著者
三重野 卓
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
no.4, pp.81-102, 1991
被引用文献数
1

現在、「生活の質」の在り方が問われているが、そのための生活様式は、断片化されている。ここでは、「生活」を総体として把握するために、その生活空間を「日常性空間」、「非日常性空間」として把握し、その相互浸透の状態を論理的に定式化することにしたい。<BR>もちろん、日常性空間とは、「生活の場」、「労働の場」をいみし、個人の生活経験、生活史の集積した「場」である。それに対して、非日常性空間は、様々に考えられるが、「遊びの場」とすると、自由、解放の機能を担うものである。そして、両空間を明らかにするためには、人びとの演技、リズム、表現、さらには、共感、共振、共生、共鳴などの「共」現象、想像力の在り方が問題になる。<BR>確かに、近代社会は、非日常性を軽視することによって成り立っているとしても、実際には、日常性と非日常性の交差するところに、個人の復活の可能性があろう。労働も遊戯も、リズム性、社会的欲求、それによる共同性という点では、共通している。また、日常性空間に氾濫する情報は、日常性をパッケージしているが、それととともに、その意味作用は、われわれを非日常性へと誘う。このように「共」現象というとき、情報と人間の共生、情報の意味との共振も必要になる。さらに、個々人、日常性空間の深層―表層という視点も望まれ、その間の循環、深層と非日常性の関係の把握は、「生活の質」のために不可欠になろう。
著者
山下 玲子
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.107-118, 2002-06-29

本稿は,岩見沢市教育委員会平成13年度男女共同参画講座「ビデオであそぶジェンダーの世界」の一講座「『アニメとジェンダー』~変わる?アニメの世界」(平成14年2月27日開催)の講演内容をもとに,加筆修正したものである。
著者
蓮池 穣
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.83-98, 1997
被引用文献数
1

戦後の北海道民の投票行動は,国政選挙についてみても,全国の平均値から大きくずれていた。自民党と社会党への投票がほぼ拮抗し,さらにこの二政党への投票が,全投票のなかできわめて大きな割合を占めていた。特に社会党の得票率では,1958年以降全国的に大きく下降したのに対し,北海道での下降は目立つほどのものではなかった。このため北海道は,「最後の社会党王国」ともいわれた。<BR>北海道に在住する大学関係者による投票行動調査は,1953年から断続的ながら続けられてきた。これらの調査では,それぞれ大なり小なりに,なぜ北海道が「社会党王国」であり続けているのかが,問題関心として共有されてきたといえる。1970年以降,コンピュータの利用も含めての調査技術の発達に加え,本州各地域での調査も活発に行われるようになり,「北海道の特殊性」もかなり具体的に検証が可能になったといえる。<BR>この課題のためには,自民,社会両党の支持者の政治的意見,所属団体,投票政党とその変動,支持の強さ,生活満足度,拒否政党などについて,多面的かつ継続的な調査・分析が必要であった。また,調査結果の解釈では,論者によって異なるところもあろう。筆者は,この「北海道の特異性」を,北海道における政党と政党支持者のかかわりのゆるさ(ルーズなかかわり)から説明した。これは,北海道における社会関係の特性ともかかわっていよう。
著者
上山 浩次郎
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.21-38, 2021-05-31 (Released:2022-08-01)
参考文献数
28

