著者
湊 信也
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.103-114, 1996
被引用文献数
4

&sigma;-座標系で書かれているプリンストン・オーシャン・モデル (POM) を使って、瀬戸内海の潮汐と高潮の数値シミュレーションを行った。潮汐のシミュレーションでは天文潮と比べて、特に振幅と位相の大域的な分布がよく合っている。高潮のシミュレーションでは、各地で観測された水位の時系列と似た計算結果が得られたが、違いもいくつか見られた。観測値との差は、海域全体にわたる海上風の詳細な分布とモデルの解像度の不足のせいであると考えられる。海上風と解像度は沿岸域の高潮を再現する上で、非線形性や3次元性よりも重要な要素である。<br> シミュレートされた各地の高潮の最大値は、3次元計算の方が2次元計算よりも最大10%程度大きかった。その理由を物理的に考察した。<br> 今回のシミュレーションでは、潮汐と高潮はほぼ独立であり、これらを別々に計算した結果の重ね合わせで、潮位が得られることがわかった。
著者
Kashiwabara Shizuo Hamada Nobuo Yamamoto Masahiro
出版者
Japan Meteorological Agency
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.153-165, 1979

地球の自由振動については,1960年のチリ地震以来,数多くの観測および解析結果が報告されている。しかし観測の歴史はまだ浅く今後さらに観測資料の蓄積が大切であろう。<BR>現在気象庁で用いている測器で地球の自由振動のような長周期地震波の解析に利用できるものとしては,松代の石英管式ひずみ計・WWSS地震計・ASRO地震計および地震課で東海・南関東地域に展開中の埋込式ひずみ計がある。これらの器械は観測期間がまだ短かいこともあって,今日までに,自由振動の観測および解析はあまり行なわれていない。このため今回,松代の石英管式ひずみ計および伊良湖・三ケ日の埋込式ひずみ計の資料を用いて1977年8月にインドネシア・スンバワ島付近に発生した地震の解析を行なった。主な結果は次のとおりである。<BR>(1)石英管式ひずみ計から<SUB>0</SUB>S<SUB>n</SUB>について29個,<SUB>1</SUB>S<SUB>n</SUB>について10個,<SUB>2</SUB>S<SUB>n</SUB>について8個,<SUB>l</SUB>T<SUB>n</SUB>について23個のモード,また埋込式ひずみ計から<SUB>0</SUB>S<SUB>n</SUB>について29個のモードの地球の自由振動周期が得られた。これらの値と今日までに求められている観測値の平均値〔Anderson・Hart(1976)による〕との差はほとんどのモードで約0.5%以内である。<BR>(2)観測から得られた地球の自由振動周期を用いて表面波の位相速度を求めた。求めたレイリ波の位相速度は,Anderson・Hartの値から求めた速度よりやや大きくなる傾向が見られた。この相違は解析した地震の波の伝播径路中に位相速度の大きい海洋的地域および盾状地的地域(Canadian・Brazilian shields)の占める比率が大きいために生じたものであろう。<BR>(3)自由振動の解に含まれる関数d<SUP>2</SUP>P<SUB>n</SUB><SUP>m</SUP>(cosθ)/dθ<SUP>2</SUP>から求めた位数の零点列と地震記録の周期解析から求めたスペクトルピークの極小を与える位数の列を比較して自由振動のデグリーを決めた。松代の石英管式ひずみ計による伸び縮み振動に対応するスペクトルを用いた場合,デグリーは0または2となる。
著者
高島 勉
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.75-81, 1983
被引用文献数
5

海からの放射の大気散乱光に及ぼす影響をadding methodに使える形で導いた。大気及び海水は水平方向に光学的に一様で、垂直方向に不均質であると仮定した。海面はCox and Munk(1956)のモデルとし、海底は黒体とした。海中の海水、hydrosol、chlorophyll 等によって散乱、反射した光は偏光を考慮した形で式を導いたが、計算例としてはRaschke (1972)のモデルをscalarで求め、衛星によって受信される反射光の強度 (0.63&mu;m: NOAA搭載AVHRR放射計の第1チャンネルの中心波長に対応) への影響として討議した。海中からの放射は天底角が小さい所で認められ、天底角が大きくなると影響がない事がわかった。偏光を考慮した計算結果は準備中です。
著者
Suyehiro Shigeji
出版者
Japan Meteorological Agency
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.459-471, 1970
被引用文献数
2

