著者
生澤 繁樹
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.543-557, 2015

 政治や教育における「代表」や「表象」という意味での “representation” の機能と作用について考察する。とくにこれまでのカリキュラムの公共性をめぐるポリティクスを中心的に取り上げながら、この問題を考えることが現代社会における代表制デモクラシーのあり方にとどまらず、参加政治の意味それ自体を根本的に問いなおし、そこに暗に設定されたコンピテンシーという教育上の問題を再び浮き彫りにするということを試論的に示していく。
著者
安藤 福光 根津 朋実
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.183-194, 2010-06-30 (Released:2017-11-28)

本稿は、異校種間接続の先行例である公立中高一貫校の議論に着目して、現在の公立小中一貫校におけるカリキュラム・アーティキュレーションの課題を解明する目的をもつ。検討の結果、長期化する教育課程の編成原理の明示と検証、児童生徒への影響を把握する視点および手法、そして小中教員の職業アイデンティティの再構成を、それぞれ課題として指摘した。いずれの課題も、中高一貫校の法制化前後の議論と通底する。
著者
内田 良
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.277-286, 2015 (Released:2016-05-18)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本稿の目的は、学校安全の教育実践におけるエビデンスの功罪について検討することである。そもそも学校安全において、エビデンスは活用されてこなかった(エビデンスの不在)。しかしエビデンスが活用されても、数値が誤読され、そのうえで施策が推進されることがある(エビデンスの罪)。科学的手続きにもとづいてエビデンスが慎重に用いられることが重要であり、こうして実質的な安全が達成されていく(エビデンスの功)。
著者
照屋 信治
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-12, 2009-03-31 (Released:2017-11-28)

従来、近代沖縄教育史研究は「皇民化教育」「同化教育」という用語で、近代沖縄教育の基本的性格を言い表し、明治国家の教育政策の抑圧性を批判する視座が支配的であった。そのような研究視座は、「同化教育」「皇民化教育」の抑圧性を強調するあまり、沖縄人の主体的営為への着眼が薄いという問題を抱えてきた。そこで、本稿では「嚏(くしゃみ)する事まで他府県の通りにする」と発言し「皇民化教育」「同化教育」の象徴的存在とされてきた新聞人・太田朝敷(1865-1938)の沖縄教育に関する思想や「新沖縄」の構想を再検討した。「同化」概念の多義性に留意しつつ、教育会を抗争の舞台ととらえることにより、太田が、「大和化」には回収されない「文明化」の回路を提示し、「沖縄人」意識の存立基盤を提供したことを明らかにした。
著者
田中 智輝
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.461-473, 2016

<p> 本稿の目的は、H.アレントの暴力論と教育論における「権威」をめぐる議論を整合的に解釈することを通じて、政治的主体の育成における教育者の「権威」のあり方を考察することである。教育と政治の緊張関係においてなぜ、いかなる「権威」が要請されるのか。本稿では、教育、政治、そして「権威」の関係を根本的に問い直すことを通して、政治的中立性や教師のポジショナリティの問題への示唆を試みる。</p>
著者
高田 一宏
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.180-191, 2008-06-30 (Released:2017-11-28)

教育をめぐる社会的不平等の克服をめざして、同和教育は学力保障の実践を積み重ねてきた。しかし、近年の調査によると、同和地区の子どもの学力低下は著しく、地区内外の学力格差は拡大する傾向にある。この論文では、先行研究を参照しつつ、同和地区の子どもの低学力要因と諸要因の関連構造を示した。さらに、学力保障の展望を探るべく、学校と家庭・地域の連携から生み出される社会関係資本の意義について述べた。同和地区の子どもの低学力は、不平等な機会構造、同和地区の下位文化と学校文化の不連続性、学校による下位文化の「再創造」、同和地区人口の流出入と若年層における就労の不安定化、消費社会化といった要因が複合的に作用した結果だと考えられる。地区の子どもの低学力問題の克服は容易ではないが、「効果のある学校」においては、学校・家庭・地域の信頼・協力関係が、学校内外の文化変容と取り組みの相乗効果をもたらしている。