著者
藤田 隆則
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

能の謡の楽譜には、テクストの横に「節」あるいは「胡麻点」と呼ばれる記号がつく。われわれは、その記号が、音の高さや長さを明示していると期待するが、その期待はうらぎられる。高さや長さについて有益な情報を与えるのは胡麻点ではなく、それ以外のさまざまな指示語である。にもかかわらず、胡麻点は謡の楽譜には必要不可欠である。それは胡麻点が、謡のテクストのシラブル数を明確に示してくれるからだ。シラブル数の情報は、謡のような、音数律の変化を基本とする音楽にとっては必要不可欠である。また、胡麻点のかたちは、しばしば手などで身体的になぞられる。それは、旋律をひとつの身ぶりとしてとらえるための補助道具として機能する。
著者
前島 美保
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究は、江戸時代の上方歌舞伎における音楽演出がどのように組み立てられていたかについて、台帳(台本)に基づき明らかにすることをめざしたものである。『歌舞伎台帳集成』を典拠に音楽演出(囃子名目等)を抽出・リスト化する作業を経てわかってきたことは、囃子名目の初出を遡る例や従前には知られていなかった演出技法など、極めて豊富かつ具体的な用例の数々である。本研究で得た基礎データの慎重な分析と解釈が、今後の課題となる。
著者
龍村 あや子
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

3年間に渡って次の研究活動を行った。1)当該期間中に出版された著書・論文:アドルノの『マーラー』の単独訳出版(法政大学出版局)、アドルノの『音楽社会学』(平凡社)の解説執筆、「音楽と時間-世界化の時代の音楽時間論」(『民族芸術』)、ドイツで独語単行本に執筆"Wie die Zeit vergeht. Musikalische Zeit in West und Ost angesichts der Globalisierung."Musik in der Zeit. Zeit in der Musik(Velbruck Verl.)、「ワーグナー論における一つの流れ」(京都市立芸術大学音楽学部研究紀要)、「アドルノ理論と民族音楽学」『民族音楽学の課題と方法』(世界思想社)、「音楽社会学の課題と展望-近代化とグロバリゼーションをめぐって」『音楽(音文化)研究の課題と方法』(中部高等学術研究所)2)平成14年度に出版される予定の著書・論文:「グローバル化時代のアドルノ理論-音楽と自然の問題を中心に」『アドルノ論集』(仮題、平凡社)「パン・アフリカン・ミュージックと現代の音楽文化」民族音楽学を学ぶ人のために』(世界思想社)「ベートーヴェンの後期様式をめぐるアドルノの思索とその源湶」『角倉一朗先生退官記念論文集』(仮題、音楽之友社)3)研究発表 平成11年度:音楽学会大会シンポジウムでダールハウスのベートーヴェン論について発表。民俗音楽学会大会のシンポジウムでヨサコイ・ソーラン祭りについて発表。平成12年度:音楽学会大会でのシンポジウム「ドイツと日本1930 45」の企画・司会。東京ゲーティンステイテュート主催のシンポジウムでドィツと日本の音楽批評について発表。中部高等学術研究所で<近代化>と<グロバリゼーション>について音楽社会学的観点から発表。4)アジアの音楽文化の現状に関する予備調査を中国の西安市・寧夏回族自治区(11年)、インドのムンバイ・アグラ・ジャイプール・デリー(11年)において行った。5)研究資料収集をドイツ・イタリア・フランス・トリニダードトバゴで行った。
著者
松井 紫朗 高橋 悟
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

通常、自己定位を失うような不安定な状況は、避けられるべき事態とされる。しかし、神経科学の視点から見て、このような動揺状況から抜け出すため、身体のさまざまな感覚、記憶や言葉と結びつけ、新たな定位の獲得のために活発に活動する脳内は、あらゆる関係性に向け開かれた状態にあると考えられる。このような、知的思考の連鎖が起きる現象について、これを可能性と捉え探求するのが我々のねらいである。座位と立位で、正面に見据える姿勢、仰向きに見上げる姿勢で行ったいくつかの実験などから、頭部が傾くことによる体性感覚への入力、前庭覚への異なる刺激が、自己定位を含む対象物との距離や動きの認知に影響を与えることが分かった。
著者
柏木 加代子 飯倉 洋一
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ニース、シェレ美術館蔵『北斎漫画』第15編は、原表紙なし、厚手の白い紙で後補、ホチキス止め、書型は半紙本の横裁断前と思われる大きさ(縦22.7×横17.8cm)、表紙にペン書きで、"Printer'sProof Hokusai Manga Vol XV"と記され、収集者自身が「見本刷」と認識した、稀有な資料であることが判明した。またエコ-ル・デ・ボザール資料館が1907年以来所蔵する、トロンコワ・未公開コレクション(日本美術品)の研究で、肉筆絵画58点、浮世絵355点、絵本(版本)45点の詳細を明らかにした
著者
大串 健吾
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

