- 著者
-
岡田 猛
縣 拓充
- 出版者
- 一般社団法人 日本教育心理学会
- 雑誌
- 教育心理学年報 (ISSN:04529650)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, pp.144-169, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
- 参考文献数
- 173
- 被引用文献数
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芸術は,多様な動物の中でも,我々ヒトのみがその営為を行っている活動である。それゆえに,芸術を取り巻く活動の理解と支援に向けた研究からは,創造,表現,イマジネーション,触発,シンボルによるコミュニケーション,あるいは学習といった現象の我々に固有の特徴について,本質的な示唆がもたらされる可能性がある。本論文は,主にこの10年の間に報告された,芸術表現の創造と鑑賞,ならびにその学びに焦点を当てた心理学的研究を概観するものである。芸術創造のメカニズムに関しては,特に認知的なアプローチから国内でも様々な知見が得られている。特にアイデアの生成や展開,身体的スキルやわざ,あるいは表現者としての熟達に関わる研究には豊かな蓄積がある。また鑑賞に関わる研究も,脳神経科学の発展も助けとなり,近年ますます活発に行われている。他方で芸術に関わる学習や教育を扱った研究は,実践レベルでは多様な展開が見られるものの,心理学者が関わることは多くない。今後は,現状ではあまり繫がっていない,芸術表現の創造と鑑賞に関わる知見と,その学びや触発を促すことを目的とした実践とが,有機的に結びついていくことが期待される。