著者
水田 明子 巽 あさみ
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.92-100, 2012-03-31

目的:深刻なこころの健康問題を抱えた学生は増加しており,保健室担当者はその対応に困難を抱いている.そこで本研究は,小規模私立大学の保健室担当者がこころの健康問題を抱える大学生に対して行う健康相談の内容から,課題を明らかにすることを目的とした.方法:小・中.高等学校の養護教諭勤務経験(経験歴3年以上)をもつ,小規模私立大学の保健室担当者(非常勤)5人に平均69分の半構造化面接を実施した.研究方法は,舟島なをみによる看護概念創出法を用いてデータ分析を行った.結果:197の「大学生のこころの健康問題に対する相談-困難経験コード」が抽出され,6コアカテゴリが形成された.大学生に対する健康相談において,保健室担当者が抱える3つの困難を表す概念は,【学生のこころの健康問題の深刻化】【教職員に健康相談について理解と協力を得る困難】【こころの健康問題を抱える学生への対応の困難さ】であり,3つの課題を表す概念は,【青年期の精神的自立支援】【関係者との連携】【健康相談の組織的取り組み】であった.結論:学生のこころの健康問題は深刻化しており,保健室担当者は健康相談の対応に困難を抱えている現状が明らかになった.大学の保健室担当者に,青年期の精神的自立支援を行う役割があることを示唆している.健康相談を進める過程で,関係者と連携を図り組織的に取り組むことが重要である.
著者
野村 美千江 豊田 ゆかり 中平 洋子 柴 珠実 宮内 清子
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.53-59, 2007-03-30

目的:認知症者の自動車運転は,公共安全の問題であると同時に病者の自立性に関わる問題である.本研究は,初期認知症者が自動車運転を中止する過程とその関連要因を記述することを目的とする.方法:対象は大学病院を受診し車の運転中止を勧告された初期認知症者13名とその介護者.平成15年10月〜17年12月の間,病者と介護者に半構造化面接と継続的な家族相談を実施した.カルテ・面接の逐語録・相談記録から病状経過,運転行動,中止要請への反応,介護者の認識と対応,生活環境等のデータを収集し,運転中止の過程と運転中止を困難にする要因を質的に分析した.結果:研究終了時点において,8名は運転を中止し5名は運転を継続していた.中止した8名は全員が自動車事故を起こし,診断から運転を断念するまでに5年を要した事例もあった.運転中止を困難にする要因は,同居家族の無免許や生活上の必要性,代替交通確保の難しさ,家族介護者の負担の増大などで,若年発症や身体能力が高い場合は中止がより困難であった.運転中止の過程において介護者は,病者の説得に苦労し,家族内の対立や近隣との軋轢など種々のストレスを体験していた.車のない生活への適応には家族の対応が影響していた.結論:認知症ドライバーを早期に発見し,病態や家族の問題解決力に見合った介護者相談や外出援助の資源開発等を行うことによって,運転中止後の生活適応を助ける必要がある.
著者
片川 久美子 小林 淳子
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.5-12, 2005-09-15
被引用文献数
1

本研究の目的は,Donabedianによる質の評価とサービス・マネジメント論の枠組みに基づいて乳幼児健診に対する母親の満足感に関連する要因を検討することである.対象は,Y県内7市で乳幼児健診を利用した母親1,812名で,質問紙調査を実施した.調査項目は,基本属性,健診結果の評価(総合的な満足感,健診への期待に対する満足感と期待の差(S-E),健診への推薦度),健診過程の評価(肯定的な関わり,否定的な関わり),健診構造の評価(全体的な会場の環境,診察・相談の環境,健診の設定)である.「健診結果の評価」を従属変数としてパス解析を行った結果,母親の「総合的な満足感」が高まる要因は,母親の体調が良いこと,「健診結果の評価」に含まれる「S-E」得点が高いこと,「健診構造の評価」に含まれる「健診の設定」,「診察・相談の環境」の評価が良いこと,「健診過程の評価」に含まれる「肯定的な関わり」があること,「否定的な関わり」がないことであった.「S-E」得点が高まる要因は,第2子以降の健診であることや「全体的な会場の環境」の評価が良いこと,「否定的な関わり」がないことであった.「健診への推薦度」に影響する要因は,「総合的な満足感」であり,「S-E」は影響していなかった.「総合的な満足感」を軸として,母親それぞれの健診への目的が達成されたかどうかということや,健診構造,健診過程の側面から評価していくことが,健診利用後の満足感を評価する指標となる可能性が示唆された.
著者
稲垣 絹代
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.75-80, 1999-03-15

