著者
植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.339-348, 1987-09-25
著者
植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.149-161, 1985-11-30

日本産モクレン属各種類と,ハクモクレンとシモクレンの学名を再検討し正名を定めた.なお,第1,2部はTaxonに投稿したので合わせて抄録させていただきたい(UEDA,1986a,b).これらは古くから欧米に花木として導入されている.19世紀初期までは情報不足から一部の種の取り扱いに混乱がみられるが,各分類群の概念はほぼ一貫している.多くのすぐれたモノグラフ等も出版されている(REHDER and WILSON, 1913 ; MILLAIS, 1927 ; JOHNSTONE, 1955 ; FOGG and MCDANIEL, 1975 ; SPONGBERG, 1976 ; TRESEDER, 1978等).東亜温帯産のモクレン属を最初に包括的に再検討したのはREHDER and WILSONで,初期に書かれた多くの学名を整理し,そこで採用された学名が一般にうけいれられてきた.ところが,最近になって,ホオノキ,ハクモクレン,ノモクレンの学名について論争が起きている(DANDY, 1973 ; SPONGBERG, 1976 ; HARA, 1977, 1980 ; TRESEER, 1978 ; OHBA, 1980).筆者はこれらの議論を詳しく検討し,また,コブシとシデコブシに現在採用されている学名は使用できないことが判明したので報告する.大変不幸なことに大半の種は現在採用されている学名は使えず,以下の学名が正名である.すなわち,ハクモクレン : M. heptapeta(BUCHOZ) DANDY, シモクレン : M. quinquepeta (BUCHOZ) DANDY, シデコブシ : M. tomentosa THUNB., コブシ : M. praecocissima KOIDZ., ホホノキ: M. hypoleuce SIEB. et ZUCC., ウケザキオオヤマレンゲ : M. × wieseneri CARRIEREである.従来のままはタムシバ M. salicifolia (SIEB et ZUCC.) MAXIM.と最近認識されたコブシモドキM. pseudokobus ABE et AKASAWA (1954), オオヤマレンゲM. sieboldii ssp. japonica UEDA (1980)だけである.
著者
福原 達人
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.35-46, 2011-02-21 (Released:2017-03-25)
参考文献数
55
著者
KUO JOHN KANAMOTO ZIYUSEI IIZUMI HITOSHI MUKAI HIROSHI
出版者
日本植物分類学会
雑誌
APG : Acta phytotaxonomica et geobotanica (ISSN:13467565)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.129-154, 2006-08-30
被引用文献数
2

A taxonomic study of the seagrass genus Halophila Thouars concludes that eight distinct taxa, including four new species, occur in Japanese waters. Past literature indicated that the name of H. ovata Gaud. is illegitimate, thus a new species name, H. gaudichaudii J. Kuo, with a description is provided. Halophila major (Zoll.) Miq. has been reinstated to a distinct taxon, with H. euphlebia Mak. as a synonym. The other three new species, H. nipponica J. Kuo, H. mikii J. Kuo, and H. okinawensis J. Kuo are endemic to Japan, while H. gaudichaudii, H. ovalis (R. Br.) Hook. f., H. major, H. minor (Zoll.) den Hartog and H. decipiens Ostenf. are extended from Indo-West Pacific regions to reach their northern distributional boundaries in southern Japan. Halophila okinawensis and H. gaudichaudii are restricted to Ryukyu Islands and H. mikii only occurs in Tanegashima and Yakushima Islands. Halophila nipponica is widely distributed in temperate Japan except for Hokkaido Island, while the tropical H. major has additional colonies confined to Wakayama Prefecture in Honshu and Tokushima and Kochi Prefectures in Shikoku. Typifications, morphological descriptions, habitat and biological information, illustrations and distribution maps are presented for each taxon. Biogeographical distribution of the Japanese species is discussed in relation to the effect of currents.
