著者
菊池 義昭
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.23-47c, 1980-11-20

I. The purpose of this study The purpose of this study is to make clear the role that the policy of public relief finance played on the life of the people in Fukushima Prefecture, and then to make clear the feature of the history of developement of the policy. This will be a fundamental data in studying the history of the policy and the system. For, the public relief is a relief of the administration side, and the study of the finance will come to be the most suitable data that prove the concrete condition of the relief of the administration side. The actual condition of the historical change is an index which indicates an attitude and a volition toward the relief (the social welfare) of the administration side. In other words, this will be a criterion of the role that the administration in each period played on the people.If it becomes clear, the study of the history of the actual condition of the social welfare will become trustworthy. II. Conclusion I will divide the history of the relief finance in Fukushima Prefecture, considering the feature in each year. In the first period, betwen 1879 and around 1887, mainly the relief expenses in the national expenditure was disbursed, especially the military relief expenses was disbursed a lot. In the second period, between around 1887 and around 1899, mainly the relief expenses in the national expenditure was disbursed too, but the substance of the expenses changed. In the third period, between around 1900 and around 1907, the amount of the expenditure of the relief expenses in the prefectural expenditure surpassed that in the national expenditure. This was because the items snd the amount of expenditure in the prefectural expenditure increased. In the forth period, between around 1908 and 1912, the expenditure of the relief expenses in the prefectural expenditure increased rapidly, but that in the national expenditure decreased. And the expenditure to the subsidy toward relief facilities appeared in the relief expenses in the national and the prefectural expenditure. This would be considered to predict the substance of expeniture of the relief expenses in Taisho Period.
著者
荻野 剛史
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.3-15, 2006-03-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
1

本研究は,わが国における難民受入れと公的支援の変遷を,文献から明らかにすることを目的としている.まずインドシナ難民について,日本政府は1975年から滞在を,また1979年には定住を認め,現在ではおよそ11,000人のインドシナ難民がわが国で生活を送っている.また条約難民について,1982年から受入れが開始され,これまでおよそ330人が条約難民と認定された.また,受入れと公的支援について,いくつかの問題点が明らかになった.第一に,インドシナ難民についてその受入れ数は限定的であったこと,第二に定住のための公的な支援は定住が認められてから数年が経過してからようやく開始されたこと,第三に,条約難民について,わが国の条約難民の認定率は他国と比べきわめて低いこと,第四に定住のための公的な支援は,近年までほとんどなかった.
著者
加茂 陽 大下 由美
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.12-22, 2001-08-31

この論文の目標は,ホワイトとその同僚たちの,フーコーの「権力/知識」理論に依拠した,ナラテイブ・モデルと呼ばれているエンパワーメント理論を批判的に分析し,その過程のなかから導き出される新しい社会構成主義的エンパワーメント論の概略を描き出すことである。フーコーの「権力/知識」が彼らの理論体系のなかに導入される際の問題点がまず指摘される。それらのなかで,特に,言説あるいはそのストーリー還元論的な現実の説明手法について吟味を深め,この還元主義的手法への対抗的な現実分析の枠組みとして,重層構造的意味のレベル群の相互調整過程を強調するCMM理論を提示し,その有効性を明らかにする。さらに,理論の最も基礎的なレベルに「力としての差異」概念を設定し,差異の拡大が意味のレベル群に波及するメカニズムを説明する理論体系をエンパワーメント論として論じ,具体事例を用いて,その有効性を明らかにする。
著者
野口 友紀子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.14-23, 2003

社会事業成立期に防貧事業が多くなされるようになる・これは主として経済保護事業のことを指しており,その対象となるのは従来の研究では低所得者といわれている.しかし,防貧概念が導入された当初は,防貧の対象者は「所得」ではなく「労働能力」でとらえられていた.さらに社会事業成立期には「低所得」という見方だけでなく,「生活」という視点でも把握されていた.その背景には時間の経過によって救済行政当局者が貧困という問題をどのように理解し,そのような問題のうちどの範囲を救済行政の対象としていくのかということを把握する視点の変化がある.防貧という考え方は所得だけでなく,多様なとらえ方があり,救済行政に防貧という枠でこれまでの救貧以外の新たな対象を取り入れる際に,防貧は変容しながらその形を整えていったといえる.
著者
岩間 麻子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.112-128, 1998-06-30 (Released:2018-07-20)

Lately the issue of child abuse is becoming a serious social problem. Child abuse is the complicated problem which is caused by many factors. It is likely to be considered a very contemporary problem. On the other hand, child abuse in prewar days is thought to be a labour problem and to be quite different from the modern one. Indeed, the labour problem of child was the center of child abuse in those days. But children were abused by their carers in the family, too. And it was the first time that the maltreatment of children in the family was recognized as child abuse. This paper deals with two points about child abuse in the prewar days. One is the reason why child abuse in the family existed at that time. The other is the background that the maltreatment of children in the family was recognizedas child abuse and social problem.
著者
狩谷 尚志
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.14-27, 2020

