著者
新山 喜嗣
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.31-39, 2005-10-31

筆者は,これまでカプグラ症候群の本質規定にあたって,本症候群では他者において「このもの性」としての<私>の変更が行われるものとする小論を発表してきた.しかし,本来は自分自身のものとされる<私>が他者においても存立するか否かという問題にっいて,それらの小論では充分な検討がなされないまま議論が進められていた.したがって,本稿では他者における<私>の存立の是非に焦点を当てた検討を試み,同時に,カプグラ症候群で変更する<私>がもつ存在論的な意味についても検討した.最初に,ここで意図されている<私>概念を最初に提起した永井均の所論から,他者における<私>の存立を否定する彼の主張を概観した.永井によれば,<私>とは自分自身だけがもつ唯一性であって,それが誰もが持ちうる唯一性一般に歪曲されることは許されないことであった.続いて,このような永井の他者論に対して否定的な見解をもつ3名の論者による主張を概観した.しかし,これら論者の主張においても,他者における<私>の存立が充分な根拠をもって確保されているとは言い難いものと思われた.したがって,カプグラ症候群に関する先のような本質規定が妥当なものであるたあには,他者での<私>が存立するための根拠を,異なる視点から新たに探し出すことが必要であると思われた.
著者
篠原 ひとみ 兒玉 英也 吉田 倫子 成田 好美
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.9-15, 2008-10

乳児期の夜泣きに関して母親211人に対しアンケート調査を行い, 児の夜泣き経験をもつとの回答のあった64人を対象として, 本研究では夜泣きの重症度に関わる要因を検討した. 夜泣きの重症度を測る尺度として「一週間の夜泣きの総時間数」を設定した. 夜泣きの重症度は, 平均6.8±10.1時間(0.09〜42.0時間) で, 10時間を越えると, 母親の「寝不足感が常にある」, 「疲労感が常にある」との回答が多くみられた. 夜泣きの重症度は出生体重と関連があり, 10時間を越える児の出生体重は有意に少なかった(p<0.05). また, 10時間を越える児では, 日中に30分以上持続する泣きがみられる頻度の高い傾向があり(p=0.08), 昼寝の回数が有意に少なかった(p<0.01). 本研究から, 夜泣きの重症度が10時間を越える場合は, 何らかの看護介入を考慮する必要があると思われる. 夜泣きの重症度は児の出生体重や日中の睡眠パターンとの関連が認められる.
著者
小稗 文子 KOBIE Ayako
出版者
秋田大学医学部保健学科
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.31-39, 2008-10-01

本研究は, 死が身近な存在であった近代前史から近代までの終末期の看護の変遷について調べた. 近代以前は極楽浄土を願うことから臨終のための儀式が重要とされ, 僧医や看病僧によって終末期の看護がおこなわれていた. 近代の終末期の看護は, 真死と仮死の判別, 死後の処置の方法, 死の徴候の観察, 環境整備, 四肢の保温を行われていた.これは, 明治に入り, 1) 神仏分離令により廃仏毀釈運動がおこり仏教看護が崩壊した事. 2) 医制により臨終の場には僧医でなく医師が立ち会うように変化した事. 3) 伝染病が流行した事. これらの社会背景が影響を及ぼしたと推察される.This study examines the transition of terminal care from the past, when death was familiar, to themodern day. In the past, deathbed rituals to pray for passage into Buddhist paradise were important, andmonks performed terminal care. Modern terminal care involves : distinction of actual death from apparentdeath ; postmortem treatment ; observation of signs of death ; management of the environment ; keepinglimbs warm. From the Meiji period, 1) the anti-Buddhist movement stemming from the separation ofBuddhism and Shinto led to the collapse of Buddhist nursing, 2) Medical law required a doctor, not amonk, to be present at the deathbed. 3) Epidemics were prevalent. We observed the influence of this socialbackground.
著者
眞壁 幸子
出版者
秋田大学医学部保健学科
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.72-76, 2008