アイヌの人々の現在を理解する上では,アイヌ文化に注目する必要がある。アイヌの人々の復権の動きにおいて,アイヌ文化が大きな位置を占めてきたからである。そこで,アイヌ文化実践の変遷を,特に戦後に注目して検討し,現在の特徴を考察した。「アイヌ文化保存対策期」(1945~1973 年)において,アイヌ文化は,「保存」の対象とされ,高齢者によって実践され,かつ次世代への伝承が避けられていた。だが,「ウタリ福祉対策期」(1974~1996 年)に入り,制度・政策レベルでのアイヌ文化の伝承活動の奨励が進み,生活レベルではアイヌ文化の再興運動が組織的な活動を基盤としながら展開した。さらに,「アイヌ文化振興法期」(1997~2018 年)では,「アイヌ文化振興法」という法制度に支えられアイヌ文化の実践がなされていた。 019 年に成立した「アイヌ施策推進法」をみると,「民族共生象徴空間(ウポポイ)」については,アイヌ民族博物館などのハード面での整備だけではなく,その具体的な担い手の育成という点で大きな意味を持つ可能性がある。他方,「アイヌ施策推進地域計画」については,観光産業事業に偏り文化継承に関する事業が相対的に弱くなる可能性があり得る。その意味で,今後の具体的な運用のあり方が重要な意味を持つ。以上を踏まえると,「アイヌ施策推進法」は,アイヌの人々のアイヌ文化実践のあり方を,「アイヌ文化振興法期」から異なる状況へと変化させうる可能性を持ちえる。
著者
西城戸 誠 角 一典
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.21-40, 2006-06-10 (Released:2009-11-16)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本稿の自的は,生活クラブ生協北海道の現状を確認し,生活クラブ生協で構築された理念と現実のギャップがどのようなものであるのかという点を,2002年に生活クラブ生協で実施された組合員調査と,インタビュー調査によって明らかにすることである。これまでの生活クラブ生協研究の多くは,生活クラブ生協自体が活発であった時代を対象としていた。本稿の研究は転換期を迎えた生活クラブ生協を対象とし,なぜ生活クラブ生協が「停滞」「沈滞」しているのかという問いに答えようと試みた。分析の結果,生活クラブ生協北海道が抱える理念と現実とのギャップを,消費材を通した「食の生協」としての生活クラブ生協を位置づけ,「生活クラブ生協らしさ」を体現していたさまざまな社会運動や班活動からは距離をおく組合員や,消費材を単なる一商品として認識してしまう組合員から見いだすことができた。そして,このギャップの拡大が生活クラブ生協の「停滞」「沈滞」をもたらしていることを示した。さらに,この組合員の意識・行動の差は,50代以上の組合員と40代の組合員の間にある可能性を示唆した。
著者
山下 玲子
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.107-118, 2002-06-29 (Released:2009-11-16)
参考文献数
13

本稿は,岩見沢市教育委員会平成13年度男女共同参画講座「ビデオであそぶジェンダーの世界」の一講座「『アニメとジェンダー』~変わる?アニメの世界」(平成14年2月27日開催)の講演内容をもとに,加筆修正したものである。
著者
竹内 洋
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-32, 1994-04-15 (Released:2010-07-27)
参考文献数
63

近代社会は雇用や地位達成において学歴が大きな規定力を持つ学歴社会である。では、なぜ学歴が地位達成におおきな比重を占めるのか。この問については技術機能主義や人的資本論、スクリーニング理論、訓練費用理論、葛藤理論など様々な説明がなされてきた。しかし、本論はこれらの伝統的アプローチに大きな欠陥があり、むしろジョン・マイヤー(John Meyer)をパイオニアとし、代表者とする制度論派の「教育論」(制度としての教育論)と「組織論」(制度的同型化論)を学歴主義の説明理論として読み直すことが重要という指摘をおこなっている。そこでまず複数の伝統的アプローチを整理するためにふたつの前提(メタ理論)から考察している。ひとつは学校効果についての前提(学歴の供給の理論)であり、それを社会化と配分に分類している。もうひとつは、雇用についての前提(学歴の需要の理論)であり、それを効率と統制に分類している。このふたつの前提を組み合わせることによって複数の伝統的な説明理論を整理するとともに、その欠陥が明らかにされる。そのあとに、学校効果と雇用の理論について異なった前提をおく制度論的アプローチの新しさと有効性を示している。最後にこうした制度論的アプローチを導きの糸としながら、日本社会における学歴主義の誕生と展開についての経験的研究の方向と可能性について若干の提言をおこなっている。
著者
胡 亜楠
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.19-38, 2023 (Released:2023-08-01)
参考文献数
16

