著者
河井 大介
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.1-13, 2016-03-31 (Released:2017-01-25)
参考文献数
28

1990年代以降,投票率の低下や政党離れが進み,積極的無党派層やそのつど支持層と呼ばれる層が議論されてきた。このような中,2013年に解禁されたネット選挙を踏まえ,2014年衆院選における政党に対する態度によるメディア利用の相異を探索的に分析した。政党に対する態度は,公示直前の時点で,支持政党を持たず政治的関心も低い無関心層,支持政党は持たないが政治的関心の高い積極的無党派層,政党支持度において1つの政党のみを支持する1政党支持層,政党支持度において複数政党を支持する複数政党支持層に分類した。ふだんのメディア利用と選挙期間中のメディア利用が,この政党に対する態度によってどのように異なるのか分析を行った。分析の結果,積極的無関心層は他の層と比べてネットを利用せず,複数政党支持層は新聞やネット利用が他の層よりも活発であり,ネット選挙解禁の恩恵を最も受けていると考えられる。つまり,積極的無関心層は受動的な情報接触が比較的多く,複数政党支持層は能動的な情報接触が比較的多い可能性が示唆された。
著者
加藤 千枝
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.45-57, 2013

本研究では,出会いを「ネットを介して知り合った人と実際に会った経験」とした上で,ネットを介した出会いの過程を質的に明らかにすることを目的とし,青少年女子15名に対して半構造化面接を実施した。その結果,ネットを介した出会い経験者は8名,非経験者は7名おり,経験者は「インスタントメッセンジャー」「ソーシャルネットワーキングサイト(サービス)」「メールボックス」「BBS」を介して異性の者との出会いを実現させていた。また,経験者はネットを介した出会いを実現させる前,出会いに対して「否定的感情」を抱いているにも関わらず出会いを実現させており,その理由として,ネットの特性が影響していることが考えられる。加えて,経験者はフィルタリングが導入されていない端末から自由にネットを利用できる環境にあり,ネットを介した出会いのトラブルや事件を防ぐ為には,青少年心理を理解した上でのリスク教育とペアレンタルコントロールも必要であると言える。
著者
瀬尾 華子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.47-62, 2016-03-31 (Released:2017-01-25)
参考文献数
33

2011年の福島第一原子力発電所事故は,日本の社会全体の政策決定,および意思決定の在り方への関心を集める契機となり,原子力発電に好意的な社会意識や世論の「メディア」を通じた形成が問題化した。本稿では,今日に至るまでの原子力に関する社会意識の形成の始まりを1950年代から60年代に求め,その形成に用いられていた電力産業や官公庁の広報メディアである「PR映画」に原子力がいかに描かれたのかを分析した。その際,PR映画における社会的文脈としての発注者と受注者への視点からPR映画における原子力の表象をみた。その結果,1950年代末葉から60年代までの原子力のPR映画を通して,「平和利用」,「科学技術」,「近代化」が描かれていたことが明らかになり,PR映画は社会的な問題に対応するように表象の形を変容させながら,原子力を啓蒙していたことが示された。しかしながら,そのPR映画における原子力への意味付けは必ずしも単線的なものではなく,1960年代半ば以降のPR映画においては原発推進主体の意図に回収されない,受注者である製作者たちの懸念がもたらした「記録」としての意味付けが存在していた。このようにPR映画と原子力の関係をその社会的文脈の中で検証することは,PR映画という文化遺産の再評価,ならびに原子力への社会意識の形成過程の解明のための新たな一歩になり得るものである。
著者
藤代 裕之 河井 孝仁
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.59-73, 2013