研究目的 戦後最大の不況のもとで,大阪市内では野宿生活者の増加がみられ,その健康問題の深刻さが予想されていた.野宿生活者への健康相談を通じて,健康問題の実態を明らかにすることを目的として,炊き出し公園で健康相談活動を実施した.研究方法1996年の8月から1997年1月までの毎日曜日の午後1時〜3時ごろまで,釜ヶ崎の四角公園で炊き出しが始まる時刻に机と椅子を置き,1人ずつ約15分面接した.調査項目は体温,脈拍,血圧測定し,現在の健康状態,相談内容,既往歴,居住地,栄養状態,就労状況,野宿の期間や原因などを質問した.その後,必要な援助を実施し,結果は項目ごとに統計的に分析した.結果と考察 相談日数は合計14日,相談件数は合計174件,1回平均12件であった.相談者は男姓150人,女性1人である.年代別にみると,50歳台後半から60歳台前半が合わせて56.9%にも達する.九州出身者が34%と多い.野宿をしている人が69.5%で,その期間は1週間以内から2年以上とさまざまである.半数以上がほぼ失業状態で,栄養摂取状況の不良な者は59%である.体温測定では夏季は発熱者が多く,秋から冬では低体温が多い.脈拍では48.1%が90以上の頻脈であり,血圧測定では収縮期血圧の異常が70.7%あり,拡張期血圧の異常も39.3%あった.相談内容としては循環器系,脳神経系,筋骨格系,呼吸器系の症状の訴えが多く,既往歴は呼吸器系,循環器系,筋骨格系が多い.特に結核は7人に1人,高血圧は8人に1人の割で発症していた.無料の医療機関への紹介,救急車での搬送,相談と指導の援助を行った.仕事に就けないことが,野宿せざるを得ない状況になり,栄養状態の悪化を招く結果になっている.結論 野宿と栄養障害が原因による健康障害の重篤性が明らかになり,対策が求められてる.
著者
坂東彩 河野 あゆみ 津村 智恵子
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.93-99, 2008
被引用文献数
1

目的:本研究では,独居虚弱高齢者を対象とした悉皆調査を行い,独居虚弱高齢者の身体的機能,心理社会的機能,生活行動の性差による特徴を明らかにすることを目的とした.方法:本調査は,他調査の一部を用いて二次分析を行った.調査は郵送による自記式質問紙調査と,地域看護職の訪問による面接聞き取り調査を行った.A町全独居高齢者のうち介護認定を受けていない677人に郵送調査を行い,質問紙が返送された501人の回答内容から,要介護認定者,家族同居者,交通機関を使って自由に外出できる者を除外し,110人を面接聞き取り調査の対象とした.このうち,調査の拒否,死亡,転居,不在,介護認定申請の必要であった者を除外した79人を分析対象とした.結果:身体的特性では,男性は女性に比べ転倒不安をもつものが少なかった(p<0.05).社会的特性では男性は家族関係に満足している者(p<0.05),友人と一緒に過ごす時間に満足している者(p<0.05)が少なかった.また,生活行動では男性は自身の食事の支度をしている者(p<0.05),友人の家を訪ねる者(p<0.01)が少なかった.考察・結論:独居虚弱高齢者の身体的機能,心理社会的機能,生活行動の性差による特徴は,男性は女性に比べ家族や友人とのつながりが弱く,自身で食事の支度をしている者が少なかった.よって男性の独居高齢者は,ソーシャルサポートや家事機能の支援がより必要な対象であることが明らかになった.
著者
尾崎 伊都子 小西 美智子 片倉 和子
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.35-43, 2009-10-30

