著者
下稲葉 かおり
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.90-95, 2018 (Released:2018-12-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1

医療者はケア提供を通して、患者・家族のさまざまな喪失体験や死と向き合うことになる。それらを通して、医療者も喪失・悲嘆を経験する可能性がある。本稿では、医療者の経験する喪失・悲嘆の特徴とそのケアについて述べる。喪失経験のあとに悲嘆を経験することは自然なことであっても、それが仕事を通して蓄積すると大きな影響がでたりバーンアウトの原因なるといわれている。同時に、ケア提供を通して医療者としてのやりがいや達成感を感じたり、専門職・人としての成長を感じることができている。この内なる強さはresilience(レジリエンス)と呼ばれる。レジリエンスを育て強めていくには、大きく2つの要素があり、サポートを受けること(外からの要素)と自己認知とセルフケア(内からの要素)が含まれる。ケアを通して経験する喪失・悲嘆について知り、医療者が十分なサポートを受け、さらにセルフケア実施していくことは、良いケアを提供していくためのひとつの鍵となるのではないだろうか。
著者
長谷川 健美 高野 政子 市瀬 孝道
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-10, 2016 (Released:2017-10-31)
参考文献数
12

本研究の目的は、訪問看護師の語りから在宅における終末期患者の死亡確認までの現状を明らかにし、特定看護師の役割を検討することである。対象者は5 ヶ所の訪問看護ステーションに勤務する、終末期の死亡確認の経験のある訪問看護師10名であった。研究は質的記述的研究デザインを用いて、在宅における死亡確認の現状について半構成的面接を行った。語りを類似の文節ごとにコード化して、カテゴリーを抽出した。訪問看護師が在宅での終末期患者の受け持ちの困難について、《訪問看護師の業務調整》 《終末期の家族への対応》 《在宅で看取れない》 の3つのカテゴリーが抽出された。また、在宅における死亡確認時の困難については《タイムリーな死亡確認の困難》 《医師・看護師間の統一した方針(困難なし)》 といったカテゴリーが抽出された。終末期医療では、医師や看護師の連携を強化する必要がある。一方、訪問看護師は死亡確認時の対応に困難があることが明らかになった。現状より死亡確認時の特定看護師による新たな役割が期待できる。
著者
奥村 智志 小久保 知由起
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.41-49, 2023 (Released:2023-05-24)
参考文献数
16

本研究は、精神科看護師の研究成果活用に対する意識の影響要因を明らかにすることを目的とした。日本全国の精神科医療機関に勤務する看護師を対象に、無記名自記式質問紙調査を行い、協力が得られた82施設の精神科看護師4,774 名に質問紙を配布し、2,999名の分析対象者を確保した。重回帰分析(Stepwise法)の結果、職位や教育背景に関わらず、看護師が高頻度で文献を閲読し、精神科看護実践力が高く、論文投稿経験を有する場合に正の影響を与え、精神科経験年数が長い場合に負の影響を与える可能性が示唆された。また、組織風土として強制的な風潮がなく、看護師の自律性に基づく合理的な組織管理が整備されていることが、研究成果活用への意識を高める環境的条件であることが示唆された。組織として文献や研究に親しめる支援整備や自由闊達な雰囲気を醸成することで、看護師の実践力向上の意欲が引き出され、研究成果活用の意識が触発されると考える。
著者
藤内 美保
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.11-13, 2016 (Released:2017-10-31)
参考文献数
3

大分県立看護科学大学では、2008年4月に大学院修士課程においてNurse Practitioner(以下、NP)の教育を日本で初めて開始して8年目となる。本学のNP教育が1つの契機となり、2014年6月に保健師助産師看護師法が改正され「特定行為に係る看護師の研修制度」が制度化し、2015年10月1日から施行となった。この制度化を節目とし、第16回看護国際フォーラムでNPをテーマに話題提供する機会をいただいた。本報では、NP教育を開始した理由、NP教育を開始するまでに議論を積み重ねた「NPの活動と役割」「NPに必要な能力」「NPカリキュラムの開発」などの考え方や取り組みについて紹介する。また現在までのカリキュラムの経緯や大学院教育として強化していること、「特定行為に係る看護師の研修制度」に至るまでに厚生労働省が実施した養成調査試行事業に参加した本学の取り組みについて報告する。
著者
冨田 志織 安藤 敬子 清村 紀子
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-11, 2020 (Released:2020-07-12)
参考文献数
17

