著者
本村 健太
出版者
岩手大学教育学部
雑誌
岩手大学教育学部研究年報 (ISSN:03677370)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.51-67, 2015-03-15

現在、筆者は岩手大学教育学部芸術文化課程美術・デザインコースにおいて「映像メディア研究室」を開設している。また、大学院工学研究科デザイン・メディア工学専攻では「映像メディア表現」の領域を担当している。しかしながら、ここで「映像メディア」といっても、筆者は映画やドラマなどに携わるような職業としての映像制作の経験を基に映像技術の開発研究や職業訓練的な教育を行っているわけではない。筆者の第一の研究課題は、世界遺産にも登録されているドイツの芸術学校「バウハウス」についてである。本稿ではこのバウハウスについては述べないが、その研究を通して学んだ未来への視座と実験的精神は、筆者自身の教育研究の姿勢として大事にしているものである。筆者はこれまで、バウハウスの芸術に関わる理念の今日的な展開を試みることを念頭に置き、あえて「映像メディア表現」に関わる実践研究を中心に行ってきた。映像を中心に総合芸術的な表現の可能性を検証することも文化研究の課題となりえる。このような背景によって、筆者の研究室では、教育研究機関としての岩手大学に従来から存在した研究領域を継承したり、新たな表現の領域を加えたりしているうちに、イラストレーション・漫画・映像・アニメーション・グラフィックデザイン・Web デザイン、メディアアートなど、様々な領域の表現を所属学生が取り組む状態となった。昨今の分析的な「クリエイティブテクノロジー教育」1)においては、制作における論理的・体系的な教育の方法論が試みられつつあるが、未だ現状としては、創造活動の暗黙知や経験知の不足を補うため、それぞれの現場経験者を大学に招き、学生に刺激を与えることは、学生の知見を広め、学習意欲をもたらす動機づけのためにも大きな意味がある。 このように学外から筆者の研究室と関わりをもつ現場経験者の一人が、アニメーションディレクター寺田和男氏である。本稿では、アニメーションディレクターとしての寺田氏の紹介とともに、氏がディレクターを務めたアニメーション『FLAG』を特に重要な成果の事例として、以下に取り上げることにする。(寺田氏に関する記述の多くは、筆者が寺田氏本人に取材したものである。)
著者
内山 三郎
出版者
岩手大学教育学部
雑誌
岩手大学教育学部研究年報 (ISSN:03677370)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.1-7, 2014-03-10

ヒトの生まれ月(誕生月)については、特に季節による変動は無いと考えられる。これは、厚生労働省による人口動態統計の月別出生数の比較により裏付けられる。しかしながら、運動成績成功者としての職業スポーツ選手の生まれ月分布に偏りがあることは、特に若者に人気のあるサッカー競技では国内・国外において良く知られた事実である。即ち、日本のJ リーグ・サッカー選手では、早生まれ(1月から3月生まれ)の選手が少なく、代わりに遅生まれ(4月から6月生まれ)の選手が多い。これに類似した現象は、オランダとイギリスのプロ・サッカー選手でも報告されている。日本のプロ野球選手においても、同様に早生まれが少ないことが報告されている。野球・サッカー等のプロ球技スポーツにおいて早生まれが少ないという現象は、幼少期における早生まれの体力的劣勢の影響と考えられる。幼少時の体力格差は月齢に比例しており、同学年の4月生まれと3月生まれの間には体力格差として約12 ヵ月の開きがある。学校教育は学年で輪切りにされた状態で行われており、学校スポーツが早生まれ・遅生まれ等体力格差の存在する児童群の中で競争が行われる結果、早生まれの者が正選手に選抜される割合は少なくなると考えられる。学校教育では、それが各学年で繰り返されることとなる。成人ではこの体力格差は解消しているが、幼少時の体力格差によって形成された成功体験が累積的に影響を及ぼし、その結果として幼少時の体力格差が成人後にまで影響すると考えられる。日本サッカー協会も、ヨーロッパサッカー連盟の早生まれの影響に対する取り組みに倣い、選手の育成と発掘において早生まれの影響を認識した対応をする重要性を報告している。 それでは、幼少時体力的に劣勢である早生まれは、学習成績にどのような影響を及ぼすのであろうか。早生まれが学習成績にも影響を及ぼすのであれば、入学試験を行う学校においては学生の生まれ月分布の偏りとなって現れてくることが考えられる。学習時間の持続や学習意欲においては体格・体力の充実が関与することが考えられ、その影響が大きければ幼少時の体力格差は運動成績と同様に学習成績にも影響を与え、成人後までその影響が残ることは充分に考えられることである。学習成績に対する生まれ月の影響については、早生まれによる影響が見られるという報告がある一方、調査の対象によって影響が見られないという報告もある。本研究では、小学校・高等学校・大学における入学者の生まれ月を調査し、早生まれの影響が現れる状況を検討した。次いで、早生まれと学習成績の関係について、親や教育関係者に求められる理解と対応についての考察を行った。
著者
土井 宣夫 DOI Nobuo
出版者
岩手大学教育学部
雑誌
岩手大学教育学部研究年報 (ISSN:03677370)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.9-24, 2014-03-01

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震は,モーメントマグニチュード(Mw)9.0の超巨大地震であった。このため,本震直後からマグニチュード7を越える余震が頻発し,3月11日15:15には茨城県沖を震源とする最大余震(気象庁マグニチュード(Mj)7.6)が発生し,4月7日23:32には本論の研究対象であるMj7.2(Mw7.1)の余震が発生した。 本震で大災害が発生していた東北地方は,4月7日の余震で再び大きな災害が発生し,岩手県南部の奥州市と一関市で多数の家屋被害が発生した。この家屋被害で疑問とされるのは,第一に3月11日の本震で大きな被害を受けなかった地域が余震でなぜ大きな被害を受けたのか,第二に岩手県南部の家屋被害がなぜ奥州市前沢区などに集中して発生したのか,という点である。4月7日の余震における地震動の卓越周期は,木造家屋を倒壊させる1 ~ 2秒の周期ではなく,1秒以下の周期であった。この周期の地震動は,屋内の家具や置物を倒すような揺れである。それにもかかわらず,前沢区では多数の家屋被害が集中して発生したのである。 本論は,2011-2012年度の奥州市と岩手大学間の共同研究として,上記の第二の問題の解決を目指して行った調査研究の結果をまとめたものである。本研究の成果は,奥州市の今後のまちづくりに反映されることが期待されている。本調査研究は,具体的には,奥州市前沢区の構造物の被災調査から地震動の特性を明らかにすること,家屋被害が集中して発生した原因を立地する地形と地質条件から明らかにすることを目的としている。次章で,まず,奥州市前沢区の家屋被害の実態を述べる。