著者
ブーフォード
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.28-40, 1982

ミズタマソウ属の分類は混乱していて人によって取り扱いが違っている。日本産種についていえば,混乱の原因のうち大切なものが2つあり,その1つはミヤマタニタデの2亜種をはっきり認識していなかったことであり,他の1つは雑種についてよく調べられていなかったことである。筆者はミズタマソウ属についての比較研究を行って,この属には7種7亜種が認められることを確かめた。この研究の成果はAnnals of Missouri Botanical Gardenに掲載される予定である。ミズタマソウ属は東亜に分布の中心があり,日本にも多様な型が見られる。筆者は1977年に日本各地で詳細な野外観察を行ない,1980年にも補足的な調査を行なったほか,日本や欧米のハーバリウムにある標本も丁寧に検討した。これらの研究によって,日本のミズタマソウ属には5種1亜種が認められることを確かめた。これらを識別するための人為検索表をつくると,1 子房と果実は2室で,根茎は塊茎状にはならない…2 2 密腺は花筒部内にあり,円筒状または環状のデイスクになって突出することなはい。花序の軸には,短かくて鎌状に曲がる腺毛と,長くて真直ぐか少し曲がる開出毛がつく…1 ウシタキソウ 2 密腺は花筒の開口部より外へ突出し,円筒状か環状のデイスクとなる。花序の軸は無毛か,腺毛あるいは短かくて鎌状に曲がる毛がつくが,長くて真直ぐか少し曲がる開出毛はつかない…3 3 花弁は倒卵形または広卵形,先へ伸びる部分は花弁の全長の1/4かそれ以上。花序の軸は有毛。さく果は熟するとたてに深い溝が入り,稜は鈍円形…4 4 茎は有毛で,鎌状に曲がる毛が密に生じることが多い。葉は基部がクサビ形または稀に円形。花序はほとんど毛がないか,腺状で鎌状に曲がる毛がつく…2 ミズタマソウ 4 茎は無毛。葉は基部は円形からやや心形。花序は腺状で鎌状に曲がる毛が密生する…3 ヤマタニタデ 3 花弁はコテ形で,先へ伸びる部分は花弁の全長の1/5かそれ以下。花序の軸は無毛。さく果は熟しても深い溝や円形の稜をもたない…4 タニタデ 1 子房と果実は1室で,根茎は塊茎状になって終る…5 5 茎には短かくて反曲した毛がつく。花は総状花序が展開してから開出するか少し斜上する柄の上で咲く。小花柄には小包葉がない。…5a ケミヤマタニタデ 5 茎は無毛。花は総状花序が展開する前に直立か斜上する柄の上で咲く。小花柄には小包葉がある…5b ミヤマタニタデ(狭義) ミズタマソウ属は日本で図1に示すような組み合せで7通りの雑種を作っている。この他,ミヤマタニタデとウシタキソウの雑種と思われる標本が1点だけある。この組み合せの雑種は,稀ではあるけれども中国では知られている。その他の組み合わせの雑種も探がしてみる値打ちがある。特に,ヤマタニタデとミズタマソウの雑種は北海道にありそうである。ミズタマソウ属では雑種は形態的に両親の完全な中間型となり,不稔である。野外では果実のつかないものがあれば雑種である可能性が高い。花粉も普通なら80%以上も成熟するが,雑種では10%以上が完熟することは珍らしい。雑種は生育場所でも母種の中間となり,川沿いのような場所に繁茂することが多い。雑種がつくられると,あとは栄養繁殖をして大きな群落をつくっていることが多い。1 ウシタキソウ Circaea cordata ROYLE 日本・台湾・朝鮮・中国・南東シベリア・アッサム・ネパール・パキスタンに分布し,染色体数はn=11。オオタニタデC. × dubia HARAはウシキタソウとタニタデの雑種である。ウシキタソウとヤマタニタデの雑種(C. × skvortsovii BOUFFORD)らしいものが早池峰山でも採られている(T. Makino MAK 6953)が,ここにはヤマタニタデが生えていない。片親が現在分布していない地域に雑種が生育する例はアメリカでもある。これはその地域にかっては両種が分布していたか,他の地域から動物によって雑種種子が運ばれてきた可能性を推定させる。ヒロハノミズタマソウはウシタキソウとミズタマソウの雑種で,学名をC. × ovata(HONDA) BOUFFORDとする。2 ミズタマソウ Circaea mollis SIEB. & ZUCC. 日本・朝鮮・中国・インドシナ北部・ビルマ北部・アッサムに分布し,染色体数はn=11。ミズタマソウとタニタデは相接して生育している所が多いけれど雑種はあまり見つかっていない。3 ヤマタニタデ Circaea lutetiana L. subsp. quadrisulcata (MAXIM.) ASCH. & MAG. ヨーロッパのsubsp. lutetiana,アメリカのsubsp. canadensisと地理的に分かれており,東アジアからシベリアに分布している。染色体数はn=11。ヤマタニタデとタニタデの雑種が北海道で見つかりC. × decipiens BOUFFORDと命名する。ヤマタニタデとミヤマタニタデの雑種(C. × intermedia EHRH.)は原(1959)のエゾミズタマソウである。4 タニタデ Circaea erubescens FRANCH. & SAV. 日本・朝鮮南部,中国に分布し,染色体数
著者
角野 康郎 福岡 豪
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.203-206, 2016 (Released:2017-01-16)

Najas guadalupensis (Sprengel) Magnus subsp. floridana (R. R. Haynes et W. A. Wentz) R. R. Haynes et C. B. Hellquist (Hydrocharitaceae) was recorded from a brackish pond in Ehime Prefecture, Shikoku, as the second locality of the species in Japan. A specimens of the species was proved to have been collected in 1923 from the same area. The origin of the species in Japan was discussed.
