著者
片岡 杏子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.28, pp.131-142, 2007-03-31

近年,国内の美術館を中心に盛んに行われる「ワークショップ」は,学校教育における教科学習としての制約がなく,多様な人々の関わりを許容するという点において,極めて発展的な可能性を持つ活動手法である。しかし,それは社会教育として広まりながら,必ずしも教育方法として確立されているとは言い難い。本橋では,はじめに近代以降における美術館の普及と美術教育の展開を振り返り,我が国の公共的場面における「美術」の在り方を探るとともに,「ワークショップ」が流行に至った背景をまとめる。次に,ワークショップが今後,社会教育としてさらに広まる可能性を念頭に置き,教育として成立するための諸条件として,「地域社会における日常への浸透」と「単発的教育手法としての確立」を提示し,実践事例を取り上げながら検討する。最後に,今後望まれる役割についてまとめる。
著者
吉田 貴富
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.439-452, 2009-03-21

対話型ギャラリートークが日本に紹介されると同時に,学校教育への導入・応用の動きも始まり,啓蒙書的・指南書的な書籍の出版も相次いでいる。しかし,これらの書籍はほぼ共通して進行役(ファシリテーター)の美術的素養や扱う作品に関する知識・理解・解釈を問題にしない。むしろそれらは不要であるとの言説も存在する。はたしてこのような認識や喧伝の仕方は,学校教育における対話型鑑賞を実り多いものに導くであろうか。本稿は,対話型ギャラリートークに関する文献,アメリア・アレナスの対話型ギャラリートーク,それに小学生を対象とした実践例を再検討して,対話型ギャラリートークを学校教育へ導入・応用する際に重要な要件のひとつとして,進行役が,扱う作品に関する知識・理解・解釈を具えていることが挙げられることを明らかにした。
著者
山木 朝彦
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.29, pp.563-575, 2008-03-27

本稿において展開する考察の目的は,戦後日本の美術教育思潮におけるリアリズム表現の受容の背景に,どのような教育観と芸術観が潜んでいたのかを明らかにすることにある。アプローチの方法は次のとおりである。この論文では,芸術思潮におけるモダニズムの概念を再検討することで,リアリズムをモダニズムと対置せずに関連づける試みを行っている。これは,リアリズム対モダニズムという従来の図式的な理解を克服し,戦後の美術教育思潮を客観的に俯瞰するためである。また,美術制作の分野で展開されたリアリズム追究の流れと美術教育の運動にみられるリアリズム受容の流れを複眼的に比較考量している。その目的は美術教育界と美術運動の両者に通底するモダニズムの精神を炙り出すとともに,美術教育思潮におけるリアリズムの特質を明らかにするためである。この論考の先には,ポストモダンをも踏まえた同時代の美術教育の思想的座標の位置づけを行う試みが予想される。
著者
縣 拓充 岡田 猛
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.13-27, 2010-03-20
被引用文献数
1

本研究では,大学生を対象に,創作の過程や方法に触れる経験を与えることによって美術に対する認識を変え,同時に表現を促すことを試みた。具体的には,1)創作プロセスに焦点を当てた美術展示,2)自ら表現を行うワークショップの二つを体験させ,それぞれが学生にどのような影響を及ぼすかを質問紙調査によって検討した。その結果,創作プロセスを見せる展示は,美術に対する認識を変える上では有効なものであったが,表現を促すという効果は限定的であった。しかし,それに加えてワークショップを体験させることで,美術に対して苦手意識を持っていた学生も,創作や表現を身近にあるものとして位置づけるに至った。
著者
山田 洋揮
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.29, pp.605-616, 2008-03-27

名古屋市(108校中39校の回答あり)での美術科定期テストの実施率は62%であり,現在の大学生の中学時代に比べると減少している。テストの内容は,昭和30年の高校入試の形式とほとんど変わっていない。アメリカでは既に全米規模で美術教育のテストが実施されている。そこで,全米学力テストの一部を追試した。その結果,日本の生徒は,描写力に優れているが,作品を分析し,解釈,評価する力が不十分であることが分かった。今後の美術科定期テストは,「知識・理解」の判定にとどまらず,「思考・判断」や「表現・技能」など総合的に評価できる形式・内容を整える必要がある。それは,教師による評価のためだけでなく,生徒自身が自分の成果を確認するためである。
著者
上西 知子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.28, pp.39-50, 2007-03-31

本稿は,美術制作過程がどのように自己理解につながるかをリクールの「ミメーシスの循環論」,メルロ=ポンティの「スタイル論」,ワロンの「発達」理論に学びながら検討する。美術制作過程は「『内的他者』との対話」と捉えることができ,その中で身体行為が作品を作り,作品の「スタイル」から意味を引き出し自己理解につながる過程と考えられる。この構造は制作過程について語る制作者自身の「語り」の中に「3人の私」という形で表れることに注目し,身体的行為から始まる美術制作は,制作過程そのものが精神的自己理解を獲得可能とする,より広範な教育過程につながることを明らかにする。
著者
長谷川 哲哉
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.29, pp.445-458, 2008-03-27

バウハウス研究において近年使用されてきた「バウハウス第二世代」の概念を明瞭にするため,この世代に属すとみなされたG・フィーツとH・トレーケスの諸側面を事例として,広義での「バウハウス第二世代」の共通した指標を明らかにする。そのためにバウハウスと近似した改革芸術学校での修学,元バウハウス教師からの影響,バウハウスの根本思想の受容,バウハウス教育学の理解とその発展的継承,等々の視点から考察し彼らの共通点を探る。これにより,戦後においてバウハウス教育学を担った人たちの活動範囲,すなわちバウハウス教育学の影響史をより幅広く,しかもより豊かに捉えることができる。