著者
山根 隆宏
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要 (ISSN:18822851)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.29-38, 2009-09

本稿の目的は,高機能広汎性発達障害児をもつ親の適応に関する研究を概観し,親の適応過程を考察することと,適応に関連する要因の整理をおこなうこと,今後の研究の課題を考察することであった。本稿の構成は,まず障害受容研究のいつくかの理論的枠組みから,高機能広汎性発達障害児の親の適応を捉える上での問題点について論じた。続いて,親の適応に関する問題として,確定診断を得ることの難しさ,障害認識・障害受容の難しさ,養育における高いストレス,抑うつなどの精神的健康上の問題の観点から整理をおこなった。さらに,親の適応に関連する要因として,診断告知の要因,子どもの要因,親の個人内要因,家族・社会的要因,家族のライフステージの5 つの観点が重要であると考えられた。今後の課題として,子どもの障害に対する認識と感情のズレにともなう親の複雑な葛藤を詳細に検討すること,親の適応過程に影響を与える促進要因と阻害要因を特定すること,子どもの診断告知から青年期に至るまでの長期的な視点で親の適応過程を捉えることの必要性が考えられた。
著者
石井 香里
出版者
神戸大学大学院人間発達環境学研究科
雑誌
神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要 (ISSN:18822851)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.65-76, 2009-09-30

セクシュアリティを含む生活上の問題は人権問題であるとの認識の下、セクシュアル・マイノリティの中でも特に女性カップルの生活に焦点をあて、彼女らの日常生活を描き出し、そこから女性が同性のパートナーと生活していくうえで、現実の生活においてどのような問題に直面しているのか明らかにし、合わせて問題解決に向けての当事者としての立ち位置ないしは姿勢や立場について検討、考察した。インタビューから同性パートナーと暮らしている本研究の対象者が、アイデンティティの問題やカミングアウトの問題、墓や生活保障の問題など、様々な生活上の問題を抱えていることが明らかにされた。次に、彼女らの抱えている「生きづらさ」について、「私」、「私と他者」、そして「私と社会」との関係において考察した。研究を通して、セクシュアリティに関連した様々な日常的な「生きづらさ」を抱えながらも、問題を先送りにし、誰かが世の中を変えてくれることを期待しないで待つ、という当事者の姿勢の一側面が明らかにされた。