著者
黒沢 高秀
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.203-229, 2001
参考文献数
58
被引用文献数
4

日本には雑草性のトウダイグサ科ニシキソウ属植物Chamaesyceが9種1品種生育している。これらの植物のいくつかは日本で使われている学名に混乱が見られる。また,いくつかは帰化植物(江戸時代末期以降に日本に入ってきたいわゆる新帰化植物)であるか在来植物であるか扱いが分かれている。これらの植物の学名の混乱を整理するとともに,それぞれの種の日本での出現年代や分布の変遷などを調べ,帰化植物として扱うのが適当かを議論した。その結果,コバノニシキソウC. makinoi (Hayata) H. Haraは戦後に関東以南の本州,四国,琉球に広がった帰化植物であること,帰化植物として扱われることがあるシマニシキソウC. hirta (L.) Millsp.,ミヤコジマニシキソウ,およびイリオモテニシキソウC. thymifolia (L.) Millsp.は帰化植物ではなく,自生植物か,かなり古くから定着していた植物と考えられること,ハイニシキソウは典型的なものが関東以南に帰化しているほか,アレチニシキソウと呼ばれる毛の多いタイプが関東以南の本州と九州に広がっていること,イリオモテニシキソウの分布は主に琉球と小笠原であり,九州以北からの分布報告の多くは誤同定と考えられることを示した。また,オオニシキソウ,コニシキソウ,およびハイニシキソウの正しい学名はそれぞれC. nutans (Lag.) Small, C. maculata (L.) Small, およびC. prostrata (Aiton) Smallであることを解説し,ミヤコジマニシキソウに対して新組合せC. bifida (Hook. & Arn.) T. Kuros., comb. nov.を提案した。
著者
若林 三千男 大場 秀章
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-27, 1995
参考文献数
16
被引用文献数
4

ホクリクネコノメの仲間(ホクリクネコノメ群)のホクリクネコノメとボタンネコノメソウは深山の渓流沿いなどの湿った場所に生え, 春先に花を咲かせる多年性草本で, 主として本州の日本海側寄りに分布している。ボタンネコノメソウはホクリクネコノメの分布域よりやや南側に生育し, 大井次三郎博士によって1933年, 種として記載されたが, 現在ホクリクネコノメの変種として扱われている。両者は主に, 花柱と雄しべが萼片より超出するか, またはそれより短いかで識別されるが, それらの変異についてはまだ詳しい解析はなされておらず, 変種関係とする理由も明らかにされていない。また両者の分布についても, 原(1957)および原と金井(1959)によって当時点での概略が示されているが, その後の詳しい研究はなされていない。最近, 岐阜県高山市在住の長瀬秀雄氏は, 飛騨地方一帯に変わったボタンネコノメソウがあることを発見された。私達はその実態を把握するため, 氏の案内で現地調査をする機会を得た。その結果, 花柱や雄しべが萼片より超出しない点はボタンネコノメソウに似ているが, 花はそれよりかなり大きく, 葯は赤色で萼が黄色を帝びるなとボタンネコノメソウとはかなり異なる特徴を示すことが確認された。さらにこの植物の分類学的位置づけを明確にするため, ホクリクネコノメ群全般にわたり, 花, 〓果, 種子表面の形態, 及び核型の変異を解析するとともに, 詳細な分布調査を行った。その結果, 上記の植物は, ホクリクネコノメとボタンネコノメソウと同様に2倍体(2n=22)で倍数性の変化はみられなかったが, 核型では一対の次端部動原体型染色体に付随体がある点でそれらと異なっていた(Fig.7)。