- 著者
-
村井 大介
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.95, pp.67-87, 2014-11-28 (Released:2016-11-15)
- 参考文献数
- 20
- 被引用文献数
-
2
本研究の目的は,高等学校社会科が地理歴史科と公民科に分化した事象を事例にしながら,カリキュラム史上の出来事の意味と機能を教師のライフストーリーから明らかにすることである。 先ず,高等学校社会科が分化した際の言説を分析し,国際化を背景に歴史・地理教育が重視され,地理歴史科と公民科に分化したことと,こうした動きの中で教師には社会科としての総合性よりも,学問領域に接続する専門性が求められたことを明らかにした。 その上で,四半世紀を経て教師がこの事象をどのように意味づけ,影響を如何に受け止めてきたかを教師のライフストーリーから分析した。社会科分化の際に教師だった世代は,自身の専門分野からこの事象を意味づけていたが,分化以前の社会科の免許状を持つが故に専門外と考える科目も担当せざるを得なくなっていた。一方,社会科分化後に教職に就いた世代は,免許状取得の際に地理歴史科・公民科というカテゴリーを重視するが,教職経験を積む中で社会科の枠組みを意識せざるを得ない状況に直面していた。 以上のように,教科の専門性を高めることを意図して行われた高等学校社会科の分化は,地理歴史科・公民科というカテゴリーによって専門化した教科アイデンティティを創出する一方で,教員の配置や免許状,「世界史」の必修化といった問題と絡みながら,かえって教師が専門性を発揮し難くなるという逆機能を有していた。