著者
斎藤 夏来 谷舗 昌吾
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.161, pp.1-12, 2016

栄西は一般に臨済宗の開祖とされるが、顕密仏教全体の再興を志した実像とは隔たりがある。そこで栄西認識を示す史料の網羅的な収集を試みた結果、中世顕密仏教につらなる「葉上僧正」という呼称に対抗すべく「千光国師」という呼称が近世に台頭した様相が明らかとなった。国内仏教の一宗派へと転身した近世禅宗の周辺で、栄西の国際的な呼称であった「千光」と、天皇帰依僧への尊称であった「国師」とを組み合わせる動きがあったと想定した。
著者
林 創 今中 菜七子
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.148, pp.69-75, 2011

本研究は,イラストを使った人間の行動とロボットの行動を比較することを通して,幼児期における他者の心の理解の発達を検討したものである。45人の幼児に,人間版とロボット版の誤信念課題と道徳判断課題を提示した。人間版とロボット版では,主人公が人間であるかロボットであるかの違い以外はすべて同じ状況で同じ行動とした。その結果,誤信念課題においては,ロボット版の方が人間版より得点が有意に低く,幼児は「ロボットに対して,人間に対する時ほどには誤信念を考慮しない」という傾向が明らかになった。道徳判断課題では,作為的な状況であれ不作為的な状況であれ,ロボットの行動と人間の行動の悪さの比較に差はなく,ロボットの行為に対しても,人間の行為に対してと同様の道徳判断をしたことが示唆された。
著者
岡田 和也
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.162, pp.103-109, 2016

Faber & Faber社から2013 年に出版されたDear BoyはForward Prize(for Best First Collection)を受賞し,Emily Berryは若い作家の中で一躍その作品が広く認識されるようになった。アンソロジーの編者としての側面も,Salt社のThe Best British Poetry 2015があり,彼女の鋭いセンスが光る。本論文は,そのEmily Berryの作品群に関して,彼女自身の朗読音源が入手可能になったことから,詩の中のspeakerの存在が,声の問題としてどう関わっているかを分析するものである。
著者
岡田 和也
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.152, pp.23-33, 2013

ニューヨーク(派)詩人のJohn Ashbery (1927-)。依然意欲的に作品を出版しつづける巨人的作家。以下では,2002年に出版したChinese Whispers を主に 2009年のPlanisphere も含めて 彼にとっての後期詩集を考えてみる。 朗読アーカイヴなどをmp3で分析しながら…。同じニューヨークの詩人のCharlesBernstain (1950-) との比較にたよりながら…。さらには,ことばあそび的"surrealism"の作品の再読を試みながら…。そして,"voicing"の問題を何より扱いながら…。 そうして,朗読ライブの聴衆の前での(パンチラインを意識した)後期詩作品のAshberyの「声」を探る。
著者
虫明 眞砂子 黒井 かおり
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.153, pp.59-69, 2013

合唱のウォームアップについて,合唱指導者の取り組みや合唱団の事例を通して,身体のリラックスの視点から考察した。野口体操や体ほぐしを取り入れた合唱指導者渡辺,岩崎,橋本ら3者は,身体の柔軟性が良好な発声を導くという考えに基づいていることを示しており,また,岩崎,橋本は,心理的柔軟性もその条件に付加していることが明らかになった。次に,合唱団の実践例から,全体的に,身体的な観点からは「呼吸」と「姿勢」を大切にした指導が行われ,上肢部分のストレッチに重点が置かれていることがわかった。他方,心理的観点からは仲間との触れ合いを取り入れて心をほぐすなどの工夫が見られた。さらに,呼吸と運動(動き)を同時に行う,合唱団員の年齢に応じた活動を取り入れるなどの工夫も見られ,これらの活動が,息が自然に声につながるための手立てとなる示唆を得た。
著者
田中 宏二 兵藤 好美 田中 共子
出版者
岡山大学
雑誌
研究集録 (ISSN:04714008)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.181-192, 1996-11

