著者
村社 卓
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.32-45, 2018-02-28 (Released:2018-06-22)
参考文献数
29

本稿の研究目的は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアの継続特性について,実証的,構造的に明らかにすることである.特に,ボランティアの「楽しさ」に焦点を当てている.研究方法は定性的研究法である.データ収集は3年以上にわたる参与観察とインタビューにより行った.データ分析には定性的コーディングを用いた.分析の結果,ボランティアの継続は推進と維持の2機能によって可能となり,両者は相補的な関係にあった.継続の推進は「双方向の体験によって生じる活動への没頭と意欲的な試み」,継続の維持は「無理のない姿勢によって生じる活動での気楽さと自己管理による改善」と定義できた.推進と維持の内容は,「要因」「感情」「行動」の視点からそれぞれ明らかにした.さらに,「フロー理論」との比較検討による継続特性も提示した.本研究の成果は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアへの支援内容の提示および研修プログラム作成に貢献するものである.
著者
佐草 智久
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-12, 2017-05-31 (Released:2017-09-22)
参考文献数
29

本稿の目的は,家庭奉仕員制度と家政婦の対象領域の変化から日本のホームヘルプの歴史を再検討することである.国際ホームヘルプ協会の国際的定義によれば本来ホームヘルプは供給主体・対象に限定はなく,家庭奉仕員制度も家政婦も共にホームヘルプの構成要素の一つである.しかし先行研究が論じているホームヘルプは家庭奉仕員制度に限定されてきた.そこで本稿は,同協会の定義に準拠し両者の対象領域の変化に着目して,戦後から2000年までの日本のホームヘルプの歴史を検討した.その結果,日本のホームヘルプは,①1960年代初頭までは両者の対象領域は不明確であったが,②1960年代中頃より家庭奉仕員制度の法制度整備によって名実ともに分化し,③1970年代中頃以降になると高齢化社会などの社会背景の変化に伴い家政婦が在宅高齢者へ対象領域を拡大させたことに端を発し,各々が次第に再接近・同化するという3点の時代区分が存在することが明らかになった.
著者
高良 麻子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.126-140, 2015-08-31 (Released:2018-07-20)

変容している生活問題への対応が十分とは言えないなか,社会的に排除されている人々に対して地域を基盤とした総合的かつ包括的支援が展開されている.なかでも,制度の未整備などには法律・制度・サービスの改廃・創設を含む構造的変化を促す組織的活動であるソーシャル・アクションが必要だと言えるが,研究と実践ともに蓄積が乏しい状況である.そこで,本研究ではソーシャル・アクションの実践を体系的に把握することを目的とし,成果が確認された社会福祉士による42の実践事例を分析した.その結果,近年実践されているソーシャル・アクションは当事者の参加度が低く,かつ介入対象レベルが狭いことが明らかになった.実践プロセスは,制度などに関する課題に気づき,課題を把握し,課題理解促進や関係者の組織化を並行して行いながら,構造的変化を目的とする組織的活動を行っており,日頃からのネットワークや実践の蓄積などの基盤が不可欠だと考えられた.
著者
田中 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.82-94, 2009-05-31 (Released:2018-07-20)

本稿では,<重度知的障害者>を包摂する連帯規範の理論的探究に向かうため,(1)福祉国家の理論的基礎を支えてきたリベラリズムの規範理論において,<重度知的障害者>がなぜ,どのように,その理論的射程から放逐されてきたのかを,リベラリズムにおける市民概念の検討を通して考察し,(2)連帯規範の再検討における<重度知的障害者>という視座の意義について検討を加え,(3)<重度知的障害者>という視座における連帯規範の再検討によって,どのような理論的課題が浮上するのか,を検討した.リベラリズムがその理論的射程から放逐してきた<重度知的障害者>を連帯規範の再検討のための視座におくことには,それがリベラリズムの規範理論の限界点と課題を照射しつつ,連帯規範をめぐる新たな公共的討議の可能性を開示する,等の意義を見いだすことができる.また,この<重度知的障害者>という視座による連帯規範の問い直しの作業は,リベラリズムの市民資格の限定解除を求めつつ,現代の政治哲学における「ケアと正義」の接合,併存をめぐる理論的課題に逢着することになるだろう.
著者
野口 史緒
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.79-94, 2014-08-31

第34回社会保障審議会介護保険部会資料(2010年)によると,特別養護老人ホームの入所申請待機者は,42万人にのぼり,そのうち在宅以外で待機しているのは52.8%であった.本研究では,そのような背景から,医療機関を退院後,行き場を見つけづらい高齢者が,住宅型有料老人ホーム(以下「ホーム」)に入居している現状に注目した.そこで,ある「ホーム」の常時介護を必要とする高齢者47名の家族の聞き取り調査とそこにおける看護・介護労働者の聞き取り調査を行い,長期療養高齢者の生活問題を包括的に捉えることを試みた.入居者世帯を階層区分した結果,相対的安定層といえども,医療,介護,住宅にかかる自己負担は重く,常に経済的不安を抱えながら生活していることが確認された.また入居者は,介護保険制度によって決められた時間報酬のために,短時間で区切られたケアを受けていた.これらの調査結果から,介護問題の構造を浮き彫りにする.
著者
吉田 晴一
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.25-37, 2015-05-31

