著者
赤川 学
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.81-95, 2006

読売新聞「人生案内」欄を素材として,「資料に向かい合う作法」としてのセクシュアリティの歴史社会学を実践する.第一に,1935~95年に掲載された身上相談を,見田宗介が用いた分類を修正しつつ,10年おきに量的分布の変遷を調べた.恋愛と結婚に関する悩みは漸減する一方,自己の性格や心に関する悩みが増加していた.第二に,性に関する悩み(身下相談)は,どの時期にもみられる「普遍的な悩み」,処女・純潔のように,ある時期以降消失する「可変的な悩み」,親密なパートナーとの関係に発生する「関係性の悩み」,自己の身体や性的欲望に関連する「個体性の悩み」等に分類される.第三に,身下相談では女性投稿者の比率が漸増しており,そこでは,「関係性の悩み」が突出して語られやすい.逆にいえば性を,自己の身体や欲望に関連づけるような語りが,隠蔽される傾向が確認された.
著者
宇野 重規
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.89-108, 2013

本稿は、「リベラル・コミュニタリアン論争」の歴史的再評価を行うものである。サンデルをはじめとするコミュニタリアンは、ロールズに対し「負荷なき自我」の概念をもって批判を加え、これに対しロールズも一定の譲歩を行ったとされる。しかしながら、その後もサンデルは、選択の自由を自己目的化することは、有徳な市民の涵養に対して否定的な効果をもつだけでなく、さらにリベラリズムの精神的基盤そのものを掘り崩すとして、ロールズへの批判を続けた。本稿はこのようなサンデルの批判を分析する一方で、はたしてそのような批判がロールズの『正義論』の本質を捉えたものであるかを再検討する。デモクラシーを自己制御するための原理を、超越的な理念に頼ることなく、あくまで多様な個人を抱えるデモクラシー社会の内的な「均衡」によって導こうとするロールズの理論的意義は、サンデルらの批判によっても否定しえないというのが本稿の結論である。特集 社会科学における「善」と「正義」
著者
齋藤 民徒
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.83-112, 2005

本論文では,国際人権法の近時の研究動向を「文化」という切り口からレビューする.(1)国際法研究において「文化」を語る意義がどこにあるか,(2)国際人権法とりわけ人権条約研究において「文化」を具体的にどのように語りうるか,という2つの課題を軸に近時の諸研究を概観することを通して,国際法学において「文化」概念が持ちうる可能性と問題点とを探究する.具体的には,これまでの国際法学・国際人権法学において,どのように「文化」が捉えられてきたか,従来の研究に批判的検討を加えた上で,「文化としての人権」や「文化としての条約」といった人権条約の重層的構築の様々なレベルに位置づけながら近時の各種研究を整理する.これらの作業を通じて,本論文は,「文化としての国際法」を語りうる方法としての文化概念,すなわち,国際法実践と国際法学を通じた法的世界像の構築を1つの地理的・歴史的な文化的営為として把握しうる再帰的な文化概念を近時の研究動向に見出し,今後の国際法研究に繋げることを試みる.
著者
小林 友彦
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.81-106, 2003-03-31

「国際法と国内法の関係」に関する学説の長期的な展開過程を追跡し,その蓄積と今日的意義を明らかにする.なお,国別・法系別に論じる必要がありうることに配慮し,特に国際法と日本法の関係に焦点を当てる.I.では,実行を概観する.一貫性を維持しつつ現代的法現象にも対応するために,基礎概念の再検討が必要となることが確認される.II.では,いくつかの基礎概念に関する日本の学説展開の軌跡と蓄積とを跡付ける.その結果, (1)体系間関係, (2)国内的効力, (3)国内的序列, (4)直接適用可能性に関する理論の発展には連続性があり,それらの総合的に把握し再構成させうることが示される.III.では,包摂的理論枠組みの試論として「部分連結する多重サイクル」モデルを提示する.合わせて,(1)「多元的構成」の再考,(2)国内的効力概念の再定位,(3)国家責任論との関係の再検討,という今後の研究課題を提示する.This article traces the doctrinal developments on the relationship between international law and Japanese law back to the 19th century, and then clarifies its contemporary significance. Part I of the article identifies current practical difficulties surrounding the topic, arising from the accelerating globalization and transnationalization, and stresses the urgent need to review some of the traditional key concepts for solving these difficulties. Part II gives a long-term process analysis of the developments in Japan of doctrines on the relationship between international law and domestic law. The analysis confirms substantial issue linkage in continual flow of debates as well as plenitude of theoretical achievements during inter-war period. Part III attempts to show a comprehensive framework for the organic integration of related concepts. Finally, three specific solutions are proposed in response to practical demands.