著者
大井 学
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.87-104, 2006-08-31 (Released:2010-04-21)
参考文献数
100
被引用文献数
10

高機能広汎性発達障害をもつ個人にみられる語用障害について,特徴,背景,および支援について議論した.語用障害の定義にふれつつ,きわめて多彩な語用障害を診断区分などの個人差を考慮しつつ包括的に展望した.言語行為,精神状態を示す語,間接発話の理解,質問と応答,会話のやり取り,ナラティヴ,人称・呼びかけ形式,言語の推論,指示と結束,ユーモア・しゃれに分けて研究経過を振り返った.語用障害の背景として,心の理論と関連性,中枢性統合,実行機能,全般的な記号論の欠陥,その他の諸説を一覧した.支援について,ソーシャル・ストーリー,ソーシャル・スキル・トレーニング,心の理論の教育,個別的な語用論的アプローチおよび社会-語用論的グループ指導について述べた.今後の課題として,単一事例の徹底した会話データ検索,日本語語用論研究の臨床応用,神経語用論的研究,長所を生かす形で語用論を学べる包括的プログラムの整備をあげた.
著者
大井 学
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.224-229, 2002-12-30
被引用文献数
2

最近の他者理解研究と語用論研究の進歩に支えられて,高機能広汎性発達障害をもつ個人に対するコミュニケーション支援が有望となり始めている.それには彼らの適応改善や精神障害の予防効果も期待できる.しかし,彼らの語用障害の広大さと根深さについての明確な理解なしには,専門家の努力は無効となることが懸念される.技法の妥当性に関するこの視点からの十分な吟味がないまま,伝達スキルを訓練したり会話の知識を教えたりしても,役に立たないばかりか,彼らの混乱と不安を増やすことにさえなりかねない.今のところ次の3つが実行可能なアプローチとして考えられる.(1)彼らと周囲とのコミュニケーションの崩壊の修復,(2)周囲の人々が効果的なコミュニケーション戦略を用いるよう促す,(3)高機能児・者同士の仲間体験機会の提供.いずれの場合も彼らとのコミュニケーションに関する専門家のリフレクションが重要な鍵となる.
著者
大井 学 神尾 陽子 松井 智子 藤野 博 田中 優子 高橋 和子
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

某市3公立小学校の全学年児童1,374人のうち、775人について、対人行動チェックリスト(SCDC)日本語版12項目のいずれかにあてはまった169人(21.8%)と、そうでない者のうち約1割にあたる78人について、対人応答性尺度(SRS)日本語版の得点をもとに86人について、CCC-2との関連を検討した。またPDD児10名を含む4歳1ヶ月から11歳6ヶ月(平均生活年齢6歳4ヶ月)の41名を対象としてCCC-2日本語試作版を実施した。田中・ビネー知能検査V、絵画語彙発達検査(PVT-R)、J.COSS第三版、親への調査などを同時に行った。PDD群とTD群の群間比較ではIQ値、CCC-2指標(正値、負値、GCC、SIDC)で有意差があったが、生活年齢、PVT-R、J.COSS、父母の年齢や教育歴などに有意差はなかった。通級指導教室に通級する知的障害のない発達障害の小学生約60名の保護者にCCC-2およびPARSを、対象児にPVTおよびJ.COSS(第三版)を実施した。PARSのスコアから広汎性発達障害の可能性が示唆された児童をASD群に、ASDの基準を満たさずPVTおよびJ.COSSのスコアから語彙および文法理解力に顕著な困難があると評価された児童をSLI群に分類した。ASDにもSLIにも該当しない場合、その他の発達障害群とした。CCC-2の語用に関する領域(場面に不適切な話し方、ステレオタイプ化さわた言語、コミュニケーション場面の利用、非言語コミュニケーション)のスコアを群間で比較し、発達障害児における語用の問題について、特にその障害がASDに固有のものかどうかに焦点を当て検討した。ASD小学生50名にCCCを実施しクラスター分析を行って、4クラスターを得た。
著者
大井 学
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.87-104, 2006-08-31
参考文献数
100
被引用文献数
3

高機能広汎性発達障害をもつ個人にみられる語用障害について,特徴,背景,および支援について議論した.語用障害の定義にふれつつ,きわめて多彩な語用障害を診断区分などの個人差を考慮しつつ包括的に展望した.言語行為,精神状態を示す語,間接発話の理解,質問と応答,会話のやり取り,ナラティヴ,人称・呼びかけ形式,言語の推論,指示と結束,ユーモア・しゃれに分けて研究経過を振り返った.語用障害の背景として,心の理論と関連性,中枢性統合,実行機能,全般的な記号論の欠陥,その他の諸説を一覧した.支援について,ソーシャル・ストーリー,ソーシャル・スキル・トレーニング,心の理論の教育,個別的な語用論的アプローチおよび社会-語用論的グループ指導について述べた.今後の課題として,単一事例の徹底した会話データ検索,日本語語用論研究の臨床応用,神経語用論的研究,長所を生かす形で語用論を学べる包括的プログラムの整備をあげた.
著者
大井 学
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.110-118, 2004-08
被引用文献数
3