7年間英国で看護業務に携わった経験から英国における医療職の労働衛生管理について紹介する. 英国では, 勤務体制がフレキシブルで, 育児へのサポートも充実している. 職員の卒後教育においては病院内でのトレーニングが十分であり, 働きながら大学へ行くことのサポート体制もある. 医療に関わるリスクを避けるための配慮はもちろんのこと, 健康を相談できる部署やスポーツの設備も整っている. 心理面への配慮としてカウンセリングやキャリアアップのための相談窓口, 人種や文化的違いに対する差別への配慮も行われている. 職員の経済面への配慮として通勤のためのローンや住宅ローンなどがある. このようなことから, 日本でも, 燃え尽き症候群や離職者を減らすためにも組織や国家レベルで積極的に医療職の労働衛生管理を本格的に実施する必要があると考える.This paper reports on occupational health management in England, especially in the NHS (National Health Service) based on my 7-year working experience for the NHS in England. In the NHS, workingshifts are flexible and there is significant childcare support. There is in-house training and support for employees studying towards degrees while at work. Besides recognition of occupational hazards, staffs are also available to consult on other health matters and exercise facilities are provided. For mental health, there are contacts available for counseling and career development. Efforts are also made to eradicate discrimination in the workplace. Financially, interest-free loans are available for commuter season tickets,as well as governmental home loans. This report suggests that in Japan, in order to reduce burn out syndrome and staff turnover in hospitals, it is important to establish appropriate occupational health management at governmental and hospital organization levels as in England.
著者
長岡 真希子 山路 真佐子 小笠原 サキ子 宮越 不二子 池田 信子 柳屋 道子
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.37-47, 2004-03-31
被引用文献数
1

ヒューマン・サービスに携わる初年次学生の体験学習として,本看護学専攻1年次70名(女子62名,男子8名)に対象に,入学して6ヶ月経過後の9月に,身体障害及び知的障害者施設で3日間の障害者福祉援助実習を行った.本研究では,この実習前後において障害者に対して持っている印象と実習を通しての学びを明らかにすることを目的に,学生に対し実習前と実習後の印象,実習に対する期待とその学びについて質問紙調査を行った.その結果,実習前にもっていた障害者に対する印象のほとんどは否定的な印象であったが,障害者援助の見学と実践という障害者との接触体験を持ったことによって,実習後の印象は肯定的なものが多くなったと考えられる.実習に対する期待としては,記述数は少なかったものの,コミュニケーションと接し方,援助方法,障害者の生活実態などが挙げられ,これらは障害者の関わりによって概ね学ぶことができていた.また,実習の学びに対する記述内容が多岐に渡っていることから,期待していたことに留まらずそれ以上に学びを深め,自ら広がりを持たせることができたと考えられる.
著者
石井 良和 石井 奈智子 林 千栄子 Ishii Yoshikazu Ishii Nachiko Hayashi Chieko
出版者
秋田大学医学部保健学科
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.26-33, 2007-10-01

本研究では, 目的的課題がフロー経験に与える影響とLocus of Control や興味といった個人的要因の関連性を検討した. 59名の対象者を交互に実施した順に目的群と無目的群に分け, 目的群には被験者が選択したパーラービーズ作品を完成させるという課題を行わせ, 無目的群にはパーラービーズを盤の上に置く課題を行わせた. その結果, 目的群においてより高いフローが経験され, 各々の課題遂行後の両群にはフローと興味間に有意な相関を示し, 無目的群の中の多くの被験者がそのグループの平均よりも能力水準を高く, また挑戦水準を低く認識する「不安」という感情カテゴリーに属することが示された. 実際に課題を完遂させるという経験は興味とフロー経験との関係を明確にさせる可能性を示唆し, 無目的課題は否定的感情をもたらす可能性を示唆した.
著者
上村 佐知子 下田 裕子 近藤 直樹 津曲 良子 佐々木 誠
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.52-57, 2005-03-31

本研究の目的は,身体活動能力の低下を伴う痴呆患者における愛他的行動の出現頻度や出現内容を観察するとともに,愛他的行動の出現が痴呆の重症度・症状類型やセルフケアの自立度と関連するかを明らかにすることである.一般総合病院で理学療法を受けている入院痴呆患者39名を対象に,1ヶ月間の愛他的行動の出現を観察し,また,改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)と高齢者用多元観察尺度(以下MOSES)を用いて,痴呆の重症度と社会活動性を評価した.愛他的行動の出現頻度は1〜45回,1回も出現しなかった患者は2名であり,総数では605回の愛他的行動が観察された.愛他的行動の出現頻度は,HDS-Rとの間に相関関係を認めなかったが,MOSESの総点との間に有意な相関関係を認めた.愛他的行動の出現頻度に最も影響するMOSESの下位尺度は「引きこもり」と「イライラ感」であった.結果より,痴呆患者においても少なからず愛他的行動が残存し,それは引きこもりやイライラ感が少ない者で多く観察されることが示された.
著者
工藤 俊輔 高橋 恵一 那波 美穂子 安田 智子
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.1-8, 2008-10

