著者
永井 晋 永村 眞 山家 浩樹 岡本 綾乃 西田 友弘 高橋 悠介 西岡 芳文 山地 純 井上 和人 永山 由梨絵
出版者
神奈川県立歴史博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

「重要文化財 金沢文庫文書」4149通について、その本文の校訂、年代推定、紙背文書を利用した関連文書群の復元を行い、「重要文化財 称名寺聖教」との接続の関係をあわせて考察し、称名寺収蔵資料群の一群としての金沢文庫古文書の資料的価値を定める努力を行った。その成果は、「金沢文庫文書検索システム」としてデータベースを構築し、インターネットでの公開をめざしたが、接続のための環境整備が調わず、金沢文庫図書室でのスタンドアローンとしての公開となった。データベースでは、古文書本文・書誌情報・画像(古文書表裏)を金沢文庫図書室で公開した。
著者
井上 和人
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
vol.133, pp.215-232, 2015-12

『関東名残の袂』(宝永五年〈一七〇八〉三月刊)は、江戸の立役中村七三郎の最期物語である。本稿は、『関東名残の袂』が作中で引く七三郎出演狂言について、その描くところの信頼性を確認、次いで得意芸の利用を具体的に示し、七三郎臨終の場についても検討を加えた。まず、七三郎の出演作を引く章段であるが、本文の記事については、配役など正確に狂言の内容を取り入れていた。だが、挿絵には、共演する役者の定紋が相異している例も見られた。次に、七三郎の得意芸をかすめた章段として、巻二の一(本間事)・巻二の三(猫又)・巻三の三(狐)を取り上げた。猫又と狐の場合、これらの所作を得意とした七三郎が、逆に化かされるところに趣向がある。また、七三郎の臨終場面については、『曽我物語』の翻案である可能性を提起した。
著者
井上 和人
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.132, pp.230-248, 2015-07

本稿では、西沢一風作『風流今平家』(元禄一六年三月刊)から七八之巻一「今俊寛涙の足ずり」を取りあげる。『風流今平家』が『平家物語』の「やつし」--『平家物語』を当世風に卑近に崩した作--であることは周知。ただし、『平家物語』の「やつし」は全篇の構想であり、一章一部分の趣向には『平家物語』以外の素材も活かされているはずと推測。果たして、今回の検討の結果、「今俊寛涙の足ずり」のうつぼ舟の趣向は、大職冠物によることが明らかになった。
著者
井上 和人
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学人文学会紀要 = Bulletin of the Society of Humanities Kanto Gakuin University (ISSN:21898987)
巻号頁・発行日
no.136, pp.178-163, 2017

本稿のポイントは大きく二点。第一に、『新色五巻書』における『好色五人女』利用を再吟味、長谷川強氏が指摘する大枠に若干を補足した。一風は『新色五巻書』に『好色五人女』各巻を「彼此交錯させた」(長谷川氏)のだが、最新の心中事件を別の心中事件の型を借りて脚色するという方法は、元禄期世話狂言の作劇法と極めて近い。第二に、近松の浄瑠璃『大経師昔暦』が『新色五巻書』をふまえた可能性を提起した。『大経師昔暦』おさん寝床の入れ替わりの趣向は『好色五人女』に拠るとして、おさんが真実を知る経緯については『大経師昔暦』と『好色五人女』とで隔たりがあった。そこを埋めるのが『新色五巻書』だと想定すれば、趣向の継承がスムーズに説明できる。西鶴から一風、一風から近松へ。本稿は、〈結節点〉として『新色五巻書』を位置づける試みである。
著者
井上 和人
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.131, pp.305-322, 2014-12

西沢一風作『風流今平家』(元禄十六年三月刊)の副題簽をとりあげ、その記載内容を検討、自作における方法を一風自らがどのように解き明かしているのか考察する。主な考察の対象は、副題簽中で使われている表現技法に関わる語彙である。作品本文や他の一風浮世草子にも対象範囲を広げ、導き出した要点を整理すれば、以下のとおりである。(一)一風の語法に従えば、「やつす/やつし」とは「面影をうつす/うつる」ことに等しい。(二)「うつす/うつる」のみで「面影をうつす」の意味で用いている例もあり、それらも「やつす/やつし」と同意である。(三)「面影をうつす/うつる」とは、「どことなく似ている」程度ではなく、「酷似する」こと。一風の語彙では「生きうつし」である。(四)右記三項から、一風の語彙においては、「やつし」は原拠に似ることを必要条件とする。
著者
井上 和人
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.129, pp.177-194, 2014-01

『風流今平家』(元禄十六年三月刊)は、西沢一風の浮世草子で唯一副題簽をもつ。副題簽は当該巻の大意を内容とし、書式は「此巻は……のせたり(しるせり・うつせり)」で統一されている。この『風流今平家』の副題簽は、どこから着想を得たものであろうか。一風以前の浮世草子で副題簽をもつ作品といえば、西鶴『好色一代女』(貞享三年六月刊)が周知のところ。だが、『風流今平家』の副題簽と『好色一代女』のそれとは、明らかに書式が異なり、『好色一代女』にならったものとはいいがたい。本論文では、『風流今平家』の副題簽は、枕本型軍記の目録形式、とりわけ目録に備わる大意を模していると考えた。そこで、まず枕本型軍記の流行と特色について整理し、ついで浮世草子に及ぼした影響について述べる。
著者
新田 栄治 西谷 大 井上 和人 渡辺 芳郎 BUI Chi Hoan CHAIKANCHIT CHALIT Chaik
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

メコン流域の先史時代から初期国家成立にいたる文明化現象について、ベトナム南部、タイ東北部、ラオス南部、カンボジアのメコン流域とその近隣地域で考古学的調査と研究を行った。ベトナム南部においては、メコン・デルタおよびドンナイ川流域の調査を行い、各地で前3世紀以降、河川毎に地域的統一化現象が起きていることを確認した。タイ東北では首長の威信財であったと考えられる銅鼓資料の収集を行い、合わせてメコンおよび支流のムン川、チー川、ソンクラーム川の流域と各河川の合流点が、メコンと支流の河川交通とコーラート高原内陸部とメコン本流およびベトナム沿岸地域との交通の重要な地域であったことを確認した。ラオス南部チャンパサック県の調査では,メコンの河川交通遮断地であるコーン瀑布上流域の河川交通上での経済的、政治的意義を調査した。カンボジアではプノンペン一帯での河川交通の意味を調べるため、メコン、トンレサップ等4つの河川の合流点を考古学的に調査し、博物館資料として保存してあるカンボジアの青銅器、特に銅鼓を中心に資料収集を行った。現地調査の結果、メコン流域とその支流域には、東北タイに代表される鉄や塩、森林産物などの内陸産物を集荷また出荷するセンターが前3世紀ころから誕生したこと、これらのセンターの首長の威信財として東南アジアの代表的青銅器であるヘーガー1式銅鼓が受容されたこと、このような経済的、政治的拠点は、メコン本流とその支流の交通と運輸の拠点、つまり合流点、遮断点、島などに形成されたことが明らかとなった。これらの拠点的地域の中から後1世紀以降の都市の成立さらには国家形成へと進むものがあった。