著者
田城 翼 浦辺 幸夫 鈴木 雄太 酒井 章吾 小宮 諒 笹代 純平 前田 慶明
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.83-87, 2020-03-31 (Released:2020-08-21)

目的:足関節捻挫を受傷した選手は、医療機関で受療せずに競技復帰する場合が多く、「たかが捻挫」と足関節捻挫を軽視している可能性がある。本研究では選手が足関節捻挫受傷後の治療の重要性をどのように捉えているかを調査した。 方法:大学男子サッカー選手235名を対象として、インターネットによるアンケート調査を実施した。 結果:90名(38%)の有効回答のうち、70名(78%)が足関節捻挫を経験していた。受傷後、医療機関を受診した者は37名(53%)で、そのうち28名(76%)は継続的に通院し、治療を受けていた。医療機関を受診しなかった、または通院を中止した理由は、「治療しなくても治ると思ったから」という回答がそれぞれ最多であった。 結論:治療しなくても治ると思っていた選手は、足関節捻挫受傷後の治療の重要性を認識できていない可能性がある。このような選手に対して、足関節捻挫の治療の啓蒙が不可欠である。
著者
細野 健太 田島 進
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.97-99, 2016-03-31 (Released:2018-02-16)

思春期特発性側弯症 (AIS) は進行性の疾患であるため、経過に関する長期的なデータは重要である。側弯体操を 5 年間継続した症例について治療経過を報告する。症例は特発性側弯症と診断された 8 歳の女子である。Th9-L4 が左凸のシングルカーブを呈しており、Cobb 角は 6°であっ た。ホームエクササイズを主体とし、側弯体操を毎日約 20 分間実施するよう指導した。ホームエクササイズの実施頻度は週 5 回程度実施し、5 年間で身長が 19.3cm 増加し、Cobb 角は 11°(+5°) に増加した。体幹筋力は向上し、体幹関節可動域も拡大した。AIS の治療効果の判定は Cobb 角の変化によって捉えられており、Cobb 角 6°以上の増加が「悪化」と定義されている。今回、側弯体操を長期間継続して実施することで、AIS 患者の Cobb 角の増加を抑える可能性を示すことができた。
著者
松浦 晃宏 苅田 哲也 森 大志
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.17-21, 2020-03-31 (Released:2020-08-21)

大脳皮質運動野は外部の状況変化に対して柔軟かつ可塑的である。脳卒中後の運動皮質または運動皮質を起源とする運動下行路においても、回復の過程に応じて時々刻々と活動を変化させている。運動機能回復に影響する活動変化としては、発症早期の損傷側皮質脊髄路の興奮性とその後の皮質内、皮質間ネットワークの活性、非損傷側皮質脊髄路の過活動性、皮質-網様体脊髄路の活動性などが挙げられる。これらは損傷の重症度に応じて、適切な時期に、適切な活動性へと調整され再編されていくことが、より良い運動回復の為に必要である。
著者
梅原 拓也 田中 亮 永尾 進 富山 大輔 川畑 祐貴
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.7-12, 2014-03-31 (Released:2015-03-13)
参考文献数
27
被引用文献数
1

「目的」本システマティックレビューおよびメタアナリシスの目的は,変形性膝関節症(膝OA)に罹患して人工膝関節置換術(TKA)を受けた患者に対する術前および術後の運動介入が在院日数に及ぼす影響について検討することである。「方法」4つの電子データベースを使用して,運動介入が在院日数に及ぼす影響を調べたランダム化比較試験(RCT)を収集した。実験群とコントロール群を比べた在院日数の差のデータを統合した。エビデンスレベルは,GRADEシステムを用いて評価した。「結果」8編のRCTが特定され, 6編は我々のメタアナリスにて統合可能なデータを報告していた。 3編の論文のデータを統合した結果, 術前の運動介入が在院日数に及ぼす有意な影響は示されなかった。一方, 残り3編の論文の統合データは, 術後の運動介入,特に早期運動介入が在院日数に及ぼす有意な影響を示した。エビデンスレベルは,術前の運動介入および術後の早期運動介入それぞれ「中」以下と判断された。「結論」我々は,TKA後の早期運動介入によって膝OA患者の在院日数は短縮できるというエビデンスを明らかにした。
著者
馬屋原 康高 関川 清一 河江 敏広 曽 智 大塚 彰 辻 敏夫
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.9, 2019 (Released:2019-07-05)