東日本大震災では,利用者が増加しているソーシャルメディアを通じて被害状況が発信された。災害時における情報発信はマスメディアの重要な役割であり,ソーシャルメディアへの情報提供の必要性も高まっている。しかしながら,東日本大震災時に新聞社がソーシャルメディアをどのように利用して読者に情報を届けたのかは十分に明らかになっていない。本研究では,東日本大震災における新聞社のTwitter利用を比較して調査し,取り組み状況の差異と要因について考察を行った。全国紙5社と被災地にある地方紙4社を対象にTwitterのフォロワー数,担当部門や運用方法などの聞き取り調査を行った。その結果,Twitterのフォロワー数に違いが見られた。その要因は新聞社の規模ではなく,日頃からの運用実績と業務に含まれているか否かによるものであった。紙面とソーシャルメディアを連携して情報発信するという新たな取り組みが見られる一方で,記者との連携が不足したことで十分な情報発信ができていないという課題が明らかになった。今後もソーシャルメディアの利用者は増加していくことが予想される。新聞社が災害時にソーシャルメディアに情報を発信するためには,日頃からの運用と業務の位置付けを明確にし,あらゆるメディアを通じて情報を発信するという意識を組織全体が共有する必要がある。
著者
李 潤馥
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.107-121, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
28

韓国では朝鮮王朝時代から父系血縁,学縁,地縁が発達し,これは韓国社会の都市化,高度成長の過程で大きな影響を及ぼしてきた。特に1990年代後半から血縁,学縁,地縁が韓国社会の代表的な社会関係資本と指摘される中で、情報化の進展とともに韓国のオンライン上には数多くのカフェと呼ばれる様々な宗親,同窓会,郷友会インターネットコミュニティが構成されてきた。そこで本研究ではアンケート調査を通じて,宗親,同窓会,郷友会カフェへの加入時期,参加頻度,そして投稿頻度と三つの変数,即ち1)現実世界の門中・宗親会,同窓会,郷友会活動への参加,2)日頃親しくつきあっている親戚,同窓生,同郷人の数,3)人間関係の効用性に対する認識との関連について検討した。その結果,加入時期は同窓会活動への参加,日頃親しくつきあっている同窓生の数のみと統計的に有意な関連があり,加入時期が早いほど同窓会活動への参加回数及び日頃親しくつきあっている同窓生の数が多いということがわかった。しかし,加入時期とその他の変数は何れも統計的にほとんど無関係である。一方,参加頻度及び投稿頻度は二つとも三つの変数と統計的に有意な関連があった。宗親,同窓会,郷友会カフェへの参加頻度が多いほど,現実世界の門中・宗親会,同窓会,郷友会活動への参加が盛んであり,それらの人間関係は日頃親しくつきあっている親戚,同窓生,同郷人の数が多く,相互利益意識や実力主義の認知が深まっている。それを裏付けるように投稿頻度の分析結果も同様であった。これは韓国でインターネットコミュニティの普及とともに,血縁,学縁,地縁と係わる活動が活性化し,血縁,学縁,地縁が一次的な人間関係としての性格と共に,社会的な人間関係としての性格も併せ持っていることを示唆していると言える。
著者
加藤 千枝
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.109-121, 2012

本研究では青少年女子のメールボックス利用実態を明らかにすることを目的として,女予中高生9名に対し,半構造化面接を実施した。その結果,青少年女子は主に「同集団他者」や「他集団他者」との関係形成の為にメールボックスを利用していることが明らかとなった。また,「他集団他者」の「異性の者」からメールボックスを介して連絡を受ける者も複数おり,「異性の者」と実際に会った結果,「サイバーストーカー」等の被害に遭った青少年女子もいた。一方で,メールボックスを介して知り合った「異性の者」と交際した経験を持つ者もおり,メールボックスは携帯電話のメールとは異なる使い方をされているメディアであることが明らかとなった。
著者
加藤 千枝
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.47-60, 2014

GC(ゲーテッド・コミュニティ)とは居住境界線を明確に示すコミュニティの形態である(Blakely & Snyder,1997=2004)。本研究ではSNS上のGCの分類を行い,非GCとの比較・検討をすることで,オンライン上のGCの可能性と限界を整理し,考察することが目的である。先行研究を踏まえ,SNS上の151のGCを分析した結果,「知人同士のやりとり」「見知らぬ者同士のやりとり」「個人利用」「完全非公開」の4点に分類することができた。さらに,限定的ではあるが青少年99名の自由記述から,SNS上のGC・非GC共に他者とやりとりすることでカタルシス効果が得られた。しかし,非GCでは相手に打ち明けることで関係が変容・崩壊してしまう恐れのある話題についても,打ち明けることが可能なので,そのような点がGCとの差異として見出されたと考える。
著者
遠藤 薫
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.21-32, 2012

