著者
菊地 実 萩原 誠也 種田 紳二 中山 秀隆 市原 真 萬田 直紀
出版者
一般社団法人 日本超音波検査学会
雑誌
超音波検査技術 (ISSN:18814506)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.40-50, 2019

<p><b>目的</b>:糖尿病のインスリン療法に皮膚関連合併症があり,この合併症はインスリン吸収障害を起こすことがある.インスリン吸収障害の原因は,皮下投与されたインスリンの何らかの異常と考えられるが,この原因を超音波像によって視覚的に解明できるかを検討した.</p><p><b>対象および方法</b>:検体(ブタ組織),生体(成人ボライティア1名),インスリン皮膚関連合併症患者6名を対象に,検体ならびに生体で皮下注射が超音波像で可視されるかを実験し,インスリン皮膚関連合併症患者では,対象患者の患部と正常部にインスリンを投与し,両部位の超音波像の観察と血中インスリン濃度測定を行い,各投与部位の超音波像とインスリン吸収の関係を検討した.</p><p><b>結果と考察</b>:検体実験では投与液体は高エコーに描出され,その範囲は病理組織像と一致した.生体においても投与液体は検体同様に高エコーに描出された.高エコーとなった原因は,脂肪組織間の隙間に液体が滞留したことで超音波が反射,散乱したと示唆され,皮下注射は超音波像で可視できることが判明した.インスリン皮膚関連合併症患者のインスリン投与部位の超音波像は,正常部では実験同様に高エコーに描出されたが,患部では低エコーまたは混合エコーに描出された.患部の皮下投与インスリンの拡散面積は正常部に比べ有意に小さく(p<0.01),拡散部の輝度は正常部に比べ有意に低く(p<0.05),両者の皮下投与インスリンの超音波像は形態相違を認めた.インスリン吸収は患部では正常部に比べ有意に低く(p<0.05),拡散面積と正相関を認めた(p<0.05, r=0.9).したがって,患部の皮下投与インスリンは滞留範囲が制限された拡散障害の状態であることが示唆され,拡散障害とインスリン吸収低下の関連を超音波像で確認できた.</p><p><b>結語</b>:インスリン皮下注射は超音波像で観察可能であり,インスリン皮膚関連合併症の吸収障害の原因は,皮下投与されたインスリンの拡散障害であることが示唆された.</p>
著者
古島 早苗 尾長谷 喜久子 恒任 章 井手 愛子 木村 由美子 賀来 敬仁 前村 浩二 江石 清行 栁原 克紀
出版者
一般社団法人 日本超音波検査学会
雑誌
超音波検査技術 (ISSN:18814506)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.274-280, 2018-06-01 (Released:2018-07-11)
参考文献数
13

症例1:40代女性,4年前に他院にて二尖弁による大動脈弁狭窄症と診断され,大動脈弁置換術(CarboMedics 21 mm)が施行された.胸部違和感を自覚したため近医受診したところ,収縮期雑音を指摘され,精査目的に当院紹介となった.心エコー図所見:大動脈弁最大通過血流速度5.0 m/s,平均圧較差(MPG)58 mmHg,有効弁口面積(EOA)0.77 cm2,有効弁口面積係数(indexed EOA)0.45 cm2/m2,Doppler velocity index (DVI) 0.28,acceleration time (AT) 130 msec,弁周囲逆流(−),経胸壁・経食道エコーともに血栓弁やパンヌスを疑うような塊状エコー等は指摘できなかった.左室壁肥厚は認めず収縮良好であった.PT-INR: 2.22.X線透視所見:両弁葉ともに開放制限は認めなかった.症例2:60代女性,11年前に大動脈弁(ATS 18 mm)および僧帽弁(ATS 27 mm)置換術が施行され,経胸壁心エコー図にて経過観察を行っていた.心エコー図所見:大動脈弁最大通過血流速度3.6 m/s,MPG 36 mmHg, EOA 0.59 cm2, indexed EOA 0.42 cm2/m2, DVI 0.21, AT 122 msec,弁周囲逆流(−),経胸壁・経食道エコーともに血栓弁やパンヌスを疑うような塊状エコー等は指摘できなかった.全周性に軽度左室壁肥厚を認め,左室収縮は良好であった.PT-INR: 2.78.X線透視所見:両弁葉ともに開放の低下を認めた.両症例ともにドプラ所見から弁機能不全と診断し弁置換術が施行された.術中所見では両症例ともに弁下に輪状のパンヌス形成が認められた.まとめ:心エコー図では血栓弁やパンヌスを疑うような塊状エコーを描出できなかったが,ドプラ所見から大動脈弁位人工弁機能不全を診断し得た2症例を経験した.最大通過血流速度や平均圧較差,またAT, DVI等も考慮し,これらの指標の急激な変化や経年的な増悪があれば,人工弁機能不全を疑うことが重要であると考えられた.
著者
田中 和幸 寺島 茂 岩本 洋 黒石 正子 山内 格
出版者
一般社団法人 日本超音波検査学会
雑誌
超音波検査技術 (ISSN:18814506)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.52-59, 2015

今回我々は,妊娠中期での胎児超音波スクリーニング検査にてまれな先天性奇形の一つとされる単眼症を強く疑う1例を経験したので報告する.症例は22歳女性(妊娠17週5日),妊娠歴は1経妊1経産.超音波検査で体幹は週数相応で異常を認めないが,頭部は小さく,大脳の位置する前頭部頭蓋内部構造は非対称性でやや偏位しmid line echoおよび透明中隔の描出は困難であった.また顔面には二つの眼球が接して存在し,前額部に長鼻構造を認め単眼症が強く疑われた.流産児は,顔面中央一眼裂内に二つの眼球が接した接眼と前額部に長鼻構造を認め,耳介は両側頭部下部に認めた.胎児染色体検査では異常は認められなかった.<br>本症例は顔面所見より単眼症が強く疑われ,小頭症,頭蓋内構造異常も認められた.単眼症の多くは自然流産すると考えられ出生はまれとされる.また出生できても予後は非常に不良とされる.成因については染色体異常も報告されているが詳細は不明とされる.本症例でも明らかな成因はなく,偶発的に発生したものと思われる.<br>生存の可能性がない単眼症を妊娠早期に診断できれば,早期に母体の負担を軽減することも可能となることから,これを十分に考慮した胎児超音波スクリーニング検査が重要と考える.