高齢者の肺炎の約 80%が誤嚥性肺炎であり、誤嚥性肺炎リスクを早期に発見し対応すること が急務である。嚥下機能と咳嗽能力の関連があることが報告されており、咳嗽能力を評価する ことは重要である。その評価指標の一つとして、咳嗽時の最大呼気流量(CPF)が用いられてい る。CPF値が270 L/min以下となった場合、呼吸器感染症を発症すると、急性呼吸不全に陥る 可能性があるとされ、160 L/min以下では、気管内挿管も考慮される値と報告されている。そ の他 242 L/min 未満が誤嚥性肺炎のカットオフ値として報告されている。臨床的には、そのカッ トオフ値を参考に低下した CPF を種々の咳嗽介助法を用いてカットオフ値以上に引き上げるこ とが重要となる。さらに筆者らは、咳嗽音を用いてより簡便な咳嗽力の評価方法を提案している。 誤嚥性肺炎を予防する第 1 歩としてより幅広く咳嗽力評価が用いられることを期待する。
著者
福尾 実人
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.15, 2019 (Released:2019-07-05)

わが国は、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進んでいる。しかも、わが国の高齢化率 は年々増加していき、2065 年には4人に 1 人が 75 歳以上の後期高齢者になると推計されてい る。この後期高齢者の特徴の1つには心身の機能の減弱が原因となるフレイルが挙げられてい る。フレイルは、要支援・要介護に至る原因となる。また、フレイルは加齢により有病率が高 くなるため早期の対策および介護予防が重要となる。フレイルの中核要因はサルコペニアであ り、早期に筋力および筋量の低下を引き起こす。一般に加齢による筋委縮は、上肢筋よりも下 肢筋で著しいと報告されている。特に若年者は高齢者と比べて大腿部の筋量減少を認めている。 しかし、フレイル高齢者では下肢筋群以外にも上腕部および肩甲骨下部の筋量の低下が示され ている。そのため、フレイル高齢者では下肢以外にも上腕および肩甲骨下部の骨格筋量増加を 目的としたレジスタンス運動を行う必要がある。
著者
平元 奈津子
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.15-20, 2018

ウィメンズヘルス理学療法は、女性のライフステージに応じた健康問題に対して実施される。 特に妊産婦においては、妊娠・出産に伴い、様々な身体変化やそれに伴うと考えられる身体症状を有することが多い。身体症状のうち腰痛、骨盤帯痛、尿失禁等の運動器に関連した症状を有する妊産婦に対して、現在の日本では積極的な理学療法介入がされていないのが現状である。 これらの女性に対する理学療法を実施する際に、問診で症状の原因となる妊娠、出産に関する背景を探ることが重要である。妊娠、産後の経過、分娩の様式、抱っこや授乳等の育児に関する動作等、より詳細に情報収集することで、治療や予防に展開することができる。妊産婦の理学療法は特殊領域と理解されがちであるが、基本的な問診にウィメンズヘルスの内容を追加し、治療や予防ではそのリスク管理を十分に行うことができれば、通常の理学療法で十分対応できる。
著者
山崎 重人
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.25-30, 2016

2006 年診療報酬改定にて、運動器疾患のリハビリテーション期間が150日を限度とされてはや9年が経過する。理学療法の実施は、自然経過あるいは理学療法士以外の職種が実施した治療と比較して、優位性があるかというエビデンス構築に関する進歩が乏しいように感じている。 手術の技術進歩は実感できるが、理学療法の技術進歩は実感できるか。理学療法が疼痛や拘縮の改善に貢献していることは間違いないが、凍結肩に至るなど反応に温度差があるのも事実である。確かな情報収集力と技術に裏打ちされた「治す」ことへの拘りを専門職として持ち、一症例に丁寧に取り組み、結果を出し続けることが必要であると感じる。その認識と、職種存続のための覚悟を持ち合わせているか。理学療法のかたちは『結果』である。確実に結果を提供しなければならない。