音律には、平均律、純正律、ピタゴラス音律をはじめ多種類のものが存在するが、現在ではほとんどのピアノが基本的には平均律に従って調律されている。しかし、著名な音楽学者による、平均律による調律を否定し古典調律を支持する意見が出版されている。もしこの意見が正しければ、現在のピアノの調律をすべて見直す必要がある。しかし、この意見は多くの聴取者による客観的なデータに基づくものではなく、個人的な印象に基づくものである。そこで、多くの聴取者による聴取実験を行い、上の意見が客観的に正しいかどうかを調べた。実験においては、電子ピアノによる同一演奏を、古典音律であるヴェルクマイスター音律、キルンベルガ-音律および平均律、純正律、ピタゴラス音律の5種類によって録音し、音楽を専攻する学生、専攻しない学生の多数の評定者を用いた聴取実験を行った。演奏曲目は、バッハ、モ-ツァルト、ベートーヴェン、シェーンベルクの作品の中から、ハ長調、ホ長調、嬰ハ長調、無調などのさまざまな調性を選び、実験方法も一対比較法と評定尺度法の両者を用いた。実験の結果、ほとんどすべての場合に平均律による演奏が最も好ましいと判断された。すなわち、古典音律による演奏が平均律による演奏よりもすぐれているという結果は得られなかった。これまでの研究で、旋律のみの演奏においてはピタゴラス音律が優れ、また和音のみの演奏においては純正律が優れていることが知られていたが、われわれの実験結果では純正律とピタゴラス音律の中間的な性質をもった平均律が最も好ましいという結果になったことは極めて妥当なことだと考えられる。
著者
北田 聖子
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、規格化、標準化が、製品のデザインにどのように関係し、意義をもつかを明らかにすることである。これまでのデザイン史研究は、デザインの側から、デザインと関わる特殊な概念として標準化をみるきらいがあったが、それに対し本研究は、標準化の事例研究を通して、標準化と呼ばれる行為によって具体的に何がなされてきたかを明らかにし、標準化のコンテクスト中に標準とデザインの交わる地点を見つけるという道筋をたどる。特に、1920年代以降にみられた日本の規格統一事業による紙の寸法の標準化と事務用家具の寸法の標準化を事例研究の対象とする。本年度は、1920年代から1970年代に至るまで、つまり戦前、戦後をとおしての事務用家具の標準化の事例研究をおこなった。具体的には、国家規格による事務用家具標準化、1920年代から日本に登場し始めた事務管理論者の著作で言及された事務用家具標準化、そして木檜恕一を起点として国立工芸指導所の家具研究にいたるまでの事務用家具標準化の系譜を比較し、それぞれが同じ事務用家具標準化という目的をもちながらも、その目的へのアプローチ方法には相違があることを明らかにした。その結果、標準化ということばでくくられる事象は、複層的で立体的な内実をもつことが確認できた。また、先行研究ですでにいわれてきた戦前の家具研究における標準化を、異なる視点からの標準化の事例と照らし合わせることによって、標準化のなかで相対化し、ひいては、標準化という問題に対するデザイン史研究の学問的パースペクティヴを浮き彫りにすることもできた。
著者
高橋 成子
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

物体知覚と空間知覚における知覚的文脈がどのような脳内機構によって処理されるのかについて検討を行なった。知覚的文脈処理においては、4つの処理系が同定された。視覚情報処理において常に働く機構は、低次文脈処理、および、注意コントロールを担っていると考えられる。これに対して、過去記憶と照合して物体知覚における連合的文脈処理を担う機構、物体奥行き文脈処理を行う機構、空間奥行き文脈処理を行う機構は、刺激状況によって動的に働く。
著者
柏木 加代子
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

平成15年度はフロベールの20世紀初頭芸術への影響を日本文化も含めた国際的な視野で考察した。明治維新(1867年)にフランスに紹介された歌舞伎<芝居>特有の「花道」や「回り舞台」などは、当時のフランス文壇がレアリスムに傾倒していたことからレアリスム表現として評価されたという。殺戮や暴力シーンが舞台裏で行われてきたフランス古典劇に慣れ親しんだフランス人には歌舞伎の技法が新鮮に映ったのだろう。フロベール存命中の1870年出版のLe Japan illustree(en 2 vols)が日本に関しての最初のテクストである。フロベールのレアリスム考察に東洋思想が影響していたのかどうかは議論しなければならないが、少なくとも初稿『聖アントワーヌの誘惑』にもあるように、<舞台裏と舞台>といった戯曲の基本理念において、フロベールは真のレアリスムのあり方を試行錯誤していたことは明白で、当時の日本趣味の影響をそこに見いだすことも可能である。1878年の万国博事務官長前田正名の原作で「忠臣蔵」を手本とした劇『ヤマト』(1879年2脚日初演)。がゲイテ劇場で上演されているが、パリの劇場にしばしば通っていたフロベールがこうした時代の潮流とは無関係であったとは考えにくい。フロベールの沈黙指向はまさに歌舞伎の<見得>に呼応する舞台技法であって、役者が含蓄の深い目立った表情・動作をしてみせ、観客が拍手を惜しまない沈黙の一瞬である。フロベールにとっての「演劇創作時代」である1870年代に日本趣味がパリの演劇界を賑わしていたことは注目に値する。