【研究の目的】不妊治療を受ける女性のおかれた環境の実態および不妊治療を受けている女性が感じているストレスや治療を受ける感情との関連性を明らかにすることである。【研究方法】不妊治療で通院している女性200名を対象に質問紙調査を実施した。質問紙は、対象者の年代、不妊治療に対するストレス度、治療を受ける感情、治療状況、治療内容、仕事、配偶者を含む家族の協力や相談相手の有無、経済面からなる。【結果】治療を受ける女性がストレスを感じていたのは、「治療期間の長さ」、「転職・退職すること」、「経済的負担」、「相談相手がいないこと」であった。それらの項目は、治療を受ける感情とも関連していた。【考察】治療期間が長期化することは、妊娠するという目的を果たせない悲しみの体験を繰り返すことにもなる。また、治療継続によっては経済的負担も増える。現在、不妊治療を継続するかどうかは自己判断である。医学的な知識や科学的根拠による治療の終了をサポートする支援も必要であると考える。
著者
村井 恒之
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.29-33, 2013

訪問看護部に所属してから、特定看護師として介入した、褥瘡を有する在宅療養者A氏の事例を報告する。A氏は40年前より下半身不随で、蜂窩織炎により入院中に、右臀部に褥瘡を形成したが、本人と妻の希望により、褥瘡が治癒しないまま退院することとなった。退院までには、本人と妻を含めた多職種間での連携会議を開催し、創処置の統一やリハビリ導入を行った。退院後は医師の包括的指示の下、デブリードマンや創傷被覆材の選択、薬剤の調整・変更を行った。創部の画像を見てもらいながらA氏と妻の訴えを傾聴し、肯定的アプローチを実践することでA氏の治療への参加が促され、退院後37日目に褥瘡は治癒した。特定看護師が、療養者と家族の治療参加を促し多職種と連携・協働しながら、局所療法、除圧、栄養管理を行うことで、在宅における褥瘡管理が可能となることが示唆された。
著者
吉川 加奈子
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.21-24, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
2

少子高齢化を背景に質の高い看護の提供がより一層求められている。第17回看護国際フォーラムでは、マグネットホスピタルとして認定を受けたメイヨークリニックで、看護教育スペシャリストとして活躍するAbraham博士に、看護師を惹きつける魅力ある病院づくりについて御講演頂いた。本稿では、メイヨークリニックの1)看護実践モデル、2)組織環境、3)人材育成、4)看護管理について、講演の内容を紹介する。様々な立場や役割をもつ看護師が、自律した専門職として成長を遂げながら、質の高い看護を提供し、病院で長く活躍し続けている。今回の講演から、急激な少子高齢化を迎える我が国でも、質の高い看護にむけて魅力ある病院づくりが広がることが期待された。
著者
長岡 杏月 小田嶋 裕輝
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.50-57, 2023 (Released:2023-05-24)
参考文献数
21

【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に関する闘病記より、患者の全人的苦痛を表現した内容を明らかにすることにより、医療上の示唆を得ることを目的とした。【方法】楽天ブックスの書籍検索機能を活用した。具体的には、「筋萎縮性側索硬化症」または「ALS」のキーワードを入力し、ハンドサーチで過去3年分の書籍を探索したところ、3件が抽出された。次に、3件について、全人的苦痛の内容を整理し、共通して見られた特徴を分析した。【結果】全人的苦痛の実相として、身体的苦痛6カテゴリー、精神的苦痛7カテゴリー、社会的苦痛2カテゴリー、霊的苦痛3カテゴリーが抽出された。【結論】本研究より、身体的苦痛の予防・緩和に向けた医療者の丁寧な関わりを積み重ねること、多職種連携による包括的な医療者の介入により精神的苦痛の緩和を図ること、患者が他者との社会的関係をできる限り維持できるような環境づくりを行うことの必要性が示唆された。
著者
村嶋 幸代
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.49-56, 2020 (Released:2020-12-07)

1998 年に開学した大分県立看護科学大学は、2018 年に創立20周年を迎えることができた。この間、1,393人の学部卒業生、172人の修士、18人の博士課程修了生が本学を巣立ち、活躍している。大分県の進取の気性に富む風土の中で、本学は世界を見据えて看護の科学を追求し、人材を育んできた。この20年間で、現在の教育体系(学士課程は看護師(全員)と養護教諭1種(選択)、大学院看護学研究科修士課程看護学専攻実践者コースに、NP、広域看護学(保健師)、助産学、看護管理・リカレントの4コースと、研究者コースと博士課程)を作り、学士課程では予防的家庭訪問実習等、地域志向の教育を作り上げてきた。また、大分県・大分県看護協会と一緒に、中小規模病院看護管理者支援事業等を実施してきた。本学が今後取るべき道は、看護を通して大分県全体の活性化に尽力することであろう。本学を創設し、導き、支えてくださった多くの方々に感謝し、新しい一歩を踏み出したい。
著者
木下 愛未 下里 誠二
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.13-21, 2019

