- 著者
-
安藤 光義
- 出版者
- 日本農業経済学会
- 雑誌
- 農業経済研究 (ISSN:03873234)
- 巻号頁・発行日
- vol.91, no.2, pp.164-180, 2019-09-25 (Released:2019-12-25)
- 参考文献数
- 58
本稿の目的は,1999年に制定された食料・農業・農村基本法新基本法(以下,新基本法)以降の農村政策の展開を批判的に振り返り,課題を析出することにある.最初に,新基本法の政策体系における農村政策の位置を4つの政策理念─食料の安定供給の確保,多面的機能の十分な確保,農業の持続的な発展,農村の振興─の関係性に注目しながら検討を行う.その結果,多面的機能の十分な確保と農村の振興の間,農業の持続的な発展のための望ましい農業構造の実現を目指す構造政策と農村の振興の間に矛盾と緊張関係があることが明らかになった.次に,新基本法に至るまでの農村政策の展開の整理を通じて,どのようにして政策の窓が開き,中山間地域等直接支払制度が実現されたのかを明らかにした.農村政策は同制度の成立によって新しい段階に突入した.以降の政策は,コミュニティ政策としての性格を帯びながら,地域資源の保全・管理に傾斜していった.3番目に,日本の農村政策の特徴は集落の活用にある点を確認したうえで,中山間地域等直接支払制度と多面的機能支払制度の意義と課題について論じた.前者は後者よりも優れている.自立性を高める内発的な発展ではなく地域資源管理に第一の優先が置かれている点に農村政策の問題がある.4番目に,財政の制約という視点を織り込みながら欧州と英国の農村政策の形成過程と特徴の整理を行い,地方分権に基づく裁量性の発揮が重要であることが明らかとなった.最後に,市町村や集落などの政策の遂行主体を射程に入れて今後の農村政策のあり方を展望した.最終的な目標は集落の主体性を引き出すような基金の創出にあるが,当面の課題は集落の内発性を高める支援を行うとともに,中山間地域等直接支払や多面的機能支払などの各種交付金の受け皿となる組織の整備を進めることである.