著者
中村 丁次
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.750-758, 2012 (Released:2013-11-01)
被引用文献数
1 1

食べ物と健康や疾病との関係は、世界中で多種多様の方法で論じられながら、栄養学のみが生命科学の一分野として存続できた。その理由は、栄養素という生命の素を発見し、栄養素の生成に関連する成分を食物から分析したからである。栄養学は、食料不足や偏食により発生した多くの栄養失調症の予防、治療に貢献した。わが国は、第二次世界大戦前後、栄養失調症に悩まされたが、集団給食を介した食料の適正な分配と栄養教育により、短期間に問題を解決した。しかし、1980年以降は過剰栄養による肥満、生活習慣病が問題となる一方で、若年女子を中心としたダイエットによる極端なやせや貧血、さらに傷病者や高齢者の低栄養障害が問題となってきた。このような傾向は、世界中でみられ、Double Burden Malnutrition(DBM)と呼ばれている。DBMとは、同じ国に、同じ地域に、同じ家族に、さらに同じ人物に過剰栄養と低栄養が共存している状態をいう。食生活の欧米化や、家庭や地域で習慣的に伝承されてきた伝統的な食習慣が崩壊し、栄養問題は複雑化、個別化してきている。このような問題を解決するために、人間栄養学を基本とした新たな栄養管理の方法が開発され、栄養・食事の改善を目的にした大規模な介入研究が行われ、その有効性と限界性が議論されている。また近年、同じ栄養量でありながら食品の種類、組み合わせ、調理法、食べる時間や速さ、食物の物性、さらに食べる順位などの食べ方が生体へ及ぼす影響の研究も始まった。栄養や食事が疾病を予防する目的を果たすには「何を、どのくらい食べるか」だけではなく、「どのように食べるか」を議論していく必要がある。
著者
入道 優子 白石 紀江 中田 麻理菜 酒井 香名 紙名 祝子 熊谷 仁人 田中 英三郎
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.723-728, 2018-11-10 (Released:2019-01-01)
参考文献数
17

【目的】2008年度から特定保健指導を実施し、その効果を示してきた。しかし、担当する保健師に関わらず同様の指導効果が認められるか否かは明らかでない。本研究の目的は、保健師間の指導効果差の有無を検証することとした。【対象】2012~2015年度に初めて特定保健指導の積極的支援を受けたA事業所の男性職員で次年度の健康診断を受診している233名(経験年数6~15年の保健師5名が担当)。【方法】全体並びに保健師別の腹囲・体重・BMIを特定保健指導受診年度と次年度の健康診断結果で比較した(Wilcoxon符合付順位和検定)。次に、保健師間で腹囲・体重・BMIの変化量を比較した(Kruskal-Wallis検定)。【結果】保健師別対象者の背景因子に差はなかった。対象者全体の次年度の健康診断結果は、腹囲・体重・BMIのすべてに有意な減少が認められた。次に、保健師別の次年度の健康診断結果は、腹囲・体重・BMIのすべてに有意な減少が認められた。一方、腹囲(p=0.622)・体重(p=0.511)・BMI(p=0.378)の変化量に保健師間で差はなかった。【考察】保健指導の手順書の作成や指導資料の統一、職場内OJTの実施などにより、指導内容の標準化を図っていることは大きな要因であると思われる。また、保健師の経験年数が6~15年であり、これまでの職務経験により得られた結果であるとも考えられ、経験年数が短い保健師や他職種においても同等の結果が得られるか検証する必要がある。保健指導効果を上げるために、今後も技術向上と質の確保に取り組みたい。【結論】今回の結果により、保健師に関わらず同等の指導効果が認められていると示唆された。
著者
吉川 博通
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.579-583, 2012