救護法は救護が市町村長の義務であることを明確に規定し,収容救護について市町村自らの救護施設への収容のほか,私設を含む他の救護施設への収容の委託を認めた.本稿の目的は,「私設の救護施設」が担う公的な救護の制度の制定過程およびその意義について検証することである.本稿では,まず,救護法制定過程における救護施設への収容の委託に係る検討状況の変遷について分析する.次に,私設の養老院を事例に,救護法制定前・施行後を比較し,私設の救護施設が担う公的な救護の意義について分析する.救護法の制定過程において,代用感化院の制度を参考に公設の「収容場舎」の設置命令とともに「私設ノ場舎」の代用が提案されるが,市町村の救護施設の設置は任意とされ,委託費(=救護費)支払による私設の救護施設への収容の委託という制度へ収斂していった.私法上の契約関係によって,民間の社会事業施設を公的な制度に取り込む仕組みが構築された.
著者
横山 登志子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.24-34, 2004-11-30

本論では,歴史的に社会防衛的色彩の強い精神保健福祉領域の「現場」で,ソーシャルワーカーがどのような援助観を醸成させているのかについてソーシャルワーカーの自己規定に着目して,以下の点について考察している.第1にソーシャルワーク理論史にみるソーシャルワーカーの自己規定では,クライエントを自らとは異なる「他者」としてとらえてきたことについて論じた.そして,専門的自己と個人的自己は分離することができないものであることを指摘した.第2にソーシャルワーカーのインタビューから「現場」に立ち会う者としての個人的自己の強いコミットメントが示唆されたことを述べた.以上の点から,静的・理想的な専門的自己のありようを示す援助関係論から,「現場」のリアリティーが失われない動的・状況密着性が高い個人的自己をも内包した援助関係論を構築する必要性が示唆されることについて述べた.
著者
口村 淳
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.163-173, 2011-02-28

本研究の目的は,高齢者ショートステイにおける相談援助に関するカテゴリを生成し,その特徴について検討することである.特養併設型ショートステイを利用した236人のケース記録を,帰納的アプローチによる質的研究法で分析を行った.その結果25個のカテゴリからなる,【援助困難ケースへの対応】【施設での生活支援】【外部機関への情報提供】【施設利用に関する相談】【家族との連絡調整】【利用者に関する情報収集】【円滑な在宅介護の支援】【苦情対応】という8個の上位カテゴリが生成された.さらにそれらは,「利用期間中の業務」と「利用期間外の業務」に分類することができた.先行研究の多くは長期入所施設を調査対象としているため,本研究のカテゴリとはいくつかの相違点がみられた.たとえば,ショートステイでは利用中の援助にも家族の意向が反映される傾向があるため,【家族との連絡・調整】が重要な機能として位置づけられる点などである.
著者
須田 木綿子 浅川 典子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.46-55, 2004-11-30
被引用文献数
1

特別養護老人ホーム(「特養」と略称)の施設長4人を対象に探索的質的調査を行い,介護保険制度による環境の変化をいかに認識し,どのような対応を試みているのかを検討した.その結果,環境の変化は「ケアの対象」「特養の機能」「現場の理念」「入居者との関係」「歳入と人員配置」の5点から,対応は「人件費節約」「職員の質とモラールの確保」「経営感覚の醸成」「オプショナル・プログラム」「苦情処理制度と第三者評価制度-の対応」「独立した価値の維持」の6点から把握された.対応のあり方は,技術核-管理核の分離を図るか否かによって異なり,プロフェッショナリズムとの関係性も示唆された.またテクノロジーと組織構造の改編は,目的に応じて使い分けられているようすがうかがわれた.今後は,本研究で得られた知見を一般化が可能な方法で検証することが必要とされ,そのための課題が整理された.
著者
倉田 康路
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.101-113, 2001-08-31

本研究においては,実践現場でサービス計画(全体計画)が実現されるためにはどのような条件や方策が必要か,介護老人福祉施設(特養)の場合を通して検討することを目的とする。研究方法として同種施設に所属する職員を対象にアンケート調査(自由回答法)を実施し,全国の155の施設から822票の回答を得ることができた。K. Krippendorffによるメッセージ分析法を用いて分析を行った結果,実現化に作用する条件や方策に関して5つのカテゴリーから28の項目が抽出された。同計画の実現に向けては,これら各項目やカテゴリーについて一連のつながりをもって関連させながら方策を展開していくことが大切かと考えられる。また,計画の実現に職員自身が自信を持てるような条件づくりを進め,サービス計画をよりよいものに改善していくという使命を一人ひとりの職員が担っていることの認識がもてる体制をいかにして創りだしていくかを検討し,確立していくことが求められる。
著者
浅井 純二
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.13-25, 2015-08-31