高機能広汎性発達障害をもつ人の語用障害は深刻なコミュニケーションの困難をもたらす。子ども時代にこの面での適切な支援なしに成人した青年たちが示す困難は、安定した就労や円満な社会生活を脅かしかねない。高機能広汎性発達障害にともなう語用障害には、それとは気づきにくい「見えない」ケースが多い。また、彼らの語用障害はコミュニケーションのすべての領域に広がっており、かつ他の面の発達によって克服されがたい根深さを備えている。さらに、ヒトのコミュニケーションのしくみの本質的な部分での欠陥も示唆される。こうした特質により彼らの語用障害は他者とのコミュニケーションに致命的な打撃を与えることもまれでない。語用障害を補償し会話の崩壊を修復する努力が、彼らとの相互理解にとって不可欠である。この障害をもつ人どうしのコミュニケーション体験の保障、INREALを用いた他者とのコミュニケーションの分析が支援として有用である。
著者
権藤 桂子 松井 智子 大井 学
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

多文化多言語併用環境下(日英2言語)で育つ定型発達児および高機能発達障害児の言語コミュニケーション発達の特徴を、日英2言語の語彙、文法、言語環境について評価を行った。バイリンガル定型発達児もバイリンガル発達障害児も、文化差による知識や体験の偏りが語彙理解に影響を及ぼす傾向があった。文法理解については、バイリンガル定型発達児は比較的良好な発達パターンを示したが、発達障害児はモノリンガルもバイリンガルも不定形な発達パターンを示す傾向があった。また、バイリンガル発達障害児の支援には、家族支援が重要な役割を果たしていることが明確化された。
著者
大井 学
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 1994-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
92

「自然な方法」による3つの言語指導法,相互作用アプローチ,伝達場面設定型の指導および環境言語指導に関連する最近の研究を展望し,それらの理論的な背景,技法,効果,今後の方向について検討した.大人との相互作用が子供の言語獲得に及ぼす影響に関する研究に基づく相互作用アプローチは,相互作用を改善し既有の伝達技能の使用を促す効果があるが,それによる新たな言語構造の獲得を示す証拠はない.また高い指示性と低い応答性という仮定の他に指導のモデルを求める必要がある.慣例化された活動が子供の伝達と言語理解を促すという研究結果を基礎としている伝達場面設定型の指導は,標的とされた伝達技能の改善に効果が認められているが,活動の選択や行動連鎖の形成方法について検討する必要がある.応用行動修正技法を基礎とする環境言語指導は,先の2つのアプローチとの交差によって,「自然な方法」による言語指導の発展に寄与することが期待される.
著者
大井 学
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 1994

「自然な方法」による3つの言語指導法,相互作用アプローチ,伝達場面設定型の指導および環境言語指導に関連する最近の研究を展望し,それらの理論的な背景,技法,効果,今後の方向について検討した.大人との相互作用が子供の言語獲得に及ぼす影響に関する研究に基づく相互作用アプローチは,相互作用を改善し既有の伝達技能の使用を促す効果があるが,それによる新たな言語構造の獲得を示す証拠はない.また高い指示性と低い応答性という仮定の他に指導のモデルを求める必要がある.慣例化された活動が子供の伝達と言語理解を促すという研究結果を基礎としている伝達場面設定型の指導は,標的とされた伝達技能の改善に効果が認められているが,活動の選択や行動連鎖の形成方法について検討する必要がある.応用行動修正技法を基礎とする環境言語指導は,先の2つのアプローチとの交差によって,「自然な方法」による言語指導の発展に寄与することが期待される.
著者
大井 学 大井 佳子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.48-54, 1986-03-30

A three-year-old girl with delayed speech received an intervention as to her irrelevant use of words in giving and taking. Before the intervention, she would give and take without saying a word or irrelevant words, such as ""Choudai, hai""(Give me, look)in giving, and ""Dozo, arigatou""(Look, thank you)in taking. In the intervention she was requested to use dolls as giver and taker imitating modeled speech of adult. Through initial manual guidance she could use dolls. It helped her conceptualize giving and taking; she could then relate words to those acts relevantly. However she would express no intent by words, representing only the acts themselves. In the end she would say ""Arigatou"" both as giver and taker, representing her partner's taking and her own taking. Her irrelevant word use was the result of adopting representative function of language with no consideration of actor-utterance relation. Further investigation would be requested to clarify the reason why she could not relate them relevantly.