目的:本研究の目的は壮年期男性勤労者の健康習慣(栄養バランス,身体活動,睡眠,節酒,禁煙)に関する自己効力感尺度を作成することである.方法:予備調査として勤労者を対象に行った保健指導に基づき,栄養バランス10項目,身体活動7項目,睡眠6項目,節酒8項目,禁煙8項目の尺度項目を作成した.本調査では作成した尺度項目を用いて勤労者1,000名を対象に自記式質問紙調査を行った.尺度の信頼性に関してCronbach α係数を算出,妥当性に関して生活習慣,主観的健康管理能力尺度との関連性を検討した.結果:953名を分析対象とし,因子分析の結果,栄養バランスは第1因子「食生活の管理」,第2因子「環境への対処」の2因子が抽出され,身体活動,睡眠,節酒,禁煙はいずれも1因子構造であった.尺度のα係数は,栄養バランス0.87,身体活動0.90,睡眠0.89,節酒0.92,禁煙0.94であった.自己効力感尺度と生活習慣との関連性を分析した結果,好ましい生活習慣を実施している者は,実施していない者に比べて尺度得点が有意に高かった.また,自己効力感尺度と主観的健康管理能力尺度との相関分析の結果,栄養バランス,身体活動,睡眠の自己効力感尺度は主観的健康管理能力尺度と有力な相関があった.結論:栄養バランス,身体活動,睡眠,節酒,禁煙の5つの健康習慣に対する自己効力感尺度を作成し,信頼性・妥当性を確認できた.
著者
福島 道子 北岡 英子 大木 正隆 島内 節 森田 久美子 清水 洋子 勝田 恵子 黛 満 奥富 幸至 菅原 哲男 藤尾 静枝 山口 亜幸子
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.38-46, 2004-03-25

都内某保健所において児童虐待事例として援助した家族8例,および関東圏某児童養護施設において虐待事例として入所した児童の家族17例を対象に,「家族生活力量」の概念に基づいて事例検討し,児童虐待が発生している家族の問題状況を分析した.各事例を「家族生活力量アセスメントスケール」や家族システム論を用いて分析した後,全体像を短文で記述し,それをグルーピングしたところ,「精神疾患から虐待が発生し,それに伴って生活困難が生じている」「不健全な夫婦関係が虐待問題をより解決困難にしている」「生活基盤が弱いことによってネグレクトが生じている」「家族形態が成立しないまま出産し,出産直後から育児放棄している」「世代間境界の曖昧さが虐待問題をより解決困難にしている」「未成熟な家族ゆえに虐待が発生している」の6つに類型化された.また,「家族生活力量アセスメントスケール」で家族の生活力量を測定した結果,虐待が発生している家族は家族生活力量が低値であり,特に「役割再配分・補完力」と「関係調整・統合力」が顕著に低かった.虐待事例各々についてスケールの得点をみると,同スケール9領域のいずれかが0%である事例が21例みられた.虐待支援に当たっては,家族生活力量を査定したうえで働きかけることが必要であることが考えられた.本研究の限界として,事例数が少なく,虐待重症度や対象選定機関等に偏りがある.今後は,地域保健・福祉機関からの事例を積み上げていきたい.
著者
西嶋真理子
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.98-105, 2007
被引用文献数
1