「健康寿命」という言葉が世間でよく使われ出したのに合わせ、元気な高齢者が実に多く見受けられるようになり、ますます超高齢化まっしぐらである。一方で、健康のメンテナンスに大いに利用されているわが国の人間ドック健診受診者の中にも高齢者が増え始め、数は少ないが75歳以上のいわゆる後期高齢者がチラホラみられるのも珍しくなくなった。<br> ただ後期高齢者になると、健康上、これまでの常識が通用しない面が多くなり、健康そのものの指標が大きく変わることから、一般受診者とは一律に取り扱うことが難しく、どうしても自立した生活が困難となる生活機能障害を予防するための特別なライフステージに応じた対応が必要となってくる。<br> 昨今、健診無用論を唱える学者もいるが、これは個人個人の哲学的問題であって、イエスもノーもいえるものではない。ただ年々人間ドック健診の受診者が増えることを考えると、それならばその人たちに満足してもらえるシステム作りが必要となってくる。高齢者たちを集め、全国各地で介護予防健診と銘打って全人的、包括的なシステムを構築し、健診を行っていることはすでに周知の通りである。しかしこのシステムを完璧に現在日々の一般健診の中で、数少ない高齢者に行うとなるとそれは至難の業といわざるを得ない。まずできる範囲で一つ一つ着手して行き、これからも増えるであろう高齢者の幸せな老後を送るのに大事なQOLを高める手立てに手を貸すとならば、願ってもない総合健診のレベルアップに繋がるということになるのではないだろうか。
著者
神戸 義人 横田 春樹 山本 侑子 沼田 美和 大沢 愛美 成澤 勉 横須賀 浩二 内藤 祥 裴 英洙
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.576-583, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
8

インターネットの普及、およびそのサービスの発展が著しく、インターネット依存(以下、ネット依存)の懸念が広がっている。また、メンタルヘルスや生活習慣との関連性も危惧されている。今回、当財団での健診受診者に対してネット依存に関する調査を実施し、ネット依存度をスコア化することで社会人におけるネット依存の現状を調査した。対象は当財団における2015年度の健診受診者のうち、235名を対象にネット依存の現状を調査した。調査は、Kimberly Young博士の開発したヤングテストを使用した。ネット依存度はヤングテストでスコア化(100点満点)し、40点以上でネット依存傾向ありと判断し、点数が高い方がネット依存度は高度となる。235名のうち、男性129名、女性106名。平均年齢は40.0歳、ネット依存度の平均スコアは34.2点。分布は、20代が44名でスコアが41.6点、30代が67名でスコアが34.9点、40代が87名でスコアが31.6点、50代以上が37名でスコアが30.1点であった。男女別では、男性のスコアが34.7点、女性が33.7点であった。ネットは若年者により多く普及していると言われており、今回の結果からも年代が低いほどスコアが高値となり、特に20代では約60%の回答者にネット依存傾向があった。ネット社会がますます加速する中で、ネットによる弊害も多く発生している。ネット依存による生活の乱れや体調不良等の増加も予測されるため、健診を通じてネット依存による危険性の啓発を検討したい。
著者
渡辺 登
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.520-521, 2010 (Released:2013-07-15)

In order to determine the degree of disturbance of memorization in the consultation room, it is recommended that the physician ask questions about what the patient had for breakfast and how he or she reached the hospital (itinerary using the bus, train, car, etc.). These questions do not offend patients or impair the dignity of elderly patients. The physician may obtain the right answer from the accompanying family member. If the answer given by the patient is wrong, the diagnosis of disturbance of memorization can be made. A simple test may be made by asking the patient to remember three words, such as cherry, cat and train, and to repeat them immediately. Ask questions such as “what date is it today?”, “Where are you now?”, etc., and then, ask the patient to repeat the three words they have just remembered. If they fail to answer correctly, the diagnosis of disturbance of memorization can be made.
著者
水野 杏一 山下 毅 小原 啓子 船津 和夫 近藤 修二 横山 雅子 中村 治雄 影山 洋子 本間 優 前澤 純子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.547-552, 2016