また形態的には雌しべの形状や長さ, 雄しべの長さや葯と花糸の長さの比率など(Figs.1-3)でホクリクネコノメやボタンネコノメソウと明確なギャップがあり, 新分類群と認められた。特に〓果の形態では, 宿存する花糸は萼片と同長かわずかに短い点(Fig.4)で乾燥標本でも容易に識別できる。私達はこれにヒダボタンという和名をつけた。ヒダボタンのこれらの特徴はこれまで見過ごされてきたもので, ボタンネコノメソウと混同されていたと考えられる。また, ホクリクネコノメとボタンネコノメソウの間には上記の特徴では著しい差異があり, それぞれを変種関係とする形態学的証拠は見当たらなかった。さらに両者は異所的な分布圏をもち, まれにそれらが接する所では同所的に生育していることが分かった。これは生殖的隔離の存在を示唆するもので, 形態的ギャップと考え合わせると両者は既に種レベルまで十分分化したものと考えられる。ボタンネコノメソウは種として扱うべきだろう。これに伴い, ヒダボタンも種として扱うのが自然である。ヒダボタンも, ボタンネコノメソウとまれに混在して生育している所があり, まれに雑種と思われるものがあってもその花粉稔性は低い。ホクリクネコノメと同所的に生育している所でもそれぞれの種の特徴ははっきり維持されている。生殖的隔離が存在していると考えられる。最初に発見した長瀬氏の名にちなみ, ヒダボタンを新種Chrysosplenium nagaseiと命名・記載した。ヒダボタンは地域によって変異がみられるが, 種としては岐阜県中部を中心にした地域及び伊吹・鈴鹿山地に沿って南は三重県の野登山まで生育しており, 中国地方の山地にも散在的に分布する(Fig.8b)。岐阜県の西北部や滋賀県東北部(伊吹山地の西麓)には, 葯が黄色で萼も黄色または黄緑色で, 外観はボタンネコノメソウの品種キンシベボタンネコノメソウに似ているが, はっきりとしたヒダボタンの仲間が分布する。ヒダボタンより花がやや小さく, 分布的にもまとまっているのでこれを新変種ヒメヒダボタンvar.luteoflorumとした。また, 岐阜県西部の伊吹山地東麓, 養老山地, および霊山から野登山までの鈴鹿山地に分布しているものは, 外観は典型的なボタンネコノメソウとよく似るが, これもはっきりとしたヒダボタンの仲間である。ヒダボタンとは萼が赤褐色で花はそれよりずっと小さい点で異なっており, 新変種アカヒダボタンvar.porphyranthesと命名・記載した。中国地方に散在的に分布しているヒダボタンは, 現時点では標本によってのみ検討されたものなので, その実態については今後の調査を待ちたい。ヒダボタンの花や〓果は, ボタンネコノメソウとホクリクネコノメのものとの中間的な形態である。また, ヒダボタンは, ボタンネコノメソウとホクリクネコノメの分布域の間に位置するような分布をしている。これは, ヒダボタンがボタンネコノメソウとホクリクネコノメの間の雑種起源であるという可能性を示唆するものであるが, このことについてはさらに詳細な遺伝的解析が必要である。今回の研究でボタンネコノメソウとホクリクネコノメについても従来より詳細な分布状況を把握することができた。ボタンネコノメ
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.71-80, 1935-05-30

マンシユウガンクビサウ(Carpesium manshuricum KITAMURA) 從來ミヤマガンクビサウ(Carpesium triste MAXIM.)にあてゝあつた大陸の植物で,これを最初にあてた人は C. WINKLER 氏である.Carpesium triste は内地のものが Type であるが丈はあまり高からず葉も小さく長卵形又は長楕圓形であるが,マンシユウガンクビサウは丈高く葉は頗る大きく廣卵形で別種とすべきものである.始め金剛山で澤山採集した時大變大きな葉になつてるなと思つてゐたところ,ソビエツトの M. ILJIN 氏より滿洲の標品をもらひ,これも大きな葉なので研究した.