これまでに筆者らは、若・中年齢女性あるいは高年齢女性の取り結ぶソーシャルサポートネットワーク(SNWと略す)の特性が、精神的健康にどのような影響を及ぼしているかについて検討してきた(田中・野邊、1994;田中、1995;兵頭・田中、1995)。特に高齢者に対しては、SNWの重要性が注目されてきている。高齢者の福祉と医療の基本原則は、住み慣れた地域の住民と積極的に関わり合いながら、対象者が住宅のまま地域生活を可能な限り続けることであるという認識が確立されてきている。(那須、1980)。そういった意味から、地域での生活を継続してゆくために、高齢者と地域とを取り結ぶSNWは、不可欠な要素となってくる。そしてケアの概念は生活に根ざした概念として把えられ、対象者に対して包括的なものであり、日常的でかつ直接的な対応が重要視されるようになってきている。とりわけ栄養摂取については生活の中枢をなすものであり、日常的でかつ直接的な対応が求められる。多くの研究者により、独居群がそれ以外の居住形態に属する高齢者と比較して、食物摂取行動の面で問題を多く抱えていることが指摘されている。また、杉澤(1993a)は、独居群の場合、別居子や友人・近隣などとの社会的紐帯の多寡が、独居家族の代替として保健行動面での問題の解消に寄与するという仮説の検証を行い、支持する結果を得ている。これらのことにより、独居者に対するソーシャルサポートネットワークが今後益々重要になってくるものと思われる。ところで岡山市では平成6年10月から、65歳以上の虚弱な高齢者で、かつ自力で調理が困難な場合又は調理の援助が得られない場合を対象とし、「一人暮らし老人等給食サービス促進事業」(給食サービスと略す)が始められている。この事業の主旨として直接的には、要援護高齢者の食生活安定、栄養バランスの補足と栄養改善、調理の負担軽減、楽しめる食事の提供等による高齢者の日常生活の支援を目的としている。また間接的には地域ボランティアの養成、地域交流、安否確認、孤独感の解消、生活リズムの把握、配食者による受給者の保健福祉ニーズの発見及び住宅保健福祉サービスへの仲介を通しての地域福祉の高揚を目的とするものである。給食サービスの形態は月~金曜日迄の週5日間、日1食昼食を配達する毎日型を基本としている。なお、配食体制は、調理業者から配食拠点施設へ社会福祉協議会職員又は配達運転手が配送し、その配色拠点施設からボランティア配食協力員(以降、ボランティア協力員と略す)が受給者宅へ配食を行うという方法をとっている。本調査では、地域のボランティア協力員が利用住宅の高齢者に昼食を届け始めて、1年半を経過した平成8年3月時点で調査を行った。本報告の目的は、給食サービス及び受給者-ボランティア協力員間のサポート授受関係が高齢者のSNWや精神的健康に対して、どのような影響を及ぼしているかについて、検討を行うものである。
著者
田中 賢二
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.143, pp.1-11, 2010
被引用文献数
1

スイス―ドイツ語圏ベルン邦―の前期中等教育段階における科学教育の現状を,いわば学校教育法,同施行規則,学習指導要領などから,初等教育段階との対比に注目し,明らかにした。科学教育はともに筆頭教科である自然―人間―共同社会の中の科目理科で行われている。初等教育段階とは違って,前期中等教育段階では教科内に総合をも設定し,テーマと科目や総合との対応,また,科目毎の授業時間数,総合と裁量の為に使われるべき授業時間の割合を示している。前期中等教育段階の科学教育における目標は,初等科学教育と比べると,認識と知識の習得が重要になってきており,広がりと深化を示している。内容の関連性への配慮要請,拘束性は,前期中等教育段階の科学教育の方が大きく,弱い。また,内容の連続性は,両段階で共通の唯一のテーマでさえ,考慮されているとはいい難く,教員に託されていることは大きいといえる。
著者
Gardner Scott
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.145, pp.39-46, 2010

The linguistic concept of register, while not yet defined to the satisfaction of all, is nevertheless a fairly well used one in describing speakers' shifts in language according to situational nonns or constraints. Inappropriateness of register for context is usually seen as a sociolinguistic or pragmatic error. But in some cases it is done intentionally and creatively, such as in several cases of register-shifting humor in the TV series Monty Python's Flying Circus. This paper gives several examples of humorous register shifting in Monty Python, and analyzes how the shifting has its effect.
著者
虫明 眞砂子
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.148, pp.39-48, 2011