「社会情報学」は新しい学問である。その新しさは,三つの角度から考えることができる。第1に,「情報」という,自然科学と社会科学の枠を越えた根本概念からアプローチすることによって,世界を新たな普遍的な相のもとに捉え直す。第2に,「情報」の本質的なダイナミズム(双方向性)によって,ミクロな現象からマクロな現象まで,連続的に分析できる。第3に,東日本大震災や「アラブの春」でソーシャルメディアに大きな関心が集まったように,「情報」のソーシャリティと新たなテクノロジーとの相互作用を明らかにする。これらの性質から,「社会情報学」は,それ自体が重要なディシプリンを構成するだけでなく,様々な学問領域のプラットフォームとなりうる。すなわち,社会情報学は,あらゆる境界を越えて,多様なアイディアを結び,異質な発想の衝突から新しい文化と生活とを創発させる場となるだろう。
著者
吉田 純
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.55-63, 2012

本稿は,ギデンズの再帰的近代化論を手掛かりとして,再帰性概念が社会情報学において担いうる理論的意義を明確化することに向けての,予備的な考察をおこなう。再帰的近代化論によれば,社会の情報化のプロセスは,「モダニティの徹底化」としての再帰的近代化の本質的構成要素であることが指摘できる。情報化の帰結として出現したインターネット上のCMC空間の特性には,再帰的近代化の構成要素である「脱埋め込み」と「再埋め込み」との両側面がみられ,その両者を再帰性概念により統一的な視点から説明することができる。したがってCMC空間は,情報化が再帰的近代化の本質的構成要素であることを例証しているとみることができる。ただし,以上の考察は,直接にはCMC空間のみを対象としている点で,限定的な範囲にとどまっており,再帰性概念を,一方では社会情報現象一般を説明する概念として一般化すること,他方では現代の情報テクノロジーに固有の社会情報現象を説明する概念として分節化することが今後の課題となる。この課題を追求していくうえで,正村俊之の情報空間論が有力な理論的手掛かりとなることが期待される。
著者
橋元 良明
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.47-53, 2012

本稿では,まずsociologieという言葉が,日本での通説とは異なり,フランスの革命指導者シエイエス(Emmanuel Joseph Sieyes)がその手記でしたためたのが最初であることを述べた。そこには市民革命前夜の新しい社会秩序成立への期待があった。その後,オーギュスト・コント(Auguste Comte)が改めてsociologieという言葉を使用し,産業革命後の社会再編も伴って,学問としての「社会学(Sociology)」の展開が始まるが,その中から,研究対象の分化という形で「社会心理学(Social Psychology)」が発展する様子を概説した。最後の節では,「社会情報学」が,「社会心理学」などとは異なり,大学の組織論的要請から生まれた言葉であり,研究領域にちなんで学術的発展の必然から生まれた語ではないことを述べた。すなわち,東京大学新聞研究所の学部転換構想や,札幌学院大学における新学部設置をめぐって「社会情報学」という言葉が作り出されたという特殊な出自をもっ学問領域名であった。
著者
吉田 寛 柴田 邦臣
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.29-36, 2014

2012年度に東日本大震災の被災地山元町で実施された「山元復興学校」は,ニフティ株式会社,河北新報社,そして山元町役場と連携した社会情報学会(SSI)の災害情報支援チームによるものであった。災害情報支援チームの活動は,当初,日本社会情報学会(JSIS)の研究活動委員会内・若手研究者支援部会の社会貢献活動として実施された。しかし,若手による研究促進の活動は,二つの日本社会情報学会(JASI & JSIS)が統合される以前から,両学会の若手が参加して合同で行われてきた若手研究支援活動の流れを汲むものである。この場所を借りて,学会における若手研究支援活動の経緯を紹介したい。