著者
米倉 裕希子 山口 創生
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.26-36, 2016-02-29 (Released:2018-07-20)

本研究は,知的障害者のスティグマの特徴および今後の研究動向を明らかにするため,海外の研究をレビューした.PubMedで,「intellectual disability」および「stigma」をキーワードとし,2014年12月までの研究で検索された82研究のうち,関連のない研究を省いた25研究をレビューした.対象研究には,尺度研究,横断研究,介入研究が含まれており,横断研究の対象は知的障害者本人,家族,学生や市民だった.知的障害者の大半がスティグマを経験し,自尊感情や社会的比較と関連していた.家族も周囲からの差別を経験しており,被差別の経験はQOLや抑うつに影響する可能性があった,一般市民における大規模調査では短文事例と障害の認識がスティグマと関連し,介入研究では間接的な接触でも態度の改善に貢献できる可能性が示された.今後は,より効果的な介入プログラムの開発とその効果測定が望まれる.
著者
藤井 薫
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.39-47, 2000-07-10 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
1

本研究は,1996年にA県において,知的障害者の家族を対象に行った社会調査によるものである。調査内容は,子どもの知的障害に関して,知的障害の告知と受容に関して,相談機関との関わり,相談機関を訪れる際に感じるスティグマ感について,知的障害をめぐる家族の社会観などについてであり,調査後相互の関連性について統計的に検討した。結果から,(1)知的障害の告知のあり方が知的障害者の家族のスティグマ化に大きく影響すること,(2)家族が子どもの知的障害を受容するには,家族の抱くスティグマ感を軽減すること,(3)障害の受容が出来ていないと,相談機関を訪ねる際にスティグマ感をもつ可能性が高い,といった問題点が明らかになった。以上の点から知的障害者の家族が抱くスティグマ感とスティグマ化の要因および障害受容との関係を分析し,スティグマ感を軽減し克服するための有効な社会的支援の方向性を論じた。
著者
金子 充
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.33-43, 2002-08-31

産業構造の転換に伴って,人びとの働き方,家族のあり方,ライフコースが大きく変化してきている。そのことは,社会福祉の「対象」が変化していることを表している。こうした社会福祉の現代的な「対象」の問題は,ジェンダー論,人種/エスニシティ論,そしてアンダークラス論から提示されている。「批判的社会政策論」(Critical Social Policy)はこれらの議論のエッセンスを凝縮し,階級,ジェンダー,人種/エスニシティなどの観点から,人びとが「社会的に分裂した」(social division)状態にあることに注目しつつ,そのような、人びとの差異やアイデンティティに配慮した福祉国家を構築することに関心をもつアプローチである。こうした視点をもとに,現代の社会変化と「社会的分裂」に関する議論を踏まえた社会福祉対象論を再構成するための展望について論じる。
著者
岡田 忠克
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.23-32, 2002-08-31 (Released:2018-07-20)

ブレア政権の「第三の道」が指向する福祉国家は,サッチャー改革が残した遺産に取り組み,新たな福祉国家を創造しようとしている。ブレアの目指すものは,サッチャー政権が行った諸改革からの完全なる転換でもなく,また,労働党左派がいう社会主義でもない新たな福祉国家体制である。そこには過去との連続的側面と断絶的側面が存在している。サッチャーがいう福祉国家体制の「解体」ではなく,「変容」と「改革」を目指し,政府の役割を再考し,現代的諸問題の解消に向けて,市民の自立や経済の再生を目的とするものであった。本稿では,1980年代以降のイギリス福祉国家の変容についてサッチャリズムをとおして考察を行い,どのように1990年代のブレア政権の樹立に連動しているのか,また,「第三の道」がなにを目指し,どのような福祉国家像を措いているのかを明らかにする。本稿は,新世紀を迎え,ポスト福祉国家,ポスト市場主義を実践するイギリス福祉国家の変容を考察することによって,新たな福祉国家体制に関する議論に寄与することを目的としている。
著者
近藤 勉 鎌田 次郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.93-101, 2003-03-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
8

高齢者の精神生活に影響する生きがい感とは何なのか。またそれを測るスケールはどうあるべきか,驚くべきことに老年心理学はいまだにこれにこたえられていない。アメリカでつくられた他の概念を測るスケールを代用してきたのが現状である。そこでわが国の高齢者の生きがい感を調査し,その結果を基に生きがい感スケールを作成し,生きがい感を操作的に定義することを目的とした。まず162人の高齢者から生きがい感の範囲を定める概念調査を行い,仮の定義を作成した。さらにその仮の定義に基づいて項目を作成選定し,391人のセンター高齢者に対し本調査を行い,項目分析の結果,16項目によるスケールを作成した。そのスケールは信頼性と妥当性が高いスケールであることが分かった。このスケールの構造から高齢者の生きがい感を定義すると,なにごとにも目的をもって意欲的であり,人の役に立つ存在との自覚をもって生きていく張り合い意識である。また,なにか向上した,人に認めてもらっていると思えるときにも感じられる意識といえる。
著者
永野 咲 有村 大士
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.28-40, 2014-02-28 (Released:2018-07-20)