<p>本研究は,1940~1950年代にかけて「社会保障制度審議会」を構成した政策主体(アクター)の「自立」言説を再検討することによって,生活保護制度へ「自立」が制度化された背景に,以下の三つの言説上の潮流が存在したことを明らかにした.第一に,労働市場で活動を行い経済的な自助を達成している状態を「自立」と定義する立場.第二に,労働市場もしくは民間社会福祉施設にて,何らかの活動を行っている状態を「自立」としたうえで,個人をそのような場所へと統合する必要を主張した立場.第三に,個人が日常生活を営むうえで必要な所得を備え,特定の施設外での活動を行うことができる自由を有した状態を「自立」と定義した立場である.このような言説分析を踏まえ,「自立」概念の両義性を指摘した.また,各アクターの認識に基づく「自立」概念の歴史的発展と,それらアクターの相互関係による福祉政策の形成という二つの仮説を提示した.</p>
著者
河野 高志
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.63-74, 2019

<p>本研究は,地域包括ケアシステムにおける多職種連携の方法に関する知見を得ることをねらいに,多職種連携を促進する要因の抽出とそれらの関連の検討を目的とした.質問紙調査は,全国5,053カ所の地域包括支援センターに所属する社会福祉士または主任介護支援専門員を対象に実施した.調査内容は,対象者と地域包括支援センターの基本属性,ケアマネジメントの実施状況,インタープロフェッショナルワークの実施状況,連携の内容,連携の状態で構成した.分析では,回収した1,567名のデータを使用し,主成分分析による連携の要因の抽出と重回帰分析による要因間の関連の検討を行った.その結果,地域包括ケアシステムにおける多職種連携の促進には【チームワークの促進】が最も影響を与え,【チームワークの促進】には【IPW】が最も影響を与えるという関連を明らかにした.</p>
著者
竹原 幸太
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-13, 2021

<p>本研究では,戦時厚生事業下で少年教護事業と少年保護事業が同質化して戦時協力を進めたとする通説的見解に対し,日中戦争勃発以降から終戦までの『児童保護』,『少年保護』誌の少年教護院,少年院職員の論考を分析し,児童・少年保護思想を類型化した.</p><p>その結果,①戦時体制を批判し,従来の児童・少年保護思想を堅持する「自由主義的な児童・少年保護思想」,②従来の児童・少年保護思想を改め,少年教護院や少年院の戦時協力を推し進めた「日本精神主義的な児童・少年保護思想」,③戦時体制とは距離を取り,科学的処遇を求めた「科学的な児童・少年保護思想」,④少年教護院や少年院の戦時協力を論じながら,わずかに個人の視点を見いだした「偽装転向的な児童・少年保護思想」に類型化されることを明らかにした.</p>
著者
石原 アンナユリアーネ
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.63-75, 2019

<p>日本において性暴力が「女性に対する暴力」と規定されたことで,なぜ性的攻撃的な女性と男性被害者が周辺化されるのかを理論的に究明することを本研究の目的とする.米加女子大学生を対象とした調査から,性的攻撃的な女性の存在と加害の実態を示した.またButlerのジェンダー理論を援用し,日本では女性被害者・男性加害者は異性愛規範に基づいてレイプの「規範」として構築されるという結果を示した.セックスの象徴法則の採用により,女性の加害は周辺化され「不正な加害者」となる.その様な性暴力への見方によって性別に基づく被害のヒエラルキーが作られ,女性加害者・男性被害者は研究対象にすらならない.そのため社会福祉学において性暴力の社会問題としての構築と支援制度への影響を検討する必要がある.「女性はレイプしない」という偏見は男性被害者の認識と支援を妨げる神話の一つにすぎず,その現象の理解を深める実証研究が必須である.</p>
著者
藤江 慎二 松永 千惠子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.91-102, 2021

<p>本研究では,障害者支援施設で発生した施設内虐待の要因を明らかにし,虐待予防について考察することを目的とした.方法としては,施設内虐待の事件の裁判調書を法律に基づき入手し,事件を詳細に把握・分析した.その結果,施設内虐待の事件には,①施設の人材育成の問題が虐待行為と関連していること,②職員間コミュニケーションの不足が虐待行為の慢性化に影響していたこと,③施設・法人の虐待問題を隠蔽しようとする考え方は職員間に広がり,職員の退職にも影響を及ぼしていたことが明らかになった.施設内虐待は構造的な問題であり,職員間コミュニケーションの改善や虐待予防のシステム構築をしていくことが今後の課題であることを指摘した.</p>
著者
志賀 信夫
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.1-13, 2020