本研究は,保健師に求められる地域看護診断(地域の保健ニーズをアセスメントし,計画策定)のできる能力の基礎を備えた保健師教育の基礎資料とすることを目的に,地域看護実習の中で学生が地域看護診断の展開過程をどのように学習しているかを分析した.方法は,E大学4年次学生22名のうち書面で同意が得られ,現地オリエンテーションが実習期間中に行われた10名の実習日誌に記述された内容から,地域看護診断の学習過程について分析した結果,以下のことが明らかになった.1.現地オリエンテーションでは,保健所・市町の組織,保健事業,保健師活動等から地域に必要な保健サービスについて学習している.初回地区踏査では自然環境や交通・人々の集まり等から人々の暮らしぶりを実感している.2.2事例4名の実習日誌の経時的分析から地域看護診断の学習過程は,<地区や人々の実像が見える><テーマに関わる対象が見える><データを関連づけて分析できる><健康課題を抽出し,背景・地域の強みがわかる><計画策定のアウトラインがわかる>の5段階の学習過程を辿っていることがわかった.地域看護診断の過程でデータの分析は,地域を大づかみに把握した後,データを焦点化し,統合化する思考過程が推測された.以上のことから,地域看護診断の展開過程における学生の学習過程が明らかになり,それぞれの段階に応じた支援の必要性が示唆された.
著者
川崎 千恵
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.90-97, 2014-03-31

目的:在日外国人女性の出産・育児の過程において経験する困難や,異文化社会で出産・育児を行うことの健康への影響,出産・育児の過程における支援ニーズを明らかにし,今後の在日外国人女性への育児支援策を検討するうえで示唆を得ることを目的とした.方法:医学中央雑誌,CINAHL,PubMedを用いて検索し,抽出した国内外の原著論文について分析を行った.結果:在日外国人女性は出産・育児の過程において,異文化間の葛藤やジレンマ,サポートを得られない,孤立や孤独感などの困難を経験していることが明らかになった.また,これらは産後うつなどの精神的な健康にも影響しており,情報やソーシャル・サポートのサービスへのアクセス,異文化に関連する困難への対処についての支援が必要であることが明らかになった.結論:文献レビューの結果,日本の文化の影響を考慮した在日外国人女性への具体的な支援策を検討することが今後の研究課題と考えられた.特に,在日外国人女性の支援ニーズを満たし,精神的な健康を維持するために必要な方法についての検討が求められていると考えられた.保健師等専門職は,情報やソーシャル・サポート,ソーシャル・ネットワークにつながる仕組みを整備するとともに,在日外国人女性が出産・育児の過程で直面していると考えられる困難に共感し継続的に支援を行う必要があること,家族に対する働きかけが必要であることが示唆された.
著者
小野 恵子 片倉 直子 島内 節
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.64-69, 2010-03-31

目的:本研究の目的は,在宅看護学概論の評価であり,具体的な授業の評価内容は,授業の理解度,授業形態の工夫による学習理解への役立ち度,在宅看護の具体的なイメージ化,授業の満足度を明らかにすることである.また,その評価の結果から,在宅看護のイメージに関連する内容,満足度に関連する内容,イメージ化と満足度との関係,授業理解度と授業形態の工夫との関係があるかどうかを明らかにする.対象は,A大学看護学科3年次学生の56名中,調査への同意が得られた者計52名である.調査の結果から,授業の工夫について8割以上の学生が,学習と理解に役立ったと評価していた.しかし「介護保険法」「自立支援法・健康保険法」のような法関連の授業の理解度は,他の授業内容に比べて低かった.これらの授業の理解は在宅看護のイメージ化に関係していたこと,イメージ化と関連した工夫はPRパンフレットだけであったことから,更なる授業の工夫の必要性が示唆された.また,在宅看護のイメージ化と授業の満足度,授業の満足度と授業の理解度,そして授業の理解度と授業形態は,それぞれ関連しており,在宅看護のイメージづくりには,授業の満足度と授業の理解度と授業形態が連鎖していると考える.
著者
湯本 理子 佐藤 悦子
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.73-80, 2012-12-31