そして別種とする意見になつた. シヲギク(Chrysant hemum shiwogiku KITAMURA) シヲギクは四國,紀伊,伊勢の沿海地方に産する古來有名な菊であり,分類の大家及び細胞學者の研究が澤山あつて,今更形態分布を説明する必要はない.サツマノギク Chrysant hemum ornatum と變種關係に立つてゐたが,植物研究雜誌に書いた如く葉が倒長卵形一倒被針形楔底であるのと,廣卵形一圓形截底であるのとで一見して區別され,分布區域も全く異つてゐる.この二つは種として區別すべきであると私は思ふ.Chrysant hemum marginatum KORTHALS といふ學名がある.これはボルネオで採集されたものとして取り扱はれてゐるが,萬一日本のシヲギクが産地を誤られてゐるのではないかと心配になる.菊科植物では殊に産地が不明である塲合はそれが悪標品であつたりすると鑑定に頗る困難を來す.私は Chrysant hemum marginatum KORTHALS はよくわからんが,今産地のハツキリしたシヲギクに新學名を與へる.將來この事に留意し,Chrysant hemum marginatum KORTHALS を研究し不幸にして,これがシヲギクであつた塲合は古い學名に歸らねばならぬ.四國の沿海のものと紀伊,伊勢の海岸のものとは葉形が後者の方が狹く分裂も淺く頭花も小さいので變種として區別しキノクニシヲギクと云ふ.この研究について澤山の生品や標品を御惠み下さつた田代善太郎氏,吉永虎馬氏,土井美夫氏,孫福正氏に謹んで感謝する. ツイミサウ(Hieracium Tatewakii (KUDO) TATEW. et KITAMURA) 北樺太で採集された植物で故工藤博士が Crepis Tatewakii KUDO として記載された植物である.カリフオルニヤ大學のバブコツク氏は Crepis の專問家であるが,同氏が北大からこの標品を借りて研究し Hieracium だと鑑定した.同氏は Hieracium を鑑定したくはないので館脇博士のところへ尋ねて來た.バブコツク氏は Hieracium triste とちがふかどうか比較してくれといふ.そこで我々は研究したのだがやはり Hieracium である.もつとも Hieracium triste とは全く別物でこれは節が全くちがふ.所屬は ZAHN 氏の分類に依ると Euhieracium, Phyllopoda, Trichophtoylla, Pulmonarea であつて Hieracium vulgatum 群のものである.Hieracium vuigatum 群は LEDEBOUR 氏の Flora Rossicae に既にバイカルやドウリヤに産する事が知られてゐるが今度北樺太まで足をのばした事になつた. ハヤチネウスユキサウ(Leontopodium hayachinense HARA et KITAMURA) この植物は最初ジユネーブのボーベール氏が Leontopodium discolor BEUV. (1909) を出した時,本州早池峯の植物をこれと同定した.次いで武田久吉博士は Lontopodium discolor ではなく Leontopodium alpinum var. hayachinense TAKEDA (1911) であると發表された.其の後ボーベール氏は Leontopodium discolor var. hayachinense としたが Leontopodium discolor とは葉の基部が廣くやゝ葉をだき果實は二倍程大きく花冠と共に毛が生えてゐるので(L. discolor では葉の基部は頗る狹まく果實小さく無毛) 種として區別することにした.原寛氏と相談の結果共著で公けにする.同氏は昨年十二月手紙で研究する樣にすゝめられたが延引した次第である.
