著者
中村 洋樹
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.1-12, 2017-11-30 (Released:2019-03-28)

本稿の目的は,中等歴史教育において真正の学習を具現化するために,学習者は何を論述すべきか,またそれを教授するためのカリキュラムや単元をいかに構成すべきかを究明することにある。近年の歴史学習論研究においては,真正の学習を具現化するために,学習者による史料読解に焦点が当てられている。しかし真正の学習の趣旨を踏まえるならば,学習者が自らの歴史解釈を表現する論述により焦点を当てなければならない。そこで本稿では,中等歴史教育における論述の教授・学習に関する研究を進めている米国の社会科教育学者C. モンテ・サノの研究とモンテ・サノが中心となって開発した第8学年向けの合衆国史用教材集“Reading,Thinking,and Writing About History”を考察した。 その結果,真正の学習において学習者が論述すべきは歴史的議論であることを明らかにした。その上で,それを教授するためのカリキュラム構成の原理は,認知的徒弟制に基づき,①カリキュラムの前半において歴史的議論の論述方法を教授すること,②カリキュラムの後半において繰り返し自立的に歴史的議論を論述させること,から成り,単元構成の原理は,①歴史的議論を論述するための学習経験として史料読解を位置付けること,②歴史的文脈や同時代の人々の価値観・考え方を吟味した上で自らの議論を構成する過程を組織すること,③自立的に歴史的議論を論述するための学習経験として他者との対話を位置付けること,から成ることを明らかにした。
著者
新谷 和幸
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.57-68, 2014-03-31 (Released:2017-07-01)
被引用文献数
1

本稿の目的は,小学校社会科の概念探究学習として,概念の名辞(カテゴリー)に着目し,科学的概念だけでなく,常識的概念も含めて概念を探究する学習(概念カテゴリー化学習)の必要性と,その授業構成方法を明らかにすることである。小学校段階の児童にとって,概念探究学習における命題を探究する学習は,児童の発達段階や小学校社会科の目標の観点から,児童が学習する上で困難な状況があった。それを改善し得る教育内容・方法として,常識的概念も含めた概念の名辞(カテゴリー)とカテゴリー化を用いた学習方法に着目し検討した。その結果,小学校段階において,概念の名辞を認知機能のカテゴリーとして学ぶ重要性や,それを児童が科学的方法で獲得する上で,(1)類推-同定という思考活動,(2)カテゴリーの階層性を生かした包摂的カテゴリー化,(3)反証事例を用いた批判的学習過程,の必要性について明らかにした。以上,小学校社会科の概念探究学習における概念の名辞(カテゴリー)に着目して探究するという,筆者の提唱する「概念カテゴリー化学習」は,児童の発達段階に適した小学校社会科の目標に迫ることのできる科学的な学習方法論であるとともに,中等教育で命題を探究する学習を行うための基盤形成を担う有効な学習方法論でもある。
著者
豊嶌 啓司 柴田 康弘
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.1-12, 2016-11-30 (Released:2018-05-25)

本小論の目的は,社会科で育成される思考の操作を概念の活用と捉え,新たな事実判断の再構成として他者との関係構築思考を評価する問題の開発とその検証である。概念活用の思考評価では,概念的知識の活用による,他者との関係構築思考が重要である。そのための評価枠組みとして「学習者中心のデザイン」(LCD)の援用が有効であることを,指導と評価を通して実証的に明らかにした。成果は以下の3点である。1点目は,従前の社会科では活用としての思考評価は不十分であることを指摘した。2点目は,再文脈化つまり概念的知識の活用による社会科固有の関係構築思考についての評価問題を作成するための,具体的な11個の「足場かけ方略」及び問作スキルを明らかにした。3点目は,これらをもとに開発した評価問題を中学校社会科で実施し,その成果を検証した。その結果,我々が提案する「足場かけ方略」は,生徒が解答しつつ「新たに学ぶ」段階的な思考方略として,社会科の活用としての思考評価において有効であることを実証的に明らかにした。
著者
紙田 路子
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.13-24, 2016-03-31 (Released:2018-05-25)

本研究は小学校社会科において, 子どもの自主的自立的な価値観形成をめざし, 特定の価値に基づく態度形成をめざす, 従来多くみられた社会科授業に替わる授業構成原理を明らかにしようとするものである。 近年,市民的資質の育成を目的として,子どもの自主的自立的な価値観形成をめざす社会科授業が提案されるようになった。しかしながら,それらの研究は中等教育に関して論じられたものがほとんどであり,小学校教育現場に十分に反映されていない。その点で本研究は以下の2つの意義を持つ。 第1は,民主的価値の具体化の過程,及び,子どもの価値観形成の過程の考察をもとに,自主的自立的な価値観形成をめざした小学校社会科の授業構成原理を示したことである。 第2は,上記の授業構成原理に基づく社会科授業のあり方を,第5学年の小単元「水俣病から考える」の開発を通して具体的に示したことである。 実践の結果,子どもたちは,水俣病に関わる社会的判断の背後にある規範を認識し,規範は変わりうるものであることを理解することができた。さらに,上記の2つの過程を通して自己の価値観を相対化し成長させることができた。その上で社会問題に対する判断を行い互いの価値の違いを認識することで,社会問題に対する認識を深めることができた。
著者
南浦 涼介 柴田 康弘
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.25-36, 2013-11-30 (Released:2017-07-01)

本研究は,生徒が社会科を学習する際の「学習観」に焦点を当てた研究である。現時点でこの「学習する意味」に着目した研究は多くない(Evans,1989,1990;村井,1996;佐長,2012)。しかし,「学習観」の形成と教師が行う実践には大きな関係があり,実践が生徒の「学習観」に与える影響は大きいと考えられる。本研究では,(1)生徒は,1年間の社会科学習を通してどのような社会科学習観を身につけたか,(2)生徒が身につけた「社会科学習観」には,教師のどのような影響があったか,(3)教師は社会科の目的や教育意図を,社会科指導においてどのように込めていく必要があるか,という点について探索的に考察していくことを目的とする。本研究は,いくつかのデータを取り扱っている。1つは,南浦ら(2011)を基にした4月〜3月の1年間におこなった質問紙による量的データである。2つめに,授業実施者である柴田に対するインタビュー,3つめに,授業を受けていた5人の抽出生徒の卒業後のインタビューという質的データである。インタビュー中,生徒たちは,自らの「社会科学習観」に強く影響を与えたこととして,第1に「日常的継続的な学習活動」第2に,教師が行った社会科学習の意味についてのさまざまな言葉がけ,第3に学校環境の変化を指摘した。この事例からは,教師が学習者の「社会科学習観」を変容させるためにはいくつかの要素が必要であることが推察される。第1に,教師は社会科学習の目的を単元レベルのみならず,日常的な学習活動やことばのレベルにおいても学習の目的を入れ込んでいく必要があるということである。第2に,教師は,こうした実践を柔軟に展開していくと同時に,演繹的に自身の教育目標からカリキュラムのレベルでコントロールしていく必要がある。第3に,教師が学校改革の中心的存在となり,学校で支持される「学習観」と教科で支持されるそれを関連づけていくことも重要である。この事例研究の結果から,筆者らは,社会科実践研究は単元レベルのみではなく,さらに具体的な実践レベルとカリキュラム・レベルを関連づけたものにしていく必要性を示した。