著者
中村 克明
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学人文学会紀要 = Bulletin of the Society of Humanities Kanto Gakuin University (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
no.134, pp.105-121, 2016

自由民権運動の闘士・植木枝盛が,1881(明治14)年夏に起草した日本国国憲案は,周知のように国民(人民)主権,徹底した人権保障,連邦制等を採用し,「ブルジョア民主主義の極致を行く独創的な案」として高く評価されている。現行の日本国憲法にも影響を与えたとされる,この日本国国憲案の原本はすでに亡失しているようであるが,今日,毛筆写本2本と活版印刷本1本の,計3種の異本が伝わっている。本校訂では,これらの異本と同案の草稿本である「日本國憲法」とを厳密に比較考証し,条文の脱漏や脱字を補正するとともに,固有名詞等の明らかな誤字を訂正し,また大日本帝国憲法を参考に文言を統一して,日本国国憲案の,いわば完成校といえるものを提示した。
著者
多ヶ谷 有子
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学人文学会紀要 = Bulletin of the Society of Humanities Kanto Gakuin University (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
no.135, pp.121-149, 2016

結城合戦で上杉を大将とする足利幕府軍に敗れた結城氏はいったん滅亡する。その結城家を再興したのは、結城合戦時の当主の結城氏朝の遺児である結城成朝であると最近の歴史概説の諸書は断定する。だが成朝は実は結城重臣の山川の子であるとの根強い説がある。一方成朝を擁立して、再興した鎌倉公方の足利成氏のもとを訪れたのは結城一族の多賀谷氏家であった。ここになぜ氏家が、裏切って上杉についた山川の子を命を懸けて抱いて戦場から脱出し、擁立したのかという謎が生じる。氏家の後見のもと、若い成朝は公方成氏の側近となり、成氏の命で関東管領上杉憲忠を謀殺する。爾後享徳の乱となって関東は乱れる。成朝は後年、多賀谷に謀殺されたとされる。ここになぜ多賀谷が、自ら擁立した成朝を殺したのかという謎が生じる。本稿は、結城家を再興した結城成朝は多賀谷氏家の実子であるとの仮説を提唱する。また成朝や次の氏広について、相容れない諸説が伝承されている。筆者は、結城を裏切った山川は幕府なり上杉の承認で結城家を継承しており、この山川側結城と、公方成氏に認められた多賀谷側結城の両系が並立し、後に山川側の結城成光が公方成氏の側近の成朝と同一視されて、伝承に混乱が生じたため、相容れない諸伝承となったと考える。
著者
千 錫烈
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学人文学会紀要 = Bulletin of the Society of Humanities Kanto Gakuin University (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
no.134, pp.1-41, 2016

本稿では、指定管理者制度が公立図書館に導入された際の課題について論考を行うものである。第1章では指定管理者制度の概要および対象となる公の施設について論じる。第2章では指定管理者制度の導入状況について他の社会教育施設と比較し検討を行う。第3章では指定管理者制度の導入率が低い理由について、公立図書館はインスティチュート型施設であり人的資本が重視されることを述べる。第4章では指定管理者制度に関するメリットとデメリットを挙げ、論点整理を行う。第5章では公立図書館への指定管理者制度導入の課題として、短期的な利益と長期的な利益の相反があることを指摘する。その理由について、1:負のインセンティブが働く可能性、2:本当にサービスが向上するのか、3:行政に図書館運営のノウハウが残らない、4:他の機関・部署との連携不足による孤立化、5:短期的利益の追求のために長期的利益が損失、6:人口減少への拍車化の6つの観点から論じる。結論として指定管理者制度を検討する際には、短期的な経費削減を主眼とするのではなく、教育・文化政策の長期的な視野を範囲に入れることの重要性を指摘する。
著者
湯浅 陽一
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学人文学会紀要 = Bulletin of the Society of Humanities Kanto Gakuin University (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
no.132, pp.49-77, 2015

本稿では、英国における放射性廃棄物に対する取り組みの歴史を、民主主義と市場経済との関わりを基本的な視点として鳥瞰したうえで、日本の事例と比較しながら、同国の取り組みが抱えている課題を指摘した。まず、民主主義と市場経済という本稿の基本的な視点を提示したのち、第2節で、放射性廃棄物問題の概要を確認した。第3節では、英国における廃炉作業の概要をふまえつつ、とくに原子炉の型や作業の実施主体、そして作業費用の確保などに重点をおいた説明を行った。第4節では、英国における放射性廃棄物への取り組みとして、処分施設の立地選定が70年代から難航してきた経緯をみたのち、現在の立地選定手続きを日本のものと比較した。第5節では、実質的に唯一の候補とみられるセラフィールドを抱えるカンブリア州で、2013年1月に立地拒否の意思決定がなされたことをふまえ、同地域の経済的特徴をセラフィールドとの関わりから分析した。最後に、英国にせよ日本にせよ、民主主義および市場経済との関わりにおいて、地層処分の方法あるいは処理施設のための建設地探しは構造的な課題を抱えていることから、根本的な見直しが必要であることを指摘した。
著者
岩佐 壮四郎
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学人文学会紀要 = Bulletin of the Society of Humanities Kanto Gakuin University (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
no.134, pp.160-128, 2016