<p>本稿の目的は,貧困問題について階層論的議論(階層論的貧困論)に終始することの弊害を論じつつ,階級論的視点をもった議論(階級論的貧困論)の重要性について明らかにしていくことである.「階層論的議論に終始する」とは,貧困問題をめぐる議論において「資本–賃労働関係」の視点を含まない態度のことを示している.本稿で論じる階層論的貧困論に終始することの弊害とは,①貧困の自己責任論を批判できないこと,②資本による「統治」の論理に抵抗できず,むしろこれを助長すること,③資本に有利な価値規範を相対化することができず,むしろこれを助長すること,などである.これに対して,階級論的貧困論は,資本による「統治」に対抗可能な視点を提示し,資本に有利な価値規範を相対化するための理路をひらくものとなっている.またそれらの可能性を議論展開することは,貧困問題の根本的な撲滅に向けた社会運動への貢献にもつながる.</p>
著者
増井 香名子 岩本 華子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.72-85, 2022-02-28 (Released:2022-05-21)
参考文献数
14

本研究の目的は,DV被害者である親の子育ての実態を明らかにし,児童福祉分野における被害親の支援・介入方策の検討につなげることである.そのために子どものいるDV被害女性27人の半構造化インタビューの分析を行った.その結果,被害親の子育ては,加害親による暴力と支配により「親機能の奪われ」を経験すること,一方で暴力と支配に対抗し「親機能の必死の遂行」を行っているということが明らかになった.分析からは困難な状況のなかで子どもを守り子どもの成長を促進するという被害親のストレングスが見いだされた.また,子どもに関する多様な要因が関係の継続の有無に影響を与えていることが示された.分析結果から,加害親が被害親の子育てに影響をもたらす暴力と支配の内実とそれによる家族関係の力動をアセスメントすること,被害親のストレングスに焦点をあて,子どもの安全と福祉のために被害親と協働していくという新たな視点を提示した.
著者
篠原 拓也
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.1-13, 2017-02-28 (Released:2019-02-15)
参考文献数
50

わが国の社会福祉学において人権は重要な意味を持つとされてきたが,人権論として主題化され,体系化されてきたとはいいがたい.本稿では社会福祉学における人権観の特徴と学問的位置を見定めることを試みた.社会福祉学における人権観の人権論における位置づけとしてはまずもって超実定法レベルの人権のうち「理念としての人権」にある.社会福祉学の人権の総論的な方向性は,わが国の一般的な人権感覚との親和性のなかで「福祉の理念としての人権」として充実させていくところにある.
著者
蜂谷 俊隆
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.104-116, 2012

本論文は,糸賀一雄の昭和20年代におけるコロニー構想と知的障害観について,思想的な背景とともに当時の社会状況との関連も含めてとらえ直すことを試みた.そして,糸賀のコロニー構想には,知的障害児の養育と教育を通じて,敗戦後の日本の復興を担うといった直接的な有用性の視点から,人間存在の根源的な問い直しを経て,社会防衛的な観点からではなく,より普遍的な支援の仕組みとしてのコロニーへの展関がみられる.そして,その背後には,知的障害児者と社会との関係を固定的にとらえるのではなく,知的障害児者への支援を通じて社会のあり方をも変革するといった思想的な深まりもある.さらに,世界の平和と自らの実践との関わりを意識した思索が,それを方向づけている.
著者
木原 活信
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.22-55, 1991-10-15 (Released:2018-07-20)

This Paper is about Addams' influence on the historical process of social casework through the progressive era (1900-14). That era was the time when social reforms were often carried out. So Addams, who was a leader of social reform, was able to be a "champion" among social workers. In contrast Richmond, who insisted on individual help (casework) rather than social one as a unit, disliked this era because Addams and her radical group considered Richmond's casework as useless. This situation caused two results. Firstly, in order to overcome the idea of Addams' social reform, Richmond had to explore an effective method of casework. As a result casework advanced to a scientific approach. Secondly, it is about the concept of social. From the first, Richmond did not have such an idea of social so much. So Addams criticized that point. As a result she gradually came to understand the meanings of social through the criticism from Addams. Consequently casework had become social casework with a scientific method as we know today
著者
山東 愛美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.39-51, 2019

<p>本研究は,変容や多様化が指摘されている日本のソーシャルアクションをめぐる現状を整理するとともに,その背景要因を理論面から明らかにする.まず先行研究からソーシャルアクションのプロセスに関する記述を抜粋して類型化を行った.その結果,署名,陳情,裁判等の行動を伴うダイレクトアクションと,交渉や調整等を特徴とするインダイレクトアクションの二つの類型があることを確認した.また,ソーシャルアクションの概念が日本に導入された当初はダイレクトアクションとして理解されていたが,近年は,インダイレクトアクションが主流となり,両者が併存していることが明らかとなった.その理論的な背景要因として,ソーシャルワークの統合化とエンパワメントについての日本的な捉え方がある.今後は,ソーシャルアクションの2類型をふまえたさらなる研究の蓄積や,ソーシャルワーカーの役割分担を念頭においた実践モデルの構築が求められる.</p>