著者
中村 高康
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.194-204, 2012-06-30 (Released:2018-04-04)

90年代以降の大学入学者選抜制度を取り巻く環境変化の中で最も基本的なことは、大学進学率の上昇に伴う長期的な入学者層の変化である。しかし、こうした入学者層の変化に対応した入試多様化・軽量化現象に対しては、これを批判的に見て学力重視の改革を唱える議論と、これを時代の趨勢と見て社会変動の兆候ととらえる議論とがある。いずれにも共通するのは現代を転機ととらえる思考であるが、その思考自体を相対化する必要がある。
著者
藤田 英典
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
日本教育学会大會研究発表要項 (ISSN:2433071X)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.78-79, 2009-08-12 (Released:2018-04-20)

バブル経済期以降のアパシー的な文化社会状況と新自由主義的な教育制度改革及び最近の経済不況などが重なる中で、子どもの生活・学習環境と教育機会の劣化・格差化が進んでいる。本報告では、(1)その問題状況を幾つかのデータで確認し、(2)近年の教育改革の特徴・問題性について教育の公共性と私事性、教育における自由権と社会権、及び国家・社会の責任を中心に検討し、(3)ソーシャル・キャピタルとしての公教育への信頼・協働の回復・促進と学びの共生空間の確保・充実の可能性について検討する。
著者
濱中 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.190-202, 2020

<p> 今般の大学入試改革は、新体制に切り替わる直前に「英語民間試験導入」と「国語・数学の記述式問題導入」が見送られるなど、迷走状態にある。なぜ、このような状態に陥ったのか。今回の改革の特徴は、教育測定や教育社会学、英文学者や言語学者等の研究者が危うさを訴えているなかで進められた点に求められるが、本稿では、推進派の問題とともに、研究者が何を主張してきたのかについても踏み込みながら、迷走の背景を描写した。</p>
著者
福島 賢二
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.1-14, 2010-03-31 (Released:2017-11-28)
被引用文献数
3

これまで教育における平等の議論は、「標準」と「異なっている(差異)」という理由で不利な扱いを受けてきた人への補償主義的な資源分配に基づいてなされてきた。しかしながら、こうした分配的正義は、既存の社会・文化と親和的な価値を再生産するというアポリアを抱えている。本稿では、マーサ・ミノウの「関係性」アプローチと竹内章郎の「共同性」論を対象として、分配的正義に内在する支配的価値の再生産構造とそこからの脱却的視座を得ることを目的とする。この検討を通じて、分配的正義が人々の「差異」を本質的・帰属的なものと同定していたことが明らかとなるだろう。これは、「差異」が社会的に構築されたものであるという視角から分配的正義を鍛え直す必要性を示唆するものである。
著者
杉下 奈美
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.554-566, 2007

コミュニカティブ・アプローチは1970年代以降、外国語教育における主流の教授法となっている。しかし近年、コミュニケーション能力を過度に重視する姿勢への懸念も高まっており、言語能力の捉え方についての再考が求められる。本稿では、このアプローチの理論的基盤となったデル・ハイムズによる「コミュニカティブ・コンピテンス」の概念を再検討し、外国語教育研究に包摂される思潮を考察した。その結果、従来の研究ではこの概念が学習者の能力としてではなく、学習の結果獲得すべき目標として捉えられてきたことが分かった。一方ハイムズにおいては、他者の発話を咀嚼しながら変容し続ける言語の能力に着目する概念であった。以上の考察を踏まえ外国語教育研究において、学習者がもつ能力に基づいて言語活動および文法教育の捉え方を再考すること、言語能力における文法的知識と社会的言語使用との関係を連続的に捉えることの必要性を提起した。