著者
岡 檀 久保田 貴文 椿 広計 山内 慶太 有田 幹雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.36-41, 2017 (Released:2017-02-21)
参考文献数
16
被引用文献数
1

目的 筆者らは先行研究において,日本全体における地形および気候と自殺率との関係を分析した。自殺希少地域は,海沿いの平坦な土地で,人口密度が高く,気候の温暖な地域に多いという傾向が示された。これに対し自殺多発地域は,傾斜の強い山間部で,過疎状態にあり,気温が低く,冬季には積雪のある市区町村に多いという傾向が示された。 本研究では和歌山県市町村の地理的特性と自殺率との関係を,筆者らの先行研究により得た知見に照らし検証する。また,旧市町村と現市町村の分析結果をそれぞれ可視化することによって,地域格差を検討する際の単位設定のあり方を検討する。方法 解析には1973年~2002年の全国3,318市区町村自殺統計のデータを用いた。市区町村ごとに標準化自殺死亡比を算出し,30年間の平均値を求め,この値を「自殺SMR」として市区町村間の自殺率を比較する指標とした。和歌山県市町村のデータを用いて,市町村の地理的特性と自殺率との関係について確認した。地理情報システム(GIS)により自殺率高低を視覚的に検討するための作図を行った。また,GISを用いて合併前後の旧市町村と現市町村について2種類の作図を行い,比較した。結果 和歌山県は山林が県面積の7割を占め,南部は太平洋に面し,人口のほとんどが海岸線の平地に集中している。地形,気候,産業など,地域特性のばらつきが大きい。 市町村別に,自殺率の高低によって色分け地図を作成したところ,山間部で自殺率がより高く,海沿いの平野で自殺率がより低いという傾向が見られた。県内で最も自殺率の高いH村は,標高が高く傾斜の強い山間に位置し,冬季には積雪する過疎化の村だった。 合併前の旧市町村と現市町村ごとの可住地傾斜度を色分け地図により表現したところ,旧市町村地図では自殺率を高める因子である土地の傾斜の影響が明瞭に示されたが,現市町村図地では不明瞭となった。結論 和歌山県市町村の地理的特性と自殺率の関係は,傾斜の強い険しい山間部は平坦な海岸部に比べより自殺率が高まる傾向があるという,筆者らの先行研究とも同じ傾向が見られた。 また,参照するデータが旧市町村か現市町村であるかによって実態の把握に違いが生じ,自殺対策に携わる人々が問題を認識することへの障壁ともなっている可能性が考えられた。
著者
岡 檀
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.36-41, 2023-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
6

コロナ感染拡大の2020年に日本の自殺率が上昇し,特に女性の自殺率上昇が顕著となった.自殺率上昇の地域差および性差を把握するために,全国の1,735市区町村の自殺統計を参照し,2020年前後の自殺率の変化を推定する指標「自殺率上昇度」と産業構造に関するデータを連結して分析を行った.全国市区町村の自殺率上昇は内需型サービス業の就業率と有意な正の関係があり,コロナ禍の経済的ひっ迫が自殺リスクを高めている可能性が示唆された.宿泊・飲食業について精査した結果,女性の自殺率上昇度は男性よりもはるかに大きいことが明らかとなった.また,同じ県内であっても自殺率が上昇した市町としなかった市町が混在し,地域差が生じていた.女性であることは必ずしも自殺リスクを高めるわけではないものの,コロナ禍により打撃を受けた産業と関連のある女性のリスクが高まっており,女性は男性よりも不利な雇用条件下に置かれやすいことから,リスクがさらに高まる可能性が示唆された.
著者
岡 檀
出版者
日本コミュニティ心理学会
雑誌
コミュニティ心理学研究 (ISSN:13428691)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.136-148, 2012-03-28 (Released:2019-07-04)
参考文献数
40

The authors carried out a field study and a questionnaire targeting chiefly the former town of Kaifu in Tokushima Prefecture, which has low suicide rates, to make a comparison with neighboring towns and regions with high suicide rates. They identified five factors unique to Kaifu: loose social bonds, a low sense of clannish loyality, less resistance to help-seeking, assessing another person on the basis of their character, and positive political participation. The town has another element that is not found elsewhere: a mutual aid-organization originating in the Edo Period, called Hobaigumi. For the purpose of accurately understanding the characteristics of Hobaigumi, a similar organization, the Wakamonogumi in Town A, was analyzed. A comparison between the two groups revealed several differences in operational principles and rules, despite structural similarities. The Hobaigumi ha, an innate mechanism that eases stress. Among the characteristics of the organization, loose bonds, little tendency towards exclusion, and assessing another person on the basis of their character coincided with the peculiarities of the community in Kaifu town. The findings of the study, which is that the Hobaigumi, which belongs to an area with low suicide rates, has several characteristics in common with the community, supports the hypothesis that the lower stress on Kaifu residents compared with residents elsewhere helps lower the risk of suicide.