精神科では、患者の攻撃性がスタッフナースに向けられることがあり、結果スタッフナースが怒りを感じることが知られている。そこで精神科スタッフナース自身の認知傾向(敵意およびパラノイド〈PA〉傾向)、患者から攻撃行動を受けた際のスタッフナースの怒りの強さ、患者の攻撃行動への態度の関連をPearsonの相関係数やstructural equation modeling(SEM)により検証した。スタッフナースに対して質問紙調査を実施し、486名から回答を得た。結果、精神科スタッフナースの怒り感情の喚起に影響を与える個人の特性には、敵意や、PA傾向のうち対人猜疑心および仲間はずれといった認知傾向があることが示唆された。これらの認知傾向は怒り感情の強さに影響を与え、患者の攻撃行動を否定的に捉える看護師のネガティブな態度に影響を与えるものであった。一方で、患者の攻撃行動に対して患者への弱い立場への共感を示す看護師のポジティブな態度は影響が示されなかった。
著者
木下 愛未 下里 誠二
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.13-21, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
20

精神科では、患者の攻撃性がスタッフナースに向けられることがあり、結果スタッフナースが怒りを感じることが知られている。そこで精神科スタッフナース自身の認知傾向(敵意およびパラノイド〈PA〉傾向)、患者から攻撃行動を受けた際のスタッフナースの怒りの強さ、患者の攻撃行動への態度の関連をPearsonの相関係数やstructural equation modeling(SEM)により検証した。スタッフナースに対して質問紙調査を実施し、486名から回答を得た。結果、精神科スタッフナースの怒り感情の喚起に影響を与える個人の特性には、敵意や、PA傾向のうち対人猜疑心および仲間はずれといった認知傾向があることが示唆された。これらの認知傾向は怒り感情の強さに影響を与え、患者の攻撃行動を否定的に捉える看護師のネガティブな態度に影響を与えるものであった。一方で、患者の攻撃行動に対して患者への弱い立場への共感を示す看護師のポジティブな態度は影響が示されなかった。
著者
大津 佐知江 佐伯 圭一郎 草間 朋子
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.21-28, 2009 (Released:2017-11-28)
参考文献数
12

外来看護師が看護師としての専門性を発揮するためにはそれを発揮できる環境整備が不可欠と考える。本研究は、外来看護の質向上のための環境整備をすすめるうえの情報を入手することを目的とし、全国の一般病院の看護部長65名を対象に、「医療情報システム」「診療アシスタント」「診療の補助業務の中央化」など10項目の外来看護環境システムの導入状況を調査した。さらに、外来看護師592名を対象に、環境整備に関する項目の導入状況と「看護職者職業経験の質尺度」を用いた看護職者の質との関連を調査した。今回調査を行なった施設で80%以上導入されていた項目は、「医療情報システム」「診療アシスタント」「診療の補助業務の中央化」であった。また、導入が遅れている項目は、「キャリアラダーによる配置」「人事考課」「専門・認定看護師」「専門外来」「外来機能分離」であった。これらの外来看護環境に関連した項目を導入している施設は、していない施設の外来看護師より「看護経験の質」尺度得点は高く、外来看護の質を保つ上で導入の必要性が示唆された。
著者
稲垣 敦 草間 朋子 桜井 礼子 平野 亙 高波 利恵 溝口 和佳 岩崎 香子 品川 佳満 中山 晃志 影山 隆之
出版者
大分県立看護科学大学看護研究交流センター
雑誌
看護科学研究
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.47-56, 2012

大分市と協力して2005年に介護予防運動「お元気しゃんしゃん体操」(OSST)を開発した。OSSTは3段階の運動強度に分けられており、それぞれ道具を使わない4 種類の筋力トレーニングと3 種類のストレッチから構成されている。本研究には64~90歳の130名の在宅高齢者が参加した。3 ヶ月間のプログラムは、高齢者サロンでのOSST、健康相談、健康に関する講義、自宅でのOSSTであった。この期間の前後に、運動機能を測定し、自覚した身体的および精神的な変化に関する質問紙調査票を配付した。その結果、80%以上の者がほぼ毎日OSSTを家で実施し、OSSTでケガをした者はいなかった。また、体重、等尺性膝関節伸展筋力、肩関節柔軟性、10 m全力歩行タイム、最大一歩幅、ステッピングで有意な改善が認められ、体脂肪率、握力、長座体前屈、重心動揺、開眼片足立ち、全身反応時間では認められなかった。さらに、ほとんどの被験者が身体的および心理的に望ましい変化を報告した。OSSTは運動機能や心理面の改善の点で他の介護予防運動と同程度有効であった。さらに柔軟性や平衡性を高めるために改善が必要であるが、OSSTは安全性、継続可能性、効果の点から高齢者に相応しい運動であると考えられる。