本論は,伊勢湾台風被災地である名古屋市南区に設置されたヤジエセツルメント保育所を中心にして救援活動の展開を整理し,被災から復旧・復興に向けた学生・保母・父母・支援者の役割と活動要素,評価を明らかにしている.役割と活動要素は,学生の人道性・開拓性,保母の専門性・継続性,父母の自発性,支援者の協同・連帯性である.保育要求は災害によって顕在化した生活問題とともに働く親の願いと捉えており,保育活動は子どもの利益を守り,地域を組織化するものである.活動の特徴は,被災と貧困という二重の条件を踏まえ,保育活動が,救援から発達保障を求める活動へ変化し,保育活動の多面的な発展のうえで歴史的な起点となったことである.
著者
岩永 理恵
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.40-51, 2009

本稿は,生活保護制度における援助に関する議論を自立概念に注目して吟味することから,生活保護制度のゆくえに関わって検討すべき点を考察するものである.生活保護制度の在り方に関する専門委員会の論議を起点とし,自立支援という観点から制度の根本的な見直しを進めるならば,自立という概念が援助の在り方と関係して問題になると考える.専門委員会で自立支援を議論する過程には曲折がみられたが,最終報告書で自立支援を定義し決着した.この定義は,自立支援プログラムの作成を通じて具体化すると考え,一例として板橋区の自立支援プログラム作成を検討した.その結果,自立に経済的自立だけでなく日常生活自立と社会生活自立を想定することは,制度の目的変更を迫るものであると考えた.見直されていく制度は,現行制度の"保護"という考えにそぐわず,自立支援の取り組みと同時に"保護"に替わる概念を構想する必要がある.
著者
石島 健太郎 伊藤 史人
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.82-93, 2016

本研究は,意思伝達装置を用いるALS患者204人を対象に,複雑な条件組み合わせと結果の関連を明らかにすることができるファジィセット質的比較分析(fsQCA)を用いて,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者が意思伝達装置を用いる際,どのような条件がそろえば満足度が高まるのかを明らかにするとともに,社会福祉学でのfsQCAの有効性を示すことを目的とする.分析の結果,重度障害者でも意思伝達装置を満足度の高い利用方法が複数示唆され,かつ年齢や同居する家族の有無に応じて支援すべき方向性も異なってくることが明らかとなった.こうした知見は,ケースワークにおける個別性の原則を経験的に確かめるものであるとともに,実践的には支援者が患者の属性を踏まえた意志伝達装置の利用促進に示唆を与えるものである.また,無作為抽出が困難で,さまざまな条件が複雑に関連した事例の多い社会福祉学でfsQCAを用いる意義も示された.
著者
川島 ゆり子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.26-37, 2015-08-31

本研究は,生活困窮者自立支援に関わる支援ネットワークのあり方について検討を行う.生活困窮者は単に経済的な困窮にとどまらず,多様な社会的排除の状況にあり,その支援には多様な専門機関がネットワークを構築して関わる必要性が生じる.実証研究では調査対象である精神疾患を持つ母子家庭の生活状況の厳しさが明らかになった.支援の狭間に漏れ落ち,先行きが見えないまま苦しむ姿が浮き彫りになり,多くのケースは就労していないにもかかわらず,生活保護受給にも至っていなかった.複合問題を抱える当事者に対してはネットワークによる一体的な支援が求められるが,検証の結果,生活困窮者支援において二つのネットワーク分節化の課題があることが示された.一つは時間による分節化であり,もう一つは専門分野による分節化である.生活困窮当事者の生活保障を継続的に実現するためには,生活困窮者支援に携わるコミュニティソーシャルワーカーに対してネットワークのコーディネート機能を発揮する権限を制度として確立する必要がある.
著者
西村 貴直
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.14-22, 2003-03-31

今日,とくに英米を中心としたいくつかの先進資本主義諸国では,既存の福祉国家体制の,大規模な再編成のプロセスのなかで,貧困問題をめぐる社会的な構図が大きく書き換えられつつある。その背景には,貧困の問題を,一般労働者階級の失業や低賃金の問題と,あるいは一般市民が被っている社会的・経済的剥奪の問題と結びつけて把握するのではなく,一般社会とは切り離された「アンダークラス」の構成員が抱える個人的・集団的属性の問題として把握する考え方が存在している。本稿では,こうした「アンダークラス」に言及する,あるいはそれと深くかかわるいくつかの議論の検討を通じて,現代福祉国家における「貧困」をめぐる問題構成の変容の一側面を浮き彫りにしたい。こうした作業は,とくに英米の「ワークフェア」政策から多くを吸収しようとしているわが国の福祉政策の展開を占う意味でも,極めて重要な意義をもつように思われる。