パート労働者の量的な増加とともに,職務内容の高度化と責任の拡大が進み, 基幹的な労働力として活用されている。同じ企業内でも配置された部門によっ てパート労働者の責任や,正社員が担当する職務と重なる程度は異なる。それ では,正規労働者とパート労働者はどのように分業・協業しているのか。そこ で,本研究はスーパーマーケットC 社の農産,デリカ,水産の三つの部門で の正社員とパート労働との分業と協業実態を調査し,パート労働者に任される 仕事の特徴とその要因について検討を行った。結果として,部門ごとに正社員 の職務や責任の重たさが異なることによって各部門での正社員とパート労働者 の分業と協業のあり方が異なっていることが示された。正社員とパート労働者 の職務分担を技術の高低を基準として分類すると,知識と技術を必要とする水 産部門での職務分担が質的に異なる「分離型」となる。最も技術が低い農産部 門では商品・売場に関する職務が重複する「一部重複型」となっている。しか し,この技術の差はパート労働者の賃金や評価に反映されておらず,パート労 働の処遇改善を図るには雇用形態によって決められた評価方法と賃金制度を見 直す必要がある。また,調査ではベテランのパート労働者は業務内容において 契約職員に接近していることが示された。契約社員とパート労働者との働き方 や処遇上の違いを分析することがパート労働者の処遇改善を探る糸口となると 考えられる。
著者
高島 裕美
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.1-18, 2023-05-31 (Released:2023-08-01)
参考文献数
14

本稿の課題は,教員の長時間過密労働が社会問題化するなか,ミドルリーダー の導入・配置という形で定着しつつある学校組織改革が実際の学校現場に受け とめられる過程で生じる教員たちによる意味付けを追うことをとおして,教員 文化の現在の姿を明らかにすることにある。 聞き取りの分析から示されたのは,以下の点である。 まず,ミドルリーダーである教務主任には,学校の組織編制上は管理職の補 佐としての役割が求められる。しかし,実際の役割としては,授業の「補欠」 や学級担任への寄り添い,特別な支援が必要な子どもへのサポートなど,フレ キシブルな動きやケア的役割を担うことが求められてもいることが明らかに なった。 次に,こうした役割期待に対し,調査に応じた2人の教務主任のうち1人は それを受けとめ,ケア的役割に徹することで,教員集団の関係性がハイアラー キカルにならないように工夫しつつ教務主任としての役割を負うことに成功し ていた。一方,もう1人は,教務主任という役割に含まれる権威的な性質や,個々 の教員のやり方には干渉するべきではないという自身の教員像との葛藤から, その役割を受けとめきれずにいる姿が確認された。 1990 年代後半以降急速に進行した学校組織改革は,教員の多忙をはじめと するさまざまな学校課題に機動的に取り組むために,学校組織をハイアラーキ カルに再編することが企図されているものの,実際には,いわば意図せざる結 果として,現場においては,教員文化の機能不全をカバーする役割をも担いつ つあるといえる。
著者
新藤 慶
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.39-60, 2022 (Released:2022-08-01)
参考文献数
17

1990 年の改正入管法施行により増加したブラジル人・ペルー人の状況や,その集住地域として知られる群馬県大泉町の状況を検討した結果,第1に,定住者として来日したブラジル人・ペルー人の永住者化が確認された。ここには,日本生まれの日系4世の将来的な在留資格の確保といったねらいも見いだされる。一方,第2に,ブラジル人・ペルー人の経済状況は不安定であった。共働きが中心でも世帯年収は300 万円を少し超える程度である。そのなかで,非労働者の労働者化の進行がうかがえる。また,就学援助の受給率の高さなど,子どもの教育環境への影響もみられる。さらに第3に,こうした貧困の問題と並行して,日本語能力の低さの問題も見いだされた。大人も日本語能力に不安を抱えるが,子どもについても,他の外国人に比べて,ブラジル人は日本語指導が必要なくらい日本語能力が低い者が多くなっていた。そのなかで,第4に,大泉町では在留外国人の受け入れ体制の充実がみられた。当初から,町行政も受け入れを支援していた。また,子どもの教育についても,言語面を中心に充実した指導体制を構築していた。しかし,そのことが,「日本語学級にお任せ」といった形で,「外国人教育」への教員の当事者意識を低下させていた。今後の多文化共生のためには,在留外国人の実態の変化や多様化を把握し,外国人の声を聞きつつ,ホスト住民側も当事者意識を持って関わることが重要となる。
著者
遠山 景広
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.23-42, 2020 (Released:2021-08-01)
参考文献数
20