本研究では,社会的養護措置解除後の若者(以下,退所者)の生活実態とその困難さの数量的かつ正確な把握を目指し,4つの退所後実態調査の二次分析を行った.またこれらの調査の実態把握率の課題を克服するため,施設代表者に記入を依頼するアンケート調査を実施し一次データの収集・分析を行った.その結果,退所者は同年齢層(15〜24歳)の18〜19倍の生活保護受給率であり,司法や医療,福祉制度の介入を必要とする退所者も少なくないことが明らかとなった.この状況から,退所者はデプリベーションともいえる生活困難に陥っている可能性が示唆された.進学状況の格差,高い正規雇用率と高い生活保護受給率等相反する状況もみられ,困難が集積する層があると推測された.特に18歳未満での退所は住居・職業ともに不安定になる傾向が示唆された.社会的養護は退所後の生活実態を把握し,入・退所者のライフチャンス保障の方策を講じるべきである.
著者
松村 智史
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.1-13, 2019-08-31 (Released:2020-01-29)
参考文献数
21
被引用文献数
6

本稿は,生活困窮世帯の子どもの学習・生活支援事業の成立に関して,厚生労働省設置の検討会,社会保障審議会の部会の議論を分析した.まず,学習支援での学びは,単なる学力のみならず,将来の自立に資する生活力など,非認知能力を含む多元的能力と理解されるようになった.さらに,こうした能力を身につけるうえで,親の養育や家庭環境の改善の必要性が注目され,学習支援と世帯支援の一体化,学習支援から世帯支援につなげるという展開が形成されつつある.また,かかる展開をより実効的に行うために,支援の入り口としての子ども食堂など地域の取り組みや,継続的な進学・就学支援に欠かせない学校等,多様な機関との連携強化,情報共有が期待されている.今般成立した事業は,学習支援の変遷のなかで,学習支援と生活支援が結実した,総合的支援事業の意義を帯び,位置づけられるといえることが明らかになった.

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著者
平野 隆之 朴 兪美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.191-204, 2019-11-30 (Released:2020-06-16)
参考文献数
62
著者
牧田 俊樹
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.14-27, 2022-08-31 (Released:2022-10-13)
参考文献数
19

「障害とは何か」という問いがある.しかし,その問いに一義的に答えることはできない.これを前提とし,本稿は,障害者の苦悩・苦痛の軽減・除去等の目的に役立つという意味での「有用性」の観点から,障害定義が,個別の事例で,目的に合わせ,例えそれが矛盾したとしても,複数選択するという,「障害定義の戦略的・実践的使用」が可能なのではないかと考える.そこで,本稿の目的は,この「障害定義の戦略的・実践的使用」の可能性を,予想されるさまざまな批判に応答しながら,議論の俎上に載せることである.結果,「障害定義の戦略的・実践的使用」を,議論の俎上に載せるということを文字通り解釈するならば,本稿の目的は達成されたと考える.そのうえで,「障害定義の戦略的・実践的使用」は,障害に関する事例ごとに目的が異なる以上,その達成のためには,大きな利点を有することを示唆することができた.
著者
岡部 茜
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.70-84, 2022-08-31 (Released:2022-10-13)
参考文献数
24

2000年代以降,若者の「生きづらさ」への注目がなされ,代表的なものとしては就労支援や居場所づくり,アウトリーチなどいくつかの若者支援が行われてきた.若者の困窮状況の一つとして居住問題もまた指摘されてきたが,従来の若者支援のなかで,居住に焦点を当てる支援はわずかである.公的な支援もなく,一部の民間団体が支援をしている状況であるが,その実態は明らかになっていない.この調査報告は,全国でどのような若者への居住支援が行われているのかを明らかにすることを目指す.本調査は,若者への居住支援を行っている団体職員にインタビュー調査を実施しており,本報告は2021年3月までにインタビューを完了した団体の調査をもとに作成している.調査から,2010年以降多様な背景から若者への居住支援が開始されたことが明らかになった.また,利用者負担額の分布や居住場所の提供形態,職員の配置,入居した際の利用規則などが整理された.
著者
岩田 正美 平野 隆之
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.29-50, 1986-05-25 (Released:2018-07-20)