1968年十勝沖地震の余震で浦河(北大地震観測所)の広帯域広ダイナミックレンジ地震計に記録されたものを調べたところ,P波S波について高周波の波が低周波の波に比べて遅れて到着するという一見分散のような現象が見られた.さらに前震や同地域における十勝沖地震以外のものを調べた結果,次の点が明らかとなった.<BR>(1)P,Sについて高周波の波が遅れる現象は比較的遠い余震に見られる(Fig.3).<BR>(2) この遅れの時間は震央距離が増すと共に大きくなる(Fig.4).<BR>(3) この現象を示す地震の深さは0から40km以上に及び,モホ面の下を含む.<BR>(4)ただし,この現象を起す地震群の中にありながら,深さ70kmの地震は高周波の遅れを示さなかった.<BR>(5) この疑似分散を示す地震の高周波部分は大きな減衰をも受けている.<BR>(6) この現象を示す地震は三陸沖の一部に限られる.東北地方の陸上,北海道内陸部,千島列島の地震は分散現象を示さないし,また高周波の減衰も僅かである(Fig.9).<BR>以上の観測事実から,東北地方の太平洋沖に異常地域があって,クラストとマントル最上部を占めている.この異常地域内部には分散子があって高周波に迂廻を起させるのであろう.またQタイプの吸収も正常地域より大きい.この地域が日本海溝の最北端にあたり,この附近の地震の発震機構が隣接の地域と異なっていることも興味深い.最近論ぜられているテクトニックスの問題と関連あるかもしれないが,そうとしても決して簡単な機構ではあり得ない.
著者
浜田 信生
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.77-156, 1987
被引用文献数
8

長い時間スケールを持つ地震活動に対し、古い地震資料の精度の再評価による解明を試みた。まず過去60年間の地震観測の歴史を概観し、観測体制、運用状況を考察することにより、観測の精度、地震検知能力がどのように変化したかを把握した。次に観測の時間精度と震源決定精度の関係を、各時代につき実際例から調べ、古い観測資料の精度が今までの研究では、過小評価されてきたことを明らかにした。二重深発地震面、大地震の余震域の形状と本震の震源過程などについて行われている最近の解析方法が、古い地震活動についても適用可能となったばかりでなく、新たにサイスミシティの経年変化などを追跡する道が開けた。以上の結果を踏まえて、1940年代から1960年代にかけて日本列島の内陸部で発生した、主な被害地震の本震余震分布の再調査を進めた。再調査の結果から、いわゆる直下型地震の震源過程、先行地震活動や前震活動、余震活動の減衰の仕方など、今日の地震学の一般的な問題について考察を加え、幾つかの結論を導いた。
著者
湊 信也
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.79-88, 1998
被引用文献数
5

&sigma;-座標系で書かれているプリンストン・オーシャン・モデル (POM) を使って、土佐湾 (最大水深4800m) でおきた高潮の数値シミュレーションを行った。その結果、より細かい鉛直解像度やより強い成層をもつモデルでは、ピークサージが少しだけ大きくなることがわかった。鉛直混合のスキームの影響についても調べた。<br> 運動方程式における力の釣り合いを調べた結果、簡単な線形の力のバランスによって解像度によるピークサージの違いを定量的に説明することができた。
著者
中村 雅基 金沢 敏彦 佐藤 利典 塩原 肇 島村 英紀 仲西 理子 吉田 康宏 趙 大鵬 吉川 一光 高山 博之 青木 元 黒木 英州 山崎 貴之 笠原 順三
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-28, 2002
被引用文献数
5