本研究では,子育てサロンの利用状況により,母親の子育て意識の連動に差異が生じるのかを検討した。子育てサロンは,都市化に伴う子育てのネットワークの減少など,子育て家庭の困難の緩和を意図して設置され,子育てサロンの利用による効果・地域や家庭から期待される役割,今後の課題が検討されてきた。一方で,調査対象は必然的に子育てサロンの利用者に限定されやすく,未利用者との比較については難しい状況にある。そこで本稿では,子育てサロンの利用者・未利用者の双方を調査対象とした札幌市での調査結果を元に,子育てサロンの利用状況と子育ての意識,特に孤独感など子育ての負担に関する意識に着目して,利用状況別に特徴的な意識構造が見られるかを確かめた。具体的には,①子育てサロンの利用者は未利用者と比べて負担感が小さいのかなど子育て意識の差を確認し,さらに②利用状況ごとに様々な子育てに関する意識同士の関係が変化するのか,分析・検討を行った。結果として,利用状況にかかわらず孤独感のある層が一定数いること, 連動する意識は利用状況によって大きく変わらないことが示唆された。ただし,孤独感がある場合にはその他の子育て負担感や3歳児神話の支持などのステレオタイプ型の子育て意識,さらに他者信用の弱さとの緩やかな親和性が認められた。このように,母親が子育ての責務を背負い込むことが孤独感につながっている可能性が指摘できる結果となった。
著者
吉野 航一
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.39-57, 2008 (Released:2012-01-31)
参考文献数
26

本稿の目的は,沖縄の都市部を事例に,近現代における外来宗教の土着化を明らかにすることである。宗教は近代化によって「私的」な事柄とされた。しかし,現在でも,宗教(が持つ儀礼/慣習)は,社会的/文化的な規範の1つとして認識されることもある。そのような中,外来宗教はどのように受容され,定着したのかを,信者の宗教実践から明らかにする。   沖縄では,戦後の都市化によって,民俗宗教はその救済能力を十分に発揮できなくなってしまった。そのような中,外来宗教は,(1)「普遍的な神仏と明文化された教義教学」,(2)「信者同士の.がりと活動の場」などの,宗教的資源を提供することによって,民俗宗教では救済されなかった信者たちに受容されてきた。その際,信者たちは,再解釈によって,その地での信仰に適する神仏と教義教学を想定していった。さらに,信者たちは,(1)「宗教的慣習の転用/再利用」,(2)「民俗宗教が持つ宗教性の回避」,(3)「宗教的連続性/接続」といった方策を用いて,自らの信仰と地域社会/文化との関係を再構築することで,家族からの非難を回避し,異なる宗教文化を共存させることを可能にしていった。   このような信者たちの信仰は,教義への黙従や地域文化への妥協ではない,土着化における創造的な宗教実践と言えるのではないだろうか。
著者
樽本 英樹
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
no.15, pp.83-96, 2002

2001年春から夏にかけて,英国イングランド北部の諸都市で「人種暴動」が勃発した。本稿では,主な舞台となったブラッドフォード,オルダム,バーンリーにおける「暴動」の具体的様相を記述し,「暴動」の何が問題なのかを国際社会学の視角から考察する。「人種暴動」は,まずはそれが引き起こす物理的・経済的損失の大きさでその問題性を把握される。しかし,そのような物質性は象徴性をもはらんでおり,社会当事者たちの依拠している自明世界を破壊する。特に,国際移民やエスニック・マイノリティに関わる多様性・寛容性の規範が動揺し,移民排斥的でナショナリスティックな同質性・非寛容性の規範に力を与えてしまう。このような規範の動揺という問題は,国際社会学的視角からは市民権モデルの選択の問題と等価である。「暴動」は市民権の多文化モデルを動揺させ,国民国家モデルへの回帰を迫るのである。英国内務大臣が「暴動」後に提唱した市民権政策は,その回帰を忠実になぞるものになっている。「人種暴動」の問題性は,物理的・経済的範疇に留まるものではない。国際移民やエスニック・マイノリティに関わる市民権モデルを動揺させる点,およびその後のモデル修復過程に社会当事者を誘う点が,国際社会学的には注目に値するのである。