持つかを明らかにするため、個体に対して発がん剤を投与した結果、NMRは132週の観察の間に1個体も腫瘍形成を認めておらず、NMRが特に並外れた発がん耐性を持つことを実験的に証明することができた。NMRの発がん耐性機構を解明するために、発がん促進的な炎症の指標の一つである免疫細胞の浸潤を評価した結果、マウスでは発がん促進的な刺激により強い免疫細胞の浸潤が引き起こされたが、NMRでは免疫細胞が有意に増加するものの絶対数の変化は微小であった。炎症経路に関与する遺伝子発現変化に着目し網羅的な遺伝子解析を行なった結果、NMRがNecroptosis経路に必須な遺伝子であるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異により、Necroptosis誘導能を欠損していることを明らかにした。【結論】本研究では、NMRが化学発がん物質を用いた2種類の実験的な発がん誘導に並外れた耐性を持つこと、その耐性メカニズムの一端としてがん促進的な炎症応答の減弱が寄与すること、またその一因としてNecroptosis経路のマスターレギュレーターであるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異によるNecrotpsosis誘導能の喪失を明らかにした。
著者
都築 啓晃 西島 孝則 岡村 勝正 尾山 廣
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】 ワサビノキ ( Moringa oleifera ) は主にモリンガと称され、インド北西のヒマラヤ山麗を原産地として熱帯地方で栽培される。日本ではスーパーフードとして栄養価について注目されることが多いが、原産地においても、葉・花・莢・種子・根などが伝統医学であるアーユルヴェーダとして利用されてきた歴史がある。しかしその一方で、薬効に関しての科学的検証は未だ限られており、今後の研究の蓄積が望まれている。そこで本研究では、ワサビノキの新規機能解明の一環として、その種子抽出物における各種評価試験を実施した。【方法】1. ワサビノキ種子をグリセリン溶液にて抽出した2. ラット肝ホモジネートを用いて、5α-リダクターゼ反応に対する阻害試験を行った3. テストステロン処置したLNCaP細胞の増殖に対する抑制作用を評価した4. 上記処置におけるprostate-specific antigenのmRNAを定量解析した5. 汚泥水 (OD600=1.5) に対する濁水浄化活性の検討を行った【結果】 ワサビノキ種子抽出物に5α-リダクターゼ反応の阻害作用をはじめ、各種の男性ホルモン活性に対する阻害作用が確認された。さらに、同素材には濁水浄化作用も観察された。【考察】 テストステロンは5α-リダクターゼによってディハイドロテストステロンに変換され、より強力な受容体リガンドとして作用する。この一連の作用機構は筋肉や骨の形成においては不可欠とされているが、その一方、過剰な男性ホルモンの活性は前立腺肥大症や若年性脱毛症の要因となることが懸念されている。今回、我々が見出したワサビノキ種子抽出物の抗アンドロゲン作用は、上記のような症例に対する対症療法の一つとなる可能性を示唆した。また近年、機能性の化学物質を高配合した洗剤・シャンプー剤などに起因する生活排水が水質汚濁を招き、環境負荷を高めているとの疑念があるが、このようなケースにおいても、水質浄化作用を備えた天然由来資源を製品開発へと利用することで、製品の消費プロセスにおける持続可能な環境負荷軽減に貢献できると考えられる。