著者
日下部 達哉
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.550-564, 2019 (Released:2020-06-12)
参考文献数
29

本研究は、広島大学教育開発国際協力研究センターが実施してきたベトナム、ザンビア、バングラデシュ、南アフリカといった日本型教育を実践した相手国と、送り出す日本側との対応関係から浮き彫りになる日本の教育の特徴を並置比較し、海外展開する場合における日本型教育の特徴をとらえようとするものである。日本には外来の教育を含む新しい教育政策・実践を定着させてきた経験があり、輸出するまでになった日本型教育は、いかなる条件下で相手国での持続性、発展性を引き出せるのかも検討する。
著者
斎藤 里美
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.410-420, 2017-12-31 (Released:2018-04-27)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿の目的は、人工知能とエンハンスメントの汎用化が「学ぶ意味」や「学力」をどのように変容させるのか、教育学にもたらす課題は何かを考察することである。人工知能による教育への影響については、すでに内閣府(2017a)が言及している。そこでまずはこの資料を分析し、有用性の観点から学習を意味づけることの限界を指摘した。次に倫理学研究からのエンハンスメント批判を援用しながら、人工知能とエンハンスメントの時代においては、有用性と対極の「現在的レリバンス」や「教養」「学びへの信頼と希望」によって「学ぶ意味」と「学力」を再定義する必要があることを示した。
著者
水本 徳明
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.398-409, 2017-12-31 (Released:2018-04-27)
参考文献数
54
被引用文献数
5

教育の目標や知識を構築する当事者として子どもを位置づけ、その複雑性を積極的に受容するため、教師の自律性と協働性が求められている。その実現が困難であるのは、経営管理主義によって公教育経営における権力の様式が規制的規則から構成的規則に変容したからである。サール(Searle, J. R.)の言語行為論に依拠してこの権力様式の変容について検討し、公教育経営における言語行為の転換を起点とする教師の当事者性の回復について論じる。
著者
中村 恵佑
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.295-305, 2021 (Released:2021-11-02)
参考文献数
29

本稿では、国立大学協会(国大協)による1980年代の共通第一次学力試験(共通一次)の改革過程を分析し、大学入試の共通試験におけるアラカルト方式導入の要因を再検討した。その結果、各国立大学の入試に関する動向の変化や共通一次に関し意見がまとまらなかったことという内的要因と、文部省の改革要請という外的要因を背景に、国大協が共通一次利用の自由化・弾力化という方針転換を行い科目削減と実質的なアラカルト方式導入を決定したことも、アラカルト方式を採用した大学入試センター試験の実施に繋がる重要な要因だった点が解明された。
著者
辻 智子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.265-276, 2015 (Released:2016-05-18)

社会教育実践の研究において記録または生活記録は重要な論点を提起してきた。一つは、記録は研究や研究者を見返す性質を有することから実践と研究との間には緊張関係が存在する点である。二つは、第一次史料の発掘・収集・整理および復刻出版によって、むしろ複数の読み直しと事実認識がもたらされ、より立体的な実践認識が促される点である。三つは、書く行為および書かれたものを他者と共有する行為が人間にもたらすものへの考察を導く点である。記録は研究に対しエビデンスなるものへの根本的な問いを突きつけている。
著者
太田 知彩
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.235-246, 2021 (Released:2021-11-02)
参考文献数
27

本稿の目的は、現代日本における「留学」に対する認識の変容過程を検討することである。分析を通じて、責任やリスクといった主体の裁量性を前提に、「留学」で生じる「困難」や非日常的な「体験」が「自己変革」の契機や就職市場において自己の能力を涵養・表現する「エピソード」として読み替えられていくことが明らかになる。以上から、日本社会において短期・体験型の留学が定着した過程とその社会的意味を考察した。