これまで、新歌舞伎(近代歌舞伎)の作家のうち、岡本綺堂、岡鬼太郎、池田大伍らの喜劇について検討してきたが、本稿では、木村錦花の喜劇を取り上げる。錦花には、『研辰の討たれ』『東海道中膝栗毛』などの喜劇があるが、本稿では一九三〇年代から開始されるモダニズムの先駆的試みとして、演劇のみならず、その後の音楽、美術、文学にまで影響を及ぼすこれらの作品について、近年の野田秀樹『野田版・研辰の討たれ』などにまで視界を拡げながら新しい光をあてることとする。錦花はまた、歌舞伎座幕内部長兼立作者代理として松竹による歌舞伎の近代的展開に深く関与してきたが、歌舞伎座・明治座・新橋演舞場・道頓堀中座・角座・浪花座・京都南座などを中心に、昭和前期の交通・通信の発展を背景にした映画館のネットワークの形成と共に発展してきた近代興行資本としての松竹と、商業演劇のプロデューサーとしての彼の果たした役割について、独自の歩みを続けた前進座の営みにも言及しながら考察することが本稿の課題である。
著者
岩佐 壮四郎
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学人文学会紀要 = Bulletin of the Society of Humanities Kanto Gakuin University (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
no.132, pp.228-197, 2015

前号掲載の『岡本綺堂の喜劇』に続いて、今号では岡鬼太郎の喜劇を取り上げる。綺堂と共に、「新歌舞伎」を代表する作家の一人である鬼太郎は、現在でも上演されることの多い『眠駱駝物語』や『江島土産 坊主烏賊』などの喜劇を書いている。現在では殆ど論考の対象とされることのないこれらの喜劇をはじめ、落語研究会を組織して新作落語の普及に努めた彼の落語作品--『意地競』など--や小話、所作事などを含め、その作品の喚起する笑い--滑稽--について、私見を提出したい。また、喜劇と銘打ってはいないにもかかわらず、作品の随処に鏤められた喜劇的場面や、彼が蘇生、再演した『鳴神』等の古典的作品の孕む近代性にも言及し、その喜劇の全体像について考察を試みることとする。
著者
井上 和人
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学人文学会紀要 = Bulletin of the Society of Humanities Kanto Gakuin University (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
no.136, pp.178-163, 2017

本稿のポイントは大きく二点。第一に、『新色五巻書』における『好色五人女』利用を再吟味、長谷川強氏が指摘する大枠に若干を補足した。一風は『新色五巻書』に『好色五人女』各巻を「彼此交錯させた」(長谷川氏)のだが、最新の心中事件を別の心中事件の型を借りて脚色するという方法は、元禄期世話狂言の作劇法と極めて近い。第二に、近松の浄瑠璃『大経師昔暦』が『新色五巻書』をふまえた可能性を提起した。『大経師昔暦』おさん寝床の入れ替わりの趣向は『好色五人女』に拠るとして、おさんが真実を知る経緯については『大経師昔暦』と『好色五人女』とで隔たりがあった。そこを埋めるのが『新色五巻書』だと想定すれば、趣向の継承がスムーズに説明できる。西鶴から一風、一風から近松へ。本稿は、〈結節点〉として『新色五巻書』を位置づける試みである。
著者
岩佐 壮四郎
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学人文学会紀要 = Bulletin of the Society of Humanities Kanto Gakuin University (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
no.134, pp.160-128, 2016

これまで、新歌舞伎(近代歌舞伎)の作家のうち、岡本綺堂、岡鬼太郎、池田大伍らの喜劇について検討してきたが、本稿では、木村錦花の喜劇を取り上げる。錦花には、『研辰の討たれ』『東海道中膝栗毛』などの喜劇があるが、本稿では一九三〇年代から開始されるモダニズムの先駆的試みとして、演劇のみならず、その後の音楽、美術、文学にまで影響を及ぼすこれらの作品について、近年の野田秀樹『野田版・研辰の討たれ』などにまで視界を拡げながら新しい光をあてることとする。錦花はまた、歌舞伎座幕内部長兼立作者代理として松竹による歌舞伎の近代的展開に深く関与してきたが、歌舞伎座・明治座・新橋演舞場・道頓堀中座・角座・浪花座・京都南座などを中心に、昭和前期の交通・通信の発展を背景にした映画館のネットワークの形成と共に発展してきた近代興行資本としての松竹と、商業演劇のプロデューサーとしての彼の果たした役割について、独自の歩みを続けた前進座の営みにも言及しながら考察することが本稿の課題である。