The number of the recipients of public assistance living in public housing has recently increased. There is a tendency to construct public housing in outskirts of big cities. Naturally, the recipients of public assistance concentrate in those areas. In this study we tried to investigate the background of this phenomena through analyzing 2014 case records of the recipients of public assistance in one particular city area. We have found out that the recipients of public assistance living in public housing have some characteristics which differ them from the recipients living in non-public housing. Their families are bigger, their housing situation has been secure for a comparatively long period of time, and they are "multi-problem families". If these families had not been provided with public housing, they wouldn't be able to live together ; the family structure would probably break down. Public assistance and public housing help consolidate the family, but don't solve their problems. Such families remain to be "multiproblem families" and conseqeuently they continue to receive public assistance for a very long time, sometimes through the next generation. We belive that concentration of such families in a certain city area creates "new slums".
著者
稲葉 美由紀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.131-142, 2009-02-28 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
2

高齢者が身体の衰えからケアを受ける立場になることは,新たな「役割」を担うことになる.そのために新たな姿勢・知識・行動などの対処能力が必要になってくる.しかし,高齢者ケアに関する社会福祉分野での研究は,要介護側の視点に着目した研究は十分に行われていない現状にある.本研究では,介護高齢者がケアを受けることに対する思い,姿勢,言動,対処についてインタビュー調査を実施し「ケアを受ける側の役割」を明らかにするものである.調査対象者は,65歳以上で週8時間以上のケアを受けている高齢者15人と家族介護者5人へのインタビューを行い,質的データ分析を行った.今回の調査では,(1)ケアを受けることへの思い,(2)介護者への支援,(3)セルフケア,(4)FC-ICサービスの把握・利用,(5)ネットワーク構築,(6)社会参加,(7)老後生活の準備・計画の7つのカテゴリーが抽出された.今後の課題として,実践的な要介護者と介護者へのエンパワーメント志向のソーシャルワークモデルの構築を行うことが必要である.
著者
圓山 里子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.130-144, 1997-06-20 (Released:2018-07-20)

This paper deals with the care arrangement for people with disability, called"exclusive" care for their independent living. This was promoted through the public care assurance movement. First, it examines the resources that are needed for the care system from the point of financial and manpower arrangement and the way in which they are organized to provide "exclusive" care. Second, it discusses the development that has led to a more organized service structure. With these discussions, this paper suggests that this analytical framework can be utilized for studies of service organization based in the community.
著者
石井 洗二
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1-11, 2014-11-30 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
2

本稿は,19世紀の日本において慈善事業という語が用いられた社会的な文脈と,1950年代から慈善事業が歴史記述のための概念として用いられるようになった経緯を考察する.19世紀末に慈善の語はいくつかの文脈で用いられていた.そのようななか,近代国家として慈善事業の整備を必要と考える立場から1908年中央慈善協会が設立される.これを機に福祉実践は慈善,慈善事業の語によって語られることが一般化した.しかしその十数年後には,慈善事業は社会事業の前史として否定的に語られるようになった.そのような来歴に見られる二つの含意を踏まえて,1950年頃に吉田久一は,日本における慈善には「封建的慈恵性」と「近代性」という二つの性格が背負わされた,という慈善の「二重性」論を提起し,そのうえで慈善事業を歴史研究の概念として位置づけた.それは戦前の社会事業研究を継承しつつ,風早八十二らの議論を踏まえることであった.また,社会事業を社会福祉の前段階として説明しようとする風潮に抗する意図もあったと考えられる.
著者
坪井 良史
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.44-54, 2018-11-30 (Released:2019-04-10)
参考文献数
31

本研究の目的は,訪問介護における介護報酬が公定価格として妥当性をもつのかについて考察することである.介護報酬は,基本部分と加算部分で構成されるが,本研究では,サービス提供において不可欠となる人件費や諸経費が含まれる基本部分に着目する.施設や通所系サービスの介護報酬設定(基本部分)をみると要介護度別の設定となっているのに対し,訪問介護の介護報酬は(要介護度別ではなく)1回当たりの設定になっている.この考え方によれば,要介護度が高くなればそれに比例してより多くのサービス提供時間が提供され,それが要介護度に応じた報酬となるということである.これをふまえ,本研究では訪問介護において介護の必要の程度がサービスの「時間」にあらわれているかについて考察を行った.この結果,「身体介護」については介護の必要の程度がサービスの「時間」にあらわれている一方,「生活援助」についてはそのようになっていないことが明らかとなった.ここからは,現在の1回あたりを基準に設定されている訪問介護の介護報酬は,必ずしも利用者の要介護状態に応じた評価となっていないということができる.
著者
山東 愛美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.39-51, 2019-11-30 (Released:2020-06-16)
参考文献数
43