日本の学校教育における合唱活動の活発さを表す指標として,NHK全国学校音楽コンクールへの参加校数の割合を採用し,都道府県ごとの値を比較した。その結果,合唱の活発な地域とそうでない地域が2極化していることが分かった。岡山県の合唱活動は,その中でも非常に低調なグループに属することが分かった。このような状況を改善するための手掛かりとして,フィンランドの音楽教育およびエスポー音楽学校の形態およびカリキュラムを考察した。その結果,生涯教育を目的とした多様な音楽教育機関と幅広いカリキュラムが用意されていること,演奏家と聴衆の両方を育てることを目的としていることがわかった。エスポー音楽学校では,器楽の個別指導,ソルフェージュ,アンサンブルの3つの科目を主体とし,器楽教育を重要視している一方,合唱をアンサンブル活動の一つとして大切にしていること,音楽教育全体の質を高めるために,楽器と歌唱の両方を生徒たちに学習させるカリキュラムであることが明らかになった。
著者
稲田 利徳
出版者
岡山大学
雑誌
研究集録 (ISSN:04714008)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.1-13, 1995

日本の文学史に甚大な影響を及ぼした優れた作品を残した作者の追究が盛行しているのは、しごく当然の営為であり、それ相当の意義がある。それとは逆に、ささやかな作品しか現存させ得ず、文学史のなかに埋没して希薄な存在になっている作者に、スポットを当てる試みも、マイナーな作家発掘という好事家的趣味とは別次元の意味においてなされてしかるべきである。ここに宗久という歌僧がいる。「都のつと」という紀行文学作品を残すとともに、三つの勅撰集に四首の和歌が入集する歌人でもある。彼は南北朝という疾風怒濤の時代に出家を遂げ、九州から東北地方まで仏道修行を目的とした漂泊の旅を遂行した後、京洛の歌壇にも登場する一方、今川了俊の九州鎮定の際、その使僧としても活動している。そこに南北朝の時代を生き抜いた、文人的な僧侶の生きざまが、複雑な陰翳を伴って彷彿としてくる。この論考では希少な作品や記録類によって、わずかに辿ることのできる足跡を綴り合わせながら、宗久の生の有様と作品の一端に触れてみたい。
著者
山内 峰行
出版者
岡山大学
雑誌
研究集録 (ISSN:04714008)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.121-131, 1994
著者
稲田 利徳
出版者
岡山大学
雑誌
研究集録 (ISSN:04714008)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.(1)-(6), 1997-11

一.本稿は耕雲の紀行文「耕雲紀行」の注釈である。一.底本は東京大学史料編纂所蔵本(貴41.2)で、次の方針に従って校訂本文を作成した。(1)漢字・仮名を原則として通行の字体に変え、新字体のある漢字はそれを用い、獨点、句読点を施した。(2)底本の仮名を漢字に改めた場合は、表記を改めた本文の右側に、もとの仮名を記した。漢字の訓みを()の内に示したものである。(3)仮名遣いは原文のままとし、送り仮名を補った場合は()内に記した。また歴史的仮名遣いと一致しない場合は、()を付して歴史的仮名遣いを傍記した。ただし、仮名に漢字を宛てた場合は、これを省略した。(4)反復記号は底本のままとし、踊り字の場合はもとの仮名に直し、右側に「ゝ」を付した。(5)底本の丁数などを省略し、本文も適宜改行した。(6)虫損などで判読するのに、やや支障をきたす個所は□とし、その中に推定した文字を記した所もある。(7)本文の不審な所には、(ママ)を付した。(8)全体を適当な個所で区切り、通し番号と内容に即した見出しを付した。一.注釈は〔本文〕〔語釈〕〔通釈〕〔考〕の順序で進める。一.「耕雲紀行」の翻刻を御許可くださった東京大学史料編纂所に対し、厚くお礼を申し上げます。