目的:本研究は,スピリチュアリティ評定尺度(SRS)を用いて,A県内の訪問看護師のもつスピリチュアリティに影響を及ぼす要因を明らかにすることである.方法:A県内の全訪問看護ステーション40か所の訪問看護師244人に対し,無記名自記式アンケート調査を実施し,183人から返信が得られ,うち回答に欠損のない173人(有効回収率70.9%)を解析対象とした.調査項目は,訪問看護師のもつスピリチュアリティをスピリチュアリティ評定尺度(SRS)を用いて測定した.先行文献より抽出されたスピリチュアリティに影響が想定される要因11項目との関連についての分析はt検定,多変量解析は数量化I類によった.結果および考察:平均年齢は44.0歳(±7.8),訪問看護師の経験年数は7.7年(±5.6)であった.訪問看護師としてのスピリチュアリティの平均得点は46.8点(±8.7)で正規分布に近い分布を示した.スピリチュアリティに影響を与えていると思われる11項目との関連は,多変量解析の結果,最も影響していた項目は「スピリチュアリテイに関心がある」「(スピリチュアリテイの)研修会に参加したことがある」であった.本研究において,スピリチュアリティに影響していたものは,「年齢」や「経験」ではなく,訪問看護師のスピリチュアリティに働きかけていくためには,それへの関心と学習の機会が重要であるといった示唆を得た.
著者
長江 弘子 千葉 京子 中村 美鈴 柳澤 尚代
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.123-130, 2001-03-01

本研究は,生活障害をもちながら地域で暮らす高齢者の主体的選択である「生活の折り合い」の概念を明らかにすることを目的とした.研究対象は,都内に居住する70〜89歳までの要支援高齢者20名である.データ収業は,個別訪問による半構成的面接を行い,高齢者の言語データをありのままに捉えるBerelsonによる内容分析の技法を用いて分析した.結論として生活障害をもちながら地域で暮らす高齢者の「生活の折り合い」概念は,「身体的機能障害によって変化した日々の生活スタイルを修正し,以前の生活に近い状態,あるいは自分の望む生活を自立的に選択しながら老いの成熟へ向かう過程」と定義された.この概念は,地域看護における新しい看護支援概念であり,「楽しく過ごすが生活信条」「老いに伴う生活調整」「自己尊重感を保障する健康」「生活保障に対する安心感」の4主要因で構成されていた.生活の折り合いの過程では,この主要因が絡み合い,肯定的認識と否定的認識との心的葛藤を伴う高齢者自身の心の仕事として意味をもっている.構成する4主要因は,地域で暮らす高齢者の日々の生活における個別支援への方略を提供するものであると考える.
著者
岡本 玲子 塩見 美抄 鳩野 洋子 岩本 里織 中山 貴美子 尾島 俊之 別所 遊子 千葉 由美 井上 清美
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.60-67, 2007-03-30
被引用文献数
9

本研究の目的は,今特に強化が必要な行政保健師の専門能力を明らかにすることである.データは,(1)学識経験者を対象としたフォーカスグループディスカッション(n=7)と,(2)保健師と関係他職種を対象とした個別面接(n=9)により収集した.専門能力は,研究者によるデータの解釈・分析によって抽出・精選した.専門能力の妥当性と優先度の検討は,(3)全国の現任保健師研修担当者への郵送質問紙調査により行った.(1)(2)を分析した結果,専門能力は次の5つにまとめられた.すなわち,a)住民の健康・幸福の公平を護る能力,b)住民の力量を高める能力,c)政策や社会資源を創出する能力,d)活動の必要性と成果を見せる能力,e)専門性を確立・開発する能力である.(3)の調査(n=225)では,a)〜 e)の専門能力は,被調査者の9割以上の賛同を得た.また,7割の者が優先度が高いとした専門能力は,c)d)であった.結果より,今回抽出した専門能力は,今特に強化が必要なものとしてコンセンサスを得られた.今後保健師がこれらの能力を獲得できるよう,とりわけ優先度の高い専門能力について,我々は早急に教育プログラムの開発や教育体制の整備を行っていく必要がある.