著者
高橋 正樹
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.59-74, 2003
被引用文献数
2

人の意識や行動様式を規定するのは,属性や置かれた環境だけではなく,個々人の出来事の経験とその積み重ねとしての人生経験である.しかし,量的な調査において,ライフヒストリーに代表される質的調査が主導してきたこうした視点を欠きがちであった.本論文では,量的な手法を活かしつつ,この人生経験をとらえる手法としてライフイベント研究をとりあげた.個々の出来事経験はモノのように記憶の中で出し入れされたりするような固定されたものではなく,記憶化される中で変容していく動的な特徴をもつ.自伝的記憶のこうした特徴を,その形成過程にまで視野を広げて実際の調査データを基に考察した.分析において,より影響力の強い出来事経験と出来事経験への感度という視点を提起し,自伝的記憶形成モデルとして,職業・仕事を軸としたモデルと(男性に多い),家族の出来事への配慮を軸としたモデル(女性に多い)をとらえた.