著者
田村 綾子
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.74-78, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
8

2018年の障害者雇用促進法の改正施行により,精神障害者が身体・知的障害者と同様に雇用率の算定基礎に位置づけられた.障害者権利条約の理念に基づき,雇用者には,障害を理由とする差別の禁止や合理的配慮の提供が求められており,精神障害者の合理的配慮の適切な提供のためには,雇用者及び職場の上司等が社会モデルに則り障害者の個性や能力を活かせる環境作りや調整を行う必要がある.また,精神障害者(メンタル不調者等を含む)への支援を適切に行うことは,精神障害者の就業を通じた自己実現に繋がる.その際,障害者が自身の精神疾患や障害の特性を理解して対応できるようになることと併せて,仕事に求めるものや職務内容及び力量を認識し,職場上司や支援関係者との対話に参加できることが重要である.これらを支援するために精神保健福祉士等の専門職を含む支援関係者には職場内外での連携が求められる.
著者
金森 悟 小島原 典子 江口 尚 今村 幸太郎 榎原 毅
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.105-113, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
24

目的:本研究は,デジタルヘルス・テクノロジを用いた介入による労働者のメンタルヘルスへの効果や脱落・遵守状況を検証したメタアナリシスをマッピングし,研究されていないギャップを特定することを目的とした.方法:PubMedにて労働者,デジタルヘルス・テクノロジ,メンタルヘルス,メタアナリシスに関するキーワードで2018年以降の文献を検索し,スコーピングレビューを行った.文献から抽出したデータは,研究デザイン,対象者,介入内容などとした.研究の質はAMSTAR 2を用いて評価した.結果:採択した4件におけるアウトカムへの効果は概ね小さい~中程度であった.また,脱落率の高さを示すものもあった.研究の質はいずれも信頼性の評価が極めて低~低であった.考察:未検討の対象があること,用語や定義が統一されていないこと,研究の質の低さなどの課題があり,質の高いシステマティックレビュー/メタアナリシスが必要である.
著者
岡 檀
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.36-41, 2023-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
6

コロナ感染拡大の2020年に日本の自殺率が上昇し,特に女性の自殺率上昇が顕著となった.自殺率上昇の地域差および性差を把握するために,全国の1,735市区町村の自殺統計を参照し,2020年前後の自殺率の変化を推定する指標「自殺率上昇度」と産業構造に関するデータを連結して分析を行った.全国市区町村の自殺率上昇は内需型サービス業の就業率と有意な正の関係があり,コロナ禍の経済的ひっ迫が自殺リスクを高めている可能性が示唆された.宿泊・飲食業について精査した結果,女性の自殺率上昇度は男性よりもはるかに大きいことが明らかとなった.また,同じ県内であっても自殺率が上昇した市町としなかった市町が混在し,地域差が生じていた.女性であることは必ずしも自殺リスクを高めるわけではないものの,コロナ禍により打撃を受けた産業と関連のある女性のリスクが高まっており,女性は男性よりも不利な雇用条件下に置かれやすいことから,リスクがさらに高まる可能性が示唆された.
著者
吉田 麻美 三木 明子
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.167-169, 2023-11-20 (Released:2023-11-20)
参考文献数
4
著者
ソルト
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.94-98, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)

私は一般枠での正社員の転職を7回経験し,8回目の転職で障害者枠での職を手にし,現在に至る自閉症の当事者である.19年間一般枠にこだわって,システムエンジニア,経理職などに就いたが,周囲との人間関係が上手くいかず退職に追い込まれ転職を繰り返した.はじめに,一般枠で就職してから退職に至るまでの経緯について,産業医やキャリアカウンセラーとの相談,カミングアウトにより上司や同僚から受けたパワーハラスメントの実情も含めて実体験を記載した.その次に,障害者枠による現在の職場で得られている合理的配慮について,実際に起こったトラブルと会社側の支援への動きについて述べた.最後に,一般枠と障害者枠に関する,就労のメリットやデメリットをそれぞれの支援体制の違いに着目してまとめ,継続就労を実現するための職業上の課題と対処方法について考察した.そして,ダイバーシティ&インクルージョンに期待を寄せて結びとした.
著者
辻 洋志
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.99-104, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
11