最近特定の職業と肥満の関連が指摘され、職業習慣病という言葉も聞かれている。エンジニアはパーソナルコンピュターなどの使用時間が長く、肉体的活動が少なく、不規則な生活、職場のストレスなどにより肥満が多いと報告されている。これらの研究は断面調査なので、エンジニアという職業が肥満を引き起こすのか、エンジニアを目指す若者がすでに肥満なのか明らかでない。そこでエンジニア会社の入社時健診を解析することにより既に肥満が入社前より存在しているか検討した。対象はエンジニア関連会社に平成27年度に入社する20歳代の男性(エンジニア予備軍)179人で、平成26年度国民健康・栄養調査(国民調査)から同年代の男性257名、および非エンジニア企業に入社する同年代男性新入社員49人と比較した、BMI 25以上の肥満の割合はエンジニア予備軍で30.2%、国民調査で20.9%、非エンジニア18.4%で、肥満の割合はエンジニア予備軍で対照群より約10%高かった。エンジニア予備軍で血圧上昇、耐糖能異常、脂質異常症の動脈硬化危険因子を持つ割合は肥満者が非肥満者に比べ有意に高かった(P<0.001)。肝機能異常を持つ割合も同様であった(P<0.001)。腹囲85cm以上の内臓肥満を有するのはBMIによる肥満者の94.4%におよんだ。しかし、メタボリック症候群を有するのはエンジニア予備軍で3.4%、エンジニア予備軍の肥満者でも11.1%で国民調査の同年代2.2%と比べ有意な差はなかった。以上、エンジニア予備軍は入社前から肥満が存在していた。若年者の肥満は後に認知症になりやすいこと、メタボリック症候群は多くなかったが、若年者の肥満者は将来メタボリック症候群になりやすいことなどより、肥満に対して早期の介入が必要である。その際、肥満の管理を個人のみに任せるのではなく、社員の健康を重要な資産とみなす健康経営が浸透してきているので、企業の積極的な介入が入社時より望まれる。
著者
田内 一民 松浦 成子 佐藤 祐司 谷崎 隆行 児玉 由美子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.334-338, 2003-05-10 (Released:2010-09-09)
参考文献数
9

ここ数年, サプリメント (健康補助食品) を摂取する受診者が急増している。健診の最終目的は生活習慣の改善であることから, サプリメント摂取という生活習慣についても正しく把握する必要があると思われる。しかし, 健診受診者に対してサプリメント摂取についての調査, 報告はない。今回, 我々は健診受診者を対象に, サプリメントの種類, 摂取期間, 摂取開始年齢, 摂取動機などについて問診票による調査を行った。調査結果からサプリメントの摂取率は男性10%, 女性20%で, その動機は「疲労回復」, 「人に勧められて」の順であった。ビタミン摂取が全体の47%を占めていた。サプリメントの効果は明らかにされなかったが, 検査値に影響があると思われる例が認められた。受診者のサプリメント摂取の有無について問診票等で把握しておく必要がある。
著者
堤 明純
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.313-319, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
41

職場におけるメンタルヘルス不調のスクリーニングについては、スクリーニング効率がさほど高くないこと、スクリーニングの有効性を示すエビデンスが乏しいことに留意する必要がある。調査対象のセグメンテーションや層別尤度比の活用は、こういった課題解決のキーとなりうる。職場におけるスクリーニングの対象となる障害としては、頻度が多く、適切なケアによる対策の効果が、障害を有するケースと職場ともに認められているうつ病性障害の優先順位が高いが、最近は自閉症スペクトラム障害や適応障害なども注目されている。自閉症スペクトラム障害は、以前考えられていたよりも頻度が多く、職場不適応や難治性うつ病のハイリスク要因として認識されるようになっている。適応障害も長期の疾病休業の原因として職場でよく遭遇する、職業性要素の強いメンタルヘルス不調の一つである。適切な職場環境の調整により、不必要な休業や障害が取り除かれる可能性があり、スクリーニングを実施する価値がある。職場においては、層別尤度比などの検査特性を検討している研究は少なく、対象となる障害とともに、いかに実施すると効率的なスクリーニングができるかを含めた方法論に関する検証の蓄積が望まれる。
著者
三家 登喜夫
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.293-300, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
13