著者
福原 達人
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.107-112, 1991-12

北海道東部及び中部産の新種,Corydalis kushiroensis(和名:チドリケマン-新称,Fig. 1)を記載する。この種は,従来,フロラなどにおいてナガミノツルケマン C. raddeanaと混同されていた。チドリケマンは日本産のキケマン属Corydalisのうち,ナガミノツルケマン(Fig. 2, B; Fig. 3, C),及びツルケマンC. ochotensis(Fig. 2, D; Fig. 3, B)に類似する。以上の3種は,盛んに分枝し,多数の茎葉を付ける二年草であり,黄色の花冠,朔果のバルブが巻き上がることで種子を弾いて散布すること,夏から秋に掛けて開花・結実することなどの特徴で,日本産の他の種から区別される。チドリケマンは,ナガミノツルケマン,ツルケマンからは,花が小さい(長さ9-13mm)ことと,距が真直ぐ斜め上へ伸びていることで区別できる。後の2種は15-20mmの花を持ち,下向きに湾曲する距を持つ。シベリア・モンゴル・中国北部に分布するC. impatiens (Fig. 2, A)は小形の花冠,斜上する距,線形の果実を持つ点,チドリケマンに似るが,柱頭の形が両者では異なる。花冠が更に小さく長さ10mm以下であり,小葉やその裂片がチドリケマンより狭いことでも区別できる。チドリケマン,ナガミノツルケマン,ツルケマンの3種とも沢沿いや林縁,疎林内,路傍,人家近くなどの半陰からやや開けた草地に生育する。チドリケマンは,北海道の東部・中部に固有であり,西限は日高支庁の南端部,あるいは旭川に達する(Fig. 4)。ナガミノツルケマンとツルケマンは,共に,東アジアに広く分布し,前者の分布は全体として後者のそれより南に偏っている。日本では,ナガミノツルケマンが本州・九州に広く分布するのに対し,ツルケマンの分布域は日光・尾瀬周辺,上信国境の一部に限られる(Fig. 4)。大井(1953, 1965),北村・村田(1961)はナガミノツルケマンとツルケマンの差異を変種レベルの違いとした。しかし,両者は果実の形状に加え,苞の形状,花序の花数,柱頭の形態において異なる変異域を持っている。そこで本稿では両者を別々の種として認識した。日本産の3種への検索表:1. 花長9-13mm,距は短く,やや斜め上を向く。外下花弁の基部に疣状の突起がある。果実は線形,種子は果実内で1列に並ぶ。…チドリケマン 1. 花長15mm以上,距はより長く,下側へ屈曲する。外下花弁の基部に疣状の突起は通常無い。2. 果実は線形,種子は果実内で1列に並ぶ。…ナガミノツルケマン 2. 果実は倒披針形から倒卵形,種子は果実内で2列に並ぶ…ツルケマン
著者
若林 三千男
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4-6, pp.136-153, 1973-03-30 (Released:2017-09-25)

1) Thirteen Japanese species belonging to the genus Mitella (Saxifragaceae) are revised taxonomically with special reference to the morphology of flowers, the chromosome numbers, and their karyotypes. The distribution maps of all the Japanese species are given in Figs. 19-20. 2) The variation in the division of the petal was observed much greater than that reported previously even within a single species. There is a tendency of progressive reduction in the division of the petal usually in the basal portion of petal, and most extremely reduced ones are found in the apetalous flowers. This seems to be polytopic in occurrence, and any evolutionary trend can not be indicated only by this feature. 3) The chromosome numbers of Japanese species are shown in Table 2. The species with the superior ovary have 2n=14, and those with the inferior ovary 2n=28 or rarely 2n=42. 4) The karyotypes of Japanese species are shown in Figs. 4-18 and are summarized in Table 3. The two species with 2n=14 (M. nuda and M. integripetala) are distinct from each other in the karyotype and no close affinity can be found, and this is also supported from morphology. Among those with 2n=28, M. doiana, M. furusei, M. leiopetala, and M. stylosa have the chromosomes many in symmetrical form and less different in size within a single set, while the species having many asymmetrical chromosomes and those different in size within a single set are M. japonica and M. yoshinagae which are much more specialized than the formers in their karyotypes. The species morphologically specialized have not always the specialized karyotypes as seen in the case of M. doiana. 5) M. stylosa, M. furusei, M. leiopetala, M. makinoi and M. doiana are suggested to have close affinities to each other, and M. japonica, M. yoshinagae and M. kiushiana may also be speculated as that. M. pauciflora, M. acerina, and M. koshiensis remain further to be investigated, though these karyotypes resemble each other in appearance. 6) M. furusei seems to have an affinity to M. stylosa more closely than to M. koshiensis, and OHWI's proposal to reduce M. furusei to a variety of M. koshiensis should be rejected. The affinities among M. stylosa, M. leiopetala and M. makinoi are pointed out by OHWI and are supported by additional data given in this paper.