著者
下山 巌 奥村 雅彦 小暮 敏博 町田 昌彦 馬場 祐治 本田 充紀 岡本 芳浩
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

H28年度において実施した研究の実績概要は以下の通りである。1.高温低圧環境高速X線回折(XRD)装置及び蛍光X線分析装置(XRF)の導入:複数の候補からリガク製XRD装置SmartLab3を選定し、低圧加熱実験可能な電気炉と2θに対して10°以上の範囲の同時測定可能な高速2次元検出器を併用することで、加熱時及び冷却時の構造変化をその場観察できる装置を導入した。また、XRF装置も導入した。2.アルカリ塩化物試薬におけるカチオン依存性の解明:非放射性Csを収着させた風化黒雲母(WB)をモデル土壌とし、CaCl2とKCl単塩をそれぞれ添加した際のXRD、XRF測定を行った。CaCl2添加により700℃低圧加熱で100%のCs除去率を確認した。一方、KCl添加では約50%のCs除去率となった。また、CaCl2添加時はXRDパターンが大きく変化したのに対し、KCl添加ではWBの構造がほぼ保たれた。これらの結果から同じ塩化物でも1価と2価のカチオンではWBからのCs脱離過程が異なることを明らかにした。また、昇温脱離法(TDS)を用いた分析でもCaCl2添加時にCs脱離が促進されることを確認した。X線吸収分光法(XAFS)を用いた加熱中のその場観察の研究ではNaCl-CaCl2混合塩へのCs溶出が観察された。それと共に、600℃付近より高温側と低温側でCs脱離過程が異なる可能性を見いだした。以上の知見に関しては欧文誌に論文発表すると共に、国内外の学会において報告を行った。3.福島汚染土壌による実証試験:福島の帰還困難区域から粘土質汚染土壌を採取し、加熱処理による放射能変化をNaI検出器により調べた。その結果、KCl、MgCl2試薬では低圧加熱の方が大気加熱よりも高い放射能減衰率が得られたがCaCl2試薬では両者で大きな差が見られず750℃大気加熱で約97%の放射能減衰が得られた。
著者
村井 直樹
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2022-04-01

超伝導相と共存・競合する電荷密度波(CDW)の存在は, 従来型・非従来型を問わず, 様々なタイプの超伝導体で観測されている. 本研究課題では, J-PARC,SPring-8の最先端の非弾性分光技術を駆使した超精密なフォノン分散測定を行い,CDW秩序の起源となる電子格子相互作用の定量的評価を行う. 特に,遷移金属カルコゲナイド, 銅酸化物高温超伝導体という性質の大きく異なる2系統のCDW-超伝導共存物質を対象としたフォノン分光測定を行い,CDW 転移の「普遍性」と物質に依存する「個別性」を抽出することで,物質間の違いを超えて,CDW不安定性の起源を統一的に理解する.
著者
保田 諭
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

固体電気化学デバイスである、固体高分子形燃料電池(PEM-FC)と固体高分子形水素ポンピング(PEM-ECHP)を組み合わせた省エネルギーでの重水素ガス濃縮デバイスを開発する。初めに、それぞれのデバイスで重水素ガスが高効率で濃縮する電極触媒を開発する。PEM-FCで発電したエネルギーをPEM-ECHPの駆動エネルギーに利用し、これらデバイスをカスケード接続することで、省エネルギーで重水素ガス濃縮が可能なデバイスを開発し、その動作機構の知見を得る。これにより、半導体産業や医薬品開発に重要な重水素ガスの低コスト製造法の礎を築く。
著者
Guido Fabiola
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

数種類のきのこが生産する有機酸を同定したところ、それらは既知の数種類の有機酸を生産し、共通する有機酸も生産することがわかった。それらと同じ有機酸試薬水溶液に予め137Csを吸着させた粘土鉱物を入れたところ、Csはほとんど溶出しなかった。次に土壌からシデロフォアという鉄キレート化物質生産性を持つバクテリアを単離した。その内の細菌一種類及びきのこ菌糸一種類を懸濁した水溶液中に黒雲母の粉末を投入したところ、きのこ菌糸からより多くの鉄とケイ素が黒雲母から溶出した。この結果は、用いたきのこから鉱物溶解力の高い有機物が分泌されている可能性を示唆する。
著者
宮崎 康典 穂坂 綱一 足立 純一 下條 竜夫 星野 正光 村松 悟
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

原子力機構では、地層処分する放射性廃棄物の発熱及び有害度の支配因子であるマイナーアクチノイドを分離回収するHONTA抽出剤を開発し、フローシート構築に向けた性能評価試験を行っている。一方で、耐放射線性が課題となっており、安全面の観点から、放射線分解機構の解明が不可欠となっている。本研究では、放射線分解の初期反応で生成するラジカルカチオンから分解物に至るまでの中間反応に注目し、放射光と難揮発性試料測定用光電子―光イオンコインシデンスを組み合わせた実験的な反応経路と、量子化学計算で予想される反応経路との比較評価を行い、抽出剤の放射線分解機構を明らかにする。
著者
関根 由莉奈 山田 鉄兵 南川 卓也 松村 大樹 深澤 倫子
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

放射性廃棄物の安全かつ低コスト処理法の確立は、原子力分野における重要な課題の一つである。産業や鉱山開発において発生する放射性元素種や汚染環境は多岐にわたり、各々に適した処理・処分法の確立が強く求められる。本研究では、家畜骨を原料とするバイオナノアパタイト界面を活用して、陽・陰イオン性を含む様々な元素へ適用可能なグリーン・サステイナブルな環境浄化材料及びシステムを実現することを目的とする。
著者
土肥 輝美 高橋 嘉夫 大村 嘉人 町田 昌彦
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成28年度はサブテーマ「地衣類の形態的・構造的特徴による元素の保持特性の違い」を中心に研究を実施した。地衣類は、様々な金属や放射性物質を蓄積・保持することが知られており、環境モニタリング材料の一つとして活用されているが、地衣類の形態や生理的特性に関連してそれらがどのように蓄積・保持されるのか、ほとんど分かっていない。地衣類中の放射能濃度は、核種によって差異が生じることが報告されており、元素種によって地衣類中への取込み・保持メカニズムが異なる可能性が考えられる。また、地衣類中の同一核種濃度の差異については、生育場所における着生方位などの生態的な環境条件や地衣類の種による形態 ・内部構造・生理的な違いなどが影響するものと考えられる。ここで、生態的な差異を排除すれば、地衣類における着目元素種の蓄積・保持能力について、形態的・構造的・生理的特徴による違いが見られることが予想される。本研究では、表面形態および内部組織構造の特徴が明瞭なウメノキゴケについて、被ばく評価上重要なCs, Sr, I(安定元素)の取込み試験を行った。試料は、平成28年に岐阜県で採取したものを使用した。地衣類中のCs濃度はSr濃度の3倍程度高い値を示した。電子線マイクロアナライザにより取込試験後の地衣類組織断面構造の元素分析を行った結果、Cs, Iは皮層への蓄積が認められたのに対して、Srは髄層中に蓄積が認められ、元素種によって地衣類中で保持される場所が異なることを見出した。取込み試験後の試料については、放射光蛍光X線マイクロビームを用いたX線吸収微細構造(EXAFS)の解析により、地衣類中のCs, Sr, Iの近傍情報を取得した結果、水和物や有機分子化合物として存在する可能性が示された。Csと地衣類特有の一部の二次代謝物について、第一原理計算を行い、安定な吸着構造を示すエネルギー差を持つことを見出した。