中部日本におけるP波およびS波の3次元速度構造を地震波走時トモグラフィーを用いて求めた。その際、定常観測点で得られる自然地震を対象とした観測値だけでなく、人工地震や海域における臨時観測点等を用いた観測値を積極的に利用した。得られた成果は以下の通りである。沈み込むフィリピン海プレートと思われる高速度域が検出された。フィリピン海プレートは、少し高角度で沈み込み始め、その後なだらかになり、最後は高角に沈み込んでいる。35&deg;N、136.5&deg;E付近では、フィリピン海プレートが分かれている。将来発生が懸念されている東海地震の固着域の北西隣は、プレート間カップリングが弱い。35.6&deg;Nから35.8&deg;N、137.5&deg;E、深さ100kmから200km付近で、非地震性のフィリピン海プレートが検出された。
著者
Tsuchiya Iwao
出版者
Japan Meteorological Agency
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.27-76, 1967
被引用文献数
2

偏西風の蛇行現象とその気候学的意義とを解析的に明らかにすることを考えた。蛇行の幅が増大した場合にはブロッキング現象の発生することが多いが,この現象は冬季の寒波(日本及び北米東部など)と初夏の梅雨と密接な関係を示すことが,事例解析及び統計的吟味から認められた。とくに従来の梅雨論で重視されたオホーツク海高気圧の存在は,活発な梅雨活動にとって必しも必要な条件とは言えないことが示された、すなわち,梅雨活動を高めるのは日本海から太平洋に抜ける上層寒冷低気圧であって,このような現象は典型的なブロッキング循環に見られる。温暖高気圧としてのオホーツク海藏気圧はこの場合に存在しやすいのであるが,その位置によってはオホーツク海域がむしろ低圧となる場合もある。<BR>なお,寒波の半球的な分布と洪積世大陸氷河の分布との類似性から,氷河時代に関する気候変動の機構を論ずることができるが,これに関連してミランコビッチ(1930)の変動論が再認識される必要のあることが認められた。
著者
Konaga Shunji Nishiyama Katsunobu
出版者
気象研究所研究報告
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.151-156, 1978
被引用文献数
1

1977年7月上旬に神戸海洋気象台春風丸により,切離冷水塊の中で2つの非常に興味ある現象が観測された(上平悦朗ほか(1978)).(1)は切離冷水塊の周辺部に環状に表面塩分の低い海域が存在していることおよび(2).冷水塊の中心のすぐそばに,周囲に比して異常に高温な観測点が存在していることである.前者は梅雨前線による降水が海山と渦の相互作用で環状に収束したものであり,後者は異常高温の大部分がXBTプローブの不良に帰せられるにしても,場所的に見て,テーラー柱の発生の可能性がある.<BR>また黒潮と切離冷水塊の挙動を第2紀南海山の位置から見て,切離冷水塊の発生から消滅まで第2紀南海山の影響を強く受げていたことが予想される.将来観測により確認する必要がある.
著者
Magata Mitsuo
出版者
気象研究所研究報告
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.91-110, 1969
被引用文献数
2

山越気流の理論としては,風下波動に関する線型理論跳水現象に関する水力学的理論等があるが,最近では数値実験による研究が行われるようになった。筆者等は富士山の雲の写真観測によって,気流の変形の状態を推論してきたが,富士山の雲を大局的に分類すると,笠雲,つるし雲,旗雲,jump状雲,その他になるが,これらの雲の成因を数値実験によって研究するのが,この論文の目的である。笠雲,つるし雲は風下波動の理論によってある程度説明できるが,その色々の変形については複雑で,なお不明の点が多い。冬季北西季節風の時に現われる旗雲,暖湿な南西気流によって起るjump状雲については線型理論によって説明することは困難で,この論文では,地表面からの加熱,冷却の効果を入れた数値実験によって説明することを試みた。すなわち,寒冷な北西気流が日射による山肌からの加熱蒸発効果によって旗雲が形成され,また,暖湿な南西気流が地表からの冷却によって斜面を急降下する流れを生じ,それがjump状の雲を形成するようになると推論した。ここで使用した数値モデルは2層モデルで,垂直構造については不充分であり,なお改善の余地が残されている。