障害を持つアメリカ人法(ADA)は合理的配慮規定を有する世界初の包括的な差別禁止法として1990年に米国で制定され,病気や障害を持つ労働者の職場復帰支援や両立支援に大きな影響を与えた.2008年に改正され権利保護の対象は広く,また明確化された.機能障害と能力障害を明確に分けつつ,適格者,本質的な職務,主要な生活活動,主要な身体機能,相当制限,機能障害軽減手段,合理的配慮,話し合いによる合意プロセス,過重な負担をキーワードに構成される.合理的配慮に関する事例対応は健康診断/医学的評価と提供可能な職務の身体精神負荷の評価を行い,話し合いによる合意プロセスを経て,必要な合理的配慮を同定,提供と共に目標を設定し,その後は観察しつつ配慮内容を適宜修正する.医師は医学的職務適性評価を軸に支援を行っている.本来行われるべき合理的配慮の不提供は事業主に罰則があり,HR部門や,産業看護職,産業医,外部機関が支援に当たる.
著者
境 浩史
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.79-83, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)

民間企業における雇用障害者数は年々増加している.その中でも,精神障害者は他の障害区分よりも増加傾向にあるが,雇用後の定着率は他の障害区分よりも低い傾向にある.一因と考えられるのが精神障害に対する受入れ企業の知識・認識,合理的配慮提供に対する障害者および受入れ企業の理解である.合理的配慮は,当事者から提供者である企業への申し入れを基本に相互の合意形成により提供されるが,実際の運用となると当事者自身や企業の認識・理解が十分でないことが原因で合意形成が成り立たないこともある.その中でも,精神障害者への合理的配慮は個別性が非常に高く,企業としても事例の蓄積も少ないことから過去の事例がそのまま適用されるとは限らないケースが多くある.企業人事担当者の立場から,精神障害者への合理的配慮の実際と課題を中心に考察する.
著者
小川 真里子
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.15-20, 2023-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
13

近年,更年期障害による労働損失が莫大なものであることが明らかになり,“更年期ロス”と呼ばれている.更年期ロスとしては離職や昇進の辞退が多いとされ,そこに至った原因としては,更年期によくみられる精神的症状が関与している可能性がある.更年期障害は,更年期に現れる症状の中で,器質的変化に起因せず,日常生活に支障をきたす病態と定義される.その症状は,血管運動神経症状に加え,精神的症状,泌尿生殖器症状,その他に大別される.また,女性において更年期はうつ病の好発時期でもある.更年期障害に対する薬物療法としては,漢方療法,ホルモン補充療法(HRT),抗うつ薬が用いられる.更年期障害では一人の女性が同時に多くの症状を訴えることが多く,漢方薬やHRTの有効性も高い.当事者だけでなく周囲も含めて更年期障害についての理解を深め,適切に治療を行える環境を作ることが,更年期ロスを減らす足がかりになると考えられる.
著者
佐々木 那津
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.21-24, 2023-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
20

妊娠・出産後も就労を継続する女性の割合は増えており,子育てをしながら働く女性労働者への健康支援は職場において重要な課題となっている.本稿では,子育てをしながら働く母親のメンタルヘルスの状況およびストレス要因を国内外の研究をもとに整理した.働く母親が他の属性をもつ労働者と比較してメンタルヘルスが特に悪い集団であるという根拠には乏しいが,ウェルビーイングが低い集団であることが指摘されている.また,メンタルヘルス悪化に対する複数のリスク要因が指摘されており,職場での予防的なメンタルヘルス対策が求められる.ストレス要因は,仕事と,仕事以外の要因に分類し,職場での支援の方策について考察した.
著者
小森 國寿 大塚 泰正
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.156-165, 2023-09-20 (Released:2023-09-20)
参考文献数
45

トラウマ体験をした後に経験されるポジティブな心理的変容である心的外傷後成長(Posttraumatic Growth: PTG)は,トラウマ体験で崩れた世界観を書き換える認知プロセスの副産物として得られる.この認知プロセスの促進要因は,当事者の社会的状況との組み合わせにより理解・解釈され,新たな認知的枠組みに組み込まれるため,軍人等においても独自の特徴があると考えられる.軍人等のPTGの促進要因に関する17件の文献を整理した結果,属性,苦痛・症状,ポジティブな文脈,個人の内面的性質およびネガティブな文脈の5つがPTGの促進要因となることが示唆された.軍人等のPTGを促進するためには,軍隊等における価値観を理解しようとする環境を整えて自発的な自己開示を促したり,逆境に意味を見出そうとする資源を増やしたりすることが有効である可能性が示唆された.