本研究の目的は, A養護学校における理学療法士・作業療法士(以下PT・OT と略) 導入の効果を明らかにし, 今後の連携を円滑に進めるための要因を探ることである. 53人の教員を対象にアンケートによる意識調査を行い, 著者等の実践に基づく考察を加えた. 52人(回収率98%) の教員から回答があり, (1) PT・OT に対する期待としてポジショニング指導と摂食指導についてのニードが最も多かった. (2) 教職員の役割については, 自立活動の取り組みが1位を占めていた. (3) 養護学校の課題としては表現できる力を養うという項目が1位を占めていた. (4) PT・OT が4月より導入され, 役だったかどうかという設問に対しては49人(94%) が役立ったという評価をしていた. しかも39人(75%) からのコメントがあった. 結論としてPT・OT と教員間の連携が促され, この12ヶ月間の活動は全体として一定の評価ができるものと考えた.
著者
高橋 紀子 岡田 ミヨ子 長谷川 由紀子 佐藤 紀子 成田 琢磨 神谷 千鶴 浅沼 義博
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.58-67, 2004-03-31

糖尿病患者に対し,教育入院用クリニカルパスを作成し,7例に適用した.このパスの中での栄養士の果たす役割は,アウトカムを「食事療法の必要性が理解でき,ご飯などの秤量ができ,退院後も継続できる」とした.入院期間は平均24日であり,この間に全例において, 3回栄養指導を行うことができた.入院時に調査した患者の食事状況については,7例中6例が間食をしていた.また,食事傾向は7例中5例が基本量よりも多く食べていた.また,7例中2例では食事療法に対する家族の協力は得られず,問題を抱えていた.教育入院前後のBody Mass Index (BMI)は,入院時27.4±4.8,退院時26.7±4.6であった.また,収縮期血圧は,各140±26mmHg,117±18mmHgであった.BMI,収縮期血圧ともに入院により有意に改善した.血液検査成績として,空腹時血糖, HbAlcを測定した.空腹時血糖は,入院時182±40mg/dl,退院時132±52mg/dlであった.また,HbA1cは,各10.0±1.8%, 8.0±0.9%であった.空腹時血糖,HbA1cともに入院により有意に改善した.退院時に,食事療法の理解度を調査した.摂取エネルギー量や主食・主菜・副菜の組み合わせの理解は7例ともあった.また,食品交換表の理解は,「ある」が3例,「1部ある」が3例であり,「ない」は1例のみであった.糖尿病教育入院用クリニカルパスを用いて管理栄養士が食事療法に介入することは,計画的に栄養指導を行うことができる,栄養士がチーム医療のなかに積極的に入ることができる等の理由により有意義であると考える.
著者
高山 賢路 齋藤 千鶴子 佐藤 真貴子 熊谷 ナミコ 浅沼 義博 久保田 均 皆川 洋至 渡部 亘 井樋 栄二
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13478664)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.34-39, 2005-03-31

クリニカルパスを使用することで処置,介助,リハビリテーション(以下,リハビリ)のケア実施日が早くなったか,さらに入院日数がどれくらい短縮したかを明らかにする目的で,クリニカルパスを使用していない人工股関節全置換術(total hi parthroplasty ; THA)患者15例(以下,コントロール群)とクリニカルパスを使用した8例(以下,パス群)とを比較検討した.処置項目では,パス群の抗生剤投与期間が平均7日有意に短縮した.介助項目では,ヘッドアップ30度開始日が平均1日,ヘッドアップ自由開始日が平均3日,端座位開始日が平均2日有意に短縮した.リハビリ項目では,リハビリ室訓練が平均9日,全荷重立位が平均15日,松葉杖歩行が平均11日有意に開始日が早まった.平均入院日数は,術前14日,術後11日,全体で26日,パス群で有意に短縮していた.パス群8例の術後経過はすべて良好で,入院日数の短縮が術後成績に影響することはなかった.セメントTHAを行う患者にクリニカルパスを適用すれば,介助,リハビリの開始時期が早くなり,結果として入院日数短縮につながった