糖尿病とは、「インスリン作用不足により持続的な高血糖をきたした状態」であり、放置すると様々な慢性合併症を引き起こす疾患である。この患者数はいまだ増加の一途をたどっており、大きな社会問題となっている。したがって、健康診断などにより積極的に糖尿病を診断することの意義は大きい。本稿では、糖尿病の臨床診断に関して以下のように日本糖尿病学会の考え方を中心に述べた。 糖尿病を診断するためには「持続する高血糖」の存在を明らかにすることである。そのための重要な検査として血糖値(①空腹時血糖値:126mg/dL以上、②随時血糖値:200mg/dL以上、③75gOGTTにおける血糖2時間値:200mg/dL以上)とHbA1c値(6.5%以上)がある。上記の血糖値のいずれかあるいはHbA1c値が判定基準を満たした場合「糖尿病型」とし、初回検査に加えて別の日に行った検査で、糖尿病型が再確認できれば「糖尿病」と診断できる。ただし、2回の検査のいずれかに血糖値による検査が含まれていることが必須である。ただし、血糖値とHbA1cとを同時測定し、いずれもが糖尿病型であれば、1回の検査のみで「糖尿病」と診断できる。また、血糖値が「糖尿病型」を示し、かつ糖尿病の典型的な臨床症状認められるかあるいは確実な糖尿病網膜症が存在すれば、1回の検査だけでも「糖尿病」と診断できる。
著者
児玉 浩子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.546-551, 2013

小児の栄養・食の問題としては、従来から肥満・生活習慣病の増加、やせの増加、朝食欠食、孤食、偏食、よく噛まないなどが指摘されている。肥満児の出現率は、平成18年をピークとしてやや減少傾向にあるが、平成23年度でも15歳男子で11.99%、女子で8.26%と高い。さらに、2型糖尿病など生活習慣病に罹患している肥満小児も多い。やせの増加も問題である。15歳男子で2.6%、13歳女子で3.91%が痩せ傾向児である。やせ女子は将来妊娠した場合に低出生体重児を出産する率が高い。低出生体重児は将来肥満や生活習慣病に罹患しやすい体質になると言われている。朝食欠食や孤食は、肥満の要因になるだけでなく、学習・運動能力、精神発達、コミュニケーション能力にも悪影響をきたす。 小児においては、食育が、将来的に健全な食生活を送るようになるために極めて重要である。食育とは、「さまざまな経験を通して"食"に関する知識と"食"を選択する力を習得して、健全な食生活を実践できる人を育てること」と定義されており、体育・知育・徳育の土台となるものである。 平成23年に発表された第2次食育推進基本計画では、重点3項目として1)ライフステージに応じた間断なき食育の推進、2)生活習慣病の予防及び改善につながる食育の推進、3)家庭における共食を通じた子どもへの食育の推進が示された。「団欒のある食卓」が小児の精神発達にとっても極めて重要である。 学校や保育所で食育が推進されている。栄養教諭は年々増加しているが、平成24年4月現在、公立学校での栄養教諭配置は47都道府県で4,263人に過ぎない。栄養教諭のさらなる増員が望まれる。さらに、食育を真に推進するには、学校・地域・家庭など子供を取り巻くあらゆる場所で、関係者が協力して食育に取り組むことが必要である。
著者
鈴木 秀和
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.444-450, 2014 (Released:2014-07-01)
参考文献数
29

オーストラリアのWarrenとMarshallによるH. pylori(ピロリ菌)の発見で、胃・十二指腸疾患の自然史上、極めて大きなブレークスルーが起こった。今や、ピロリ菌除菌で慢性胃炎や消化性潰瘍を治療するだけでなく、胃がんの予防にまで言及されるようになった。過去40年以上にわたり、我が国では国民病ともいわれる「胃がん」に対する検診が行われてきたが、この「胃がん検診」についてもピロリ菌を制御するという局面からの新規アプローチの必要に迫られている。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌療法が、2013年2月から健康保険の適用となり、まさに国民総除菌時代を迎え、年間100万人規模の除菌療法が開始されており、数十年後に、胃がんを撲滅するために、よりきめ細かい診療がもとめられている。本稿では、ピロリ菌感染症の病態、胃がん検診、除菌療法について最新の知見をまとめたい。