本研究は,変容や多様化が指摘されている日本のソーシャルアクションをめぐる現状を整理するとともに,その背景要因を理論面から明らかにする.まず先行研究からソーシャルアクションのプロセスに関する記述を抜粋して類型化を行った.その結果,署名,陳情,裁判等の行動を伴うダイレクトアクションと,交渉や調整等を特徴とするインダイレクトアクションの二つの類型があることを確認した.また,ソーシャルアクションの概念が日本に導入された当初はダイレクトアクションとして理解されていたが,近年は,インダイレクトアクションが主流となり,両者が併存していることが明らかとなった.その理論的な背景要因として,ソーシャルワークの統合化とエンパワメントについての日本的な捉え方がある.今後は,ソーシャルアクションの2類型をふまえたさらなる研究の蓄積や,ソーシャルワーカーの役割分担を念頭においた実践モデルの構築が求められる.
著者
寺田 千栄子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.67-79, 2019-02-28 (Released:2019-04-10)
参考文献数
23
被引用文献数
2

本研究は,わが国のLGBTQの児童生徒の支援において,学校ソーシャルワークにおける有効な支援のあり方を検討することを目的とする.そのために,LGBTQ児童生徒の支援において重要な役割を担っていると考えられる養護教諭を対象としたアンケート調査を行い,わが国の学校教育現場の支援状況を分析した.その結果,学校教育現場にはスティグマをはじめとした子ども達を抑圧する構造が存在し,これらがパワーの減退につながっていることを示した.また学校教育現場の課題として,①早期支援が行われていない,②学校教育現場は当事者にとって相談しやすい環境にない,③養護教諭は学校全体への働きかけを積極的にできていないことを明らかとした.ソーシャルワークの専門的価値基盤である人権,社会正義,多様性の尊重の観点から学校ソーシャルワーク実践が必要であり,とりわけパワーの減退についてはエンパワメント理論の導入が有効であると考えられる.
著者
澁谷 智子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.70-81, 2014-02-28 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
3

一般に,子どもは保護されケアされる対象と考えられているが,家族の状況によっては子どもが大人並みのケア役割を果たすことがあり,こうした子どもたちはヤングケアラーと呼ばれている.本稿では,医療福祉専門職がヤングケアラーをどう認識しているか,こうした子どもがどれほどの頻度でみられるのかを知るために,東京都医療社会事業協会の全会員に質問紙調査を実施した.回答者402人のうち,35.3%は子どもが家族のケアをしていると感じた経験をもち,親の病気や入院,ひとり親家庭であることなどをヤングケアリングの理由として挙げた.全体的に,ケアを担う子どもに対する回答者の関心は高かった.しかし,そうした子への支援方法は確立しておらず,個々の医療福祉専門職が現場で試行錯誤していることも浮き彫りとなった.
著者
岩田 千亜紀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.132-143, 2020-08-31 (Released:2020-10-03)
参考文献数
30

本稿の目的は,ソーシャルアクションの実践方法としてのプログラム評価の有用性および方法について考察することである.東京都渋谷区で行われた「渋谷スタディクーポン事業」へのプログラム評価の実践事例を取り上げ,ソーシャルアクションにおける展開方法としての,プログラム評価の有用性および方法について考察を行った.その結果,プログラム評価を通じた「プログラム理論の明示化」,「ニーズの明確化」,「プログラム効果の可視化」,「評価結果の提示・共有化」が,本事業の政策化というソーシャルアクションの実現に寄与したと考えられた.以上から,プログラム評価はソーシャルアクションの実践方法として,有用な実践方法である可能性が高いと考えられた.
著者
高橋 万由美
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.39-57, 1999

It is often difficult for the people with disability or the frail elderly to go out freely. In Japan, Special Transport Service (STS), which situates between a mass public transport and using a private car, has not been well developed. Firstly, in this article, I examine the concept of "transport support service" and determine the scope of "welcome and send-off service" and "special transport service". Then I illustrate the recent development of STS by the Ministry of Health and Welfare and the Ministry of Transportation and assert the need for consideration of "Welfare Transportation Service" with the mutual understanding of both Ministries. Secondly, I present the outcome of my interviews to organisations that operate STS. The problems to be solved lie in 1) who to drive, 2) who to escort, 3) who to be users, 4) how to coordinate, 5) how to handle the traffic accidents, 6) how to be secure and 7) contrary to Transport Law. Finally, I assert that more should be done to realise the community that even the people with disability or the frail elderly go out freely and to realise the barrierfree community.